帰還、ランディス島へと戻ると、そこは夜の街
感想で心臓の意味を指摘されたのですが、魔力は血流に沿って流れるので、心臓って魔力に関係してるんじゃないかなー?と、ツチオが考えた結果です。説明不足でした、すいません。
無事に調査を終え、竜の素材を持ち帰った俺たちを町にいた人たちは歓声で出迎えてくれた。帰り道でも魔獣に襲われたりはしたが、あと少しで帰れると思うことで、何とか大きなけが人もなく潜り抜けることができた。まあ、俺たちの体に染み付いてる駆竜の臭いのおかげか、襲ってくる魔獣も極少数だったんだけどね。あそこは駆竜の臭いが充満してたから、勝手についちゃったんだろうな。
帰還している途中の夜に、ルウたちは駆竜の肉を食べた。肉はルウとリンだけで、ライムには腕を丸々消化してもらったけど。今までの魔獣とは、完全に別系統で進化した竜だ。きっと彼女らの進化にも、少なからず影響を与えると予想している。まだ特に変化はないので、今後のお楽しみだな。ライムはまだあまり位階が高くないから、森での魔獣と駆竜の分の魔力で進化するかなー?と思ってたんだけどな...。まあ、同じ位階の魔獣の中ではかなり上位に位置しているし、その分必要な魔力も多いのだろう。そのうち、進化してくれるだろう。
町へと帰還した俺たちは、その足でギルドへと報告に向かう。どうやら、先に帰っていた冒険者たちが知っている情報は伝えていたらしい。しかも、リーダーたちは島の主に殺された、なんて偽ってな。当然、俺たちが帰ってきたことでその嘘は発覚する。グルとなって嘘をついていた奴らは除名処分となり、黙認していた奴らは違約金を払うことになった。ったく、本当に人間ってのはどうしようもないな。除名となった奴らにも、今回の調査の報酬は払うみたいだ。まあ、かなり差っ引かれてるけどね。
その差っ引かれた分は、俺たちの報酬金へ上乗せされている。さらに島の中央へと到達し、主の情報と素材を持ち帰ったことで、さらに上乗せされるようだ。ギルドへの提供分を除いた素材は、駆竜と戦った人たちで山分けだ。まあ、俺の分は既にもらってるんだけどね。ヘイスさんたちも、目当ての素材を得ることが出来たみたいだ。革と鱗で防具を新調するらしい。皆満足、良か良か。
さらにさらに、俺たちの調査で確認された魔獣の情報が、俺の提供した魔獣の情報と一致したため、情報提供分の報奨金も支払われると受付嬢さんに伝えられた。全ての金額を合計すると、一気に相当な金額が懐に入ることになる。どれくらいかというと、王都の一般家庭が数年は遊んで暮らせるくらいだ。うん、はっきり言って落ち着かない。とりあえず必要な分だけ受け取って、残りはギルドで預かってもらうことにする。別の町のギルドで俺の名前を伝えれば、そこでお金をもらえるそうだ。便利だな、ギルド。
とりあえず、宿屋に残り数日の宿泊費を支払って部屋へと戻り、ベッドへとダイブする。明日はゆっくりと休んで、残りはひたすら魔獣を狩っていようかな。皆の魔力やお金を貯めないといけないし...。そう思って寝ようとした時、俺のズボンのポケットが、携帯のバイブのように振動する。えっと、卵は部屋の机に安置してあるから・・・あの枝しかねぇな。
ポケットから枝を取り出すと、薄く光って振動している。おいおい、まるっきり携帯じゃないか。どうやったら会話できるんだろう?
試しに枝を耳に当ててみると、そこから頭の中に精霊の声が流れてきた。
『もしもーし、もしもしー?聞こえてるー?』
『聞こえてるよ、何か用なの?もう寝たいんだけど』
どうやら口に出さなくても、思うだけで伝わるようだ。念話か、便利だなー。
『もう町に戻ったの?無事に戻れたか、確認したいんだけど』
『戻れたよ、死人もなし。じゃ』
『いやいや、切らないでよ!こっちは全然話し足りないんだから!』
『寝むいんですけど...』
『後5分だけ、いいでしょ!?』
『・・・5分だけだからな』
『やった!それじゃ、こっちから聞いてくねー』
それから、5分経ったのに中々話を止めない精霊に付き合い続け、結局1時間は話の相手をさせられて心身ともに疲れ果てた俺は、精霊がようやく満足して念話を切ったのと同時に意識を飛ばした。くそっ、全然人と話したことがないから、俺と話すのが楽しいと言う精霊を、少しでもかわいいと思ってしまった俺が馬鹿だったよ...。男ってホント馬鹿!
