調査前夜、調査当日、調査二日目
大規模調査の前日の夜、調査に参加する人たちがギルドに集まっていた。何でも、明日の調査の説明会を行うみたいだ。もちろん、俺も参加する。
会場であるギルドの酒場には、かなりの人数の冒険者や傭兵たちが来ていた。今回の調査は今までと違い、出現する魔獣や地形などの情報がかなり開示されている。そのため、参加する人たちの人数も多いのだ。まあ、俺が提供したんだけどね。あの後、詳しい情報を手に入れたくて何度も偵察に行ってたら、魔獣たちの攻撃パターンとかを調べるのに夢中になっちゃってな...。中央に行くには1日じゃ無理なので、さすがに途中までしか行っていないが、今回は数日かけて中央にまで行く予定だ。俺の調べた情報が、役に立つといいんだがな。
「もう全員集まったかは知らんが、明日は早い。もう説明を初めてしまうぞ。今回の調査のリーダーを任された、ヘイスだ。よろしく頼む」
青髪の男性が前に立ち話し始める。あの人がリーダーか、ギルドから任せられるくらいの実力はあるのだろう。
「あいつ、速撃のヘイスだぜ」
「他の冒険者も、ほとんどがBランクかCランクの実力者揃いだな」
「どうせなら、Aランクの冒険者を連れてくれば良かったのにな。出し惜しみしてる場合じゃないだろ」
「まあ、Aランクからは人数がグッと減るからな。人数も多いし、今回はなんとかなりそうかもな」
二つ名持ちか、それは頼もしいな。というか、Aランクの冒険者、1人くらい呼んでもいいだろ!ギルド仕事しろ!
「依頼内容は、森の奥へと入り何があるのか調査することだ。目標は島の中央に到達すること、数日はかかる予定だ。各自、食料や水は多めに持ち込んでくれ」
「どういうルートで森に入るんだ?」
「既に調査が終わっているところまでは、町から一直線に進む。無駄な戦闘は避け、襲ってくる魔獣のみ撃退する。調査範囲に入っても奥に向かうのは変わりないが、場合によっては回り道や撤退の可能性もある」
「船から見えた樹が最終目標ってことでいいんだな」
「そういうことだ」
まあ、帰り道でも調査は出来るしね。とりあえず、島の中心に何がある大樹を確認するのが先か。
「それと、既に全員確認しているとは思うが、一応言っておく。まだ調査されていなかった領域からは、生息する魔獣にも変化が起こっている。そこから急激に強くなるようで、調査の妨げとなっていたのだが、そいつらの情報がつい先日提供された。まだギルド側は真偽を確かめてはいないが、攻撃手段や特徴が詳しく報告されているため、信憑性は高いと判断できる。実際に戦ってみるまで合っているかは分からないが、頭の中には入れておいてくれ」
一応、受付嬢さんには匿名で情報を流してほしい、と頼んでおいた。別に恩を着せるために、やったわけじゃないからな。冒険者が多いほうが、より奥に行けるだろうという私欲からだし。
「それでは、魔獣の情報を元にして、戦術を練っていくぞ」
そうして、夜は更けていった。
「それでは、大規模調査を開始する!全員無事生還するぞ!」
『オオオオーーー!!!』
そして翌日、日の出と共に俺たち調査隊は出発した。まず探知魔術が使える奴らが先行して、魔獣がどこにいるのかを確認。その報告から、リーダーが進行方向を決定し、出来るだけ魔獣との戦いを避けていく、といった感じだ。俺たちは最後尾で殿、従魔がいるんなら問題ないだろだと。そのくせ、トンボや角獣、噛み付き竜が襲ってきたら前に出ろときたもんだ。まったく、都合がいいことこの上ない。角獣は俺たちでも危険だっつの!
