海賊再襲来、2体同時魔力共有、ライム初めての1on1
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ランディス島を出発して数日、特に目立った出来事もなく船は順調に航路を進んでいた。そろそろリンとの射的もどきにも飽きてきたな・・・ルウにブレスの練習でもさせようかな。近くに特にないから、撃っても構わないだろう。
そうと決めたらルウの背中に乗って、船から飛び立つ。船の近くで撃ったら危ないし、ちょっと遠くに行こう。何か標的があったほうが、練習になるんだけどなー。
そう思いながら飛んでいると、丁度良く岩が連立していた。船の航路に近いけど、まあ少し離れてるし問題ないよな。あれを標的にしようか。
「ルウ、あの岩をブレスで狙うぞ。この前みたいに、俺が狙いをつけるからルウは魔力を凝縮するのに集中してくれ」
「グルル?・・・グルルラァ」
何故かルウが一回いいの?と聞いたが、すぐにやっちゃおうと言い直す。何か気になることでもあったのかな?まあ、ルウがいいって言ってんなら問題ないか。
ルウの口内に魔力が集まり、この前のように真っ赤な光球が現れる。そこまで大きくはないが、ギュウギュウに縮小しているのかまばゆい光を放っている。狙うのは・・・真ん中の1番大きな岩にしよう。向かい風が少し吹いているから、ちょっと上辺りを狙ってっと。
「よし、撃て!」
俺の合図で、勢いよく光球が撃ちだされる。数百m離れている岩に数秒で到達し、ドゴォン!と爆発を起こす。ガラガラガラと崩れていき、海へとドボンドボン落ちていく岩の破片。よし、魔力消費と威力を抑えたから、もう何発か撃てるかな。
「グルルゥ」
「ん、どうしたの?」
ルウが、岩場から出てきた船を見つけたようだ。え、何であんなところに船がいんの!?5隻いるんだが、そのうち1隻は岩が直撃して沈みかけていて、もう1隻はマストがへし折れている。うわ、やっちゃった!どうしようどうしよう、弁償のしようがないぞ!
知らぬ存じぬで通してしまおうかと考えていたら、ルウがまた船を見てと言う。もう見たくはないんだが、ルウが見てと言うなら見ないわけにはいかない。恐る恐る船を見ると、無事だった3隻の船が何やら旗を掲げる。真っ黒な生地に白い髑髏マーク。海賊船だったのかー。
「海賊船なら、別に沈めちゃっても問題ないよな?」
「グル!」
あー、良かった。船を弁償なんて、いくら払えばいいか分かったもんじゃない。
とりあえず船に戻って、キサトさんに相談しよう。俺の独断で判断できるような問題じゃないからな。
「この先に海賊船とな。まったく、今回はよく遭遇することじゃな」
「そうですね。まあ、1回目は俺たちが襲われたわけじゃないですし。けど、何であんな岩場に隠れてたんでしょうね?もしかして、待ち伏せ?」
「恐らくそうじゃろうな。行きで撃退した奴らのボスでも来たんじゃろう。航路の先で待ってたんじゃろう、間違いない」
「でしたら、こっちから迎え撃っちゃいましょうか」
「いや、それはいくらなんでも危険すぎる。前回は護衛がいたからよかったのじゃが、今回は話が別じゃよ。今回は、待ち受けたほうが良いじゃろう」
キサトさんが言うなら、そうなんだろうな。俺は戦術なんてからっきしだし、ここはベテランのキサトさんに任せよう。
「総員迎撃準備!すぐに海賊がやってくるぞ、騎士団を襲ったことを後悔させてやるのじゃ!」
『応ッ!』
船員さんが作業を止めて、各々の武器を取る。ルウとリンはいいとして、ライムはどうしようか...。1人で乗り込ませるわけにはいかないし、こっちに乗り込んでくるのを待つわけにもいかないし...。うーん、危険だけと攻撃手段はなくもない。
「ライム、危ないけど任せてもいいか?」
「こく。・・・」ぷるぷる
「まあ、そこまで気負わなくてもいいけどな。無理はすんなよ、死んだら許さないからな」
あなたに全ての身を尽くしますって・・・愛されてるなぁ、俺にはもったいないくらいだなぁ。ちゅーか、ライムってこんなキャラだっけ?まあ、全然問題じゃないか。
十数分で海賊船が接近してくる。キサトさんに船上戦について聞いたところ、まずは魔術や矢の撃ち合い。そして相手の船に乗り込んで、近接戦闘とのことらしい。そんじゃ、最初に1発ぶちかましますか。ルウとリン、どちらもね。
右手でルウ、左手でリンを触れながら海賊船を見据える。あと少しで相手が魔術を撃ち込んでくる、その前に準備を済ませないと。
海賊船は3隻、1番奥のある船に海賊団長がいるだろうな。RPGでボス戦を行う時の鉄則は、雑魚を全滅させてからのボスを袋叩きだ!
