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激怒、暴走、その結果

ルウたちがボコッて気絶させておいた、黒尽くめの奴らへと近づいていく。騒ぎを聞きつけた生徒たちが、そいつらを囲んでいた。


「通らせてくれないか」

「何だよ、横入りすっ!?」


俺を見た男子生徒が、一気に後ろへと後ずさっていく。つられて俺を見た他の人たちも、一斉に俺から離れていった。・・・ああ、ルウとリンがいるからかな。顔も少し恐いかもしれない。


地面に寝転がっている奴らに近づく。全部で4人、ここじゃ一目が多いから、どっか別の場所までつれていかないと...。死体を捨てられるような場所なんて、ここらへんにあったっけ?

どこに行こうか考えていると、俺を囲むように遠巻きに見ていた生徒たちが割れ、校長たち先生陣がやってきた。


「ツチオ坊・・・そいつらは、お前がやったのかい?」

「いえ、俺の従魔たちです。・・・従魔たち、か...」

「そうかい。図書館から、何か魔獣が出てきたって聞いたんだが、そいつも?」

「殺しましたよ。塵になっちゃいましたけど」

「悪魔召喚の禁書を使ったんだろうね。被害が最小限に抑えられたのも、ツチオ坊のおかげだよ。ありがとうね」

「俺は私怨で悪魔を殺しただけなんで、お礼なんていいです。それより、こいつらに礼をしなきゃいけません」

「ああ、色々と聞きたいことがある。こっちに身柄を渡してくれるかい?」

「・・・条件があります。俺が悪魔を倒したんですから、少しくらいの我侭は聞いてください」

「・・・言ってみな」

「こいつらは、これから尋問するんですよね?」

「まあ、そうなるだろう」

「もし拷問するようなことがあったなら、少し俺に任せてもらえませんか?」

「何でだい?」

「さっきも言ったでしょう、私怨ですって。俺はこいつらのせいで、従魔を失った。このままじゃ気が済みません」


俺から大切なライムを奪いやがって・・・今すぐ殺してやりたいが、それじゃあ意味がない。


「拷問のやり方なんて知りませんけど、痛めつける役は必要でしょう?その役を、俺にやらせてください」

「殺したらいけないよ」

「ええ、分かってます。四肢くらいなら、なくてもいいですよね?」


両腕両足なくても、生きてる人はいるからな。すぐに止血すれば問題ないだろう。ショック死には気をつけないと。


「・・・分かった、許可しよう」

「校長!そんなこと、生徒にやらせるわけには...」

「1年生とはいっても、ツチオ坊はもう17。本人がやりたいと言ってるんだから、やらせてやろう」

「でも」

「もしやらせなかったら、あいつは今ここでそいつらを殺すよ。それじゃ意味がない。回復魔術士を呼んできてくれ」

「・・・分かりました」


司書さんが食い下がっていたが、しぶしぶ認めてくれた。さて、ちょっとした人体実験の始まりだ。






場所は変わって学院の地下牢。生徒たちが『開かずの扉』とか言って、学院三不思議の1つだった扉の奥が、まさか地下牢だったとはね。ちなみに、後の2つは校長の年齢と司書さんの職業だ。


その1室に黒尽くめを全員放り込んで、俺と司書さんだけがその場に残る。他の先生方は、別室から魔術で様子を見るそうだ。

気絶している間に、両手両足を魔術封じの拘束具で縛り、武器を全て没収してから仮面を外す。男女2人づつで、女のほうは姉妹のように似ている。司書さんは、さらに口の中まで確認している。自害用の毒薬でも探しているんだろう。どうやら所持していたようで、全て取り出している。


「それじゃあ、始めようか。ツチオ君、僕の指示に従ってよ」

「分かってます。でも、何で司書さんがいるんですか?」

「僕は昔、国の暗部に所属してたんだ。だから、罠とか拷問には手慣れてるってわけ」

「何でそんな人が、司書なんてしてるんですか?」

「色々あって暗部を止めたんだけど、そのとき校長に引き抜かれてね。禁書庫の番人をしてほしいって。元々本を読むのが好きだったし、次の仕事も決まってなかったから、引き受けたんだ」


