帰って、変わって、育成!
ちょっとぐだっちゃうかもです。
ドラゴンと出会い、加護なるものをルウたちに与えてもらった翌日。日が落ちる前に学院に帰り、夕飯も食べずにベットにダイブ。そのまま寝てしまってたようで、着の身着のままで朝を向かえた。
「ツチオ君、おはよう。もうすぐ朝ごはんだらか、早めに着替えたほうがいいよ」
「・・・ん、分かった。ふああ...」
「ずいぶんお疲れだね。昨日も帰ってすぐに寝ちゃったし・・・やっぱりマロンマ山は大変だった?」
「まあ、色々とな」
休日でリュカが起きてるってことは、いつもより相当寝坊してるな。緊張しまくってたからな。
「それで、マロンマ山はどうだった?」
「うーん・・・まあ、冒険者が行くだけあって危険な所だったよ」
「へー、ツチオ君がそこまで言うなんて、相当だねー」
いや、あのドラゴンだったらAランク冒険者でも危ないと思う。すぐに対処できたから良かったものの、あのまま居座られたらかなり不味かったんじゃ...。
「詳しい話は、ご飯の時に聞かせてよ。トリスちゃんとファルも聞きたがってるから」
「お、おう」
適当に誤魔化さないといけないな。悪い、トリスにファル、そしてリュカ。
トリスたちの質問攻めをくぐりぬけ、朝食を終えた俺は魔獣舎に向かう。ドラゴンの加護をもらったんだ。まだ進化してないにしても、少しくらいは影響が出ているかもしれないしな。
魔獣舎に入り、ルウたちの部屋に向かう。そこでは、昨日と大して変わった様子のないルウがいた。まあ、進化したら大きく変わるって言ってたから、まだ変わっていないのが普通なんだろう。
「ルウは特に変わってないみたいだな。ライムとリンは?」
「グルゥ...」
何かあったのか?ルウが言いよどむなんて、珍しいぞ。
「ブルル」
「あ、リン。お前も全然変わってないな。ライムはどこにいるんだ?」
「ブル、ブルル」
「え、ライムは変わったの?どういう風に?」
「グル」
リンの後ろから、ライムが出てくる。昨日魔獣舎に入れたときは、普通のスライム同様水色だったのに、今は自己主張の激しい鮮やかな紫色になっていた。
「ど、どうしたんだその色!?蜜毒のドラゴンみたいじゃんか!」
「・・・」ぷるぷる
「加護の影響?存在自体の位階が低いから、進化しなきゃ変化しないはずだったのに、こんな色になっちまったのか?」
「こく」
「はー、さすが加護っていうだけのことはあるな。かなり魔力量が増えてんぞ。新しく出来るようになったこと、とかはあるのか?」
「こくこく」
ライムが、自分の体を構成している液体を、壁に少しかける。途端に壁は煙を上げ始め、しばらくたって見てみると液体がかかったところだけ凹んでいた。
「・・・溶解液?」
「こく。・・・」ぷるぷる
体内で毒や溶解液を生成できるようになり、また毒への耐性も獲得したみたいだ。これは中々凶悪だな、耐性がないといくら強くても殺されてしまう。弱者が強者を殺すため、毒はピッタリだな。
「これで、自分で狩りをすることが出来るな」
「・・・」ぷるぷる
「ん、他にもやりたいことがあるのか?」
「こく。・・・」ぷるぷる
「金属がいっぱいほしい?お腹が空いたのか?」
「ふるふる。・・・」ぷるぷる
「強くなるために、か。んじゃ、一緒に鍛冶場に行ってもらってこよう。ルウとリンはどうする?」
「グルル、グルルゥ」
「ブルルル」
「え、リンも外で魔獣を狩ってくるの?まあ、裏口からなら出れるだろうけど...。大丈夫なのか?冒険者に狙われたりしない?」
「ブル、ブルルブル」
へー、魔獣と従魔って魔力の質が違うんだ。全然気づかなかった。他の個体なんて、見たこともないかんな。
「それならいいけど、よく気をつけるんだよ?1人でいるところを狙って、悪い人は近づいてくるんだからね」
「ブル」
「グルル、グルルルゥ」
「ルウも付いていってくれるのか。それなら、まあ安心かな」
リンも本気で走れば、かなりの速度が出る。結構遠くまで行ってくるだろう。早く進化させたいし、頑張ってきてもらおうかな。
ルウとリンが裏口から出発するのを見送った俺とライムは、その足で鍛冶場へと向かった。もう何度も金属片をもらいにいってるので、すっかり顔なじみになっている。
「おお、オメェか。好きなだけ持っていって、ってそいつが食わせているスライムか?」
「はい、入れても大丈夫ですか?」
「こっちは問題ないが、火とかには気をつけろよ。いつも通り、そこの箱んなかに全部入ってるからな」
くず鉄入れには、今日も多くのいらない金属類が入っている。そういや、ライムはここで何がしたいんだ?自分で食べるものを選びたい、とかかな。
しばらく中を覗いていたライムだったが、突然箱の中に飛び込んで形状を変化させる。入っているくず鉄を薄くのばした体で包み込み、全て中へと取り込んだ。
「ライム、もしかして一気に全部食べる気?」
「・・・」
いつもみたいにぷるぷるとはしなかったが、Yesという意思は伝わってきた。まったく、よくばりなんだか強くなるのに貪欲なんだか...。
「何やってるんだ、これ?」
ドワーフの先生が俺たちの様子を見てたずねる。何ていえばいいんだろう・・・食事かな?
