看て、触って、もらって
赤いドラゴンと遭遇してしまい、生き残る為にドラゴンの子の病気の原因を探ることになった俺。死なないためにも、何とかして原因を見つけねば。
「これって、触ったら感染するのか?」
『・・・恐らく、しないと思う。私が運んできたのだが、そういうことは一切なかったからな』
「弾いちゃたわけじゃなくて?」
『病魔が進入してきたら気付く。その上で追い出すな』
触っても平気か、とりあえず触診してみましょうかね。俺には魔手があるから、どこがおかしいかくらいは分かるかもしれない。魔力循環系に異常が起こっているなら、確実に察知できるはずだ。
「よし、んじゃいきます。・・・触ったら噛み付いてこない?」
『そんな元気は残っていない。さっさとやれ』
「りょ、了解しました...」
病魔に侵されていない部分に手を当て、子ドラゴンの魔力を感じ取る。病気で弱っているからか、ドラゴンなのに魔力が弱弱しい。とりあえず、頭のほうから探っていこう。
頭から尻尾の先へと、魔力に異常がないか確認していく。腹部辺りに差し掛かったところで、違和感を感じた。
「・・・腹部の魔力循環が、酷い状態です。グチャグチャになってます」
『何、魔力循環が?ということは、それに関する病か?』
「いえ、そういうわけではなさそうです。ここから分かることは、病気の原因は腹にあるってことですね」
『なるほど・・・魔力循環を正しく直せば、病状も軽くなるのか?』
「そこまでは何とも...。でも、このままじゃヤバイってのは確かだと」
魔力ってのは、すねわち生命力でもある。そいつが乱れると体調も悪くなるし、酷い場合には体が負荷に耐え切れなくなり、壊れていってしまうこともあるらしい。ドラゴンは体が丈夫だからそんなことはないだろうけど・・・そのせいでさらに循環が狂ってしまっているみたいだ。これを元通りにすれば、多少は楽になるんだろうけど...。そっからどうなるかは、俺には分からないしな。
『・・・腹の中にいる何かが、魔力循環を狂わしているということか』
「はい。この鱗の変色も、毒ではなくて循環系が狂った影響みたいです」
『魔力循環を狂わせることによって、生き物を殺すのか』
「それは分かりませんけど、その可能性は高いです。人間がこんなふうになったら、数日ともちませんよ」
『ドラゴンの生命力が仇となったか...。どうにかできないのか?』
どうにか、か。もう原因は分かったんだし、俺が治してやる義理はないんだけど...。苦しそうな子ドラゴンを見ると、そんなことは言えないよ。出来る限り、手を尽くしてみよう。
「要は、腹にいる原因を外に出してしまえばいいんです。食べた物を戻したんですよね」
『ああ、それでも治らないということは、口からは出てこないということだな』
「上が駄目なら下から出します。えっと、確かライム用に毒草をいくつか持ってきてたんだよな...」
ポーチの中から、毒草の束を取り出し、その中からある草を抜き出す。
『それは?』
「食べたら腹を下す毒草です。便秘薬にも使われたりするので、こいつで腹から無理矢理出しちゃいます。問題は、この子の体力が持つかどうかですけど...」
『それなら気にするな、ドラゴンの子は貧弱ではない。これで耐えられなかったら、それまでの命なのだろう』
「分かりました。リン、腹から出てきた原因が他の体に入る前に殺す。遠くから電撃で焼いちゃってくれ」
「ブル!」
子ドラゴンの口に草を持っていくが、まったく口を開けようとしない。「これで元気になれるんだよ」と言っても、そんな元気はないのか動かない。しょうがないので、細かく刻んだ草を無理矢理こじ開けた口の中にいれて、水で流し込んでいく。
数分後、苦しげな声を上げながら子ドラゴンが腹に溜まっていたものをドンドン外に出していく。その中に、細長くウネウネ動いている触手みたいな生き物が混じっていた。こいつが原因だな!
