少年と、少年?が、知り合って
魔獣舎から出て、男子寮に向かう。どうにかして、ルウを寮に持ち込めないかと考えながらな。サイズを小さく出来れば、なんとかなるかも。もしくは人化するとか。うーん...。
男子寮は、結構古いが造りはしっかりとしてる建物だった。三階建てのものが幾つかある。俺は・・・第一寮の三階の部屋だな。
中に入ると、広いロビーが広がっていた。受付みたいなものがあり、おばさんが少年たちの相手をしている。寮母さんだな。とりあえず、後ろに並んで待ってよう。
少年たちはすぐに去っていき、おばさんに説明を受ける。寮の中で魔法の使用は禁止、喧嘩したら両方一晩叩き出す、だと。おっかないな。
「それと、女を連れ込むのは自由だけど、周りに迷惑はかけないように。汚したら自分で掃除すること。いいね?」
「は、はい...」
そんなことまでいうのか...。世界が違えば、マナーも違うんだな。
「えっと、俺の部屋は・・・ここだな」
ノックする前に深呼吸。人は第一印象で他人を判断する。これから一番接する機会が多いんだ、ここで失敗は出来ない。
コンコンとノックすると、中から「どうぞ」と声がかかってくる。ふぅー・・・よし、いくか!
中に入ると、ブワッと強い風が俺に向かって吹く。どうやら、先に来てた人が窓を開けてたみたいだ。金色の髪が、俺のほうになびいている。外を見ているみたいで、俺からは横顔しか見えない。耳が尖ってるから、エルフなのかな?
俺が扉を閉めると、同居人のエルフさんは俺のほうを向き、こう言った。
「えっと、こんにちは。僕はリュカだよ。よろしくね」
ものっすごい顔が整った、中性的なエルフさんが立っていた。えっと、美少女?いや美男子なのか?
「えっと、ここは男子寮ですよ?」
「僕も男子だよ!?どうしてみんなそう言うかなぁ...」
「すいません...。あ、俺はツチオです。よろしく」
「よろしくね、ツチオ君!敬語なんて堅苦しいよ、タメ口でいいから、ね?」
ニコっと微笑むリュカ。くっ!これが貴公子スマイルなのか!?男にまで効果があるなんて!?
「?どうしたの?」
「はあはあ...。いや、何でもない。もう平気だ。それにしても、エルフの男子ってのは中性的だな。初めて見たら、女子にしか見えないぞ」
「髪が長いからじゃない?故郷の皆は、ちゃんと男の子だったよ。結ってみようかなぁ」
長い髪をポニーテールにしだすリュカ。女の子っぽさ三割増だよぉ!
「えへへ、どうかな?」
「ウン、スゴイイイトオモウヨー」
「本当!?それじゃあ、これからは毎日こうしようかなー」
「ウン、スゴイイイトオモウヨー」
「ありがと!」
・・・棒読みの台詞に、なんていい笑顔で返すんだ。貴公子系聖女、おそるべし...。
「ツチオ君は何を勉強にしに来たの?」
荷物の整理を終えて、ベッドに座ってリュカと話をする。ルウには悪いけれど、ちょっと興味が出てきた。下心じゃないぞ。
「テイムについて勉強しにきたんだよ」
「へぇー!テイムしたことあるの?」
「あるぞ。なんで寮に連れてきちゃいけないんだろうな」
「おっきいから、入れないんだろうね。小さくできれば、何とか許可をもらえるんじゃないかな?」
「そうだな...。こんど調べてみるか」
「・・・ねえ、ツチオ君の魔獣、見せてもらってもいいかな?」
「え!?」
怖がられたら嫌だしな・・・ルウも嫌がるだろうし。
「ダメかな?」
「・・・まあ、いいけど。じゃあ、魔獣舎に行こうか」
「16歳なの!?道理で落ち着いてて、頼りがいがありそうだなぁーって思った」
「そうか?これでもけっこう緊張してるんだぞ」
「ふふふ、ツチオさんのほうがいいですか?」
「好きなほうでいいんじゃないか?同じ一年生なんだし」
「そう?なら、このままでいかせてもらおうかな」
魔獣舎への道で話した限りでは、リュカにも同い年と思われてたようだ。そんなに童顔かな...。
「ここが魔獣舎だよ。入ろう」
ルウの部屋の前に行く。俺を見たルウは嬉しそうに立ち上がったが、リュカと一緒にいるのが分かると一気に機嫌が悪くなる。ルウは焼きもち焼きだなぁ。
「グルルル」
「うえ!?お、怒ってるの?」
俺の後ろに隠れて、ちょびっとだけ顔をのぞかせるリュカ。かぁいいなぁ、もう!
「ちょ、待て待てルウ!この人は男だから!女じゃないよ!」
「グルル!」
嘘だ!って...。どうすりゃ、信じてもらえんだろう...。リュカに見せてくれ!なんて言えないし。・・・そうだ!