「えっと、こんなかにある金属を一気に食べるつもりみたいです」
「はあ、豪気なスライムだこったな。そうだ、ちょっとこっちに来い」
「あ、はい。ライム、ちょっと離れるから大人しくしといてね」
先生に連れられて、ある炉の前に向かう。ちょうど、先輩が剣を焼き入れしている真っ最中だ。
「この剣、何で出来ていると思う?」
「特別な金属なんですか?」
「じゃなきゃ、わざわざ見せたりしねぇよ」
まあそうだよな。まだ完成していないが、剣からはけっこうな魔力を感じる。鉄などは魔力を蓄積しないから、特殊な金属なんだろうな。魔力を蓄積する金属ってことは...。
「うーん、魔法銀ミスリルとか?」
「おお、当たりだ。よく分かったな」
「魔力を蓄積する金属で、学院生が扱える代物なんて、銀かミスリルくらいですからね」
オリハルコンやアダマンティンとか、有名どころの希少金属なら蓄積するらしいけど、そんなの一流の鍛冶師にしか扱えないからな。ミスリルも十分、希少だけれどね。
「この剣は、こいつの卒業制作なんだよ。わざわざ国から取り寄せたんだぜ」
「洞窟国から?そいつはすごいですね」
「ああ。まあ、これをわざわざ見せに来たんじゃない」
だろうな。ただの自慢だったらどうしようかと、冷や冷やしてたよ。
「これだこれ、余ったミスリル鉱だ。微妙に余っちまって、どうしようかと思ってたんだ。わざわざ取り寄せたんだから、売るのもなんだしな。そんなところに、お前が来たって訳。どうせ使うなら、学院生のために使いたいしな」
「いいんですか?鎖とか、装飾品とかに流用出来るんじゃ?」
「さすがにこれじゃ少なすぎる、お前のスライムにやるか売るかのどっちかだ。いらないてんなら、売っちまうけど...」
「ください、是非ください!」
「最初からそう言っておけばいいんだよ。若けぇもんが遠慮なんてすんな」
先生からミスリル鉱を受け取る。そんなに多くはないけれど、ライムは喜んでくれるだろうなぁ。
「すいません、早速あげちゃっていいですか?」
「ああ、さっさとやってこい。俺が譲ったんだって、ちゃんと言っておけよ!」
「了解です!」
急いでくず鉄入れへと戻る。中を見ると、両手でなら持てそうな位の箱いっぱいに入っていた金属を、ライムはすでに3割近く消化していた。食べるの早!蜜毒の加護半端ないな!金属との相性が良いだけかもしれんけど。
「喜べライム、先生が余ってたミスリル鉱を譲ってくれたぞ!魔力を蓄積する鉱石だから、もしかしたら進化するかも!」
「・・・」
早く中に入れて、とライムが言うので、体の中に1つずつ落としていく。シュワシュワと泡をあげ始めるが、他の金属に比べて消化が相当遅い。やっぱり、ミスリルなだけあって溶かしづらいんだろうな。
「ゆっくりと食べればいいからな。まずは他の金属を全部溶かして、その後に取り掛かればいい」
「・・・」
俺の言葉を聞いて、とりあえずミスリル鉱を後回しにするライム。金属だけ食べるのも飽きるだろうし、水や毒草でも取ってくるかね。
「先生、ちょっと外に出ますね」
「おう、早めに戻ってこいよ。俺も一応見ておくが、ずっとは無理だからな」
「もちろんです」
さて、今までの溶解液じゃ物足りないだろうし、もうちょい強力なやつをもらおうかね。毒草もまた然りだ。
植物園に向かい、毒草とマンイーターなるカニバルプラントの上位種の溶解液、それと毒茸と毒を持っている木の実と、植物園の人からも多すぎじゃない?と言われるほどの物を持って、鍛冶場へと戻る俺。運ぶために持っていった袋は、すでに満杯である。桶って鍛冶場に置いてあるかな?
鍛冶場に戻る途中、購買の前を通る。色々なものが陳列されている中に、丸底フラスコみたいな瓶に入った、ゲームとかで出てきそうなポーション的なものを見つける。えっと、あの緑色のが傷を治すやつだろ?んじゃ、青色の液体は何なんだ?