「リン!」
「ブルルル!」
リンが雷撃を喰らわせると、動かなくなる触手もどき。さらにドラゴンに消し炭にしてもらい、俺は子ドラゴンの魔力循環を修正していく。あまり操作はできないけど、正しい流れを作るくらいのことは出来る。
「・・・よし、これでもう大丈夫かな」
『終わったか?』
「はい。あとはちゃんと水を飲ませて、いっぱい栄養があるものを食べさせてあげれば、良くなると思います」
『そうか...。智の試練、お前は見事に突破した。病の原因を突き止めるだけでよかったのに、治療までやっていただき・・・感謝のしようがない』
まあ、助かったみたいだし、よしとしましょうかね。乗りかかった船だったし、俺に治せるような病気だ、他の誰かでも治せただろうよ。
「いや、俺は命が助かっただけで万々歳ですよ」
『そういってもらえると助かる。だが、竜の尊厳にかけて何の礼もなしに返すわけにはいかない。何か願いはないのか?私に出来ることなら叶えよう』
「願いですか...」
願い、願いねぇ...。モンスター娘ハーレムは、俺の夢であって願いではない。金も、別に特に必要ってわけでもないし...。
「そうですね・・・俺の従魔を強くすることは出来ますか?」
『ほう、従魔を強くしてほしいか...。ふむ、出来なくはない』
「本当ですか!?それなら是非!」
『だが、その強くする方法には、相性があってな。私とお前の従魔の中で相性がいいのは、そのワイバーンだけなのだよ』
ルウだけしか強くできない、ってことか。うーん、それだと色々バランスが崩れて面倒だな...。
『だがまあ、我が子の恩人の願いだ。多少の無理はしようではないか』
「無理って・・・まさか、相性がいい奴らを呼ぶ、とか?」
『ふふふ、そのまさかだ』
ドラゴンが空に飛び立ち、大きく息を吸う。慌てて耳を塞ぎ、咆哮に備える。次の瞬間、大地を震わす竜の咆哮が響き渡り、火口全体がグラグラと揺れる。って、これ噴火とか大丈夫なの!?マグマ、刺激しちゃってない!?
『問題ない、そういうのは地面に向けて吼えるものだからな。まあ、多少火山活動が活発になったかもしれんが』
「それに、こんな大声出しちゃって、討伐隊とか来ちゃったらヤバイですよ」
『もし討伐隊が来るとしても、そのころには遠く離れた場所に移動しているよ。ここには、我が子の療養のために来ていたのだしな』
「はあ、それならいいんですけど...。それより、今のでどなたを呼んだんですか?」
『何、ちょっとした友人を呼んだだけだ』
『わざわざこんな所に何の用かと思ったら、こんな人間のために呼ばれてたなんてね~』
『まったくだ。お前の悪い癖だぞ』
『すまないな。だが、今回は事情が事情なんでね。急いで来てもらいたかったんだ』
紫紺の鱗を持った細め(赤いドラゴンと比べて)で流線的なフォルムのドラゴンと、少し小さめ(赤いドラゴンと比べて)だが、翼は大きな黄緑色のドラゴンたちに、俺たちは囲まれ睨まれていた。心臓が止まりそうだ、いやまじでホントに。
『・・・ふーん。で、私にこのちぃぃぃっぽけなスライムを、強くしてほしいって言ってるの~?この身の程知らずの人間は』
『俺は馬か。まあ、まだスライムと比べりゃまだマシだな』
『私、いくらあなたの頼みといっても、こんなのに加護を与えたくないわ~』
「・・・加護?」
『あぁ?何か文句あるのか人間?』
「ご、ございませんんんん!!!」
『加護というのは、精霊や竜が眷属とかを強くするために与えるものだ。進化の方向を絞る代わりに、強力な個体にさせたり特殊能力、全体的な能力の上昇をさせることが出来るのだよ』
そ、そうなのか...。進化の方向を絞るのは、別に問題はなさそうだな。どうせ、自分じゃ選びようがないんだし。
『ねえ~、やっぱりやらなきゃダメ~?』
『ダメだ、彼は我が子の恩人だぞ。その意味、分からないお前たちではないだろう』
『そりゃそうだが...。いまいち、信じることができねぇんだよな』
『私の言葉では不満か?』
『そういうことじゃないのだけれど~。あなたの子は?』
『ほら、そこだよ』
俺にピッタリとくっつき、膝の上に顔を乗せて寝ている子ドラゴンを見る赤ドラゴン。ついさっき目を覚まして、俺のそばに移動したらまた寝てしまった。懐かれてしまったようで、ルウがすごい悔しそうにしている。病み上がりだし、まだ子どもだからな。自重してくれている。
『・・・まあ、嘘ではないみたいね~』
『だな。しょうがねぇな、やってやるよ』
『悪いな、そらそこの。いつまでも我が子を見てないで、こっちに来い』
『そこのスライム、こっちにきなさ~い。しょうがないから、強くしてあげるわよ』
『馬、さっさと来い。早くしないと、加護をやんねぇぞ』
それぞれ、呼ばれたところへ行くルウたち。何やら色々話している。
ルウと赤ドラゴンのところでは、ルウが何か伝えていて、赤ドラゴンは『ふむふむ』『なるほど』『そうか』と相槌を打っている。
ライムと紫ドラゴンでは、ライムが身振り手振りで忙しそうに話している。『あらあら』『それはあるわよね~』『うんうん、分かるわ~』と妙に馬が合っている様子、あんなに渋ってたのにな...。
リンと黄緑ドラゴンは、リンが色々話していて黄緑ドラゴンは『いや、そりゃだめだろ』『そういうふうなら、こっちのほうがいいんじゃないか』と、より良い案を出している様子。リンも色々考えるみたいだな。
しばらく彼らの話は続き、最初にルウたちが終わった。どうやら満足のいく結論をだせたみたいで、嬉しそうにしている。
「どんな感じのことを言われたんですか?」
『それは秘密だ。ここで言わなくても、そのうち分かるようになる』
「そうですか。それじゃあ、ドラゴンの子どもを助けた意味ってのは何ですか?さっき言っていましたけど」
『ああ、そのことか。ドラゴンというのは長寿だから、子どもは中々出来にくい。もし子どもが出来たら、大人皆が協力して育てなければいけないのだよ。子どもを助けてもらうことは、ドラゴンにとって最上の恩、というわけだ。その恩を返すときは、数倍にして返すくらいの気で返せと、小さいころから親に叩き込まれていてね』
「へー、エルフも子どもは出来にくいみたいですし、そういう機能が退化しちゃってるんでしょうね」
『ああ、困ったものだよ』
次に終わったのはリンたち、ライムたちはまだ話している。
『ったく、ああしろこうしろうるさかったぜ...』
『いいではないか。全て、主を守りたいという思いから来ているのだから』
『まあ、その気概は買うがな』
それから数十分待ち、ようやくライムたちの話が終わる。一体、何を話していたんだ?
