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翌日、後処理と、間者について

図書館悪魔襲撃事件の翌日、俺は校長室に呼び出されていた。昨日の俺の行動を思い返すと、怒りに任せてまあよくもあれほど暴走したものだと思う。特に拷問、俺ってあんなことが出来るような人間だったのか...。間者たちが悲鳴を上げているのを見ても、何の感情も浮かんでこなかったから、そういう嗜好なわけでもないし...。元々人を殺すのに罪悪感は覚えていなかったから、それがさらに悪化?したってことかな。要は、頭のネジがさらに緩んだってことだね。まあ、ルウたちのためならあういうことをするのも辞さない、という考えは変わらないよ。今でも、昨日行ったことについて後悔はしていない。


校長室の扉をノックする。どうぞ、と呼ばれてから扉を開いて礼。静かに扉を閉める。


「ああ、ツチオ坊かい。昨日はお手柄だってね」

「いえ、それほどでも」

「従魔は無事だったんだってね、良かったじゃないか」

「本当です。1人で暴走して、馬鹿みたいでしたね。間者さんにも悪いことをしました」


昨日は何も思わなかったけど、今になって思えばちょっとやりすぎたかなーと。左手をふっ飛ばしちゃったのは、さすがにね。


「まあ、あいつらのためにも早く口を割らせることが重要だったんだ。ツチオ坊は、1人の左手だけであいつら全員を助けることが出来たと考えるべきだよ。他の奴にやらせてたら、それこそ1人は死んでただろうし」

「そういってもらえると、気が楽です」

「それにしても、ツチオ坊。ずいぶんと手慣れていたじゃないか」


そうなのか?まあ、映画とかで見たこともあるから、ずぶの素人よりは手際は良いと思うけど。


「妹を上手く使って、姉から情報を引き出した。姉を屈服させるときの台詞回しも、上手く弱点を突いていたし」

「いえ、あれは本心ですから。頭に血が昇っちゃって...」

「薄っぺらい嘘の言葉より、血の通った肉声のほうが感情が入る。ツチオ坊が取れた中で、最良の1手だったよ」

「はあ...」


いや、だから意識してなかったって...。はあ、もういいや。さっさと用件を済まそう。


「それで、今日は何の御用なんですか?」

「それはな...」


コンコンとドアがノックされる。他にも誰か呼んでたのかな?


「失礼します。ああ、ツチオ君。待たせちゃったかな」

「いえ、さっき来たばかりですよ」

「ちょうど今、本題に入ろうとしていたんだよ。ちょうど良かったよ」


司書さんが中に入ってくる。何の話をするんだ?司書さんもいるなんて...。


「それじゃ、本題に入るよ。今日呼んだのは、昨日の間者たちのことだ」

「犯罪奴隷になるんじゃないんですか?」


この世界にも奴隷はいる、学院では見たことがないけれどね。種類は2つ、一般奴隷と犯罪奴隷だ。一般は借金などを払えなくなった人などが、奴隷に身分を落とす。扱いは比較的良く、肉体労働などに使われることは少ない。店の手伝いとかに使われるな。

犯罪奴隷は、犯罪を犯した奴らが罪を償うため奴隷に身分を落とす。戦える奴らは冒険者たちの奴隷として戦闘を行ったり、戦えない奴らでも鉱山などの厳しいところで働かされる。間者たちは、全員犯罪奴隷になるんだろうが、俺にゃ関係ない話だよな。


「それはそうなんだけど、今回はツチオ坊がこの事件をほとんど解決したわけだ。何の謝礼もなしってわけにはいかない」

「それで、奴隷ですか」

「ああ。あいつらはこのままだと、王国の暗部で働かされることになる。だけど、お前が希望するなら2人くらいなら何とか融通できるよ」


・・・暗部か。確か、王国の保護を受けろとかいったんだけど...。これじゃ、今までと変わらないな。校長は、俺にあの姉妹を引き取れって言ってんのか?


