進化、数ヶ月が経ち、夏休みだ!
「・・・マジかよ」
校長からの呼び出し、姉妹を奴隷から解放を終えてから、魔獣舎のルウたちの部屋へと向かった。そこで待っていたのは・・・進化したらしきルウとリンの姿だった。
「グルゥ?」
「いや・・・ルウ?」
「グル!」
ルウの鱗は赤く変色し、今までなかった腕が生えている。そのため、ずっと伏せるような体勢だったルウが、例えが悪いけどゴリラのような体勢になっている。体はかなり大きくなっていて、身をかがめないと部屋に入れなさそうだ。全体で・・・3mくらいあるんじゃないか?腕自体も太く、近接戦闘でより頼れるようになった。ドラゴノイドにならなかったのは残念だけど、まあそれはしょうがない。脚と翼もさらに大きくなっているから、機動力も上がったんだろうな。
「まあ、詳しいことは後で聞くよ。リンも進化したんだよな」
「ブルル」
リンはユニコーンのときとあまり変わっていないが、角と体が一回り大きくなり、脚には雷のような模様と飾り毛が生えて雲のようにたなびいている。うーん、まだまだ人化までには遠そうだな。
「リンはあまり変わってないな...」
「ブルル!」
「ああ、強くなっているのは分かってるよ。後で見せてくれ」
「ブル」
それにしても、このタイミングで進化したってことだから...。
「あの悪魔を殺したことで、進化したんだろうな。結構強かったし」
「ブル、ブルルルゥ」
「へー、昨日の夜に進化したのか」
何で俺の前で進化してくれないんだろう...。1回くらい、見てみたいな。
「とりあえず、外に行こうか。何が出来るようになったか、見せてくれ」
「グル」
「ブルゥ」
学院内はまだ片付けをしているので、外に出て学院から少し離れる。こんくらい離れれば、一目を気にする必要もないだろう。
「んじゃ、ルウからやってみてくれ」
ルウが魔力を手に込めると、拳が炎に包まれる。へぇ、ただでさえ攻撃特化の強化か。魔術じゃないから、恐らく能力とかそんな感じだな。
拳の炎を消したルウは、口を開いて魔力を溜め始める。って、ブレスが出来るのか!?ただのバーサクドレイクじゃないとは思ってたけど、ブレスも出来るようになんのか...。
ルウの顎から、炎の球が発射される。地面に着弾したブレスは、爆音とたてながら火柱が上がる。うおっ、すごい威力だな...。
「ブレスまで出来るようになったのか・・・良かったな、ルウ」
「グルゥ!」
褒めて褒めてーと言わんばかりに、俺に頭を擦り付けてくるルウ。俺の胴ほどの大きさの頭で擦られて、ちょっと体が浮いてしまう。か、かわいいけどちょっと撫でるのが大変だ...。
「そ、それじゃあ次はリンにやってもらおうかな。どんなことが出来るようになったんだ?」
「ブル!」
角に魔力を込めると、バチバチバチッ!と青い電流が走る。おお、前より全然強くなっているな。
さらに脚に魔力を込めると、雷模様が青く発光する。そして蹄を叩きつけると、地面が凹んで雑草が焼け焦げている。物理攻撃と魔術攻撃、どちらの面でも強化されている。
「いいじゃん、脚の模様もきれいだしね」
「ブ、ブルル!?」
「うん、きれいだよ」
照れ隠しなのか、俺に頭をぐりぐりと押し付けてくるリン。進化したからか、前より素直になっているなー。
「しかし、まだまだ人化には遠そうだね。もっと魔獣を沢山倒して、魔力を溜めまくらなきゃなー」
「グルル、グルルル!」
「ブルルル!」
「・・・!」ぷるぷる!
「ああ。死なない程度に頑張るぞ!」
死んだら元も子もないからな!
そして、数ヶ月の月日が流れる。あっという間に春から夏になり、明日から学院は夏休みに入る。大体の生徒は帰省して、2ヶ月間家族と過ごすことになるな。
「そういえば、ツチオ君はどうするの?」
朝食の席でリュカにそう尋ねられる。ふふふ、そう尋ねられると思って、すでに手は打っているさ!
