名付けて、飛んで、戦って
もうちょいいくよー
「なあ、ルウ。お前って、魔法を使ったり出来るのか?」
翌日、朝早く起こされてすぐに人里を探しに出発した。そのとき、名前がないとこれから面倒いだろうと思ったので、ルウと名付けておいた。長い付き合いになりそうだしな。聞いたところによると、メスらしい。全然分からん...。
「グウア」
名前を付けただろうか、昨日より意思が読めるようになってきた。身体を強化するものなら使える、と言っている。あの鳥とかが使ってたようなやつは、使えないってわけか。成長したら、使えるようになるかも。
「成長したり、進化したりするのか?新しい魔法を覚えたり、上位の存在になったり」
「グルル?」
よく分からないか...。図書館とかないのかな?もしくは学校でも可。
「とりあえず、海岸線沿いに飛んでくれ。人・馬車・船が見えたら、そっちに向かってくれ」
スイーっと空を滑るように飛んでいく。さて、俺も目を光らせて探しますか。
数時間経っても、何も通り過ぎない。道はあるのに、どうしてだろう。もう使ってないのかな?
「ルウ、人の気配は分からないのか?」
「グルルウウ」
近くにこなきゃ分からないとか...。いくら普段海の上を飛んでるとはいえ、そんなんで大丈夫なのか?
「グルウ!」
敵意や殺気は分かるわ!か。それで人を探せたらいいんだけどな...。
ちょっと憂鬱になっていると、急にルウが進路を変える。どうした、何か見つかったのか!?
俺たちの真っ正面には、小さな黒い点がある。近づいてみると、それは船だと判明した。あんな遠くの船が見えるなんて、視力がいいんだな。
「・・・あれ、あの船。襲われてるのか?」
割と大きめな船に、小型の船が三隻横付けしており、そこから人が上り込んでいる。大きめの船の上は、まさに戦場といった感じである。どっちに加勢しようか...。装備を見ると、小型の船の奴らは海賊みたいだな。大型船の奴らは皆同じ装備だから、どこかの機関か国に属している軍だな。
・・・まあ、無難に軍を助ければいいか。見た感じ、ちょっと押され気味だしな。恩を売っておくかね。
「よし、ルウ。あの悪人面の奴らを蹴散らすぞ。平気か?」
「グルルルウウ!」
問題ない!、本当に頼もしいな。
「無理はするなよ。俺には、お前しか頼れるやつがいないんだからな」
「グル」
任せろ、か。惚れちゃうくらい、男らしいな。メスだけど。
背中に置いてる手のひらから、ルウの身体の中を何か熱い物が流れるのを感じる。そうして、うっすらと身体が光り出すルウ。・・・これが魔法か。ってことは、さっきの熱いのが魔力ってやつなのかも。手から感じる限りでは、体全体に魔力が広がっている。全体的に強化しているってことなのかな?動かせるかな?
「動けぇー...」
顔に集まってるのを、翼のほうに動かしていく。俺のGOサインを待っていたルウは、自分の身体に起きた変化に驚いている。
「グルウ?」
「何をしたんだ?か...。俺にもよく分からないんだけど、多分魔力を動かしたんだと思う。何か感じたんだ。頭の魔力を翼に移したから、いつもより速く動けると思う。攻撃する時には、尻尾や顔に戻すから、心配しなくていいぞ」
「グラア」
便利だな、任せたぞ、だって。そこまで俺を信用してくれるなんて、嬉しいな。オラ、張り切っちゃうぞ!
「うっし、準備万端!突撃だ、ルウ!」
「グラアアアア!!!」
雄叫びを上げながら、船上の戦場に突っ込む俺とルウ。って、速い速い!いつもよりかなり速いぞ!?コントロール出来てるのか!?
「グル!」
大丈夫、問題ない!ってそれは問題があるんだよ!うわわわわーー!!!???
