遠出した、お山の上で、まさか遭遇
これで、10万文字!
テイムの授業から2日が経った休日。俺は日課になっている、リュカとの朝の訓練を終えてから、朝食を食べにいく。リュカも一緒に付いてきている。
「ツチオ君、今日もお出かけ?」
「ん、そうする予定だ。ちょっと遠出をするんだ」
「へー、近くの森に行くんじゃないんだ」
「ああ、今回はルウとリンも連れて行くから、もっと強い魔獣が出てくるところに行く。ライムもちょっとは強くなってるからな」
「そうなんだ...。怪我しないよう、気をつけてね。あまり強すぎるところに行っちゃだめだよ?」
「もちろんだ。ルウだけでも行けるようなところだから、そんなに心配しなくても大丈夫さ」
「ならいいんだけど。それで、その行く場所って?」
「マロンマ山だ」
マロンマ山。学院から、馬を走らせて2~3時間のところにあるそこそこ大きな山だ。山脈にはなっておらず、そこだけポッコリと突き出ている。イメージとしては、富士山が1番近いかな。
山の周りは森になっているが、山の麓への道は通っている。その森の中でも魔獣は出るらしいが、あまり強くはないらしい。むしろ、そこで採れる薬草などが、駆け出し冒険者が金を稼ぐのに打ってつけだとか。俺にはあんまし関係ない。
魔獣が生息する山は危険だが、出てくる魔獣の中に宝石の原石を落とすやつがいるらしく、D~Cランク冒険者の中で人気の狩場である。麓には村というか基地的なものが出来ていて、ギルドも支店を置いているとのこと。ちなみに、マロンマ山の推奨ランクはパーティーでD以上、ソロならばCランクだ。一人前の冒険者なら問題はないらしいが、油断してたらすぐに殺される。冒険者じゃなくても、金を払えば登ることは出来るようだ。狩りを終えて帰ってくるパーティーを狙った盗賊も出没するようなので、長居はしないほうがいいだろう。
山自体はかなり広いので、冒険者と獲物の取り合いってことにはならなそうだ。出来るだけ、避けるように探索したほうがいいかもしれない。
朝食を食べ終え、荷物を持ってリンの背中に乗り込む。馬具は、全て学院から借りたものだ。買うとなると、まとまった量の金が必要になってくるんだ...。キサトさんからある程度もらったとはいえ、さすがにそれだけのお金はなかった。いつか、職人さんに作ってもらいたい。でも、人化したら使い道がなくなってしまいそうだ。どうするか、悩みどころである。
今回は、乗馬に慣れるためにリンに乗ることにした。この世界でも、馬は普段使いされている家畜だ。学院のサバイバルの授業でも、馬に乗る訓練はやらされた。何でサバイバルの時間にやるんだろう...。
授業のおかげで、駆け足でも落馬しないくらいにはなった。何事も習うより慣れろ、せっかく授業でやったのだし、活かさないのはもったいない。ルウに乗ったら、リンだけが地上を走ることになってしまうので、それが心配というのもある。まあ、たまにはこういうのもいいだろう。ルウは不満そうだけど。
「よーし、リン。それじゃあ出発だ、疲れない程度に駆け足で進むぞ!」
「ブル」
実習を除けば、初めての遠出になる。怪我をしないよう、十分に気をつけていこう。
リンに乗って街道をひた走ること2時間ほど、ようやくマロンマ山麓の村に到着した。道中はライムをムニったり、魔力の操作をしながら暇を潰してはいたが・・・長かったな。
村に入るに当たって、ルウにはどこかで待機しといてもらうことにする。リンだけでもかなり目立つだろうから、ルウまでいると悪眼立ちしてしまうからな。今のところ、刺激は求めていない。狩りに来といて言うのも何だが。
村の入り口は特に門番などはなく、誰でも自由に入れる感じだった。柵や櫓はあるから、いざとなったら何かで塞ぐんだろう。そこそこ往来があるので、門があっても邪魔なのだろう。