人数が多いためスピードは遅いが、魔獣との戦闘はほとんど行わずに進んでいく。そうして3~4時間ほどで、生息する魔獣が変わる境界線へと到着した。
「ここから、敵が一気に強くなるぞ!全員、気を引き締めて進め!」
さてと、ようやく本当の入り口に着いたな。今までのは準備運動にすらなっていない、ここからがこの森の本当の姿だ。
境界線を越えてから、俺と同じように少し進んだところで、探知組から魔獣発見の報告が入る。殿までは来ないと思うけど、他にも魔獣は住んでいるんだ。気をつけないと、あの百足に気が付かないまま殺されるかも...。
襲ってきたのは、どうやら強化カブトたちらしい。強くなっているとはいえ、倒し方は普通のカブトと全く同じ。いつも外側で狩りをしている彼らなら、そこまで脅威ではないだろな、
「よし、情報どおりだ!1・2班が盾で攻撃を受けて、3~5班は横から殴れ!こいつらはあまり魔術が効かないみたいだから、魔術使いたちは魔力を温存しておけ!」
ヘイスさんが指示を出すと、その通りに動いてカブトと戦う冒険者たち。練習なんかしていないのに、ぶっつけ本番でも連携できるなんて、やっぱり経験の差だよなー。俺じゃあ絶対無理だ、殿にしたヘイスさんの判断は正しいのかもね。
やはり似ている魔獣は戦いやすいのか、10分もかからずに殲滅してしまった。こっちのほうが、数も多かったしな。負けるはずがない。
「へへ、大したことねぇじゃん。これなら余裕だぜ」
「まったくだな。今までの調査隊は何をしてたんだか」
「こら、そこ!気を抜くんじゃない!こいつらは、ここらの中じゃ最弱の魔獣だって話じゃないか。他の魔獣は、こいつらより強いんだぞ!」
「他の魔獣も、案外大したことないんじゃないか?」
「そうだな、その提供者が大きく言ってるだけだよ」
うーん、あのカブトの恐ろしさはそこではないんだが・・・まあいいか。すぐに分かるだろう。
そこからは、しばらくカブトと小型竜種しか出てこなかった。ブレスで痺れる人が出たものの、死者なしでラン○スもどきも倒すことが出来、皆が調子に乗り始めた頃。ついに、ここら一帯で最強の一角が現れた。
「た、隊長!1体の魔獣が、こちらに近づいてきます!」
「何、1体だと!?おい、全員構えろ!強敵が来るぞ!」
「へへ、どうせ大したことねぇだろ。俺が倒してやるぜ!」
「いいから、さっさとしろ!1体であまり音がしないってことは...」
うなり声が前のほうから聞こえてくる。このへんで1体で行動する魔獣には、それぞれ特徴がある。トンボは近づいてくると羽音が聞こえるし、サイは突進してくるから嫌でも気づかされる。ムカデはそもそも索敵に引っかからないので、特に何も聞こえないときに近づいてくる1体の魔獣というのは、噛み付き竜しかありえないのだ。
俺はよく噛み付いてくるので噛み付き竜と呼んでいるが、そいつを2語で言い表すとしたら『恐竜』がピッタリと当てはまる。長い尻尾、太くて強靭な後ろ脚に短い前足。森を走るためか背筋は真っ直ぐのび、鋭い牙といかにも強力そうな顎が特徴的。こいつを初めて見たとき、俺が「ティラノ!?」と叫んだほどだ。まあそのせいで見つかって、苦戦を強いられることとなったんだが。逃げようにも意外と足が速くて振り切れないし、噛み付きは恐いし...。単純な力押しだから、小細工を弄することも出来ないし。最後は肉弾戦からの、リンの魔術砲火からの、ライムの首刺しで倒した。魔術耐性が低いとは伝えてあるから、安牌を切って遠距離からの攻撃に絞るだろうな。
