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島の奥、偵察するのは、大変です

大規模調査まで残り1週間となったその日、俺たちは島の奥へ偵察に行くことにした。今まではずっと外側で狩っていたため、中程に行くのは始めてだ。どうやら、あるラインを超えると植生や生息する魔獣が変わるらしい。そこから魔獣がかなり強くなるため、探索が捗っていないみたいだ。そこらへんの情報をギルドに提供すると、報奨金がもらえるのだという。冒険者に確認を行ってもらわねばならないが、結構な金額をもらえるそうだ。


「そういうわけだから、道中の戦闘は最低限に済ますぞ。ラインは地図に載ってるから、突然強敵に襲われることはないはずだ。だけど油断はするなよ、地図が絶対合っているわけじゃないからな」


森の入り口で、ルウたちにそう伝える。魔獣の情報があるかないかで、生存率がグッと変わってくる。より奥に行くには、冒険者が多いほうが絶対にいいしな。偵察で死んでも意味がないし、危だと思ったらすぐに引くようにしなければな。まだいけるは黄信号、がんばればは赤信号だ。それは山だったけ?


「そんじゃ、行きますかね」

「グルゥ!」

「こく!」

「ブル」


今確認されている魔獣は、トンボ・百足・小型竜だ。恐らく、もう2~3種類かはいると思う。偵察は何回にか分けてもいい、細かく丁寧に探索していこうか。






森の外側を走破していく。一応ルートは前々から下見して決めておいたので、出来るだけ障害が少くなく、ルウが飛びやすいように木々が少なめな道だ。

とりあえず、リンに乗ってどんどん進んでいく。カブトはどこまでもついてくるからさくっと倒すとしても、それ以外の奴らは振り切って進む。2時間ほどで、島の外側と中を区切る境界線に到達した。うん、ベストタイムだな。


ここらへんまで来たのは初めてだったのだが、なるほど確かに植生が変化してきている。外側は普通に南国の森っぽい感じの森だったのだが、境界線の先はシダっぽい植物が多く見受けられる。いきなり変わるのではなく、段々とシダ植物が多くなっている。そんじゃ・・・行きましょうかね。


「全員、気を張っていけよ。情報がない魔獣がいる可能性が高い。とりあえず、攻撃は全部回避だ」


どんな属性・どんな魔術・どんな能力を使うのか、よく見極めてからじゃないと、とてもじゃないが怖くて受けることは出来ない。


今度はルウを先頭にして、境界線を越えて先に進む。線を越えると空気が少し変わった。むう、嫌な感じだな...。

リンに辺りを探ってもらいながら、慎重に歩いていく。少し進んだところで、リンが接敵を知らせる。数は10体、小型の竜種の可能性が高い。聞いた話じゃ、痺れブレスと連携攻撃が危険らしい。


「リン、魔術で敵の進路を絞ってくれ。ルウの正面に集まるように、左右に魔術を散らして」

「ブル」


ルウに乗り移り、魔力を共有。とりあえず、一発で数を減らそう。

木々の間からは、モン○ンのラ○ポスのような魔獣が交差しながらこちらに近づいてくるのが見える。狙いを絞らせないつもりだろうが・・・ルウには効かねぇぞ!


「ライム、張り付いて!」

「・・・!」ぷるぷる!


ライムが尻尾にくっついて、丸い形状へと変化する。それじゃあ、突撃しましょうか!


「ルウ、行くぞ!」

「グルラァ!!!」


翼を広げ、低空飛行で木々を避けながら飛翔する。一気に距離を詰めて、その勢いのまま魔獣たちをなぎ払う。遠くにいた奴らが胸を膨らませるのを見て、ルウがそのままグルリと尻尾で再び薙ぐ。その際、とりついていたライムが変形、ハンマーとなり魔獣たちの体をぶっ潰しながら吹き飛ばす。


「リン!」


魔獣たちを踏みつけながら、辺りを高速で走り回るリン。立ち上がった魔獣は、後ろ足で蹴っ飛ばしている。

残った魔獣たちも立ち上がり、鋭利な爪や牙で攻撃してくる。特に鱗が堅い腕や肩で受けつつ、拳や尻尾でカウンターを叩き込む。程なくして、魔獣たちを全滅させた。ふう、全力とはいかないものの、8割の力は出したな...。さすがにこのペースじゃ、長くは戦えないぞ...。まあ、今のであの魔獣の力量は分かった。まあ、ここらのヒエラルキーのどこらへんにいるかは、他の奴と戦わないと分からないんだけどね。正直キツイが、何とかやるしかねぇな。