人は見かけによらないな。普通に話しているけど、どんなことをやってきたんだろうか。


「まずは起こさないことには始まらないね」


そう言って、間者たちに水をかけていく司書さん。ビクっと震えて、間者たちは飛び起きる。周りと自分を見て、状況を理解したみたいだ。


「・・・話すことはない、殺せ」

「そういうわけにはいかないんだよ。どこの国の間者だ?」

「・・・」


全員が押し黙っている。こういうことをやってるんだから、当然捕まったときの訓練もしているんだろう。痛みに対する訓練もしてるだろうな。


「はあ、しゃべらないか。後、10秒待つよ。その間に話さないなら、こっちも実力行使に出る」

「・・・」


どうやら、こいつらには元から話すという選択肢はないみたいだ。貝のように黙り、あっという間に10秒が経過した。


「・・・ツチオ君、頼んだよ。くれぐれも、殺しちゃ駄目だからね」

「了解です」


さて、まずはどいつからやろうか。とりあえず情報を得なければいけないんだから、口を割らせる必要があるよな。話すという選択肢がないなら、こっちが作ってやればいい。姉妹だってのもこっちにとっては有利だ、特に若干顔が青い方。あっちが妹だろうし。・・・うん、方針は決まった。まずは、こっちの手札を見せてやろうか。


間者のうちの1人、司書さんに返事をしていたリーダー格らしき男の前に立つ。


「最初に言っておくけど、俺はお前らの命になんか興味はない」


わずかにこちらを見るリーダー。そのまま話を続ける。


「お前らが持っている情報にも興味はない、それを知りたいのはお上だからな。俺にとって、お前らは復讐するべき相手でしかない。人が苦しんでいる姿を見る趣味もない。早めにしゃべっちゃっえば、楽に死ねるぞ」


楽に死ねるというところで、妹っぽいほうが反応する。それじゃあ、まずはデモンストレーションだな。


「・・・話す気はないみたいだから、無理やり話してもらうぞ」


そう言って、リーダーの左腕に触れる。これが初めてだから出来るかどうかわからないけど、やるだけやってみる。これが出来なくても、拷問の方法ならいくつか思いつくからな。


「今から、お前の体中の魔力を左腕に集中させる。ドラゴンも死に掛けるくらい苦しいから、早めにしゃべってくれよ?初めてやることだから、加減が分からん。まあ、死にはしないから気楽にな」

「なっ!?」


ドラゴンでも死に掛けるってのは効いたみたいだな。さっきまで無表情だったリーダーの顔に、若干の恐怖が浮かんでいる。それじゃ、やってみますか。


俺が今からやるのは、子ドラゴンが苦しんでいた病気を、魔手で再現するということだ。魔力が一箇所に集中して循環が狂うと、相当苦しいみたいだしな。人間の体がどこまで耐えられるのか分からないので、少しずつ様子を見ながらやってみようか。


まずは左腕全体の魔力を、左手に集中させる。少し手が浮腫んだようにふくらむが、まだまだ表情からして余裕そうだ。

お次は右腕の魔力を移す。左手が赤く染まるが全然余裕そう。今度は一気にいってみよう。

胴体にあった魔力を移す。血管が浮き出て小さくミシミシッと音が聞こえてくる。ここでリーダーの顔に変化が出てきた。脂汗を流し、唇を引き結んでいる。

右脚の魔力を左手に。爪から血が流れ出し、不自然に膨張し始めた。体中から汗を垂れ流し、固く結んだ口からはうめき声がもれている。暴れだしたら困るので、事前に待機してもらっていた数人の先生に抑えといてもらう。慎重に、じっくりと攻めていこう。

左脚の魔力を、少しずつ左手に移していく。とうとう血管が破れたようで内出血が発生し、皮膚も破け始めた。「がああああああ!!!???」と大声で悲鳴を上げて暴れるが、先生たちに抑えられて動けない。他の間者たちは、真っ青な顔で食い入るようにリーダーの様子を見ている。