ドコーーーン!!!と轟音をたてながら着地すると、船上にいた全ての人の動きが止まる。ビックリさせないでくれよ...。心臓に悪いだろ。それより、指揮官を探さないと。
「えーっと、この船の船長さんはどなたですか?」
「・・・儂だが」
金属鎧を着た、スキンヘッドのおじいさんが声を上げる。まだまだ若いもんには負けん!って感じがバリバリするな。ここは、下手に出といたほうがいいかも。
「苦戦しているようだったので、助太刀に馳せ参じました。どこぞの軍とお見受けしたので」
「あ、ああ。我々はファラクス王国の騎士団だ。是非共、援護していただきたい!」
「分かりました。ルウ、やっちまえ!」
「グアアアアア!!!」
近くにいた海賊達を、尻尾で薙ぎ払う。もちろん俺が魔力を移して、いつもより強化されている。メキメキメキィと嫌な音を立てて、吹き飛んでいく海賊。・・・うん?何だろう、この違和感。
「なんじゃ我ぇ!?」
「急に出てきて、調子こいてんじゃねぇぞ!」
「ぶち殺せ!」
船上にいた海賊達が、みんな俺たちのほうに突進してくる。剣や斧がルウの身体に叩き付けられるが、強靭な鱗の前では役目不足だ。ことごとく、翼で吹き飛ばされ、鋭い牙で噛み殺されていく。俺は魔力を動かして、使っている部位に動かすのに必死だ。どんどん敵がやってくるので、かなり忙しい。違和感はまだ胸の中で燻り続けている。
「全員立ち上がれ!あの少年を援護するんだ!」
『おーー!!!』
軍の人たちが、横から海賊たちに突っ込む。一気に混戦となり、味方を巻き込んでしまうので、ルウは動けなくなってしまった。
「死ねやああああ!!!」
その隙に、俺へと斬り掛かろうとする海賊。このままじゃヤバいな。
「ルウ、飛べ!」
翼に一気に魔力を送ると、バッと船の上空へ上がる。よし、ここからは...。
「急降下して海賊を足で掴んで、海に落としちまえ!」
「グル!」
今度はグンと急降下して、海賊を海に落としていく。落とすといっても、掴んだ時点で身体はぐちゃぐちゃになってるんだけどね...。大丈夫、人の身体は自然に優しいはずだから。
俺とルウの登場により、戦況は一気に軍のほうへと傾いた。海賊達は多くの仲間を失い、這々の体で逃げ帰っていく。魔法を使える人たちが船に向けて、バンバン魔法を撃っている。
「それ以上は撃たんで良い!我々の勝利だ!」
『うをーーー!!!』
船上の皆が剣を掲げ、勝利の雄叫びを上げる。どうしよう、俺ものったほうがいいのかな...。
「そこの方!助太刀、誠にかたじけない!あなたのおかげで、我々は勝てたも同然だ!」
「お礼なんて、いいんですよ!困った時はお互い様です!」
「いやー、このご時世に何と勇敢な少年だろうか!?ここでは礼も渡せない、どうぞ中へ入ってください」
「ありがとうございます。それでは、入らせて頂きますね」
よし、上手く礼をもらう言質を取れた。このまま街まで乗せていってもらおう。
「さて...。改めてご挨拶しようか。儂はキサト、ファラクス王国第三騎士団長だ。ご助力、感謝する。普段であれば、あのような輩に遅れをとることはないのだが...。長旅故、皆疲れておったのだ」
あの後、甲板に飛び散った血液などを掃除している人たちを背に、船長室に連れて行かれた。ここには、俺とキサト団長しかいない。
「まずは貴殿のお名前を伺っておこう」
「俺は御門土雄と言います。ド田舎から出てきて、街に向かおうかって時にあなた方が襲われているのを見て、助太刀に入った次第です」
とりあえず、田舎から出てきたっていう設定にしておいた。こういうシチュじゃ、テンプレだからな。
「ほう...。それにしては、見事な縫製の服を着ているが...。都の職人でも、このような服は作れんぞ?」
俺は帰宅途中にこの世界に来たため、学校の制服を着ている。普通の学ランだが、こっちの世界ではそうではないみたいだな。
「ええ、俺の母の手作りです。頑張って作ってくれたんですよ。でも、ここに来るまでに少し汚れちゃいました。後で別の服をもらえますか?」
「・・・ははは!すまんな、詰問してしまって。後で部下に持ってこさせよう」
ふう、何とか乗り切ったな。こっちでは学ランは手に入れられないから、出来るだけきれいにしときたい。
「それにしても、あれはグラップルワイバーンだろう?下位とはいえ竜種をテイムするとは、見事な腕前だな」
「グラップルワイバーン?」
ルウの種族かな?やっぱりドラゴンだったか。
「知らんのか?身体強化魔法を使った近接戦で、下位竜種の中では中々の強さを誇る。幸い魔法耐性は高くないから、遠距離から魔法で倒すのが定石だ」
「そうだったんですか...。知りませんでした」
「知らなかったのか?いったいどうして」
「いえ、田舎だったので、教えてくれる人がいなかったんです」
「そうだったのか、惜しいな。・・・なあ、ツチオ殿。このまま一緒に船に乗り、我が王国の学院都市に行かないか?そこで、学院に入りテイマーとしての腕を磨くのだ」
「学院都市?学校があるんですか?」
「そうだ。ちょうど今月末に入学式があるから、儂が推薦状を書けば間に合うはずだ。どうだ?」
学院か...。悪くない、いや、良い提案だ。他にも色んなやつをテイムしてみたいし、ルウも成長させたい。そしてゆくゆくは・・・モンスター娘ハーレムを!
