VSリザードマン
サブタイが思いつかない...!
渓谷で勇者たちが魔獣を倒すこと数時間、大分顔つきがマシになってきた。未だに生き物を殺すことに、若干の罪悪感を覚えているみたいだが、武器を持つ手は震えることなく、しっかりと握られている。そろそろ、リザードマンの相手をさせようかな・・・いや、もう少し様子を見よう。詰めを誤るわけにはいかない、ちゃんと見極めないと。
ロックフロッグの舌をかわし、黒髪男が地面へと殴りつける。カエルのくせに岩のような皮膚を持つ魔獣だが、その一撃で皮膚はひび割れ衝撃が内臓を潰す。舌を口からダラリと下げて、そのまま絶命したみたいだ。他のカエルたちも、勇者たちによって全滅している。
「危なげなく勝てましたね。実力通りの戦い方が出来ていましたよ」
「そうでしたか?それなら良かったです」
「こいつらなら、気兼ねなく戦えるからいいっすね」
「そりゃまあ、リザードマンと比べたら全然楽だけど...」
「そのような感じでいいんじゃないでしょうか?戦いになった以上、引き分けというわけにもいかないですし」
「生き残るためには、敵を倒すしかないか...。全員一緒に日本へ帰るためだ、苦しいと思うけど頑張ろう!」
「そうっすね!聖也にだけ任せるわけにはいかなっすから!」
「頑張らないと...!足手まといにはなりたくないもん!」
「私も、皆を絶対に死なせません」
おお、何か勝手に一致団結しているぞ。魔物を倒して日本に帰る覚悟が出来たのかな、日本へと送り帰すことが出来るかどうかは、知らないけれど。そろそろかな...。
「それじゃ、今度はリザードマンとも戦ってみましょうか。何時までも、騎士さんたちに任せとくわけにもいかないですし」
俺がそう言うと、勇者たちの表情が強張る。あれ、さっきまでの勢いはどうしたんだ?あのまま、リザードマンも克服しちゃおうよ。
「その・・・どうしても、戦わなければ駄目ですか?」
「え?」
黒髪女がそう尋ねてくる。どうしてもって・・・そんなに戦いたくない、理由でもあんのか?人ならともかく、相手は魔獣だぞ?
「もう皆、カエルやコンドルのような動物みたいな魔獣相手なら、ちゃんと戦うこともできます。リザードマンは人型ですから、どうしても殺すことへの忌避感、罪悪感があるんです。リザードマンって魔物でしょう?今回は、魔獣だけに絞って訓練して、魔物を倒すのはゆっくりと慣れていってからで...」
「・・・リザードマンは、魔獣ですよ?」
「え?・・・えっと、今更ですけど魔獣と魔物の違いって何なのでしょうか?」
そんなことも教えてなかったのか...。というか、リザードマンが魔物ってどういうふうに考えていたんだ?・・・あ、もしかして。
「その前に。勇者様たちは、今まで人型の魔獣が魔物だと考えていたんですか?」
「え、ええ。そうです、違うんですか?」
「はい、違いますよ。それじゃあ、ゴブリンとかも魔物になっちゃうじゃないですか」
ゴブリンキングとかなら、魔物だろうけど。普通のゴブリンは、全部魔獣の範疇だ。
「魔物っていうのは、魔獣を統率し操る奴らのことを指すんです。魔獣はそのまんま、魔の獣ですよ」
「そうだったんですか・・・人型だから、魔物ってわけじゃないんですね」
「人型な分、性質も悪いですよ。ゴブリンやらリザードマンとか、オークやトロールとか人型の魔獣全般に当たりますけど。あいつら、繁殖能力が高くて様々な生き物と子を生せるんです」
「えっと、どういうことですか?」
「つまり、そこらじゅうからメスを攫ってきたりして、種床にするんです。当然、人間を攫うこともありますよ」
人型ってことは、やっぱり人間が元になっているだろうな。人間自体の、繁殖能力は他の種族より高いので、そこから繁殖能力の高さが特性として現れたんだろう。小説でよくある設定だけど、現実で起こったら相当酷いことだ。救出が間に合わなくて、壊れてしまう人もいるんだと。本当に、世界というのは残酷だ。
「そんな...」
「酷いな...」
「そういうわけで、人型であっても魔獣なんです」
「・・・分かりました、やってみます」
「お願いします。まあ、近くで見たらリザードマンなんて、まんま二足歩行の蜥蜴ですよ」
「そうっすね、そう考えるようにするっすよ」