ゆっくりと魔力を動かし続け、リーダーの悲鳴が絶叫に変わりだした頃。そろそろ止めようかな、と思っていた時に、ついに左手が耐え切れずに内部から破裂した。


「ぎゃああああああああ!!!!!!」


辺りに肉片と血潮が飛び散り、俺の服にもかかる。やりすぎちまったな。


「止血、お願いします」

「は、はい...」


抑えていてもらった先生に、左手の止血をしてもらう。魔術ってホント便利、こうやれば中々死なないもの。リーダーは白目を向き、泡を吹いて気絶している。どうやら破裂させてしまうと、魔力も空中に拡散してしまうみたいだ。リーダーの魔力がほとんど0に近い。・・・逆に言えば、破裂させない限り続けられるってことだな。


「さてと。こいつは間違って気絶させちまったが、今のでコツは掴んだ。もう気絶させるようなことはないから、何時間でも痛めつけられるぞ。どうだ、話す気にはなったか?」

「・・・」


今のを見ても、話そうとはしないか。まったく、面倒をかけさせる。それじゃ、もう1人の男もやってしまおうか。それからが本番だ。






リーダーは十数分で破裂させてしまったが、次の男への拷問は数時間にも及んだ。破裂させることなく、ギリギリの量を調整しつづけることが出来るようになったからな。時々緩めて話すかどうか聞いても、まったく口を割ろうとしない。ついには痛みに耐え切れず、気絶してしまったよ。こいつの手はもう限界だし、今度は反対の手になりそうだ。


「んで、話す気にはならないの?」


今までの様子をずっと見続けてきた姉妹だが、何にも話そうとしない。どうやって、ここまで教育したんだろうね。逆にそっちが気になるよ。


「それじゃ、次の人に移ろうか。えーっと」


姉妹の様子はというと、姉は顔が青いけど気丈にも俺をにらみ続けている。妹は対照的に、体をぶるぶる震わせて真っ青の顔を下に向けている。どっちを選ぶかは、決まってるも同然だよな。


「それじゃ、次はあんたにしようか」

「っ!?」


大分気は収まってきたけれど、まだまだ怒りで煮えたぎっている。どっちにしろ、情報は得ないといけないんだから、ここで止めるわけにはいかない。


「ま、待て!私を先に拷問すればいいだろう!」


妹っぽいほうを指差したら、案の定姉っぽいほうが食って掛かってくる。よし、食いついた。


「何でこいつを庇う必要がある。ああ、こいつが情報を持ってるからか」

「違う!情報は私が持っているんだ!」

「そんなの信じられるわけがないだろう。信用してほしいなら、情報を言ってみろ」

「それは...」

「やっぱり嘘だな。逆にこっちが何か知ってるかも」

「ま、待ってくれ!そいつは私の妹なんだ!私は何でもするから、妹を見逃してくれ!」

「お姉ちゃん、そんなの駄目!私が話します!だから、お姉ちゃんは逃がしてあげてください!お願いします!」

「何を言ってるんだ!おい、聞いてるのか!?何でもするから、妹は...」

「ああもう、うるさい。別に俺はあんたたちが姉妹だとか、そういうことに興味はないんだ」


妹の頭を掴む。さて、うまく乗ってきてくれるか。


「リーダーの手は見ただろう。妹の頭をああさせたくなければ、さっさと情報を話せ」

「なっ!?こ、この外道!人の家族の命を奪おうとしていることに、罪悪感が沸かないのか!?それでも人間か!」

「家族の命を奪うことへの罪悪感?どの口が言ってる、俺の従魔を殺したのはお前たちだろう!」

「たかが従魔が死んだくらいなんだというんだ!」

「・・・たかが従魔?ふざけるな!」


姉の頭を掴み、床へと叩きつける。こいつ、絶対に許せねぇ。ライムのことを、たかが従魔だと!?


「お前たちにとってはたかが従魔の1匹2匹なんだろうがな、俺にとっては大切な家族だったんだ!何が外道だ、それはお前たちのほうだろう!人の家族は奪っておいて、自分の家族は助けろという。馬鹿にしてるのか!?」