リンに乗ったまま、村の中に入る。中央に大きな通りが抜けていて、脇には様々な店が軒を連ねている。どこも武具屋とか道具屋、薬屋宿屋などの冒険に使うようなものが売っている店だけど。道具類は全部用意してあるし、武器も手入れはバッチリ。さっさと山に入ってしまおう。この先に入り口があるらしいからな。
カッポカッポと人の流れにのって進んでいく。周りの人の視線は、最初はリンに向けられ、その次に主である俺に移る。うーん、中々気分が悪いな。絶対舐められてる、「あんな若造が?」って感情がのりまくってるよ...。俺、いくつくらいに見られてるんだろうな。
視線を無視して進んでいると、俺の前に数人のおにいさんが立ちはだかる。全員武器を持っていて、ところどころに傷跡が見える強面の人たちだ。うっ、来るとは思っていたが、実際に対峙すると結構恐い。
「テメェ、見ない顔だな。何しに来た」
「いえ、山に登るつもりですけど、何か?」
「ほーう、山にねぇ...。そんな装備でか?」
一応、革の鎧を着て剣も装備してるけど...。お世辞にも、良い物とは言えないな。
「そうですね。俺はテイマーなので、自分の装備にはそこまでこだわっていないんですよ」
「ほう、ずいぶんとかわいいテイマーさんがいたもんだ、なあ?」
ギャハハハ!と笑うおにいさん方。うーん、やっぱりかなり年下に見られてそうだな。いつの間にか、遠巻きに人々が集まってるよ...。帰りの時間もあるし、早く山に行きたいんだけどなー。
「えっと、何か御用があるんですか?ないのなら、先を急ぎたいんですけど」
「もちろん、用はあるさ。マロンマ山に登るのに、入山料がいるのは知ってるよな」
「ええ、入り口で取られるらしいですけど」
「それとは別に、この村に入るのにも金がいるんだよなぁ。見たところ、まだ払ってないみたいだな」
「いや、それなら村の入り口で取られるんじゃ...」
「細けぇことは気にすんな。それで、ちょっと面を貸してほしいわけだ。もちろん、ついてきてくれるよな」
「断ったら?」
「そんときゃ、実力行使に出るしかねぇな」
後ろに控えているおにいさん達が、各々の獲物を見せびらかすように構える。さて、どうするか。明らかに、新入りイジメというかたかっている感じだし...。つきあう必要はないんだけど、このままだとどこかに連れてかれてフルボッコだな。リンがいるから問題ないと思うけど、揉め事を起こしたら色々拘束されてしまうだろう。それは面倒だな・・・はあ、騒ぎになるかもだけど、しょうがないか。別に気にする必要はないからね。
「えーっと、お金を取るならちゃんとした人がいると思うので、その人にあったら払っておきますよ。あったら、ですけどね」
「・・・そうかそうか。なら、無理矢理つれていくしかねぇみたいだな!」
控えていたおにいさんがたが、俺をぐるりと包囲する。遠巻きに見ている人たちは、
「おい、やばいんじゃないか?」「あいつ、五体満足で帰ってこれるか?」「ギルドの奴を呼んで来い!」「素直に従っときゃいいものを...」
とか言っている。ギルドの人が来たら色々面倒だ、さっさと退散しよう。見ている人たちが下がってくれてよかった。
「あ、そんならもう1体従魔を呼んでいいですか?」
「別に構わねぇよ、結果はどうせ同じだからな」
「いくらユニコーンといえども、この人数相手じゃどうしようもないぜ!」
「へへへ、腕が鳴るぜ!」
「それでは、お言葉に甘えて。ルウ!」
空からルウが飛来し、俺の背後の勢いよく着地する。何人か踏んづけているけど、まあ死にはしないだろう。魔法で強化してたみたいだし。
「・・・は?」
「それでは、どっからでもかかってきてください。こいつらがお相手しますよ」
「グルルルル...」
「ブルルルル...」
ルウとリン、どちらも既に臨戦態勢だ。リンの体は電流を帯びてバチバチしていて、ルウは大きく息を吸っている。お、咆哮で威嚇するつもりだな。そんなら、喉に魔力を集中させてっと。
『GRAAAAAAA!!!』