「俺は別に奴隷なんていらないんですけど...」

「ツチオ坊も若いだろ?いて困るもんじゃないよ」


ニヤニヤ笑って、親指を人差し指と中指の間に挟む校長。おいおい、あれはこっちでも有効なのか?つうか下世話だな、校長。


「いや、ホントいらないっす。嫌がる相手と無理矢理ヤる趣味はないっすから」

「いやいや、遠慮する必要はないよ」

「いやいやいや、真面目にいらないんですって」

「いやいやいやいや」

「いやいやいやいやいや」

「男なら、女の1人や2人養う器量を見せな!」

「ええぇー...。もう従魔が3体もいるんですけど」


いらないっつーの!くそ、ああ言った手前拒否しづらい、このままじゃ確実に使い潰されるだろうし。・・・あ、この手はいけるかな。


「しょうがないですね、いいですよ。俺が引き取ります」

「・・・さっきまであんだけ渋ってたのに、やけに素直になったね」

「そんなこと言うなら、引き取りませんよ。俺は、別に奴隷なんていらないんですから」

「分かった分かった。そんじゃ、この後受け取ってくれ」

「了解です。そういえば、あいつらはどこの国の間者だったんですか?」

「それは僕から話すよ」


司書さんが前に出てくる。あの後は司書さんに任せてたからな、彼のほうが詳しいんだろう。


「彼らは帝国の間者だったんだ。禁書庫には、王国各地の要塞の設計図の予備を盗りに来たらしい」

「予備はこっちにあったんですか...」


一昨日の話で、フラグが立ったんだな。


「王都はここ以上に、警備が厳しいからね。まあ、ここも緩いわけじゃないんだけど...」

「私の張った結界を、上手くすり抜けたみたいだね。どうやら、あの妹のほうが魔術の使い手だったみたいだ。強化しないといけないね...」

「まあ、そういうわけで結界を抜けられて図書館に侵入されたわけだ。僕はその場で拘束され、禁書庫の罠を解除させられて、寝たふりをしたんだ」

「寝たふり?」

「うん。魔術で気絶させようとしたらしいけど、あんくらいじゃさすがに落ちないよ。あいつらが離れたのを確認してから、緊急用の結界を発動させて閉じ込めたんだ」


まあ、対処としては間違っていないか。1人で相手をするのは厳しいだろうしね。


「その結界は、ツチオ君のユニコーンに半壊にされたけどね...」

「よくもあの結界を、あそこまで壊したものだよ」

「リンたちもブチギレてましたから。支援魔術も、今出来る最強のものでしたし」

「鳴神だったけ?そんな高度な魔術、まだ教えてないんじゃないかな?」

「図書館で個人的に勉強しました。切り札が欲しかったで」


雷の魔力で強化した後、さらに雷で追撃する。魔力消費は半端ないしコントロールもかなり難しいが、怒りで上手く制御できたみたいだ。血は煮えたぎってたのいに、頭は痛いほど冷え切ってたからな。