「さすがに2ヶ月で往復は出来ないから、帰省はしないことにするよ」
「え、それじゃあどうするの?」
「知り合いの船に乗せてもらって、シアノ諸国に行くことになってるんだ」
「そんな知り合いがいるんでありますか!けど、知り合いの船ってことは、商人さんでありますか?」
「いんや、騎士団長」
「「「ええ!?」」」
□■□■
時は1ヶ月前に遡る。突然校長室に呼ばれたのだ。俺、何かやっちゃったかなー?とビクビクしながら向かったのを覚えている。
「失礼しまーす...」
「遅いよ、ツチオ坊!」
「久しぶりじゃな、ツチオ殿!」
「キサトさん!」
俺がこの世界に来た直後、海賊に襲われていた騎士団の船を助けて、この学院への入学を推薦してもらったのが、この王国騎士団長、キサトさんだ。
「今日はどうしたんですか?」
「たまたま任務で寄ってな、校長に挨拶をしに来たのじゃ。そこで校長が、ツチオ殿を呼んでくれたのだじゃよ」
「色々話がしたいだろうと思ってね」
「そうだったんですか・・・何かやらかしたのかと思いましたよ」
「ほう、ツチオ殿も何かとやっているようじゃな」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど...」
図書館襲撃のことが、未だに尾を引いているんだよ...。
「まあ、それは追々聞くとして。ツチオ殿は、確かかなり遠方の出身でしじゃったな」
「・・・ええ、そうですよ」
そういや、そんな感じの設定だったな...。すっかり忘れていた。
「後1ヶ月で夏季休暇になるが・・・ツチオ殿はどうするのだろうか、と思ってな」
「そのために、わざわざ足を運んでくれたんですか!?」
「まあ、挨拶ついでじゃがな」
マジかよ...。赤の他人にそこまで気を使ってくれるなんて・・・いい人すぎるだろ...!
「すいません、俺なんかのために...」
「そんなことを言ってはいけないぞ。儂らはあなたに助けられたんじゃ、気くらい使わせてくれ」
「・・・ありがとうございます」
「それで、どうするのじゃ?帰省するのか?」
「えーっと、さすがに遠すぎるので帰りません。ちょっと遠くまで出かけて、魔獣を狩ってようかな、とは考えていますが」
「それなら丁度が良い。儂ら騎士団が、交易のためシアノ諸国に出航するのじゃ。一緒に行かないか?」
「シアノ諸国?」
どこだそこ?聞いたことねぇぞ...。
「南洋の小さな島々が集まった国だよ。そこでしか取れない海産物や果物なんかが有名だね。島1つ丸々、魔獣の棲家になっているところが発見されたらしいしね」
「そういうのを取引するんですか?」
「そうじゃ。ツチオ殿がテイマーじゃろ?そこにしか生息しない魔獣もいるようじゃし、良ければ船に乗って一緒にいかないか?道中、危険もあるしよく考えて...」
「いきます」
「いや、じゃからよく考えて...」
「どうせ狩りくらいしか、やることはないんです。場所が違うだけで、やることは同じですよ」
「そうか!いや、良かった!ツチオ殿のような立派なテイマーがいれば、旅路も安心じゃ!出発日は卒業式の翌日にしておくから、準備を整えておいてくだされ!」
「了解です。えっと、絶対に持っていかなければいけない物、とかってありますか?」
「いや、普通の旅と同じでよい。必要になったら、儂らが分けることも出来るからな」
「分かりました」
南の海の島国か...。いまから楽しみだなぁ。
□■□■
「そういうわけで、シアノ諸国に行くことになったんだ。片道1週間とちょっとで着くんだって」
「ツチオさんは、その魔獣の棲家になってる島に行くんですか?」
「ああ、そのつもりだ。何でも、まだまだ探索が全然進んでいなくて、奥地に何があるか分かってないらしい。出来るだけ奥まで進んでみるよ」
「気をつけてね。探索が進んでいないのは、その島が危ないからでしょ?絶対に危ない真似はしないでね!」
「わ、分かってるよ。もうあんな思いはしたくないからな...」
あの悪魔のことは、若干トラウマになっている。二度とあのような悲しい気持ちにはなりたくないよ...。
「ならいいんだ。楽しんできてね!」
「ああ、リュカたちもな」
さて、明日は朝早いからな。寝坊しないように気をつけよう。
そして翌日、俺は学院都市の港にルウたちと一緒に来ていた。目の前には、この都市に来るのに乗ったのと、同じ船が停泊している。その名もシルバーホーン号、かっこいいね!