「「「「「「ひ、ひぃいいいいい!!!???」」」」」」
魔力で強化された竜の咆哮は、敵に生物的強者に対する恐怖を再燃させる。格上や同格の相手には無力だけど、格下には効果絶大。ルウの登場で怖気づいていたおにいさん達は、その一喝によって蜘蛛の子を散らすようにして逃げていった。その場に残ったのは、腰を抜かして動くことができない、俺に話しかけてきたおにいさんだけだ。
「あ、あ、あ...」
「・・・別に絡んできただけだから、どうこうする気はないですよ」
「ほ、本当か?」
「ええ。でも、これからもここには来るつもりなので、また同じようなことをしていたら・・・食べちゃいますよ?」
ルウにバクン!と何か食べるような仕草をさせると、おにいさんは白目を向いて泡を吹きながら倒れてしまった。あら、ちょっとやりすぎちゃったかな?まあ、いい薬になっただろう。これに懲りて、まっとうな生き方をしてほしいもんだ。
「悪いな、わざわざ呼び出しちゃって」
「グルル」
「そうかい。んじゃ、面倒が起きる前に逃げるとしますか。ルウはまたどっかで待ってて、山に入ったら呼ぶから」
「グル」
ルウが飛んでいくのを見送って、俺は山への入り口へと向かった。
「いやー、危なかったなぁ。まさかあそこまで聞こえているとは...」
「グルゥ」
「ブルル」
「まあなんにせよ、こうしてちゃんと入れたことだし、張り切って魔獣退治に精を出しましょう」
「こくこく!」
マロンマ山の入り口で、入山料を取っている人に「村のほうから魔獣の咆哮らしき声が聞こえたんだが・・・何かあったのか?」と尋ねられ、「いや、知りませんねえ。大方、どっかのテイマーに馬鹿が喧嘩でも売ったんじゃないですかね?ははは」と、適当に答えて疑われつつも何とかやりすごし、無事に入山することが出来た。・・・帰りが少し心配である。
入山したマロンマ山は、岩がゴロゴロしていて赤土がむき出している、The 山道という感じであった。一応、簡単な道があったので、それから外れるように横へとそれて進み、周りに人がいなさそうな所でルウを呼び出す。どうせ戦っているところを誰かに見られるだろうが、ただでさえ村で騒ぎを起こしてるんだ。見つかって、ギルドに報告されたら困る。
気合を入れて魔獣を探し出す俺たち。だが、数十分ずっと歩きまわっていても、1体とも遭遇しない。・・・おいおい、これじゃあ来た意味がないぞ。
「何で出てこないんだろう...。もしかして、ルウの咆哮にビビッて逃げちゃったとか」
「グルルゥ...」
「ああ、別にルウが悪いって言ってるんじゃないよ。悪いのは、絡んできたあのおにいさんたちなんだから」
「ブル、ブルルル?」
「うーん、そうだなぁ...。もうちょっと高いところにまで行ってみようか。高いところの方が、強い魔獣が生息しているらしいし。もしかしたら、ここらへんにいた魔獣が上に逃げてるかもしれない」
「ブル」
山道のほうを見ると、多くの冒険者たちが下山しているところだった。魔獣の声が村の方から聞こえたので、戻っている最中なんだろう。話を聞きたいところだが・・・どうもそういう雰囲気ではない。うーん、何か変なんだよな...。まあ、とりあえず上に進もうか。そのうち分かるだろう。
標高が上がればそのうち魔獣とも遭遇するだろうと考えていたのだが・・・いくら上に進んでも魔獣1匹出てきやしない。いくらなんでもおかしすぎる、さすがにここまではルウの咆哮も届かないだろうし。妙に下山する冒険者が多かったこと、この魔獣の少なさ・・・何か起こっていると考えるのが妥当だ。
「全員、警戒しろ。このまま進むけど、いつでも引き返せるようにしておけ」
「グル」
「ブル」
「ぷる」
辺りの気配を探りながら、慎重に登っていく。そして、そいつは突然俺たちの前に姿を現した。
ルウが何かを感じ取ったのか、上空を見上げる。つられて見た空に、1つの点があった。段々大きくなっていく点、ってここに降下してきてる!?