それから数日経った夕方。翌日の日の出とともにシルバーホース号は出発すると言ってたので、前日のうちにランディス島へと戻ることにした俺。早めの夕食をとってから、港へと向かい行きに乗ったのと同じ船に乗る。来るのと去るのじゃ、同じ島でも全然見え方が違うな。もう中央へは行けるから、反対側へと到達する日も近いだろうな。また来年の夏休み、1回くらいはここに来てもいいかもしれないな。あの精霊にも会いに行かないと、寂しさのあまり枝を使って俺に訴えてくるだろうし。それは勘弁願いたい。
ランディス島へと下り立った俺は、とりあえずキサトさんのところへ行くことにする。明日出航できるのか、聞いておかないといけないからな。
電灯がないこの世界では、暗くなると寝てしまう人たちが多い。明かりを灯す魔術具はあるらしいが、そんなの貴族の屋敷くらいにしかない。そんな夜の町に姿を見せるのは、昼間は外に出れないような人たちか、昼間は営業できないような店に行く人たちに限る。いわゆる、夜の蝶たちのお店だ。
どうやら、冒険者や貴族が集まるこの島にはそういう店も多いようで、さっきからあちらこちらで客引きをしている。大きな店は表通りに面していて、煌々と魔術の明かりが看板を照らしている。えっと、騎士団の詰め所は基本中央にあるんだよな。そのためには、この大通りを突っ切らねばならない。・・・初めてラノベを買った時くらいに緊張する。
とりあえず、俺を囲ませるようにルウたちを配置し、出来るだけ通りの真ん中を歩くようにする。わざわざ話しかけづらい奴に、話しかけるような人はおるまい。完璧な作戦だな。
「ねー、僕ぅ。お姉さんたちといいこと、しない?」
「え、あ、いや。間に合ってますんで」
そうでもなかった。お姉さん方を甘く見ていたようで、普通に話しかけてくる。幸いなことに、ルウたちがいるおかげであまり近くにまで寄ってこない。これなら、何とか断りきれる!体をくっつけられたら、さすがに押し切られそうだからな!なさけないとかいうな、慣れてないんだよ!
「えー、そんなつれないこといわないでよー」
「私たちがリードしてあげるからさぁ」
「天国、見せてあげるよぉ?」
「他をあたってください...」
早歩きでお姉さん方を振り切り、何とか騎士団の詰め所に到着する。ふう、まだ香水の匂いが鼻から離れないよ。もう1個早い便でくればよかったな...。
騎士団の詰め所は、何となく交番に近い雰囲気だった。違うのは、奥がけっこう広くて武器などが置いてあることと、馬を待機させる場所があることだろうか。そこにルウたちをおいて、中に入る。あ、受付みたいなところがあるぞ。とりあえず、あそこでキサトさんがいるかどうか聞いてみよう。
「すいません、キサト騎士団長はいますか?」
「いますけれど、何か御用でしょうか?」
「えっと、ツチオが尋ねてきたって伝えてくれませんか?知り合いなんです」
「少々お待ちください」
そう言って、受付の人は2階へと上がっていく。数分で戻ってきた。
「団長がお呼びです。2階の左手の廊下の突き当りの部屋です」
「ありがとうございます」
階段を登って、隊長室と書かれた部屋の扉をノックする。団長じゃないんだな。
部屋の中では、キサトさんが机に向かい書類と格闘していた。部屋は蝋燭で、薄ぼんやりと照らされている。魔術具じゃないんだな...。
「おお、ツチオ殿。1ヶ月お疲れじゃったな、何でも島の中央まで調査することが出来たとか」
「多少は死人が出てしまいましたが、何とか調査を終えましたよ。キサトさんも、こんな夜遅くにまでお疲れさまです」
「引継ぎの書類で大わらわじゃよ、後回しにしていたツケが来おったわい。それにしても、よく港からここまで来れましたな。途中、客引きに呼び止められなかったのか?」
