卵を預け、2年生になり、勇者がくーるー
海賊たちを撃退した後、彼らが本拠地にしていた洞窟に向かい、商船とかから奪って溜め込んでいた財宝をシルバーホースに移し、生き残った奴らは拘束して倉庫の中に突っ込んでおいた。魔術を使える奴はいなかったし、定期的に食事を持っていけばあれで問題ないそうだ。キサトさん曰く、人間はそこまで柔じゃない、とのこと。
その後は何事もなく、天候が荒れることもなく、学院都市に到着。俺は学院へと帰還した。キサトさんは、そこから陸路で王都を目指すらしい。また会うことを約束して別れた。
そしてその数日後、明後日に始業式を控えたその日。俺は、ルウたちを連れて朝早くから遠出をしている。目指すはマロンマ山、業火さんに駆竜の卵を預けるためだ。
どうやって卵を孵すのか、そういえば聞いていなかったなと、昨日精霊さんに聞いてみた。精霊さんによると、卵を温める必要はなく、魔力を注げば自然と孵化するとのこと。既に駆竜が多くの魔力を注いでるらしく、俺が少し注いでやれば孵化するんじゃないか?だってさ。そこんところは、業火さんと相談して決めればいいだろう。刷り込みの可能性もあるわけだしな。
昼前にマロンマ山麓に到着した。俺たちを見た冒険者たちがビクっとするが、気にしないでさっさと山入り口へと向かう。この前絡んできた奴らは見なかったな・・・ちゃんと真っ当な仕事をしているんだろうかね。
山に入ったら、人目を避けて山道を逸れてから山頂へ向かって飛び立つ。十数分で火口に到着した。
そこで待つこと数分、火口に大きな影がかかり空から赤い巨竜が降りたつ。むう、相変わらずとんでもない魔力だな・・・空気がビリビリと震えてるよ。
『久しぶりだな、ツチオよ。思っていたより、再会が早かったな』
「ですね。俺も、数年は会わないものだと思ってましたよ。お子さんは元気ですか?」
『そなたのおかげで、すっかり体力も戻って空を飛びまわっているよ。どうしてもお主に会いたいらしく、今日は一緒に連れてきた』
「え、どこにいるんですか?」
それはよかった、どこにいるんだ?
『そろそろ到着するはずだが・・・お、来たみたいだぞ』
業火さんを小さくしたようなドラゴンが、上空から急降下してくる。えっと、あの角度だと俺に突っ込んでくる...?
俺に衝突する直前に、翼を大きく広げてブレーキをかける子竜。減速はしたが勢いを殺し切ることはせず、俺に飛び込んでくる。
「ギュルルル!!」
「うわっぷ!?げ、元気になったなってうぶぶぶ!?」
俺を押し倒して、顔をベロベロと嘗め回す。尻尾をブンブン振っているその姿は、ドラゴンというより犬だ。
『ふふふ、ツチオに会えて喜んでいるぞ』
「いや、それは分かるんですけど、ってこら!後で構ってやるから、今は離れなさい!」
「ギュルル...」
しぶしぶと離れる子竜。まだ子どもだってのに、中々聞き分けがいい。後で目一杯かわいがってやらないとね。
『精霊様から話は聞いているぞ、竜の卵というのはどれだ?』
「あ、これです。そこの固有種らしくて、数が少なく繁殖力が低いらしくて...」
『なるほど・・・突然変異種だから数は少ないらしいな。まあ、別の種と混ざれば多少は改善されるだろうな』
「そうですね。それじゃ、よろしくお願いします」
『いや、少し待ってほしい。私とツチオ、どちらが親になるんだ?それによっては、私たちも接し方が変わってくる』
どっちが親になるのか、か。愚問だな、考えるまでもない。
「業火さんが親になってください」
『・・・いいのか?お前がその子の親を殺したなら、お前が責任を取るべきではないのか?』
「もし俺が親になったら、この子はきっと親に捨てられたと思ってしまうでしょう。そんなの、この子が可哀想です。・・・業火さんには迷惑をかけてしまいますが...」
『そうか・・・この子のために、考えたことなのだな?』
「もちろんですよ」
俺の我侭で、竜の子を悲しませるわけにはいかない。業火さんなら子育ての経験もあるし、上手く育ててくれるだろう。
『分かった、立派な竜として育て上げよう』
「ありがとうございます。よし、来い!」
業火さんと話が終わったので、子竜を可愛がることにする。俺がパンと手を打つと、子竜が俺の胸に飛び込んでくる。そのまま押し倒されたまま、体中を撫で回す。
「ギュルルルゥー!」
「よしよし、元気になって良かったなー。立派な竜になれよー」
「ギュルゥー!」
『・・・ツチオよ、我が子に手を出すならば、私の屍を踏み越える覚悟をしておくことだ』