「全員構えろ、来るぞ!」
グングン降下してくるやつのシルエットが見えてきた。長い尻尾に太い四肢、大きな翼を1回羽ばたかせただけで、降下速度を相殺し着地する。羽ばたいた時に巻き起こった突風で、体が持っていかれそうになるのを堪える。
そいつは、燃えるような朱色の鱗を持ち、俺の頭くらいの大きさの鋭い牙の間から炎の吐息をもらしている天空の王者。最強種と呼ばれることもある、赤いドラゴンであった。ルウより一回りも二回りも大きく、あふれ出る魔力も半端ではない。それだけで、膝が震えて気が遠くなりそうだ。
「・・・おいおい、マジかよ...。何でこんなところにドラゴンが」
「グ、グルルル...」
ルウも完全に気圧されている。無理もない、魔力量がおかしい。化け物っていったほうがいいぞ、こいつ...。絶対Aランク以上で都市壊滅級の魔獣だ。
『・・・ふむ。なにやら騒がしいと思って来てみれば...。このような下位の竜がいるとはな、しかも従魔ときたものだ』
「っ!?」
こいつ、人語を介する魔獣かよ!?Aランク最上位確定、最悪それ以上かも...。確か、竜を神として崇める文化があるらしく、そこで神とされているのもこのような人語を話せる竜らしい。
こんな奴を相手にして、勝てるわけがない。くそ、逃げるにしても周りに遮蔽物がないから、すぐに消し炭にされちまうよ。・・・駄目だ、どう考えても逃げられない。戦うのも無理、逃げるのも無理。ああ、もう詰んでるな...。
「くそ・・・悪いな、皆こんなところで死なせちまうことになるなんて...」
「グルゥ...」
「ブル...」
「・・・」ぶるぶる
『何勝手に死ぬ気になっとるんだ、まだ決まったわけではなかろう』
「そんな事言っても、見逃してはくれないだろ」
こうなったら、話をして活路を見出すしかない。どうせ死ぬなら、最後まで生きれる可能性を摸索してから死んでやる!
『当たり前だ。だが、たまたま会っただけで殺されるのは理不尽だろう。生き残る機会をやろう』
「機会?」
『ああ。私に見つかったからには、ただで見逃すわけにはいかない。試練を乗り越えられたなら、見逃してやろう。それだけの価値があると、その試練で証明してみせよ』
生き残るチャンスをくれるのか・・・竜の考えることは分からん。何の為にやるんだか。
「そんで、その試練ってのはどういったものなんだ?」
『3つ、種類がある。1つは力、1つは智、1つは勇を試すものだ。さあ、どれにする?私はどれでもいいぞ』
・・・まず、力は完全にアウト。どう考えても、こいつと戦わさせられる。残りは智と勇だが、どちらもアバウトすぎて内容は推測しようがない。だけど、危なさそうって意味では明らかに勇に軍配が上がる。勇気を試すってことだから、危険なことをやらされるに違いない。そしたら残るは智だけだが・・・分かる試験が出ることを祈るしかないだろう。知ってなきゃ解けない問いとかは、勘弁願いたいな。
『決まったか?早くしないと、焼き殺してしまうぞ』
「・・・それじゃ、智で」
『・・・ほうほう、智か。それでいいのか、変えられないぞ』
「構わない」
『そうか。それでは、私の後についてこい。案内する』
俺たちが連れてこられたのは、頂上の火口の中だ。どうやらマロンマ山は休火山らしく、火口に入れるようになっているらしい。今までの、冒険者が入ってきたことはないみたいだが。
火口の中央には、赤いドラゴンを全体的に小さくしたようなやつがいた。恐らく、こいつの子どもか何かだろう。本来なら赤く輝いている鱗はくすみ、ところどころ毒毒しい紫色の何かに侵されている。
「これは・・・何かの病気か?」
『多分な。だが、私には何の病気なのかサッパリだ。肉を食べさせようにも、すぐに戻してしまって、最近では口にも入れようとしない。せめて環境だけは良くしてやろうと、火の精霊で満ち満ちているここに連れてきたのだが...。一向に良くなる気配はない』
「智の試練ってのは、この子を治すってことでいいのか」
『いや、病気の原因を探ってほしい。原因さえ分かれば、何とかなるからな』
病気の原因・・・くそ、やばいぞ。そんなの、分かるわけがないだろう。
『もし分からなかった場合は・・・その身をもってこの子を元気づけてもらうとしよう』
要は餌になるってことですね、分かります。・・・さて、どうしようか...。何にもしないで食われたら死んでも死に切れない、出来ることは全部やってみよう。