「いやー、久しぶりだなー、おい!」
「前会った時より、ちょっと逞しくなったんじゃねぇか!?」
「え、ええ。色々ありまして」
「だろうなぁ、ははははは!」
「顔つきも見違えたぜ!」
騎士団の他の人たちも、俺のことを覚えてくれたらしく、背中をバンバンと叩かれている。俺の後ろから、その人たちをライムが睨んでいるんだけど...。
「なあ、こいつってあのワイバーンだよな?」
「多分・・・ずいぶん変わってるけどな」
「腕まで生えてるよ・・・どうやったらこんな風になるんだ?」
グラップルワイバーンの頃のルウを知っている人たちは、あまりの変貌っぷりに驚いている。まあ、ワイバーンの面影は大きな翼くらいしかないからな。
「いやー、あのワイバーンがこのようになるとは...。さすがに予想外じゃよ」
「まあ、結構努力はしましたから。頑張ったかいがありましたよ」
「そうじゃな、結果が見えるとやる気も出る。それでは、入船してくだされ」
「あ、従魔はどこで待機させればいいんでしょうか?」
「そうじゃな・・・スライムは部屋に入れてもらうとして、悪いが晴れている時は甲板で寝かせてほしい。雨が降ったら、倉庫かどこかに入れよう」
まあ、そうだよな。あのデカさで入れる部屋なんてないか。ルウたちには悪いけど、甲板で我慢してもらおう。
「よし、出航するぞ!手前ぇら、帆を揚げろ!」
『応!』
「天気は晴れ、絶好の航海日和だ!さっさと海流に乗るぞ!」
『応ォォォォ!』
副団長の掛け声で、船員たちが叫びを上げる。うおっ、すげぇな...。
「俺は何かやることありますか?」
「うーん、今は特にないな。のんびりとしていてくだされ」
勝手が分からないまま手伝っても、迷惑をかけるだけか。魔獣が襲ってきたら、真っ先に戦おう。・・・それまでは、のんびりと船旅を満喫してますか。
出航して数時間経ち、ようやく船上が落ち着いてきた。ルウとリンはずっと隅で縮こまってたので、そろそろ辛くなってきただろう。ちょっと翼を広げさせよう。
「すいません、ちょっと従魔の翼を広げさせてもいいですか?」
「お、いいぞ。つうか、そんな隅に引っ込んでなくてもいいんだぞ。もっと広いところに連れてこいよ」
「ありがとうございます。ルウ、リン。いいって!」
「グルル!」
「ブルゥ!」
ルウとリンが甲板の真ん中に移動し、ルウは翼を広げ、リンは体を伸ばす。ライムは俺の膝に座って抱きついている。
「ははは、ずいぶんとベッタリだな!親子みたいだぞ」
「え、そうっすか?」
親子、親子かぁ。・・・そう言われると、手が出し辛いな...。
翼を伸ばしたルウは、そのまま羽ばたかせて飛び立つ。暇だから、魔獣を狩りにでもいったんだろ。
俺も中々暇だな...。うーん、何をしようか。魔術の訓練でもしてようかな、こういう時に本がほしいよ。
リンを見ると、空中に電気の玉を出して複雑な軌道で動かしていた。そうだな・・・よし。
「火矢」
詠唱を省略し、火の矢を撃つ。狙い通り球に命中し、パンと弾ける雷球。
「ブルゥ...」
それを見たリンは、さらに複雑で予想しづらい軌道で球を動かす。ふっふっふ、腕が鳴るぜ!
季節感がないですね!