「まあなんにせよ、死者が出なくてよかった。従魔も含めてね」

「はい、本当に良かったです。それじゃ、失礼します」

「ああ、巻き込んで悪かったね。奴隷は入り口にいるだろうから、そこで受け取ってくれ」

「了解です」

「じゃ、私も失礼します。報告書は後日」

「出来るだけ早くしてくれ。上がうるさい」

「分かってます」


俺と司書さんは、礼をしてから一緒に校長室を出る。さっさと奴隷を引き取んなきゃ。

外に出た俺に、司書さんが小さな袋を渡してくる。中には、結構な量の硬貨が入っていた。


「これは?」

「一応、学院からの報酬。奴隷だけじゃ駄目だしね、協力費だと思っておいて」

「はあ、ありがとうございます」

「・・・そうだ。ツチオ君に聞きたいことがあるんだけど」

「何でしょうか?」

「あの拷問方法、体内の魔力を操ってるのは分かったんだけど...。詳しいことが分からなくて」

「それで合ってますよ。魔力を一箇所に集中させて、体を痛めつけていたんです。ちょっと似たような症状を見たことがあって、魔手で再現できないかなって?」

「それは苦しそうだね...。参考にさせてもらうよ」


うーん、司書さんが言うとちょっと恐いな...。






入り口には、奴隷商人らしき人が間者たちを檻に入れていた。司書さんに事情を伝えてもらって、あの姉妹の所有者を俺にしておいてもらう。


「そんじゃ、ここに血を垂らして」


魔法陣が書かれた紙に、血を垂らす。一瞬魔法陣が光りすぐに収まる。


「これで契約は完了だ。内容は奴隷に直接伝えてくれ」

「内容?」

「禁止事項だよ。自殺してはならない、とかな」

「ああ、そういうことですか。すいません、わざわざ」

「契約紙はなくすなよ、再発行にかなり金がかかるから」


そう言って、奴隷商人は馬車に乗って去っていった。さて、さっさとやっちまうか。

姉妹のほうに近づいていく。俺を見た妹のほうが、何でか頭を下げる。


「あ、あの...」

「その、なんだ...。お前の家族を殺してしまったことは、本当に済まないと思っている。この身をかけて償おう。だから、妹には手を出さないでくれ」

「何だ、ずいぶんと殊勝だな」

「元々、無理矢理やらされていたことだ。親がいわれのない罪で捕まり、少しでも罪を軽くするために、暗部の仕事をやらされていたんだ」

「へー、そうだったのか」

「両親は、すでに殺されてしまったみたいですけど...」

「まあ、それはどうでもいいや。それじゃ、内容を言うぞ」

「あ、ああ」

「2人とも解放、以上」

「「・・・は?」」


姉妹が目をぽかんとさせて呆けている。よし、やることは終わった。魔獣舎に行こう。


「それじゃ、達者で暮らせよ」

「ちょ、ちょっと待て!何で解放するんだ!?」

「何でって・・・別に奴隷なんていらないし」

「じゃ、じゃあ何で引き取ったんですか!」

「そうしないと、いつまでも校長が帰してくれそうになかったんだよ。俺だって、本当は引き取りたくなかった。ほら、さっさと行った行った」


これで後腐れなく、この事件は終わりだな。さて、魔獣舎に行こう。


「だから待てって!私たち、一文無しなんだぞ!このまま解放されても困る!」

「少しなら金も渡すけど?野垂れ死なれても後味悪いし」

「そういうことじゃなくて!」


はあ、何がやりたいんだ?


「私たちは、お前の従魔を殺してしまったんだ!罪を償わせてくれ!」

「・・・ああ。それなら問題ない、生きてたから」

「・・・はあ?」

「だから、死んだってのは俺の勘違いだったんだよ。悪いな、変な言いがかりつけちゃって」

「・・・ということは、妹は勘違いで殺されそうになってたのか!?」

「まあ、そうなるな!」

「こんの阿呆!」

「ちょ、お姉ちゃん!?暴れちゃ駄目だよ!」


俺に殴りかかろうとした姉を、妹が羽交い絞めにして抑える。


「止めるな!一発殴らないと気が済まない!」

「駄目だよ!抑えて!」

「そういうわけだ、そもそも償う罪がない。好きにしろ」

「ああ、そうしてやるとも!行くぞ!」

「あ、お姉ちゃん...」


姉がズンズンと外に出て行ってしまう。妹は俺と姉をみて、オロオロしている。ああ、そうだ。


「ほら」


さっき司書さんからもらった、金の入った袋を放る。受け取って中身をみたい妹の顔色が変わる。


「って、何ですかこのお金!?節約すれば、半年は暮らせますよ!」

「一文無しなんだろ?無期限無利子で貸してやる、必ず返せよ」

「でも...」

「これからどうやって生きていくかは知らないが、実力はあるんだ。冒険者にでもなったらどうだ?解放された犯罪奴隷なら問題ないはずだ。武器とかも買わなきゃいけないだろうし、受け取っとけ。早くしないと、姉に置いていかれるぞ」

「・・・このご恩は、必ず返します。私はルウィン、姉はスウィンです」

「返すのは金だけでいいよ。さっさと行け」

「・・・ありがとうございます!」


ペコリとお辞儀をしてから、ルウィンは姉を追う。・・・まあ、勘違いで苦しめた償いだ。リーダーたちは知らん、悪いとは思ってるけど。


「はあ、さっさと魔獣舎に行こう。ルウとリン、体は大丈夫かな...」


悪魔を倒すのに、けっこう無理してたからな。労ってやろう。


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