「え、いやー、なんのことですか?業火さんのお子さんに、手を出すわけないじゃないですかー」
『それならよいのだが・・・確かに伝えたからな』
どうやら子竜が懐いているので、テイムされまいか心配なのだろう。まあ、そのうち俺のことなんか忘れちゃうだろうな。・・・そう考えると悲しくなってくるな...。
「別に懐かなくてもいいから、せめて俺のことを覚えといてくれよ...」
「ギュル!」
記憶に刷り込むように、愛撫を駆使して子竜を撫で回す。こんくらいやっとけば、さすがに忘れないだろうな。
『それでは、そろそろ去ろう。こら、いつまでも引っ付いているな。ツチオも帰ることが出来ないだろう』
「ぎゅー!」
「ほら、業火さんに怒られちゃうぞ。また会うことはできるから、な?」
「ぎゅ、ぎゅぎゅぎゅー!」
翼を羽ばたかせて、飛び立つ業火さんと子竜。
『それでは、確かに卵を預かった。ツチオのことは・・・まあ、恩人とでも言っておこう』
「お願いします」
『それではな』
「ぎゅるー!」
そうして、飛び去っていくドラゴン親子。さて、さっさと帰っちゃいますか。授業の予習もしないといけないからな。
そして冬が過ぎ、春となって俺たちは2年生となった。日本のように冬休みや春休みはなく、ずっと学院で勉強の毎日だ。
2年生になっても、やることは特に変わらない。授業もほぼ1年の時と同じだしなー。武術は引き続き履修することにした。従魔は主が死んだら戦えない、だから俺も自分の身を守るくらいは出来ないといけないんだ。スキルもないからそこまで強くはなれないけれど・・・技術を磨くことくらいは出来るよな。
2年生になってから、2週間ほど経ったある日。いつものように朝食を食べていると、遅れて食事をもらってきたリュカが隣に座る。1年のときより身長も伸び、髪がさらに伸びている。後ろで結っているその姿は、どこからどうみても女の子だ。
「ツチオ君ツチオ君、大変だよ!」
「ん、どうしたんだリュカ?」
「魔物が王国の北方に侵攻をかけてきたんだって!まだ要塞で抑えているらしいけど、突破されるのも時間の問題なんだって!」
そりゃ、確かに大事件だな。今までは帝国のほうを攻めていたからいいのに・・・急にどうしたんだ?方針転換でもしたのか?
「騎士団とか冒険者が討伐にいったらしいんだけど・・・どうにも戦況は良くないみたいで...。心配だよね」
「そうだな...。突破されたら大問題だし、何か打開策を打たないとマズイな」
これがラノベとかなら、異世界から勇者でも召喚するんだろうけど...。この世界にも、そういう魔術があったりして。ありえない話ではないよなー。
「まあ、俺たちが気にしても状況が変わるわけでもない。授業に集中しないと」
「そうだけど・・・ツチオ君、すごいおちついてるね。大人だなぁ」
「いや、俺だって結構驚いてるよ。何せ、自分のいる国に敵が攻めてくるんだからな。焦っても仕方ないって分かってるから、こうして落ち着けるんだよ」
「焦っても仕方ないか・・・僕たちに出来ることなんて、ほとんど何もないからね...」
「そういうこと。ほら、早く朝ごはんを食べちゃおう」
「うん、そうだねー」
リュカがパンを口に運ぶ。しっかし、魔物の侵攻か...。確か、魔獣を統率してコントロール出来る存在を、魔物って言うんだっけ。業火さんとかも、一応魔物なんだよな。どうにもそういう気がしないけど。
魔物は別の大陸から北方へと入り南下してくる。北方を取り戻さなければ、魔物の進行は止まらないだろうな...。そもそも、国同士で争っている場合じゃないのにね。協力しないといかんのですよ。
「ツチオ殿ツチオ殿、大変でありますよー!」
「魔物が攻めてきたんだろ、もう聞いたよ。気にしてても仕方ないし、さっさとご飯を食べちまうぞ」
「そうだよー、トリスちゃん。僕たちに出来るのは、少しでも勉強して実力をつけることだよ」
「2人とも、すごく落ち着いているでありますね!?」
「「気にしても、出来ることなんてないからな(ねー)」」
突然の魔物の侵攻・・・何かが起こる前触れか?少し気にしておこうかな。
そして、さらに1週間ほど経ったその日。俺の隣に、リュカが慌てて走り寄ってくる。
「ツチオ君、大事件だよー!」
「ツチオ殿、すごい事件でありますよー!」
「ツチオさん、大変なんですよ!」
「3人揃ってどうしたんだよ...。朝から騒がしいぞ」
今度はなんだ、帝国にも同時侵攻したのか?それとも、討伐隊が魔物を撃退したのか?