バリケードのように構えられている盾に、噛み付き竜が頭突きを食らわす。やはり力は強く、隊列が乱れ穴が開いてしまう。そこへ竜はさらに突っ込み、全身を使って前衛を吹き飛ばしていく。いきなりの強敵の登場に、浮き足立つ冒険者たち。そこへ、リーダーの喝が飛ぶ。
「うろたえるな!全員で当たれば、恐れる相手じゃない!3班、攻撃して気を引いてくれ!その間に、1・2班は立て直して、再び前線を構築しろ!魔術士は、がんがん魔術を放て!出し惜しみはするなよ!」
攻撃班が竜の気を引き、自分たちのほうへと引っ張っていく。だが、このままじゃあいつらが危ない。よし、助けにいこうか。
「すいません、ちょっと援護してきます」
「ああ、頼んだ」
自分を攻撃した冒険者を追っている竜の横っ腹に、低空ショルダーチャージを食らわし吹き飛ばす。そこへ、様々な魔術が雨あられと降り注ぐ。悲鳴を上げる竜の首に、ライムが張り付いて棘つき鉄拳と化した、ルウのパンチが深ヶと突き刺さる。喉から血を流しながら、噛み付き竜は倒れた。ふう、やっぱり援護があると楽だな。1人で戦ってたら、あんな良い攻撃チャンスは中々出来ないし。
「1班、1人が骨折してます!治癒お願いします!」
「2班は軽症数人、治療は必要ない!」
「よし、治療が完了するまで、他のメンバーは警戒を...」
「に、2時の方向から魔獣の反応が!数は10です!」
「っち、やはり来たか...。1・2班で、動ける者は防御に当たってくれ!速攻で倒すぞ!」
カブトやラン○スもどきは、そこまで強くないものの数が非常に多い。なので、このような戦闘の直後に、弱みに付け入るように襲ってくるのだ。これが1番恐しい、今までの調査隊もこのようにしてやられてきたんだろう。まあ、こっちは殿で力が有り余っているし、ここでの戦闘には一日の長がある。赤の他人とはいえ死人は出したくないし、出来る限りのことはしよう。
その後、何度も襲い掛かってくるカブトたちを蹴散らし、樹上から奇襲してくる百足を引きちぎり、突進してくるサイを幾重にも重ねた土壁で止まらせたり、夜襲を仕掛けてくる奴らを倒したりと、相当キツイ状況が続いた。俺たちは大きな怪我はしていないが、他の人たちは別だ。トンボに腕を食いちぎられたり、サイに突っ込まれて骨が折れたりした奴らは、数人でパーティーを組んで撤退した。いても足手まといになるだけだし、隠蔽魔術を使っているから、多分大丈夫だとは思うが、やはり心配だ。
だが、死者・撤退者を合わせても全体の1割未満だ。昨日の夜、皆で会議した結果、このまま中央に行ってどんな風になるっているのか、くらいは確認しないと帰れないという結論に落ち着いた。そういうわけで、俺たちは今、もうすぐで島の中央というところを歩いている。
「・・・なあ、さっきからやけに魔獣が少なくないか?」
「ああ、確かに。嫌ってなるほど襲いかかってきてたのに、ぷつりと止んじまったな...。やっぱり、島の中央には何かあるってことか?」
「らしいな。まあ、油断は禁物だ。集中を切らすなよ」
「わーってるよ」
魔獣の襲撃が少ない、確かにその通りだ。索敵担当の人に聞いても、さっきから魔獣の影も形もないらしい。うーん、前にもこんなことがあったような...。何だっけ、思い出せないな。あー、気になる。
そのまま思い出そうを頭を捻っていると、不意に森が途切れる。あれ、ここで終わりなのか?ってことは・・・ゴールだな!