『うふふふ~、スライムの中にも話が分かる子はいるのね~』
『え、えらく上機嫌じゃないか。そんなにあのスライムを気に入ったのか?』
『ええ。最初はどうかと思ってたけど、会えてよかったわ~。全力で加護を上げちゃうわよ~』
『こいつにこんなに気に入られるなんて・・・あのスライム、性格大丈夫なのか?』
『あら、ちょっと愛が深いだけよ~。うふふふ~』
・・・ライム、よく考えが分からないなーって思ってたけど、あれは隠していたからなのか?いや、まだそこまで発達していないだけ、そうに違いない。・・・そうだよな?
『まあなんにせよ、これで加護を与える準備は整った。もう与えてもいいのか?』
「はい、お願いします」
『心得た。それでは、いくぞ』
ドラゴンたちが目を閉じると、ルウたちの前に小さいがまぶしい光が出てくる。ルウは赤、ライムは紫、リンは黄緑だ。そのままルウたちの胸の中に入っていくと、光は弱まっていき完全に体に埋もれた。
『ふう、これで終わりだ。まだ特に変化はないが、進化すれば大きく変わるだろう』
「そうですか。ありがとうございます、わざわざ出向いていただいて」
『いいのよ~、ライムちゃんと会えたしね。また機会があったら、お話しましょ~』
『まあ、子どもを助けられたんじゃ仕方ねぇ。正しく使えよ』
『それでは、我々はこれで失礼させてもらう。人が来たら面倒だからな。もしまた我々のような話すドラゴンと遭遇したら、業火の知り合いと伝えてくれ。少なくとも、戦闘にはならないだろう』
『私は蜜毒よ~、覚えておいてね』
『迅雷だ。まあ、使う機会はねぇだろうがな』
『それでは、さらばだ!』
大空へと羽ばたいていくドラゴンたち。俺の膝で眠っていた子ドラゴンも、まだまだ小さな翼を懸命に動かし、親の後を追う。その前に、1回俺に振り返り「ギュン!」と鳴いて、雲の中へと消えていった。
「・・・ふうー」
色々ありすぎて、腰が抜けてしまった。その場にへたり込んで、大きくため息をつく。
「ドラゴンと遭遇して、その子どもの病気を治して、何か強くしてもらったけど・・・こんなこと、想定外すぎるだろ...。最初会ったとき、もう死を覚悟してたぜ」
「グルル」
「そうだな、何かすっごい疲れたよ。とりあえず、皆を強くするって目的は果たせたし、わざわざ遠出したかいはあったってことかな」
「こくこく」
いや、本当に死ななくてよかった。今更ながら体が震えているよ。結果良ければ全て良しとはいうものの・・・これからは、何か異変があったらすぐに引き返すようにしよう。命あって物種だ。
「はあ、もう帰ろう。多分、村のほうはドラゴンが見えたー!とかで、俺たちなんかに構ってる暇はないだろう。さっさと学院に帰って、明日はゆっくりと休もう。皆、戦闘はしてないけど疲れたろ?」
「グル」
「ブル」
「こく」
「そうだなー。よし、んじゃルウはまた、行きと同じく上からついてきてくれ。飛ばしていくぞー!」
色々あったが、まあ実りある1日だと言える。2度は勘弁してほしいが。加護をもらえたから、ルウたちはさらに強くなっていくだろう。これからが、本当に楽しみだ。
立ったー、フラグが立ったー!