「王国が、王家に伝わる秘術を使って、異世界から勇者を召喚するんだって!」
「・・・マジ?」
「大マジでありますよ!勇者でありますよ勇者!」
「すごいですよね!勇者っていうくらいなんですから、きっとすごく強いんですよ!」
異世界から勇者を召喚とか・・・いや、まだ日本から召喚されるって決まったわけじゃないし。他の世界から、召喚される可能性だってあるんだし。でも何でだろうな、絶対に日本から来るって確信があるんだよ。はあー、同じ世界出身なんてバレたら、俺も勇者として担ぎ上げられちゃうんかね...。ま、バレなきゃいいんだバレなきゃ。黒髪で顔立ちが似ているだけで、同じ世界出身だとは思われないだろうしな。
「勇者かー・・・いつ召喚されるんだ?」
「それが、まだよく分かってなくて...。何せ王都からの情報ですから、けっこう遅れてますしねー」
「それはそうか。まあ、実際に召喚されたら、国が大々的に発表するだろうし、すぐに分かると思うぞ」
「わざわざ秘術を使うくらいだしねー、自分たちがやったってことを誇示しなきゃいけないもんね」
「そういうこと。まあ、そのうち情報が出るだろうよ」
・・・関わらないように、気をつけなければ。
その日の午後、俺は校長に呼ばれ校長室に向かう。道中、同じく呼ばれたというサシャ先生と一緒にな。
「何のようなんでしょうね?」
「さあ、校長の思考は予想しづらいですからね。まあ、私とあなたはテイマーですから、それに関したことではないでしょうか」
「そうでしょうね。まあ、聞けば分かりますよ」
ノックをして校長室に入る。いつも通り、校長は机に肘をついて座っていた。
「こんにちは、校長」
「何か御用でしょうか?」
「ああ、ちょっとお前たちに頼みたいことがあってね。実は、数日後に勇者一行がこの学院に来るんだよ。お前たちは、そいつらと模擬戦をしてほしいんだよ」
・・・勇者一行が、ここに来る?関わらないようにしようと決めた途端、これだよ...。
「どうだい、やってくれるかい?」
「「お断りします」」
俺とサシャ先生の台詞がハモる。おお、珍しく意見があったな。
「どうしてだい?」
「いや、理由も説明せずに勇者と模擬戦をしろ、なんて言われてもやりませんよ普通」
「そんじゃ、理由を説明したらやるかい?」
「うーん、やらないですね。面倒ですし」
「・・・サシャは?」
「業務内容に入っていませんから」
「・・・はあ。それじゃあ言い直すよ、これは校長命令。2人には、勇者一行と模擬戦をしてもらう。これは決定事項だ、いいね?」
校長命令・・・それは、学院に通う者や務めている者にとって、抗いようのない強制力を持っているのだ。校長、中々の権力を持っているらしく、政府のほうでも発言力があるらしい。はあ、やらなきゃ駄目なんだよな...。
「・・・りょーかいです」
「・・・校長命令なら、仕方ありませんね。理由を教えていただけますか?」
「勇者たちの召喚には成功して、そいつらは勇者というのにふさわしいほどの魔力を持っていた。だけど、戦闘経験が皆無だったんだよ。何でも、チキュウのニホンって戦争のない世界で暮らしてたらしい。雑魚相手ならスキルだけで圧倒できるんだけど、自分と同格の相手は経験しないと分からないからね。そういうわけで、2人には模擬戦をしてほしいわけだ」
「先生のガルムと、ルウたちですか...」
「そうだ。複数との戦闘は、性能だけで圧倒は出来ない」
そうなんだよなー。駆竜との戦闘は、冒険者さんたちと連携しないと勝てなかった。
「勇者が到着したら、詳しいことを話す。とりあえず、模擬戦をするということだけは頭に入れておいてくれ」
「「了解しました」」
さて、勇者たちが俺を見たらきっと日本人だと気づくだろう。白を切り続ければ深くは突っ込まれないだろうけど・・・何か対策を打っておかなきゃな。
異世界モノのテンプレ、勇者召喚です。召喚される側ではなく、第3者からの視点ですけど。実際に現代日本から召喚されたら、こんな感じかなーと想像してみました。モンスター娘成分がちょっと薄くなっちゃいますので、勇者編?が終わったら濃くする予定です。