「・・・ようやく島の中央か。かなり辛かったが、何とか耐え抜くことが出来た。だが、皆気を抜くなよ。この先に、何があるのかを調べるのが俺たちの仕事なんだからな」
全員が頷くのを確認してから、ヘイスさんが先頭をきって歩き始める。おお、リーダーらしいねぇ。俺もついていくとしよう。
森を抜けたその先には、とてつもなく巨大な樹木が1本だけ立っていた。バオバブの木ってあったが、あれなんかとは比べ物にならないほどだ。何て呼べばいいんだろう・・・世界樹?うん、世界樹かどうかは分からないけど、イメージとしてはそんな感じだ。
地面はこの大樹の葉で日陰となっていて、背の低い雑草しか生えていない。ここだけが森から切り離された空間、まさに別世界と呼ぶのにふさわしい光景だ。
「・・・これはすごい。ここまで大きな樹は、中々ないぞ」
「デカイとは思っていたが、これほどとはな...」
皆も空を見上げて口をポカンと開けている。そんな中、ルウたちは妙に落ち着かないというか、何かに警戒している雰囲気だ。
「どうした、さっきからキョロキョロしてるけど...」
そうなのだ。ルウたちは、島の中央に近づくにつれ、何もいないところでも警戒をしていたのだ。今ではほぼ臨戦態勢、そりゃこんな特別そうな空間だし何かがいても不思議じゃないが...。そう思って、ルウたちが何に警戒しているのか、感覚を同調して確かめる。
ルウと同調した途端、今まで何もないと思っていた空間のいたるところに、何かの痕跡が見受けられた。辺りに充満している臭い・・・犬とかが行うマーキングと似たようなものか。このあたりは、自分のテリトリーだと主張しているんだな。
・・・ああ、思い出した。どこかで似たような状況に遭遇したなと思っていたのだが、それは実地実習の時だ。あの時は、リンが俺たちの近くにいたから、魔獣が寄ってこなかったんだよな。ってことは、さっきから魔獣と遭遇してなかったのは・・・ここにこの島の主、とでも言うべき存在がいるってことか!
「ヘイスさん、ここはヤバイです。さっさと引きましょう!」
「ヤバイって、どういうことだ?」
「ここは、この島の主のテリトリーです。早く去らないと、襲われるかと」
「へっ、これだからテイマーはいけねぇぜ。魔獣なんかに意見を左右されちゃ、おしまいだな」
トゲトゲ頭の冒険者が、1歩前に出る。ちょ、危険だって言ってるでしょ!
「下がってください!何がいるか、分かったもんじゃないですよ!」
「臆病風に吹かれやがって。俺はあの樹を調べるぞ、葉っぱでも持って帰れば、追加報酬がたんまり入るだろうしな」
「俺もいくぞ!テリトリーに入ってんなら、もう襲われているはずだしな!」
「お、俺も行く!」
「俺もだ!」
「そういうわけだ。いもしない島の主とやらに怯えて、すごすごと帰んな」
そう言って、数人と共に大樹へ向かって歩いていく。確かにテリトリーに入ってるのに、襲われないのはおかしい。何でだ、相手の立場になって考えろ。
その魔獣はずっと島にいたんだから、俺たちみたいなのはまったくの未知の存在だ。正体が分からない奴を相手にするときは・・・十分に観察して、勝てると踏んだら戦うだろう。俺たちがここに入ってから、すでに5分は経過している。そいつに観察させるには、十分すぎる時間だ!
「行っちゃ駄目です!戻って!」
「おいおい、いつまで言ってるつもりだ?そんな魔獣いないって」
トゲトゲ頭の言葉は、最後まで続かなかった。大樹の根元から黒い影が飛び出て、前を歩いていた奴らの目の前に着地する。
そいつは、暗緑色の鱗を持ち大きな手には鋭利な爪、腕からも刃が生えている。尻尾は長くユラユラと揺れていて、そこだけ鱗がやすりのようになっているとうだ。後ろ脚は引き締まってはいるが、噛み付き竜以上の力強さを秘めている。目の上に、肌が飛び出るような形で角が生えていて、大きな顎からギラリと牙が覗いている。
この島の主。そいつは翼を持たず、地上での戦闘に特化した竜であった。
この竜のイメージは、ティガレ〇クスとナルガ〇ルガをミックスしたようなやつです。島自体のイメージは、ジュラ紀や白亜紀みたいな感じなんですけど。