表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/113

海賊の襲撃、船上での戦闘、またまた似たような奴が現る。

リンと射的もどきで遊ぶこと数時間、お昼時にルウは戻ってきた。両手に一匹ずつ、カジキを大きくしたような魚を持っている。リンの分の昼飯も取ってきてくれたみたいだ。


「わざわざありがとな、ルウ。けっこう疲れたろ、休ませてもらえ」

「グルゥ」

「おーい、昼飯だぞー」

「今いきます!んじゃ、俺は中で飯をもらってくるから、皆もここで食べてて。すぐに戻ってくるから」


船内の食堂に向かうと、新鮮な魚介類を使ったスープが配られていた。パンは保存が利く硬くてパサパサしたやつでお世辞にもおいしいとはいえないけれど、これなら全然我慢できそうだ。


「ほら、お前は細いからたんと食べな」

「あ、ありがとうございます」

「なら、俺にもいっぱい魚をくれよ!」

「テメェは少し痩せたほうがいいぜ!」

「だな!」

「「「ははは!」」」」


大量の魚の切り身が入ったスープを持って、甲板へと戻る。ルウたちがカジキもどきを食っている横で、俺も食事を取る。午後は何をしようかな・・・また、射的でもしてようか。いままでは1発ずつ撃ってたけど、今度は何発か同時に撃とうかな。そう思いながら、航海初日の昼は過ぎていった。






それから3日、特に雨が降るわけでもなく、穏やかな天気が続き、俺もやることもなしにリンと射的で遊んでいた。たまに役を交代して、俺が的を動かしたりと、色々工夫して制御の練習に役立てている。火矢の制御はすっかり板に付き、何発同時にでも自由自在に操れるぜ。まあ、俺は攻撃魔術は使わないから、宝の持ち腐れなんだけどね...。


同じようにすごしていた5日目。ちょっと雲行きが怪しくなってきたな、と思っていると、さっき狩りに出たばかりのルウが戻ってきた。


「どうした、ルウ?雨雲でもあったのか?」

「グルル、グルルルゥ!」

「どこかの船が、海賊船に襲われている!?どこらへんだ!?」


ルウの話によると、ここから少し南西にいったところで、どこかの商船が海賊船に追われていたらしい。ルウが見たときはまだ乗り込まれていなかったけど、スピードは海賊船のほうが速く、追いつかれるのは時間の問題だそうだ。とりあえず、キサトさんに報告しよう。

船長室に向かうと、キサトさんは海図を見て航路を確認しているところだった。一緒に副団長さんもいる。キサトさんと同期らしく、浅黒い肌に刻まれた傷跡が勇ましい。


「ん、どうしたツチオ殿」

「南西に少し進んだところで、商船が海賊船に襲われているらしいです」

「何!?商船・海賊の規模は?」

「商船はこの船より一回り大きいのが1つ、海賊船は小さなのが3つほどだと。まだ乗り込まれてはいないそうですが、このままでは時間の問題かと」

「むう、無視することは出来んな。確認させてきてくれ」

「分かった」


副団長さんが部屋を出て行く。この船じゃ、きっと間に合わないだろう。ここは、俺が先行したほうがいいだろうな。


「キサトさん、このままじゃ間に合いません。俺がルウに乗って先行します」

「だが、相手はそこそこの規模の海賊じゃ。ツチオ殿1人で行かせるわけには...」

「大丈夫です、俺はテイマーですよ。従魔がいるから、1人ではありません」

「だが、スライムは問題ないとしても、ユニコーンは連れていけまい」

「いえ、そこは心配しないでください。全員でいけます」

「何?ユニコーンが、空を駆けるというのか?」

「その通りです。俺に行かせてください、ルウが見つけた以上俺が見過ごすわけにはいきません」

「・・・分かった。先行して、商船を援護してくれ。こちらもすぐに追いかける」

「分かりました!」


船旅で皆退屈してたんだ、発散させる良い機会だな。


「ルウ、ライム、リン!海賊船を叩きにいくぞ!」

「グルァ!」

「こく」

「ブル」


既に全員臨戦態勢、準備は万端だ。ライムはルウの背中にくっつき、俺はリンの鞍に乗る。


「よし、行くぞ!」


リンの脚に魔力を集中させる。すると、蹄に風がまとわりリンの体を宙に浮かした。進化したリンは、雷だけでなく風の魔術も使えるようになったらしい。進化した直後は慣れてなくて使えなかったらしいが、今ではすっかり順応している。これで、リンもルウについていけるようになったのだ。


甲板から空へと飛び出すリン。しっかりと宙を踏みしめ、どんどん加速していく。ルウは海賊船のところまで、リンを先行して飛んでいる。


5分ほど走ったところで、ようやく問題の船が見えてきた。大きな船に小型の船が横付けされ、今まさに海賊たちが乗り込もうとしている。商船の護衛らしき人たちが、手すりにかけられた梯子やロープを外しているが、数が全然足りていない。ギリギリセーフだな!