とてもじゃないが、リザードマンを人間のようになんか見れないね。1回戦ってみれば、よく分かるはずだけど。まあ、習うより慣れろってな。
そうして、ついにリザードマンと勇者たちが相対する。相手の数は5体、多すぎず少なすぎず、ちょうど良い数だ。これを乗り越えられなきゃ、とてもじゃないが魔物とは戦えさせられない。勇者の根性を見せてもらおう。
リザードマンたちが、吠えたり尻尾で地面を叩いたりと威嚇する。最初に川から騎士に奇襲をしてきて、リンの雷撃で川から引っ張り出したためか、陸上で待ち構えているリザードマンたち。最初に仕掛けたのは、意外にも黒髪女だった。
地面から土が隆起し、リザードマンたちを押さえ込む。それと同時に、金髪と黒髪男が一気に距離を詰め、茶髪は詠唱を始めた。
リザードマンたちは、自慢の膂力ですぐに土の拘束を壊す。が、すでに金髪たちに、懐に入り込まれた後だった。それぞれ、目の前にいたやつに一撃を叩き込む。
金髪は突きを放ちリザードマンの首を刺し抜き、黒髪男は顔を掴んで思いっきり捻る。それだけで、2体のリザードマンが地面へと倒れた。そのまま追撃はかけず、一旦後ろへと下がる2人。残った奴らが追いかけようとしたが、突然地面からいくつもの土の槍が飛び出し、リザードマンたちを串刺しにする。どいつも絶命はしていないが、腹や腕、足を刺されて身動きが取れなくなっている。金髪と黒髪男が、1体ずつ止めを刺していった。
「・・・問題はないみたいですね」
何故か全員呆然としていること以外、おかしなところは見受けられない。何だ、色々心配してたが案外あっさりと片付いたな。もっと騒ぐと思ってたんだが・・・まあ、別に悪いことじゃないし、構わないかな。
「・・・人型の生き物を殺したのに、死喰い鳥を殺したときより衝撃が少ない...」
「これが普通なんすか?気持ち悪いっすよ...」
「でも、あんな思いをするよりは、こっちのほうがいいかも...」
「・・・そうですね。戦わないと帰れないんですから、これは喜ぶべきことなんでしょう。でも、やっぱり違和感が残ります...」
どうやら、リザードマンを殺したことに何の感情も湧いてこないことが、不思議でならないみたいだ。多分、彼らの中では意識していなくても、ある程度消化し終わったんだろう。リザードマンは、ロックフロッグや死喰い鳥と同じ、魔獣なんだってな。
「まあ何にせよ、これでリザードマンとも戦えるようになったわけです。しかも、あいつらの殺気まで克服してますし。どうとも感じなかったでしょう?」
「そういえば・・・特に何も感じなかったですね」
「殺意ってのは、殺したいという気持ちだけではありません。相手を倒したいという意思でもあるんです。もう少し、リザードマン相手に訓練を積みましょうか」
この調子なら、次に模擬戦をするころにはルウたちがいても勝てるかどうか...。まあ、魔物を追い返さないといけないし、強くなってもらわなきゃ困るんだよね。もうちょっと、頑張ってもらおうか。
それから日が沈むまで、勇者たちは魔獣との戦闘を繰り返していった。午後からはさらに上流へ向かい、位階の高いリザードマンたちと戦っていたな。罪悪感が薄れたからか、勇者たちの動きはどんどん良くなっていき、最後のほうは騎士たちも目を見張るほどにまで成長した。元々の素養が十分に発揮されてきたな、後は実戦で技術を磨いていけば、名実ともに勇者になりそうだ。
日が沈む前に騎士団の宿舎へと戻り、そこで1晩を明かした。騎士団の宿舎なだけあって、中は質素ながらもしっかりとした作りだ。保存食も備蓄されていたので、簡単な夕食を作ってすぐに寝た。茶髪と黒髪女が、風呂に入りたいとぼやいていたのが印象に残ったなー。
そして翌日の早朝、勇者たちが寝ている間に俺と先生と騎士たちで、今日の予定について話し合っている。
「とりあえず、ここら辺にいるらしい賊を討伐しに行こうかと思っているんですけど・・・今の勇者様たちに、人間を殺せるでしょうか?」
「リザードマンも倒せたのだから、賊も問題ないだろう。他人を殺し持ち物を奪うやつらなど、魔獣以下の存在だ」
女騎士たちが気炎を上げている。だが、残った男性陣の意見は別みたいだ。
「その賊が最後に確認されたのは?」
