初狩り、最初は抑えめ、初報酬
ダンゼ島の森の中へと入った俺とルウたち。周囲に気を配りながら、森の中を歩いていく。あまりこういうところに行ったことはないから、気をつけていかないとね。
しばらく進んだところで、リンが反応を示す。風魔術で魔獣の反応を探ってもらっている、生き物が動くと質量がある限り、必ず空気は動くからな。風での探知は、警戒用の魔術としてはメジャーなものだ。
「来たか?」
「ブル!」
「よし、いつでも撃てるようにな。ルウとライムは構えて」
「グルゥ!」
「こく」
ルウの拳に火が宿り、ライムがどろどろに溶ける。こういう狭い空間じゃルウも戦いづらいだろうから、俺がずっと張り付いて手助けしよう。
ルウの背中に飛び乗り、肩にある棘を掴む。左右には翼があるので、多少激しく暴れても落ちないと思う。
構えて待つこと数十秒、ブブブブ!と何かの羽音が聞こえてくる。次第に魔獣の姿が見えてきた。
「あれは・・・カブトムシ?」
コガネムシ科の大形甲虫、黒褐色の体とオスは頭にある角が特徴だ。日本人にとっては馴染み深い虫なのに、何故疑問系かと言うと・・・そいつらは手に自分の角のような槍を持って、飛んできているのだ。体も大きく、角を入れれば2m近い。手に槍を持ってるんだから、きっと二足歩行をするのだろう。そんな奴らが、編隊を組んでこちらに飛んで来ているのだ。その数6体、相手に出来ない数ではないかな。
「ライム、あいつらの甲殻は堅い!狙うなら腹か節目だ!力も強いから、攻撃には気をつけろよ!」
「・・・」
そろそろと草の陰に潜むライム。リンは雷の矢をいくつも発生させ放つが、カブトムシたちの甲殻に浅く刺さるに止まった。っち、魔力的な防御も高いな。
「ルウ、前に出ろ!迎撃するぞ!」
「グルラァ!」
先頭のカブトムシが突きを繰り出し、それをかわして上から叩き潰す。さらにそこへ追撃をかけてくる奴らは、尻尾で弾き飛ばす。あれ、7体しかいないぞ?もう1体は・・・地面から突き出した針に、腹を貫かれてピクピクしている。ナイス、ライム!
吹き飛ばされたカブトムシたちは、空中で体勢を整え再び突撃。時間差をつけて、様々な角度から突っ込んでくる。いい感じに俺らしか見てないな・・・周囲への注意を疎かにしちゃいけないな。
リンが空から急降下し、カブトムシたちのさらに上から踏み抜く。突然現れたリンに、急ブレーキをかけるカブトムシたち。隙ありぃ!
リンを飛び越えて、カブトムシを掴んで地面に叩きつける。魔力を操り、火の球で逃げようとしていたカブトムシたちを追撃。地面に落ちたカブトムシを、ライムが腹を刺してから包みこみ、後の1体はリンが踏み潰していた。
「ライム、消化しちゃ駄目だよ」
「・・・」ぷるぷる
ライムが、腹を穴だらけにしたカブトムシを吐き出す。うわ、包み込んで刺しまくったのか...。
「素材素材~。こいつらは、甲殻と槍を取ればいいんだよな」
倒したカブトムシを集めて、ナイフで甲殻を剥ぎ取っていく。残ったカブトムシの死体は、ライムがきっちりと消化しました。
しかし、この甲殻かなり軽いな...。防具に良さそうだなー。背負い袋に突っ込んでおく。ああ、あのアイテムボックスがほしい...。引き取り手がいないといいなぁ。
魔獣を蹴散らしながら、森の中を進んでいく。カブトムシの他にも、クワガタ・吸血蚊・猿・妙に大きなインコに遭遇した。何となく、南国っぽい魔獣が多い。蚊はマジで気持ち悪い、ルウの鱗に通らなくて良かったよ...。
俺の背負い袋には、猿の毛皮やらインコと蚊の羽やらが入っている。クワガタはカブトみたいに武器は持っておらず、自分の顎で攻撃してきた。さすがに挟まれたらヤバイので、魔法とルウの火で遠距離から潰させてもらった。
猿は石や木の槍を投げてきたり、石斧を使ったパワーファイトを仕掛けてきた。樹上から奇襲してきたり、数体で連携してきたりと中々厄介な相手だったが、連携ならこっちも散々訓練している。技術で負ける分は、信頼と魔力共有でカバー出来る!