「ルウ、まずは海賊船を破壊しろ!その後、甲板で暴れるんだ!」

「グル!」

「ライムは甲板に下りて、溶けた状態でこっそり海賊を無力化!無理はするなよ、気づかれないようにな!」

「こく!」

「リンは俺の足になって、空中を動き回りながら魔術で狙い撃て!細かい制御は俺がするから、大雑把に狙いをつけて撃ちまくれ!」

「ブルゥ!」

「よし、突撃!」


掛け声と共に、ルウとリンは左右に分かれる。尻尾に移動したライムは、ルウが尻尾を振ると同時にジャンプし、商船の甲板に着地。液状に変形して、甲板をするすると移動していく。

ルウはライムを甲板に移した後、手近な海賊船に狙いを付け、通りがかりざまに殴りかかる。ルウの一撃で、小型の船のマストは折れ、甲板に大きな穴が開く。一旦空に上がったルウは、再び急降下して攻撃。翼が巻き起こす風圧で、ロープでよじ登っていた海賊が吹き飛んでいく。


「な、何なんだあの竜は!?」

「俺の従魔です。近くを通りかかったので、助太刀に馳せ参じました」

「な!?き、君があの竜の主!?しかも、その馬は!?」

「詳しいことは後、今は目の前に集中してください!」

「わ、分かった!」


落としきれなかった海賊たちが、甲板に上がり護衛たちと戦闘を始める。よし、俺も援護に回りますか!


リンが何本もの雷の矢を出し、簡単に狙いをつけてバンバン撃っていく。それでは当たらないので、魔手でリンと魔力の流れを共有。魔術の制御を譲り受け、細かく調整して海賊たちを撃ち抜く。元々、多少は誘導性能がある魔術だ。火矢に比べたら、複数制御は難しくない。

まるでリンと1つになっているような甘い痺れを感じながら、しっかりと海賊を見据えて狙いを定める。魔力の流れを共有することというのは、魔手を通して俺とリンの魔力循環が繋がっている状態のこと。だからまあ何というか・・・体も繋がっているかのような感覚に陥るんだよ。まさに人馬一体、リンの全てが感じられそう。かなり気持ち良いので、癖になっちゃいそうで困る...。

そんな風に海賊を撃っていると、突然胸から血を流して倒れる奴らがいるのが分かる。ライムが甲板を這い回って、背後から体を針状に変化させて貫いているのだ。まったく音がしないので、こういう乱戦だと無類の強さを発揮する。毒を使うまでもないね。


ルウは海賊船を全て壊した後、甲板に着地して海賊たちを潰していく。吹き飛ばすのではなく潰す、殴られた海賊たちは地面に落ちたザクロのような感じだ。

ただでさえ押されていて浮き足立っていたのに、そこへルウが加わったのだ。我先にと海に飛び込み逃げていく。甲板では護衛たちが、勝利の雄たけびを上げている。何だかなつかしい光景だな...。


「助太刀感謝する、君のおかげで死者を出さずに済んだよ」

「そうですか、飛んできたかいがありました」

「はは、君が言うとまさしく言葉の通りだね。そういえば、君はどこの船に乗っているんだい?」

「それはですね・・・あ、あれですよ」


ちょうど見えてきたシルバーホース号を指差す。


「あれは・・・シルバーホースじゃないか!え、騎士団員!?」

「ああ、違います。乗せてもらっているだけですよ、俺は学院生です」

「な、何だそうだったのか...。不敬罪で捕まるかと思ったよ...」


うわ、そんな法律があるのか。気をつけないといけないなー。






「いや、まさかすでに撃退した後だったとはな!さすがツチオ殿、こりゃ儂らもうかうかしてられんわい!」


キサトさんと副団長さんが、商船の甲板に乗り込み船の主を待っている。なんでも、どこの所属の船なのかとかここらへんの海域に情報を聞きたいらしい。まあ、船に王国の紋章が刻まれてるから、十中八九王国の船には間違いない。前者はあくまで形式上の確認であって、メインは後者だろう。情報は鮮度が大切だ。