「えっと、3日前に近くの街道を通っていた商隊が襲われたみたいです。冒険者たちに護衛してもらってたので、荷物を捨てて逃げ切れたらしいです。捨てた荷物を換金したりしなければいけないため、まだここら辺に残っていると思われます」
「いくらリザードマンが倒せたとしても、人間となれば話は別だ。言葉をしゃべるというだけで、感じるものも違ってくる。まだ早すぎる思うのだが...」
「そんな悠長にしている時間が、残っているんですか?北の要塞が突破されれば、すぐに王都が陥落するでしょう。勇者様には、今すぐにでも北の要塞へと向かってもらい、魔物を撃退してもらわなければなりません」
「むうう...」
先生の言葉に騎士たちが唸る。先生の意見は尤もだが、騎士たちの言い分も間違っちゃいない。良い折衷案はないものか...。
「まあ、とりあえず賊を探しましょう。護衛していた冒険者はC~Bランクだったので、俺たちなら問題ないでしょう。賊の討伐に参加するか否は、勇者様の判断に任せるということで、よろしいでしょうか?」
「まあ、それが妥当ですね」
「勇者様の意思に従うまでだ」
「それならまあ構わない。だが、勇者様が拒否した場合は、俺たちだけで討つぞ」
「もちろんです」
勇者たちが起きてきて、出発の準備を済ませた後、先生から賊を討伐する旨を勇者たちに伝える。さすがに人間となると、今までとは違ってくるようだ。皆揃って、昨日の午前のように顔色が悪い。
「・・・つまり、俺たちに人間を殺せっていうわけですね」
「そうなりますね。前にも言いましたが、魔物には人間に似た形をとっている奴らがいます。そんな奴らを、勇者様は攻撃出来ますか?」
「それは...」
「攻撃出来なければ、敵を倒せません。そうなったら、自分が死ぬだけです。人間を殺すことに、嫌悪感を覚えているのは承知しています。拒否されても構いませんので、賊を探している間に考えておいてください」
その話を終えて、すぐに俺たちは宿舎を出発した。冒険者たちが街道で襲われた場所から、数キロに範囲を絞って捜索する。賊がアジトにする場所といったら、ここらへんには洞窟くらいしかない。宿舎にあった地図に載っている洞窟で、絞った範囲の中にピッタリ一致したものがあったので、とりあえずそこへと向かったのだが・・・ビンゴだった。馬車の車輪の跡を見つけたので、それを辿ってみるとその洞窟へとたどり着いたのだ。
洞窟の前には、2人の小汚い男が座って酒を飲んでいる。この洞窟の入り口はここだけなので、ここを塞いでしまえば退路はない。
「賊の隠れ家が見つかったわけですが・・・考えはまとまりましたか?」
「・・・はい、全員で相談して決めました。俺たちは、賊の討伐に参加します」
勇者たちの眼が据わってる・・・一昨日までとは大違いだな。
「俺たちは勇者として呼ばれて、困っている人とたちを助けるため、戦うと決めました。なら、こんなところで止まっているわけにはいかないんです」
「商人の生活源の荷物を強奪するなんて、人間の風上にもおけないっすよ!」
「そんな人たち、魔獣と同じです!人間という魔獣です!」
「私たちの力で誰かを救えるのなら、助けないでどこが勇者ですか!」
おお、よくそんな歯が浮くような台詞を言えるね...。騎士たちは感動しているみたいだけど。どうやったら、こんな思考になるんだろうね。こういう奴らを選んで召喚しているなら、その魔術を作った奴はひたすら国のことを考えていたんだろうな。昨日まで、人型の魔獣を殺せないなんて言ってた奴らとは思えない。異常だよな、勇者って。見ず知らずの他人にここまで尽くせるなんて、最早病気だよ...。
「それでは、勇者様も参加して賊を討伐します。前衛は騎士様方、中衛に勇者様方、私たちが殿を務めます」
さて、あの洞窟はそこそこ広そうだが、さすがにルウを連れてはいけないな。ルウは入り口で待っててもらうとして・・・ガルムは大丈夫かな?
「先生、あの広さでガルムは大丈夫なんですか?」
「まあ、問題ないでしょう。あなたこそ、竜がいなくて平気なんですか」
「もちろんですとも。リンなら入れる広さですし、ライムも結構強くなってますから」
洞窟内の構造は分からないんだよな・・・とりあえず、それを前提にして作戦を立てていこう。