ルウとリン、二人と同時に魔力を同調させる。一気に感覚が広がり、とてつもない快感が体を襲う。や、やばい...。覚悟はしていたが想像以上だぞ。やったことはないけれど、3[ピー]をしたらこんな感じなんだろうな!ルウとリンも相当苦しいらしく、目は血走っていて息は荒い。俺を見る目が、まるで獲物を見るような感じだ。ちょ、大丈夫なの!?俺はまあ日本で色々やってたから、こんくらいなら耐えられるけど...。ルウたちはそうもいかないか...。くそ、配慮不足だったな。
「待ってろ、今止めるから」
「ブルルルゥ!!!」
「ヒヒィィン!!!」
「え、大丈夫?問題ない?本当か?無理してないか?・・・ならいいけど、辛かったらいつでも言ってくれよ」
ルウたちは大丈夫だと言うので、海賊船に集中しようと前を向く。が、いつの間にか俺の前に移動していたライムが、俺のお腹に抱きついていた。
「ど、どうしたライム?ルウの後ろにいなきゃ駄目だろ?」
「・・・!」プゴゴゴゴゴッ!
「ちょ、お腹絞めないで!うぷ、苦しいって...。痛い痛い!」
嫉妬しているのか、俺をさば折りするライム。そこまで位階が高くないといっても、俺の体をへし折るくらいの力はあるだろう。ルウたちに対して、1歩引いているライムだが、俺のことになるとどうにもタガが外れてしまうらしい。あ、ヤバイ、魔力が黒くなりだした。比例するように、俺を絞める力が強まっている。
「お、落ち着けってライム!何か埋め合わせするから!」
「・・・」・・・
少し力が弱まるが、腕を解く気はないようだ。くそ、埋め合わせの内容を言わなきゃ駄目か...。3[ピー]並の快感に相当する埋め合わせって・・・何かあんのか!?
「そ、そうだな...。ライムが満足するまで、夜は添い寝してあげるぞ!」
「・・・」・・・
こ、これじゃだめか...。
「1晩中魔力を同調するから!」
「・・・」・・・ぷる
「そ、それにライムが寝るまで、ずっと愛撫してやるぞ!」
「・・・♪」ぷるぷる♪
一転して、ライムは上機嫌で俺に擦りついてくる。・・・何か、いいように誘導された気がする。ま、まあ今気にしてもしょうがない。目の前のことに集中しよう!
「よし、いくぞ!ルウ、リン!」
「ブルッフウゥゥゥ!!!」
「ブルッヒヒィィィン!!!」
二人同時同調で、ルウとリンのテンションは天井知らず。魔力が荒れ狂い、辺り一帯に突風を巻き起こす。その魔力に振り回されないよう、必死に手に魔力を束ねる。両手で別々の魔力を制御する。言葉でいうとかなりの離れ業だが、俺はルウとリンの魔力の量・性質・流速・密度など、大体のことは把握している。それゆえに、大雑把には無意識に形式化して制御できるのだ。ようやくここまで来たって感じだな、今のままじゃライムだけが仲間はずれだし、3体同時でも出来なきゃだけど。・・・快感の強さがどこまで上るか、心配だ。
よし、集中しろ、俺。右手では燃え盛る炎のように揺らめくルウの魔力を、左手では火花を散らしながら軌跡を描く電流のように弾けるリンの魔力を感じる。それぞれを決めておいた一定の形式に当てはめ、魔術として具現化する。
ルウの口にはブレスの光球が、リンの周りには魔法陣に収まった雷の矢が、いくつも浮いている。まるでガトリング砲みたいだな、あれの射出・追加等制御を俺が操っているとは・・・あんまり実感が湧かないな。魔力の供給と、大雑把な制御はリンがやってるしな。
海賊船が射程圏内に入るのと同時に、ルウにはブレスを撃たせ、リンの魔術を船を囲むように移動させ、一斉に矢を放つ。向こうからも矢やら魔術やらが飛んでくるが、それらは全て騎士団の人たちによって撃ち落される。
ルウのブレスは狙い通り、船の横っ腹に命中。相当な魔力をこめた光球は、先ほどの試射とは比べ物にならないほどの威力で、海賊船の中央付近を吹き飛ばした。そこへルウが追撃、ダンゼ島のように尻尾にライムをくっつけ、甲板でグルングルンと振り回す。直撃した奴らは骨を折られて吹き飛び、かわした奴らもルウの拳打でことごとく潰される。