とりあえず、魔獣の皮と牙、爪を剥ぎ取っておく。高く売れるだろうな、まだ未開の地にいる魔獣だし。

ライムに食わせてから、さらに先に進んでいく。地図には、簡単にどんな地形だとか、目印になるものがあるのか、とかを書き込んでおく。こういうのは書いたことがないから、あまり上手くは書けないけど...。まあ、ないよりはマシだろうし。


10分ほど歩いたところで、遠くからブブブブブという音が聞こえてきて、巨大なトンボがこちらに飛んでくる。1匹しかいないが、体はかなり大きい。あの顎で噛まれたら、いかにルウといえども危険だろう。ホント、虫って生命力が高かかったり顎が強力だったりして、非常に面倒くさい相手である。まあ、そんなことを言っても仕方ないか。1匹だから、さっきの奴らよりは楽だと思うな。


近づいてきたトンボの羽が、不自然に揺れる、そう思った途端、風の刃が飛んできた。腕を前でクロスさせて刃を防いでいたら、あっという間に接近されてしまった。くそ、リンたちには当たらなかったとはいえ、ここまで近づかれたのは痛いな。

グワ!っと口を大きく開けて、素早くトンボが噛み付いてくる。ギリギリまで引き寄せてから、肩を引いて頭を腕で締め上げる。震えた羽がルウの肌に触れると、ピシ!っと切れて血が垂れる。さっさと仕留めないと!

複眼を包み込むように頭を掴み、一気に握りつぶすルウ。頭を潰されても少しの間暴れていたトンボだが、ライムに腹を何度も刺されてようやく絶命した。


「ルウ、傷は大丈夫か?」

「グル」


特に問題はないか。そこまで傷は深くないし、すぐに血も止まるかな。俺にはルウがいるからこうやって殴りあえるけど、冒険者たちはそうもいかないだろう。大きいってのは、それだけで脅威だからな。魔術がそれほど効くかは見てないから、次はリンに倒してもらおう。

甲殻と羽を剥いでから、さらに奥へと進む。リンがまたもや魔獣を感じた時、バキバキバキ!と木々が押し倒されるような音が聞こえてくる。やがて、異様に鋭く長い角を持った四足の魔獣が、木々をなぎ倒しながら突進してきた。ちょ、やば!


慌ててルウが飛ぶと、その真下を魔獣が通り過ぎていく。リンも空に浮いて避けており、ライムはルウの尻尾にぶら下がっていた。

魔獣はグルリと後ろ足を浮かし、地面を削りながら停止する。再び地面をかいて、突撃してくるサイのような魔獣。まあ、飛んでいるから当たりようがないんだけど。俺たちの下をウロウロしている。さて、どうするか・・・さすがに真正面から受け止めるのは出来ないし...。うーん、ここは正攻法でいくか。


ライムをおんぶしてから、ルウに着地してもらう。さて、タイミングが重要だ。


「ルウ、ちょっとくすぐったいが我慢してくれ」

「グル?グウウウウウ!!!???」


魔力を共有すると、突然ビクビク震えだすルウ。あれ、この前やったよな!?戦闘中にやるのは初めてだけどさ。


「グルゥ...」

「ちょ、大丈夫ルウ!?何か鼻息荒いけど!」

「グル!」


全然平気、むしろ気合で満ち満ちているな。これなら全く問題なさそうだな。

ようやく降りてきた俺たちを見て、力を溜めてから猛烈な勢いで突っ込んでくる魔獣。ルウの視覚が一体化し、まるで時間が引き延ばされるような感覚だ。待てよ、待てよ、あせるな・・・今だ!

ルウに身を屈ませて、魔獣の正面にくるよう尻尾を低く振り、魔獣の足を刈る。ガクンと膝から崩れ落ち、角から地面に突き刺さる魔獣。かなり深く刺さったみたいで、ほとんど地面に埋まっている。あらまあ、直立しちゃったよ...。


「・・・どうする、これ?」

「グルゥ...」

「ブルル?」


ライムに仕留めさせちゃえば?とリン。まあ、それでいいかな。


「それじゃ、やっちゃってライム」

「こくこく!」


一応、暴れられた時のためにルウを側に控えさせておく。とことこと近づいていったライムは、首にブスッと腕を突き刺した。一発で仕留めたみたいで、力なくぐったりと倒れる魔獣。お見事、苦しませずに殺したみたいだな。


「こりゃ、剥ぎ取るのに骨が折れそうだな...」


とりあえず皮だろ、それに角もほしいんだけど...。大きすぎるんだよな、到底持ち歩ける大きさじゃない。ライムに食わせちゃうか。

背中あたりの皮を剥いでルウとリンに肉を食わせてから、ライムに消化してもらう。大きさが大きさだけに、少し時間がかかりそうだ。今のうちに、少し休憩しておこう。


木に寄りかかって水を飲んでから、地図を取り出してマッピングをしておく。ここらは特に目立つ地形とかはないけど、どうやって進んできたかは覚えている。大体この辺りかなと、歩いたルートをメモっていたら、突然リンが俺に向かって雷の槍をぶっ放してきた!