「従魔に囲んでもらって来たので、そこまで強くは声をかけられませんでしたね」
「ツチオ殿は、あまりあういうのに慣れていなさそうじゃったからな。てっきり、そのままズルズルと連れていかれるかと思ってたのじゃがな」
「期待に副えなくて良かったです。明日は予定通りに出航するんですか?」
「天気次第じゃが、今のところは延期の予定はないな。海賊が出没したという情報もないからの」
「この前の海賊も、目撃されていないんですか?」
「ああ、そうみたいじゃ。大方、儂らを避けて別の海域にでも移動したのじゃろ」
まあ、わざわざ騎士団がいる所で海賊稼業をする必要はないもんな。海は広い。
「少し雨が降っているくらいなら、明日は出航してしまうぞ。遅れないようにな」
「分かりました。それじゃ、失礼しますね」
「ああ、そうじゃ。ツチオ殿は、ダンゼ島からの最後の船で来たんじゃろう?宿屋はもう取っているのか?」
「いえ、まだです。今から探すつもりですけど...」
恐らく、大体のところは埋まっちゃってるだろうな。空いているところはあるだろうけど、探すのが面倒だ。
「それなら、この詰め所の仮眠室で寝るとよい。従魔は、馬と一緒に寝かせば問題あるまい。どいつも魔獣には慣れとるから、特に騒ぐこともないじゃろうし。仮眠室は、このまま廊下を真っ直ぐいった最奥じゃよ」
「では、ありがたく使わせて頂きますね。ありがとうございます」
「いやいや、仮眠室を貸すくらいで礼を言われても困る。どうせ他の奴らは、皆見回りかベッドの上じゃろうしな」
最後だからなー、少しは羽目を外しているんだろうな。
「キサトさんも、早めに寝てくださいね。寝不足だと船酔いしますよ」
「分かっとるよ。もうすぐ終わりにするとしよう」
隊長室を後にして、ルウたちにここに泊まることを告げてから、仮眠室へと入る。ベッドがいくつか並べられていて、その間にカーテンを引けるようになっている。保健室とか病室を思い出すな...。
誰もいなかったので、1番右奥のベッドにカーテンを引いてから横になる。明日から、また1週間ちょっとの船旅だ。船上は寝つきが悪いし、ここでしっかりと寝て英気を養わないとね。
そして翌朝。多少雲は出ているが、風も弱く絶好の出航日和だ。1ヶ月ぶりにシルバーホース号だな。
持ってきた物資と交換したのか、前より多くの木箱が船に積み込まれていく。当然、ルウと一緒に手伝いだ。何が入っているのかは知らない、恐らく香辛料とかそこらへんだろう。いや、根拠はないけど何となく。ほら、大航海時代といったら香辛料でしょ?
積荷を全て詰め込み終わり、ちょうど日が昇り始めたころにシルバーホース号は出航した。さて、何事もなく平穏に学院まで帰れたらいいんだけどな...。
<side 追い返された海賊の親分>
「お頭!ランディスからシルバーホースが出航したと、向こうに送った仲間から連絡がきやした!」
「間違いないか!?」
「へい、実際に見たとのことっす!」
「総員、出港準備!予定しといた場所で仕掛けるぞ!」
「お、お頭。いくら面目が立たないっつっても、騎士団と戦うのはマズイっすよ。考え直したほうが...」
「ああ、テメェ俺に指図するつもりか!?」
「い、いえ!決してそういうつもりじゃ!」
「まあ、確かに騎士団は強い。だが、そいつは陸に限った話だ。船上・海上での戦闘は、俺たちのほうが何枚も上手よ」
「そうですけど...」
「何、心配はいらねぇ。今回は俺様が直々に指揮するんだ、負ける余地がねぇよ。グダグダ心配ばっかしてねぇで、さっさと船の準備をしろ!」
「へ、へい!」
1月近くも待たされて、こっちはもう我慢の限界だ。シルバーホース相手に、全部ぶちかましてやる!待ってろよテイマー、今地獄に送ってやるからなぁ!