「わ、私がこの船の主のキショール・ベヅだ。お、お前ら騎士団が海賊を退治したのか?よ、よくやった、褒めて遣わそう」


そうしてやってきた船主は、ゴテゴテピカピカした装飾品を身に付け、船上で着るにはいささか豪華すぎる衣装に身を包んだ、汗まみれのデブ男だった。こりゃ、確実に貴族だな。しかも、あの豚と似たような感じだ。ライムが親の敵を見るような目で睨んでいる。かなり自制しているらしく、殺気は抑えている。


「ありがたき幸せです、ベヅ様。しかし、海賊を追い払ったのは我々騎士団ではありません。あなた様の護衛たちと、彼の助力によって撃退したのです」

「ほ、ほーう。そこの、名を名乗れ」


出来れば関わりたくないんだよな・・・おっと、笑顔笑顔。


「お初お目にかかります。私は、王立学院1年、ツチオと申します」

「ツチオか。そなた、テイマーだと聞いたが、従魔はどこにおるのだ?」

「シルバーホース号で待機していますが」

「呼んで来い。竜種とユニコーンがいるのだろう?見せてみよ」

「承知致しました」


はあ、本当に面倒だ。従魔を譲れ、もしくは売れとか言われたら我慢できる自信がないぞ、ライムが。

ルウとリンを呼んでくると、案の定興奮して嘗め回すようにルウたちを見るデブ。


「おお、これは美しい!どちらも初めてみる魔獣だが、なんとも凛ヶしい姿であるな!」

「お褒めに預かり、光栄です」

「・・・なあ、ツチオとやら。この魔獣、私に譲らないか?言い値で買おう」


ほら来たー。空気呼んでデブ!ライムヤバイから、魔力が真っ黒に染まってるから!


「申し訳ありません、キショール様。非常に魅力的なお話ですが、お受けすることは出来ません」

「何故だ!?金ならいくらでも払う。そうだ、私の女もつけるぞ!絶世の美女であり、従順で体も頑丈だからどのような行為にも耐えられるぞ!」


そういうことじゃないんだよなー。殺意が湧く前に、さっさと話を切り上げよう。


「どのような物を出されても、従魔はお譲りできません」

「・・・何故だ、私の言うことが聞けないというのか?」

「私にとって、従魔は共に戦う仲間であり家族なのです。キショール様にも、ご家族がいることでしょう。金に変えられるものではないのです」

「キショール様、私のほうからもお頼み申し上げます。彼の故郷は遠方なので、容易に家族に会うことが出来ないのです。どうか広い心で、寛大なご処置を」

「・・・そこまで言うのなら、仕方がない。ツチオ、キサトに感謝しろ」

「ありがとうございます、キショール様」


ふう、何とかライムが暴走する前に終わらせることが出来た。後でフォローしとかなきゃ。


「それでは、私は部屋に戻る。おい、ギール。キサトの話に答えておけ」

「はっ、かしこまりました」


俺がさっき話していた護衛の隊長そう言って、デブは船内へと戻っていった。


「すいません、キサトさん」

「あれくらい、お安いごようしゃ。しかし、ベヅ家の子息があんなのとは・・・まったくどのような育て方をしたのだか」


同感だ。あそこまでいくと、もはや遺伝的な性格なんじゃないか?どんなに甘やかしても、あそこまではいかないだろ。


「ライム、大丈夫か?」

「・・・こく」


デブが去ったことで、ようやくライムが落ち着きを取り戻す。よく我慢してくれたよな...。






キサトさんが周辺の情報を聞き終えると、すぐに俺たちは出発することになった。少し遅れが出ているらしく、皆慌しく動き回っている。


「ツチオさん、本当にありがとうございました」

「どういたしまして、この後も、気をつけて航海してくださいね」


最後にギールさんと話して、俺はシルバーホースに戻る。ルウ良し、リン良し、ライム良し。ちゃんと全員いるな。


「皆、お疲れ様。疲れただろう、ゆっくりと休めよ」

「グルゥ~」

「リンだけズルい?魔力の共有か、仕方ないだろ」

「グルグルゥ!」

「こくこく!」

「いや、ライムはそもそも俺から離れて行動することが多いだろ。ルウは乗れないこともないけど、激しい動きをされると振り落とされるんだよ...」

「ブルル!」


リンがドヤってる。自分だけあの体験が出来て、嬉いんだろうな...。


「グルー!」

「・・・!」ぷるぷる!

「分かった分かった!ライムは、今日寝るときにやってやるから。ルウは明日な」

「グルゥ!」

「・・・!」ぷるるるん!

「ブルゥ...」


その夜、俺はライムに抱きつかれて魔力を共有しながら床に入り、中々寝付くことが出来なかったとさ。フォローするのも大変である


ライムのソウルジェムが真っ黒です、魔女化一歩手前といったところですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