インコは空中を飛び回って、口からは火を吐いてきた。また、こちらが出した火を食べて強くなるので、初見でルウの火を食われたときは焦ったなー。
ここまでは至って順調だ、まだまだ余裕のある戦いが出来ている。中央に到達できないだけの理由があるんだろうけど・・・それが何かはまだ分からない。
そういえば、島の中心に樹があるのは見えたんだけど、中心付近がどうなっているのかは分かってないんだよなー。・・・ギルドで情報を聞いてくるの忘れてたー!!!駄目じゃん、情報は大切だよ!何で聞いてこなかったんだ、俺の阿呆ー!!!
「はあぁー...。昨日、宿の場所と一緒に聞いときゃ良かった...」
「・・・?」ぷるぷる?
「ああいや、何でもない。ギルドで、魔獣とかの情報を聞いときゃ良かったなーって」
「こくこく」
そういえば、と頷いているライム。まあ、島の外側の魔獣はあれで全部だろう。問題は、島の中ほどからどんな風になるのかってことなんだよな...。
「ブルルゥ」
「ん、何かあったのか、リン?」
前を歩いていたリンが、何かを見つけたのか立ち止まる。前を見ると少し拓けた場所があって、そこに何組かの冒険者が待機していた。休憩場所になっているのか・・・ちょっと疲れてきたし、昼食も兼ねて休憩にしよう。
俺たちが広場に入ると、ルウたちを見てから俺に視線を移す冒険者たち。どうせ釣り合ってないって思ってるんだろ!まったく...。
背負い袋を下ろして、適当な岩をいす代わりにして座り込む。ルウとリンは、腹が減ったら勝手に猿やインコを食べていたので、昼食は必要ないだろうな。ライムは言うまでもない、食べているのは虫だけどね。
ポーチから携帯食料を取り出し、モソモソと口に入れて水と一緒に飲み込む。ああ、相変わらずマズイな...。パサパサしてるし飲み込みづらいし・・・ホント、腹持ちが良いだけだよな。
さっさと全部腹に入れて、最後に水を飲んで昼食は終了。ちょっと休んだら、すぐに出発してしまおう。日没する前に町に戻らないと危ないし、今日進めるにはあと少しかな。初日から無理をしてもしょうがないし、最初の1週間くらいはここらへんで止まっててもいいかもしれないな。
この島の中心部、あの巨大な樹があるあたりだろうが、あそこらへんはまだ探索されていないらしいけど・・・空から行くのは、やっぱり無理なのかね。多分それくらいチャレンジしていると思うけど、まだ行っていないのなら、挑戦してみてもいいかもしれない。魔獣の情報と共に、ギルドで聞いてみようか。
それから30分ほど休憩して、俺たちは休憩場所を後にした。とりあえず、今日は様子見。このまま寄り道しながら、町に引き返そう。
特に目印はつけずに進んできたのだが、ルウやリンの足跡をたどればちゃんと戻ることが出来るので、なんら問題はない。
「ふう、とりあえず素材はこんくらいでいいか。これからは、襲われない限り魔獣は無視すんぞ。色々聞きたいこともあるし、今日はもう戻ろう。相場とかも聞いときたいからな」
「グルル」
「それは分かってるよ。でも、これから何があるか分からないんだ。余裕はあったほうがいいでしょ」
「ブルゥ?」
「乗るのはよそう。まだ魔獣に襲われる可能性はあるしな。戦闘の妨げになっちゃうと思うし」
混む前にギルドに行って、素材を売ってから魔獣の情報について聞かないと!
太陽が傾き始め夕日が町を照らしだすころに、俺たちは町へと帰還した。移動を優先したんだけど、襲ってくる魔獣が多くこんな時間になってしまった。これは混んでるよなー、話聞けるかな...。さっさとギルドに向かおう。
ルウたちを従魔場につないでギルドに入る。少し時間が早いからか、昨日よりは混雑していない。これなら、何とか聞けるかも。
昨日話した受付嬢さんがいたので、その人のところに並ぶ。やはり数分で順番が回ってきた。
「あ、昨日のテイマーさん。お勧めした宿屋はどうでしたか?」
「ちょっと高かったですけど、いいところです。ありがとうございました」
「いいえ。それで、今日のご用件は?」
「えっと、まずはこの島の地図と魔獣の情報が知りたいんです。教えていただけるでしょうか?」
「地図なら売店で売っていますよ。でも、測量が済んでいるのは島の外側だけで...」
「その、今日は外側にしか行かなかったんですけど、そんな強いって感じじゃなかったですね。やっぱり、中に入ると強くなっていくんですか?」
「そうなんです。ああ、魔獣の情報でしたね。ギルドにもそこまで情報が入っているわけではないのですが・・・生き残った人たちの話によると、小型の竜種が群れをなして襲ってきたらしく...。それ以外にも、巨大な虫型の魔獣などもいるみたいで...」
小型の竜種に巨大な虫か・・・中ほどでそれなら、奥じゃどんな魔獣が出てくるんだ?