「とりゃ!」
「わ!?きゅ、急に僕の胸に手を当てて、どうしたのツチオ君?」
リュカの胸に手を当て、ムニムニと揉んでやる。男子の胸にしては柔らかいような気がしないでもないが、多分見た目が女子みたいだから、俺の脳が勝手に補正してるだけだろう、うん。
「ほら、この反応!女子なら俺の頬を引っ叩いて走り去ってるぞ!」
「グルル...」
ふう、信用してもらえたか。それじゃあ、
「ルウ、この子はリュカで俺のルームメイトだ」
「よ、よろしくね、ルウ・・・ちゃん?」
「グルゥ...」
おお、一目でメスだと見破るとは...。さすが、見た目は美少女、ホントは貴公子だけあるな。
「トリスの時みたいに、撫でさせてやってくれないか?」
「・・・グル」
今度は嫌がることなく、リュカに背中を向けるルウ。いい子だな、あとでいっぱい撫でてやろう。
「じゃ、背筋を撫でて。頭とか翼には触っちゃダメだぞ」
「うん!わあ、ツルツルスベスベだぁ...!」
背中を撫で始めるリュカ。やっぱり男の子だから、こういう竜とかには憧れてるのかな?男らしいところあるじゃん。
「宝石みたいで綺麗...。虹色に光ってるよ!」
・・・前言撤回。やっぱり女の子っぽい。本当に男子なんだよな?もし男装した女の子とかだったりしたら、手ぇ出しちゃうよ?
「それにしても、凄いねツチオ君!ルウちゃんって竜種でしょ?竜種をテイムするのって、すごい難しいらしいよ!」
「まあ、偶然だったからな。俺の実力じゃないよ」
「運も実力のうち、だよ。ありがとね、ルウちゃん!」
「グル」
さて、リュカとの顔合わせもすんだし、これからは俺のターンだ。存分に撫で繰り回してやろう。
「さー、ルウ、おいでー」
「グルル!」
俺の胸に飛び込んでくるルウ。痛くないように、ちゃんと顔が肩から抜ける感じでな。
「よしよし。ごめんなぁ、一人にしちゃって」
「グルルルゥ♪」
頭を撫でてから、顎の下をこする。手を戻して頬を撫でると、スリスリと自分から擦り付けてくる、ああ、可愛いなぁ。
「すごい甘えてるね。懐かれてるなぁ、・・・そんなに気持ちいいの?」
「やってみるか?人は撫でたことないけど、撫でには自信があるぞ」
「じゃあ、お願いしようかな」
リュカが頭を出してくる。俺はおずおずと手を伸ばして、ポフっと軽く手をのせて、ゆっくりと手を動かし始める。
「あ...」
リュカの髪はサラサラフワフワとしていて、絹以上に気持ちいい手触りだ。どんなシャンプーやリンスを使ったら、ここまで見事な髪になるんだろうな...。ってか、リュカはどうして、今日会ったばかりの俺に撫でられてるんだろう。解せない。
「ふわぁ...。き、気持ちいい...!」
「どんな感じ?」
「なんだか、頭の上から暖かいものが流れてきてる感じ。えへへ、気持ちいいよ!」
「そうなのか...。そういえば、何で俺に撫でさせたんだ?」
「ルウちゃんがすごい気持ち良さそうだったから、僕もしてほしいなぁって。さっき言ったでしょ?頼りがいがありそうだなぁって」
「いや、それでも初対面の男に頭を撫でさせるのはどうかと思うぞ。悪い人だっているんだからな。気をつけろよ」
「そうだね、今度から気をつけるよ。でも・・・何かあったら、ツチオ君が守ってくれるよね?」
俺のほうが背が高いので、上目遣いで俺に尋ねるリュカ。少し照れてるのか、少し頬が朱に染まっている。やばい、眩しすぎて鼻血出そう。
「お、おう」
「えへへへー、嬉しいなぁ」
可愛すぎるだろうがぁ!!!
