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駆竜の事情、精霊様の事情、面倒い

石破 love love 天驚拳が優勢ですね。

島の中央の大樹の精霊様が、俺にあの駆竜の卵を引き取ってほしいとのたもうた。まあ、それは面倒ではあるが全然構わないんだけど...。


「何で俺を信用に足る人間だと考えたんです?」

『あなたの従魔を見れば、一目瞭然でございます。皆、一様に幸せそうな顔をしているのでございますよ。それにドラゴンの加護を持っているのございますから、十分に信用できると判断したのでございます』


信用できない人間の従魔に、ドラゴンが加護を与えるわけがないのでございます、と付け加える精霊様。さすがに精霊様ともなれば、加護も見抜けるんだな。


「そうですか・・・この卵を持って帰って、孵化させればいいんですか?」

『はい。出来れば、そのまま従魔として使役してもらいたいのでございますが』

「でも、戦い方とかって親が教えるものなんでしょう?俺たちには、そんなこと出来ませんよ」

『そうでございますね、戦えなかったら生き残ることなど出来ないでございますから』

「そこで、精霊様にやっていただきたいことがあるんです。俺たちに加護を与えれくれた、業火ってドラゴンにこの卵を預けたいので、何とか連絡をとってもらえないでしょうか。俺が育てるよりは、飛竜に育ててもらったほうが遥かにマシですしね」

『それくらいなら、何とかなるのでございますよ。どこで会うのか、教えてほしいのでございます』


精霊様に会う場所を伝える。ここから帰ってもまだ夏季休暇中だろうから、何とか学院が始まる前には受け渡すことができそうだな。


『それでは、業火というドラゴンにしかとお伝えするのでございますよ』

「ありがとうございます。それにしても、何でわざわざ精霊様が現れて俺に卵を預けるんですか?」

『その竜は、この島の固有種なのでございますが...。半ば突然変異のような形で現れた上に、繁殖能力も低いのでございます。元々2体しかいなかったのでございますので、このままでは近い将来絶滅してしまうと思ったのでございます』

「だから、子どもは外に出して子孫を残してほしかったんですね...」


あれじゃ海は泳げないだろうしな。というか、俺たちが殺しちゃった奴、かなり貴重だったんじゃん!


『ああ、その点は問題ないのでございます。既に結構な年齢だったので、後数十年もしたら死んでいたでございましょうかな』

「はあ、そうなんですか...。まあ、止めを刺したのは俺たちですから、責任をもって引き取りますけど。それでは、そろそろお暇します」

『いえいえ、もう少しここにいてほしいのでございますよ。私、生まれてこの方この樹から離れたことがございませんので、外のことをまったく知らないのでございます。なので、色々教えてほしいのでございますが』

「まあ、呼ばれるまでならいいですよ。それと、わざわざ丁寧言葉で話さなくても大丈夫ですよ」


語尾にございますをつけてるだけだもんなー。まあ、そういう口調なのかも知れないけれど。


『あ、そう?それならそうさせてもらうわね、あー肩が凝った。ったく、人間はよくこんなしゃべり方が出来るものね。ほらあんた、肩を揉みなさいよ。凝ってるっていってるじゃない』