「そういうわけで冒険者たちは、今は外側の魔獣を主に狩っているみたいですね」
「大規模な調査とかはしないんですか?」
「えっと、ちょうど2週間後に予定されています。冒険者だけでなく大勢の人を雇って、一気に調査をする予定ですね」
「2週間後ですね、了解です。後、魔獣の素材の買取をお願いしたいんですけど」
「素材の買取は2階ですよ」
「ありがとうございます、色々質問に答えていただいて」
「いえいえ」
2週間後に大規模調査か・・・俺たちで行くのも危なそうだし、それに参加してみようか。それまでに、宿泊代金を貯めておかねば!今日の成果はいくらかなー?
いやー、1日で宿泊代2日分稼げるとはねー。今日は様子見だったから、明日はもっと多くの魔獣を倒せるだろう。何とか、大規模調査までに宿代1ヶ月分を工面できそうだ。後顧の憂いはなくしておきたいからね。
良い気分で食後のお茶を飲んでいると、さっきから俺をずっと見ていた男性が近づいてきた。この宿の宿泊客だからテイマーなのは間違いない、ゴリラみたいな魔獣がついてきているし。
「えっと、あの竜は君の従魔かい?」
「そうですけど」
「へー・・・見たことがない種類だね。そっちのユニコーンも、他のやつとは少し違いそうだ」
「はあ...」
「まあそれより驚いたのは、その魔獣。一体どんな種類の魔獣なんだ?竜とユニコーンは分かるけど、そいつだけは見当がつかなくって」
「スライムですよ」
「・・・何だ、スライムか。聞いて損した、じゃあな」
スライムだと分かった途端、今までと180度の態度で、元の席に戻る男性。周りの奴らも、スライムだと聞くと興味をなくしたみたいだ。まあ、一般的な考えからすると、スライムは最弱で通ってるからな。ライムも、色が変わってるスライムという認識でしかないのだろう。別にそういう態度はどうでもいいし、常識を変えようとも思っていない。ライムのことは、俺が分かっていれば十分だろ。
「さてと、明日から頑張らなきゃだし、早めに寝るとするか。皆、いくぞー」
ルウたちを連れて食堂から出て、ルウたちを宿に併設されている魔獣舎へと連れて行く。ここの魔獣舎は他のところとは違って、学院のような魔術防御が施されているのだ。そのため、主なしでは従魔は外に出れないようになっているのだ。こういうのがあると、本当に安心できる。他の宿屋だったら、きっと夜中ルウたちが心配で、狩りなんか出来なかっただろう。
「それじゃきちんと寝て、疲れを取るんだぞ。明日からは忙しいんだからな」
「グルゥ!」
「・・・」ぷるぷる、ぎゅー
「ブルル」
「ああ、お休み」
俺に抱きついてくるライムの頭を撫でて、魔獣舎を後にする。さて、明日も頑張るために、今日はさっさと寝ることにしよう。
それから数日後、島の外側でしか狩りは行っていないが、順調にお金も溜まってきていたある日の夜。食堂で夕食を食べながら、周囲の話し声に耳を傾ける。
「おい、フィルドたちのパーティーが調査のための偵察に行って、全滅したってのは本当か!?」
「いや、1人だけ生き残ったらしい。そいつの話じゃ、デッケェ百足に襲われたらしい」
「うえ、カブト・トンボ・蚊に続いて百足か...。虫型魔獣のオンパレードだな」
「そいつらを餌にする、小型の竜種も厄介だぞ。毒のブレスを吐くらしく、そいつを食らったら体が痺れて動けなくなるらしい」
「俺、大規模調査に参加するの止めようかな...。島の中程でそれだぜ、中心付近はどんな奴が出てくるか、分かったもんじゃねぇ」
「その分、報酬はかなり高いがな。まあ、命には代えられねぇよな」
「えっと、虫型の魔獣を小型の竜種が餌にするんなら、そいつらを食う魔獣もいるってことだよな?」
「だから俺はやらないって言ってんだろ」
「まあまあ、まだ時間はあるんだ。その時まで、じっくりと考えるこったな」
ふむ、大きな虫型の魔獣が多いと...。メモっとこう。だけど、実際に見てみないとどうにもイメージしづらいな...。1回くらい、偵察に行ってみるか?かなり危険っぽいから気は進まないけど・・・事前情報があるなしでは、対応も全然変わってくるし。
うん、情報不足で死にたくなんかないし、明日は少し偵察に出かけるか!そうと決まれば、早速準備しておかないと。忙しくなりそうだな!