「うを!?何すんだリン!」

「グル!」


慌てて頭を下げてかわすが、今度はルウが殴りかかってきた!と思ったら、俺の寄りかかっていた木を殴るルウ。そこには、雷の槍で木に縫い付けられていた巨大な百足がいて、ルウの拳はそいつの頭を叩き潰す。・・・もしかして、俺の真後ろにあの百足がいたのか?そういや、俺がリンの魔術を避けられるはずがない。最初から、狙いは後ろの百足だったんだな。・・・うわ、恐っ!想像しただけで恐い!


「あ、ありがとリン。助かった...」

「ブルルルゥ!」

「まったくもってその通りだよ...。ルウもサンキュ」

「グルルゥ」


リンに、気を抜いているのはどっちなんだか、と怒られてしまった。返す言葉もございません。


「・・・!?」ぷるぷる!?びゅん!


ライムが俺に飛びついてきて、体中を触りまくる。どこか怪我してない!?といった感じで、少々鬼気迫るものを感じる。何かライムが、段々過保護っていうか心配性になっていっているような気がする。

魔力を黒く染めながら、ユラリユラリとおぼつかない足取りで、百足の死体に近づいていくライム。裏返して地面に叩きつけてから、腹をぶすぶすとぶっ刺していく。その姿はまるで、黒い魔力と合わせてウサギに八つ当たりをする、某おままごと幼稚園生のようだ。裏返して甲殻を傷つけないようにしている辺り、ライムが一応俺に気を使っているのが伺える。

ひとしきりボコッて、多少は憂さ晴らしになったようだ。最後に甲殻をベリベリと引き剥がして、ライムの死体いじめは終了した。何だかんだで、最後の甲殻剥がしが1番酷いな。人間に置き換えたら・・・生皮を剥がしているような感じかね。


「・・・」ぷるぷる


俺に百足の甲殻を差し出すライム。結構デカイけど、持てない大きさじゃない。これで、既知に魔獣は全て確認した。後は、未確認の魔獣を探すだけだな。気張っていきますかね。






「こ、こんばんはー...」

「あ、テイマーさん。ずいぶん遅いお帰りですね、何かありましたか?」

「いえ、ちょっと森の奥に行ってまして...」

「ええ!?森の奥って・・・1人でですか!?」

「いえ、従魔もいます。それでその、色々魔獣に遭遇したので、その情報を提供したいんですけど...」

「わ、分かりました!とりあえず、遭遇した魔獣の特徴を教えてください」

「えっと、まずは小型の竜種。麻痺ブレスと連携攻撃が特徴です。それと巨大なトンボと百足。トンボは風の刃を放ってきて、百足はデカイだけですけど隠密性に優れています。気が付いたら、真後ろにいて危うく死に掛けました...」

「えっと、今の魔獣は報告済みですね」

「まあ、ここからが本番ですからね。そんで、次は頭に鋭くて長い角を持った四足魔獣です。突進しかしてきませんが、それがかなり強力です。転ばせれば、楽に倒すことが出来ました。後、強靭な後ろ脚と短い前足を持った、鋭い牙を持った竜種と戦いました。攻撃自体はかなり強力でしたけど、タイミングは単調なので避けやすいです。まあ、それでも十分強いですけどね。最後に、島の外側に出てくる虫人型の魔獣、それの強化タイプが出てきましたね。身体能力・武器・連携など、全ての面において強化されてましたけど・・・まあ、あの中ではレベルは低いほうでした。・・・1度に言ってしまいましたけど、大丈夫でしたかね?」

「え!?は、はい!ちゃんとメモしてありますよ!」


ああ、良かった。一方的にまくし立てちゃったから、ちゃんと聞き取れたかどうか心配だったよ。


「角の魔獣と噛み付き竜、強化カブトムシは戦闘数が少ないので、まだあまり情報が集まってません。明日は休んで明後日にもう1回向かうので、その時にまた詳しい情報をお伝えします」

「そ、そうですか。えっと、魔獣の情報料は確認してからでないとお支払いできないので、後日になりますけれど...」

「ああ、それなら問題ありません。あ、でも3週間後には帰るので、その時までにはお願いします」

「りょ、了解しました」

「それでは。ふわあー・・・寝む」


とりあえずやることはやったし、今日はさっさと寝よう。ルウたちを先に宿屋に置いてきたから、もうヘトヘトだよ...。


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