「・・・ずいぶんと砕けた口調なんですね。精霊様っていうから、こうもっと荘厳な感じだと思ってたんですけど」

『何よ、あなたの価値観を私に押し付けないでくれる?それに、私はここから離れたことがないっていったじゃない。他の精霊の話し方なんて知らないわ』

「え、そんじゃどうやって業火さんに伝えるんですか?」

『え、あんたドラゴンにさん付けしてんの?引くわー』

「・・・」

『ああ、ちょっと待って!冗談、冗談よ!卵を引き取ってくれた人間に、そんなこと言うわけないじゃない!』


黙って立ち去ろうとする俺の肩を、精霊様がガッと掴む。引くって・・・目上の相手には敬語ならずとも、丁寧語を使うのは普通だろ...。


「冗談?」

『ええ、そうに決まってるじゃない!』

「本音は?」

『ないわー』

「・・・」

『だから立ち去らないでって!』


はあ、さっきまでは立派な精霊様だと思ってたのに...。俺の中で、精霊株が大暴落だよ。






「ったく、人使いが荒い精霊様だな」

『いいじゃない、これくらい。ってあんた、何で敬語を止めてんのよ!ドラゴンには敬語を使うくせに!』

「人を馬鹿にするような奴に、使う敬語はない」

『だからあれは冗談だって・・・あ、中々上手いじゃない。そこ、気持ちいいわよ』

「ここ?」

『んん、そこよ。ふう、ここんとこ働きづめだったから、肩がずっとバキバキだったのよー』

「へー」


何だかんだで精霊の肩を揉むこととなり、ただ今絶賛肩揉みタイムだ。確かに、精霊の肩はかなり凝っていて、岩のように固い。


「働きづめって、何をやってんの?」

『だから敬語、ふぁう!ううう、あなたホントに肩揉み上手ね...』

「まあ、色々とコツがあるんですよ」


魔手と愛撫を駆使すれば、肩凝り解消なんてお手の物だ。愛撫ってのは撫でるのが上手くなるスキルではなく、手を使って与える快感などを増幅するスキルだからな。あえて言おう、それなんてエロゲ?

凝っているところは魔力がちょっと乱れているので、魔手を使えばすぐに分かる。精霊は体が魔力で構築されているので、なおさら分かりやすい。


『あ、あんたたちがこの島に入ってきて、はうっ!魔獣とか色々、ううん、狩っちゃうから、バランスをとるのが大変なのよ。ひぃん!』

「なら、俺たちは来ないほうが良かったの?」

『必ずしもそうとは、ひゃん!い、言えないわね。外界からの刺激は、進化の鍵をなることがあるからあぁぁ...。こ、このままじゃ、この島の魔獣の進化は頭打ちだったのよ』

「へー。精霊様が動けないってのは?」

『私の本体はこの樹だから、根を張っているこの島の中でしか動けないのよあうっ!』

「・・・なんでさっきから、台詞の所々が飛ぶんだよ」

『だ、誰のせいだと思ってるのよ、くひぃん!あんたがずっともみ続けてる、あああ、からぁ!』

「なら、止めましょうか?」

『だ、誰も止めろとは言ってないでしょ!』


なら言うなや。まったく、我侭な精霊だこって。


「そんで、教えてほしいことって何なの?」

『ぜ、全部よ全部。あなたが知っている、この島以外のこと全て』

「いや、そんなの話している時間はないって」

『いいわよ、思考を読むから。安心して、話したくないって思ってるところには手を出さないから』

「え、いや、安心できない...」

『それじゃ、読ませてもらわね』


そう精霊が言うとともに、脳内を誰かに覗き見されているような、全てを見透かすかの如き嫌な感じが、俺の頭を走り抜ける。数秒で、その嫌悪感は止んだ。


『ふーん、別の大陸ね。まあ、そっちに住んでる奴らがこっちに来るのは、そう不思議なことじゃないか』

「もう読んだんですか?」

『ええ。あ、何か色々見て欲しくなさそうな記憶はちゃんとスルーしといたから。つうか、あんたこの世界の記憶が異常に少ないわね...。もしかして』


っ!異世界人だとバレたか!?いや、バレても別に構わないんだけど、何をされるのか分かったもんじゃない!


『もしかして、記憶喪失なの?』

「・・・へ?」


今にも精霊に飛びかかろうとしていた、俺の体が固まる。・・・ああ、そうだよな。普通記憶が少なかったら、記憶喪失を疑うよな。


『見て欲しくない記憶ってことは、思い出したくない記憶なのね!・・・ごめんなさい、さっきまで色々言っちゃって。ドラゴンに敬語を使ったのも、過去の辛い記憶が原因なのね...』


何か勝手に勘違いして、1人で話を進めているけれど


「ええ、実はそうなんです。あまり昔のことは覚えていなくて」


ここはありがたく乗っかっておこう。


『やっぱり...。悪かったわね』

「・・・まあ、別にいいんだけど」

『そういうわけにもいかないわ。そうだ。あなた、私の友人になりなさい!』

「遠慮しときます」

『あ、あれぇ?おかしいな、今遠慮しますって聞こえたんだけど、気のせいだよね?』

「いや、精霊様の耳は正常だよ」

『な、何で私の友人になりたくないのよ!』

「友人はもう間に合ってるし」

『お、多いほうがいいじゃない!ほら、遠慮する必要はないのよ!』

「いや、だからいいですって。それに、友人がほしいのは精霊様のほうでしょ」

『は、はあ?何言ってんのか、意味分かんないんですけどー!』

「だって、この島から出れないってことは、ここにずっと1人だったわけでしょ?魔獣しか住んでないから、人と話すこともできないし。まあ、魔獣が友達っていうなら話は別ですけど」

『う、ううううう...』

「友人になりたいってのは精霊様の望みであって、俺の望みではないわけです。それに友人は対等な存在なのであって、一方的に与えられるものでは・・・精霊様?」


さっきから下を向いて押し黙っている精霊。そしてそのまま


『う、ううううわーーーん!!!!』


と声を上げて泣き始めた。ちょ、そこで泣くの!?