「も、もうおしまいだ!ルウを散歩させなきゃいけないしな!」
「あ...残念。またしてくれる?」
「気が向いたらな」
「ふふふ、待ってるからね♪」
リュカは買い物があるらしく、ここで分かれることになった。まあ、散歩といっても空の散歩だけど。ルウは俺しか乗せないから、一緒には行けないんだよな...。
「じゃ、行こうかルウ。夜になったら危ないし、夕方には戻るぞ」
「グルル!」
乗りやすいようにしゃがんでくれてるルウの背中に乗り、おなかを蹴って合図を出す。腹に鱗はないけど、俺程度が蹴ったくらいではルウは傷つかない。地面を蹴って大空に舞い上がる。
空から見た学院都市は、なかなかに美しかった。西がちょうど海の方向だったので、夕日が街に差し込んでいる。海の表面を日光が反射してきらきらと光り、建物は赤く色づいている。
「きれいだな、ルウ。こんな景色をもっと見れるように、一緒に頑張ろうな」
「グル!」
この世界の今の季節は春。暖かくなってきたとはいえ、夜はまだまだ寒い。風邪を引かないうちに戻るか。ルウの部屋は寒くないかな?もし風邪でも引こうものなら、無理矢理にでも部屋に連れ込もう。
翌日。リュカの寝声が妙に色っぽく中々寝付けなかったが、いつも通り起きることが出来た。太陽はまだのぼったばっかりだ。
「んん...。ツチオ君、もっとぉ...えへへ」
・・・いったいこの子は、どんな夢を見てるんでしょうか。リュカの寝間着はTシャツと長ズボンで、寝るときは布団をかぶってたんだけど...。寝苦しかったのか、布団は横に蹴飛ばされシャツの裾がめくれて、おへそがチラッと見えている。・・・血迷う前に、布団をかけなおしてやるか。
リュカを起こさないように部屋を出て、魔獣舎へ向かう。他の魔獣たちはまだ寝ていたんで、ここでも忍び足で歩いていく。
「グルルゥ!」
「お、もう起きてたのか。まだ周りの奴らは寝てるから、出来るだけ静かにな」
「グル」
まだ冷たい空気の中、風を切って空を駆ける。朝の空も清々しくていいなー。
「ちょっと寒いな...。もう少し風を弱められないか?」
「グルル」
お、風が弱まった。飛ぶときにも風を操ってるみたいだから、それを応用したんだろう。俺も魔力があったら良かったのにな...。無い物ねだりをしてもしょうがない、出来る範囲で頑張ろう。
日本の時計は役に立つか分からないので、昨日の散歩よりは短めで戻ることにした。食堂があるみたいだけど、時間が過ぎたら食わせてもらえないらしい。そこで魔獣用の餌をもらえるらしいので、早めに食事を済ませないとルウのご飯の時間がなくなっちまう。
「んんん...」
部屋に戻ると、リュカはまだ寝ていた。ねぼすけだなぁ...。まだ13歳だし、こんくらいが普通なのかな。
「起きろ、リュカ。もう朝だぞー」
「うんん、やだー...。もっと寝るー」
「そんなこと言ってもなー...。ご飯に間に合わなくなるぞー」
あまり強くは出来ないので軽く揺すってみるが、全然起きる気配がない。どうしよう、真面目に寝坊しそうだ。
どう起こそうか考えてると、突然鐘の音が聞こえてくる。こいつは、確か学院の外の街にあった鐘だな。日本時間で朝の6時、正午、夕方の6時になるらしい。ってことは、今は朝の6時だな。
「ふわあああー...。あ、おはよーツチオくーん...」
今の鐘の音で、リュカが目を覚ましたようだ。この鐘が基準になってるみたいだな。
「おはよ、早く着替えなよ」
「うん、そーするー...」
「・・・って、待て待て待て!俺が出るまで待ってて!」
まったく、この子は...。少しは自分の見た目のヤバさを自覚して欲しいよ...。
着替えたリュカを連れて、食堂へ向かう。隣接はしてなく、女子寮との間に位置している。
ここも中々古い建物だけど、寮みたいに頑丈に出来ている。入るとすぐに大きな机が並ぶ部屋があり、奥は調理場のようだ。壁で仕切られている。ハリポタみたいだな。
今日のメニューは魚スープと黒パンのみ。何か分からない魚がけっこう入っているが、パンは固い。ライ麦パンみたいな感じかな。
「量が多いな」
「朝はしっかり食べないと、元気出ないからね。この後、僕たちは入学式と学校案内だけだけど、上級生は普通に授業らしいし」
「へー、知らなかった。教科書とかは、今日もらうのか?」
「そうだと思うよ。授業の説明もあるって」
リュカに学院のことについて尋ねていると、見知った顔が俺の前を通り過ぎる。・・・声をかけとくか。
「おーい、トリス!」
「あ、ツチオ殿!昨日ぶりでありますね!」
トリスは一人のようで、食べる場所を探しているみたいだ。ちょうどよく隣の席が空いてるし、誘ってみるかな。
「場所探してるのか?俺の隣が空いてるし、一緒に食べないか?」
「いいんでありますか?それでは、お言葉に甘えるであります」
俺の隣に座るトリス。リュカに紹介しないとな。
「リュカ、こいつはトリス。仲良くしてくれ」
「ほー、綺麗な人でありますなぁー。こんな人と仲良くなるなんて、ツチオ殿も中々隅に置けませんなー、このこの!」
「あー、誤解してるようだが、リュカは男だぞ」
「またまたー、照れてるからってそんな嘘は通用しないでありますよー!」
「えっと、僕は男だよ?」
「・・・マジでありますか?」
「マジマジ」
「な、何だってーでありますー!!!」
まあそうなるよな。リュカが「そんなに驚かなくてもいいのに...」って頬を膨らませてる。可愛い。
「マジでありますかー...。まさか、ツチオ殿のルームメイトは...」
「リュカだよ」
「・・・衆道は厳しいでありますが、頑張るであります」
「いや、違うから。男色じゃないから。リュカの場合は、男色じゃなくても惚れちゃうかもだけど」
「そうでありますねー...。リュカ殿を見てると、女として自信をなくしそうであります...」
「と、トリスちゃんも可愛いよ!ちっちゃくて!」
「ううう、何故か妙に惨めでありますよー!」
こうして、三人で朝食をとった。すぐにリュカとトリスは仲良くなり、色々学院やルウのことを話していた。仲良くしてくれて良かった。
出して欲しいモンスター娘がいたら、是非共感想をお寄せください。