「あのー、すいません」
「何だい?ほしいものが見つからないのかい?」
お会計に座っているおばちゃんに声をかける。親切で聞き上手なので、生徒がよく相談に来ているらしい。特に恋愛事情。
「この青色の液体はなんですか?」
「ああ、それは魔力回復薬だよ」
魔力回復薬、ゲームで言うMPポーションか。
「こんなものがあるんですね。全然見たことがなかったです」
「すぐに売り切れちゃうからね。ちょうどさっき入荷したばかりだよ」
「名前どおり、魔力を回復してくれるんですか?」
「そうだよ。マナ草っていう、魔力濃度が高い場所でしか育たない薬草を使っているんだよ。値段は張るけど、いざというときの保険のために買う人が多いね」
「へー、学院生がですか?」
「実地実習とかに持ってくんだよ、ちょうど一昨日出発してたね。それに魔術科の生徒が、実験を急いでいる時に使うらしいよ」
ああ、そういや朝は騒がしかったな。そのせいだったのか。魔力を回復出来れば、その分魔術の実験は続けられるってことか。
「買っておくかい?今しかないと思うよ」
値札を見ると、中々のお値段だが買えないことはない程だ。これをライムに飲ませたら、魔力が溜まったりするのかな?
「マナ草は売ってますか?」
「うん、マナ草かい?どれどれ・・・うん、魔力回復薬と一緒に入荷しているよ。薬学科なのかい?」
「まあ、そんな感じです。マナ草はどこに?」
「あそこの薬草棚の上から2番目、右から2番目に入ってるよ。量り売りだからねー」
急いで梯子を上って、棚から草が入っている箱を取り出す。外から見えるところに値段が書いてあり、これも中々いいお値段である。
「採りにいくのが大変だからね。まあ、冒険者たちがよく採取するから、流通量はけっこう多いんだよ」
箱に手を突っ込んで一掴み分マナ草を取り、魔力回復薬を1つ一緒にお会計に出す。こんくらいなら、手持ちのお金でも問題ないはずだ。
「お会計、お願いします」
「はいよ」
素早く量を計って値段を提示してくれるおばちゃん。通常なら端数は切り上げなはずなのに、切り捨てられている。良い人だなー、今度からは購買で買い物をするようにしようかな。
手早く支払って、紐で一まとめにされた草を持って鍛冶場に戻る。まだミスリル鉱を消化してないといいけど...。
「すいません、遅くなりました」
「おう、戻ってきたか。なんだ、ずいぶんと大荷物じゃねぇか」
「色々もらってきちゃいまして...。ライムは?」
「まだくず鉄入れの中だぞ。もうすぐ中にあったものを、全部消化しそうだ」
「そうですか。そうだ、桶ってありますか?」
「桶?あそこらへんに、まとめておいてあるぞ。勝手に使ってくれ」
「ありがとうございます」
桶を持ってきて、魔術で水を発生させる。溶解液は、どのくらいまでならいけるかな?
くず鉄入れの中では、ちょうどライムが金属を溶かしきっているところだった。ミスリル鉱は残したまま、人型に戻る。
「ライム、違う溶解液をもらったんだけど、どのくらいの濃度までいけるか見ててくれないか」
「・・・」ぷるぷる
「これか?ほら」
溶解液が入っている瓶を渡すと、ライムはふたを開けて一気に体にぶちまける。ちょ、何やってんのこの子!?
「だだだだ大丈夫かライムーーーーー!!!???」
「こくこく」
慌てて水をぶっ掛けるが、特にライムに目立った変化はなし。あれ、全然問題ない?
「・・・」ぷるぷる
「酸耐性?毒への耐性の中には、そんなものまであったのか...」
ライムが言うには、酸などへの耐性も獲得したらしく、このくらいの酸なら問題ないそうだ。もっと強い酸だと、さすがに体が溶けてしまうみたいだけど。
「まったく・・・ホントに焦ったんだからな。死んじゃうかと思ったんだぞ」
「・・・」しゅん
「反省しているならいいけど、もうこんな真似はしないでくれよ。心臓に悪いから」
「こくこく」
はあ、ライムったら...。人間らしくなっているから、こういう冗談も出来るようになったんだろうけど...。ちょっと心臓に悪すぎる、真面目に焦ったぞ...。
とりあえず、ライムに毒草などもらってきたものを与える。毒耐性を獲得しているから、もういらないかもしれないけど...。茸とかは、まだノータッチだから少しは効果があると思う。
「これはマナ草っていってな、魔力回復薬を作るための薬草なんだって。購買に売ってたから買っておいたんだ。んで、これが魔力回復薬。食べてみてくれ」
「・・・」ぷるぷる
桶に入りながら、マナ草を食べるライム。さあ、どうだ!?
「何か変化はあるか?」
「ふるふる」
「そうか...。まあ、元からこれで魔力が溜まればいいなー、って思ってただけだししょうがないよ。魔力回復薬も入れちゃうな」
桶に薬を注ぐと、見る見るうちにライムが吸い取っていく。おお、何かよく通販で売っている、水を吸い取る布巾みたいだな。
「それじゃ、あとはミスリル鉱の消化に専念しよう。ここにいたら邪魔になるし、魔獣舎に戻ろう」
「こくこく」
「先生、金属だけでなくミスリル鉱までくださって、ありがとうございます」
「いいってことよ。元々余り物だしな」
「それでもです。それじゃ、失礼しますね」
「ああ、暗くなる前に寮に戻れよー」
「分かってますよ」
ルウとリンが帰ってくるまで、ライムがどういう風に変わるか見つつ、魔術の練習でもしときますかね。