「か、家族...?」

「ああそうだ!親も兄弟もいない俺にとって、従魔は皆家族も同然だ!因果応報って言葉は知ってるか?お前の妹が死ぬのは、俺の家族を殺した罰だ」

「で、でも。私の家族はもう...」


頭から手を離すが、姉は起き上がろうとはしない。目は虚ろになっていて、何かボソボソと呟いている。くそ、胸糞悪い...。


「お前が選べる道は2つだ。1つ、ずっと黙ってて拷問されたあげくに死ぬ道。もう1つは、素直に情報を話して、少しでも助かる可能性に賭ける道だ」

「え...?」

「何を教えられたか知らんが、このまま解放されても口封じのために殺されるぞ。王国に犯罪奴隷かなんかの形で、保護してもらうのが1番安全だ。どうする?」

「・・・妹は助かるか?」

「そんなもの知らん、他の奴に聞け」

「・・・分かった。話す」

「わ、私も話します。だから、お姉ちゃんを!」

「だから、他の奴に言え。司書さん」

「何だい?」


ずっと牢の入り口に立って、傍観していた司書さん。


「後は任せていいですか?」

「・・・うん、いいよ。お疲れ様、部屋に戻ってゆっくり休んで」

「はい...」


入り口から外に出る。そして、そのまま1階へと上がっていった。






いつのまにか雨が降り始めていた。図書館付近の片付けも中断されていて、外に人影はない。

校舎から出た俺を待っていたのは、ルウとリンだった。ずっとそこで待っていたのか、体はすっかりと濡れて冷え切っている。


「・・・待ってなくてもよかったんだぞ?」

「グル...」

「ブルゥ」


俺に近づき、頭を摺り寄せてくるルウとリン。今は、それに甘えることしか出来ない。


「なあ、ライムのとこまで行ってみないか?」

「グルゥ」

「ブル」


図書館の前は、すでに大体の片付けが終わっていた。壊された扉の破片は回収され、ライムの体もなくなっていた。


「・・・この雨で流されちゃったのか...。ちゃんと埋葬してあげたかったのにな」


さっきまでの怒りは引き、胸の残るのは虚しさだけだ。大切なものがぽっかりとなくなった、そういった類の。


「くそ、ライム...。俺にもっと強さがあれば、助けられたかもしれないのに...」


もしドラゴンの加護を俺がもらっておけば、こんなことにはならなかったかもしれない。そんなもしもが、俺の頭を駆け巡る。


「ライム、ライム...。うううう」


さっき自分でライムが死んだと言ったときに、怒りにまかせて見ないようにしていた事実が、目の前に突きつけられた。目から涙が溢れ、雨と共に地面へと流れ落ちる。


ふと、座り込んでいる俺の前に、誰かが立つ気配がした。のろのろと顔を上げたその先には・・・いつも通りのライムの姿があった。


「・・・へ?」

「・・・!?」ぷるぷる!?


俺へ駆け寄り、涙を拭い取るライム。え、何でライムが!?液体金属のスライムなんて、ライムしかいないし!え、え、え!?


「え、ちょ、ライムなのか?」

「こくこく」

「だってお前、悪魔に殴られて崩れて死んじゃったんじゃ...」

「・・・」ぷるぷる、ぷるるる


え、この前言った?打撃は核を捉えない限り、全然脅威じゃない!?


「じゃあ、なんであんな風に崩れたんだよ!」

「・・・!」ぷるぷる!


死んだ振り!?え、ってことは全部演技だったの!?


「ちょちょちょ、待って整理するから。ってことは、ライムは死んだようにみせて、実は死んでなかったってこと?」

「こく」

「おま、俺たちがどんだけ悲しんだと思ってるんだ!?悪魔を殺しても気が済まなかったから、拷問までやったんだぞ!俺が!」

「・・・」ぷるぷる...

「ったく、この!」


思いっきりライムを抱きしめる。殴られると思って身構えていたライムが、ビックリとしている。


「・・・良かった、生きててくれて...。俺、ライムが死んじゃったって思って、キレたけどそれ以上に悲しかったんだからな...。俺にとって、お前たちは家族みたいなもんなんだ。頼むから、もうこんなことしないでくれ...」

「・・・こく」


ギュッとライムが抱きしめ返し、ルウたちが傍に寄り添う。俺は雨に打たれながら、しばらくの間ライムの存在を感じていた。


実は死んでいませんでした!一応、打撃は核を捉えなければ大丈夫、というのから来ています。分かりにくいですよね、すいません。


ツチオの、従魔を害する者への敵意とか残虐性を強調させたかったのですが、うまく出来たでしょうか?シリアスはあまり書いたことがないので、よければ感想・指摘をよろしくお願いします。

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