『だってだってずっとずっと一人ぼっちで魔獣は私が近づいたら逃げちゃうしようやく竜が生まれたと思ったら歯をむいて唸ってくるし!このまま一人ぼっちなのかなって思ってたらようやく人間が島を見つけてやっとお話できる人たちが来ると思ってたのに全然島の中央に来ようとしないし!こっちからいきたくても外側の魔獣ばっか殺しちゃうから管理しないとすぐに絶滅して人間がどっかいっちゃうと思ったんだもん!ようやく私の側まできて竜を倒して樹の上まで来てお話してお友達になってくれると思ったのになってくれないなんてひどいよー!!!わあああああん!!!』


涙を滝のように流しながら、わんわん子どものように泣き叫ぶ精霊。ルウたちまで俺に「あーあ、泣かしちゃったー」といった感じの視線を送ってくる。ちょ、どうすればいいの!というか、この声は下の人たちに聞こえないの!?


「な、泣き止んでくださいよー!」

『うわあああん!!!ツチオの馬鹿ー!!!』

「何で俺の名前を知ってんですか!ああもう、分かりました!友人になりますから泣き止んでください!」


思わず丁寧語になりながら、必死に精霊を宥めようとする。俺が友人になると言ったところで、涙は流しているものの泣き叫ぶのは止める精霊。


『・・・本当?』

「本当です」

『嘘じゃない?』

「嘘じゃないです」

『友達になってくれるの?』

「はい、友達になります」

『毎日お話してくれる?』

「え!?そ、それはちょっと...」

『うえええええ』

「わ、分かりました!毎日お話しますよ!」

『・・・ふ、ふん!最初からそう言っておけばいいのよ!』


さっきまでの泣き姿はどこへやら。打って変わって、生意気な態度に戻る精霊。こいつ・・さっきまでのは嘘泣きか!?


『失礼ね、マジ泣きよ!』

「え、マジで?」

『当たり前でしょ!それと、はい』


1本の葉っぱがついた枝を、俺に手渡してくる。


『それがあれば、どこでも私と話すことができるわ。時間があるときでいいから、話に付き合いなさい。それと、またここに来ること。大きな休みのときだけでもいいから、たまには会いに来なさいよ』

「分かってますよ。それじゃ、そろそろ失礼しますね」

『ちょ、ちょっと待ってよ!さ、最後にもう少し肩を揉んでくれない?』

「はいはい、喜んで」


さっき迷惑をかけられたお返しに、ちょっと強めにやっちまいましょうかね。今度は、別の意味で鳴かせてやろう。






その後、俺の愛撫テクの前に息を絶え絶えにしながら痙攣している精霊を置いて、俺たちは地面へと下りていった。卵と枝は隠しとかないと。


「何かあったか?」

「いえ、これといって目ぼしいものは何にも。そろそろ戻りますか?」

「そうだな。大体の調査も済んだことだし、そろそろ戻ろう。よし、全員戻るぞ!獲物を解体して、持てる分だけ持ち帰ろう!帰るまでが調査だぞ!」


お決まりの台詞を言いながら、冒険者たちを集めて戻るヘイスさん。俺たちも後に続こう。


駆竜の解体は、冒険者たちが協力すると割と時間もかからずに終わった。まあ、焦げた部分は使えないしな。さすがに素材が減るとか言ってられる状況でもなかった。


俺の取り分は、希望していたものが全てもらえた。心臓なんか何に使うんだとヘイスさんに聞かれたので、従魔の餌ですと返事しておいた。まあ、間違ってないしいいよな。

腕はルウに持ってもらい、他の素材は全て背負い袋に入れる。肉は今日中にでも、ルウたちに食わせちゃおうか。残った駆竜の死骸をライムに消化してもらい、俺たちは島の中央を後にする。さて、帰り道も気をつけて帰ろう。


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