「・・・分かりました、行きましょう、学院に!」
「おお、行ってくれるか、ありがたい!有望な者は誘うようにしているのだが、中々のってくれなくてな...。ここから学院都市までは、後一週間ほどだろう。その間に、色々説明しよう」
「よろしくお願いします!」
それから一週間は、この世界について教えてもらった。いやー、さりげなく聞くのは大変だったな...。
まず、この大陸には四つの国がある。キサトさんが忠誠を誓っている、大陸の南東を領土にするファラクス王国。大陸の中心を流れる大河を挟んで、南西を領土とするベリアル帝国。ビーストという、獣人が中心の力が正義主義らしい。北東の大森林を全て支配するエルフ中心の国、グリン妖精領。北西にある山々の中にあるドワーフの国、トンル洞窟国。採掘のための坑道があり、その中にも国があるらしい。見てみたいな。
俺が今向かってる学院都市ってのは、王国南部の海に接した大都市で、若者を育成するために初代国王が作ったみたいだ。武術や魔術の他に、商学とかも学べるらしく、学院で学べないことはない!とはキサトさんの談。
さらにこの世界にはスキルというものがあり、人にどれだけ才能が眠っているか分かるらしい。スキルがなければ、どれだけ訓練してもスキルを持っている人を越えられないようだ。武術も魔法もスキルなんだと。
テイムとは、魔獣というモンスターを言うことを聞く状態にするスキルのこと。色んな方法があるけど、一番簡単なのが戦って負かすことのようだ。良いテイマーは、使役している魔獣の状態で分かるらしい。目が生き生きしてないのは、悪いテイマーなんだと。
俺がルウをテイム出来たのは、ちょうどこの時期がグラップルワイバーンの繁殖期だったかららしい。グラップルワイバーンのオスは、メスの背中にのって組み伏せる。しばらくの間それを続けられたら、めでたくカップルの成立だ。
俺は空から落ちたとき、ルウの背中に乗って助かった。その後暴れられたが何とかしがみついて、事なきを得たんだけど。この一連の流れが、求愛の行動と思われたようで、俺は見事ルウの愛を勝ち取ったのだ!人化するのが待ち遠しい。
あと、海賊との戦闘の時に感じた違和感についてだな。多分これは、人を殺したのにまったく罪悪感を覚えない自分について、だと思う。うん、我ながら異常だと思う。こっちの世界に来た時に、頭のねじがどこか緩んでしまったんだろう。まあ、この世界で生きていくためには、そっちのほうが都合がいい。ありがたいご都合主義だと思っておこう。
そして今日、ようやく学院都市に着いた。さすがに一週間も船の上にいると、身体が痛いなー...。
「グルル...」
「ルウ、俺から離れるなよ。危ないからな」
「グル!」
色んな荷物が運ばれていく中、俺はキサトさんに連れられて学院に向かっていた。色々興味深い物が売られている中、大きな道を真っすぐ歩いていく。
「ツチオ殿、離れられるな。裏道に入ると、そう簡単には出てこられませんぞ」
「す、すいません。見慣れない物ばかりで、つい...」
「ははは!学院に入れば、いくらでも見られるから、今は学院に行くぞ」
しばらく大通りを歩き、大きな門を通り過ぎて、学院の敷地を進んでいく。30分くらい歩いただろうか、俺は学院内の一室の前で待っていた。キサトさんが話をつけてくると中に入っていったが、大丈夫なのだろうか?
すぐに中からキサトさんが俺を呼ぶ。ルウも一緒にとのことだ。入ってみると、
「その子を推薦するのかい?確かにその若さで、竜種をテイムするのは中々良いけどね...」
おばあさんが大きな木の机に肘を立てて、口元を隠しながら俺を見ている。何と言うか・・・嫌な感じがするな。見透かされてると言うか、何と言うか...。
「止めてください、学院長。ワイバーンが殺気立ってます」
「ああ、これはすまなかったねぇ。これ、何もしてないよ。だから魔法を収めておくれ」
ルウがしぶしぶと下がる。このおばあさんが、学院長なのか。きっと滅茶苦茶強いんだろうなぁ...。
「まあ、キサト坊がわざわざ連れて来たくらいだからね。いいよ、入学させようじゃないか」
「ありがとうございます。では、儂はこれで。ツチオ殿、頑張られよ。儂の孫もこの学院におるから、もし会う事があれば仲良くしていただきたい」
「はい、何から何までありがとうございました。また会うときまで、お元気で」
「ツチオ殿もな!」
キサトさんはそう言って、学院長室から出て行った。さて、目の前の学院長に話を聞きましょうかね。