リンが攻撃している船は、全体に雷の矢が突き刺さり甲板にいた奴らは、船内へと避難している。準備は完了、後は止めを刺すだけだな。
リンの角が青白く輝き、船の上空に帯電して火花を散らし、同じく青白い光の塊が出現。ドクンと1回脈打ったかと思うと、爆発し無数の細い雷光へと変形。船全体に刺さっている雷の矢に降り注ぎ、矢を介して1本の針となって船体を貫いた。1本では小さな穴を開けることしかできないが、それがウン十個となりさらにここが海の上となれば・・・一気に船内へと海水が浸水する。まあ、雷針が船体を針山にした時に、船内にいた大体の奴らは死んでるだろうけど。
「ブルルゥゥゥ...」
一気に大量の魔力を消費し、甲板に座り込むリン。ルウはまだ暴れているが、リンに比べたらまだ魔力に余裕はある。1発辺りの消費は少ないといっても、それが百発以上、その上止めの雷だ。まあ、リンもまだ魔力はあるんだけどな。一気に消費したから、ちょっと疲れたんだろう。
「ツチオ殿、中々派手な魔術ですな!我々も負けてられないの!総員、海賊船に乗り込め!」
『ウオオオオオ!!!』
雄たけびを上げながら、梯子をかけて海賊船へと乗り移る騎士団員。騎士団員とはいっても、金属鎧は着ず軽い革鎧とカットラスのような剣と小盾を装備している。冒険者とか海賊って言っても、見たことのない人には分からないんじゃないかな?キサトさんは金属製の防具はつけているが、胸当てと篭手、脛当てなど要所だけ。武器も船内で振り回すことを想定してか、メイスと小盾だ。
1番奥にいた船にも、騎士団員たちが乗り込んでいく。ルウが暴れていたからか、既に半壊の船は騎士団に任せ、俺もルウとライムを引きつれ奥の船へと飛び移る。
襲い掛かる海賊たちを倒しつつ、船長っぽい人を探す。下っ端海賊ならライムでも相手出来るみたいで、そこらへんにいる海賊を突き殺していた。まあ、ダンゼ島の魔獣に比べたら雑魚だかんな。ライムでも余裕か。
「見つけたぞ、テイマー!覚悟は出来てるな!?」
甲板で船長を探していると、いかにも船長っぽい羽根つきの帽子をかぶった、豪華な服を着ている奴が俺の前に現れる。あれ、この人俺を知ってんの?・・・ああ、糞貴族を襲った海賊の船長なら、逃げ帰った部下から俺のことを聞いてても不思議じゃないか。
「・・・」ぷるぷる
「え、1人でやりたいの?」
「こく」
「・・・よし、やっちまえ。あ、でも危険だと思ったらすぐに止めさせるからな。精霊よ、金剛の如き何者にも侵されぬ力を、鋼身」
ライムに硬化魔術をかける。これで一応安心、後は信じて見守るだけだ。
「死ねやあああ!!!」
サーベルでライムに斬りかかる船長。どうやら多少は魔術が使えるようで、剣身が魔力を帯びて薄っすら光っている。ルウの硬化と支援魔術があれば、さすがに通りは悪いと思うけど、わざわざ食らう必要もない。少し体をずらして避けるライム。
船長なだけあって、技量も中々高いようだ。流れるように攻撃を仕掛けるが、かわされたり肌の上をすべらされたりと、ほとんどライムに捌かれている。
「くそっ!何なんだこいつ!?」
「スライムだぞ」
「ふざけんな!俺の剣を捌けるスライムがいるわけねぇだろ!」
「目の前の現実が見えないのかね...。ライム、もうやっちまえ。大した腕じゃない」
俺の台詞を聞き、ライムが一気に攻勢に出る。体を狙った突きを、そこだけ一瞬穴を開けて貫通させ、すぐに元に戻す。するとあら不思議、船長のサーベルはライムの体で固定されてしまった。
「なっ!?」
慌てて引き抜こうとする船長だが、その判断自体が間違いだ。剣を抜こうとして動きが止まる船長を、ライムは見逃さない。まるで杭のように腕を太く尖らせ、船長の胸を貫く。あそこですぐに下がってれば、逃げるチャンスくらいはあったかもしれないんだけどな...。
口から血を吐いて倒れる船長。どうやら騎士団の人たちの戦闘も終わったらしく、剣戟の音は止み甲板に武器を投げ捨てる音が聞こえてくる。こうしてライムは、初めての単身戦闘で勝利したのだった。
[ピー]ならセーフですよね!今のツチオには、これが限界です。今はですけど。