竜種と、ユニコーンを調べる、図書館で
テイムの授業が終わり、昼食を食べた後、俺は図書館に向かう。もう日課って言ってもいいんじゃないんだろうか?休みの日以外は、ほとんど毎日通ってるぞ。ここでしか、魔獣のことは調べられないからな。これからどんな魔獣をテイムしようか、と妄想するのが楽しいってのもあるけど。
「お、ツチオ君。古い支援魔法の教材が見つかったんだけど、読むかい?」
「それはまたの機会にしときます。今日は、魔獣のことについて調べたくて」
「いつもの図鑑?」
「いえ、出来れば竜種について、詳しく載っているものがいいです。後、ユニコーンについてもちょっと」
「そういえば、テイムしてきたらしね。竜種とユニコーンか・・・ちょっと待ってて」
受付の人とも、ずいぶん打ち解けた。2ヶ月ずっと通ってりゃ、自然に話すようになるからな。いつも思うんだけど、こうやって受付を放っておいていいんだろうか?というか、あの男性以外に受付をしている人を、見たことがないぞ。さすがに1人しかいないってわけじゃないだろうし・・・どこで作業しているんだ?
「はい、これとこれ。こっちにはかなり詳しく竜種について書かれてるし、こっちは実際にユニコーンを従魔にしていた人の手記だよ」
「いつもありがとうございます」
「いいって、これが仕事なんだし。それじゃ、頑張って」
受付の人が持ってきてくれたのは、『竜種一覧~レッサードラゴンからエンシェントドラゴンまで~』と『ユーリの手記』という本だ。エンシェントドラゴンって・・・目撃例がかなり少ない奴だよな。名前しか載ってないってのは、やめてほしいな。とりあえず、両方読んでみましょうか。
とりあえず、竜種一覧から開く。ルウはグラップルワイバーン、強化系の魔法しか使えない竜だ。進化するとしたら、似たような系統だろう。いきなり多くの魔法を操るドラゴンに進化!、なんてことにはならないはず。そう考えると、肉弾戦に特化した感じになりそうだ。
「ルウより下位の竜は全部除外して、魔法が得意って奴も抜く。一気に上位の竜になるとは考えにくいし、そこらへんも外れるな。最低でも下位の上から最高で中位の中、そして魔法はあまり得意でない。グラップルワイバーンは、近接戦に強い竜だから・・・可能性としては、こいつとこいつかな」
俺が考えた、ルウの進化予想。2つの可能性が上げられる。1つはバーサクドレイク。強靭な後脚はそのまま、翼はドラゴンに近くなる。1番の特徴は、たくましい腕だ。これを使って、殴ったり引き裂いたり、まさに狂戦士のように戦うらしい。バーサクとついているから、理性がないってわけではない。
もう1つは、ドラゴノイドというやつ。リザードマンのドラゴン版、みたいな感じだ。よりテクニカルな戦闘が行えるよう、人に近い形になるらしい。顔は竜っぽいし、人語も話せないみたいだが。体は鱗に覆われていて、手や足には鋭い爪がそのまま残っている。膂力も強く、バーサクドレイクには及ばないがグラップルワイバーン並みにはあるらしい。ブレスも出来るから、バランスが取れた魔獣になりそうだ。
どちらかになると決まっているわけではないが、俺的にはこのどっちかになると考えている。いや、どっちかになってほしい、って思ってます。
バーサクドレイクなら、肉弾戦でさらに優位に立てるし、地に足をつけて戦える。ワイバーンだと、どうしても空からの攻撃に頼りがちだったからな。
ドラゴノイドなら様々な状況に対処できるし、何より人型になる。最大目標である人化まで、かなりの近道になるだろう。ブレスも出来るからな、ドラゴンといったらブレスだろう、やっぱり。
「どっちがいいんだろうなー...。どっちにも長所と短所があるから、こっちのほうが絶対良い!とは言えないし...」
バーサクドレイクの短所は、やはり肉弾戦しか出来ないこと。リンでカバーすることは出来るが、攻撃手段が少ないってのは痛い。
ドラゴノイドの短所は、バーサクドレイクと比べると近接戦闘能力が低く、大きさも縮んでしまう。重さがあれば、その分攻撃の威力も大きい。これも武器でカバーできるだろうけど、使いこせるようになるまで時間がかかる。
「まあ、ルウとも相談しなきゃいけないし、こんなのがあるって分かっただけでも良しとするか」
ルウが狩りから帰ってくる前に、ユーリの手記を読みきってしまおう。ユニコーンについて書いてある場所だけ、抜き出して読み進めるか。
このユーリってテイマーは、何体かのユニコーンを使役していたらしい。従魔って、種類を揃えたほうがいいのかな?サシャ先生は、集団戦闘な得意なガルムだったけど...。今更言っても、どうしようもないか。戦い方の住み分けが出来ている、と考えればいい。
この手記の中でも特に重要なところは、ユニコーンが進化した時と、どんな魔獣になったのか、ちゃんと書かれているところだ。ユーリさんのユニコーンは、1体1体使用する魔法が違ったらしい。どの魔法を使うかは、育ってきた環境で変わるみたいだ。森林で育ったユニコーンは火の魔法を使うけど、火山の近くで育ったユニコーンは水の魔法を使用するらしい。リンは雷だけど・・・どこで育ったんだろう。水辺の近くとか?
進化したユニコーンは、元々の属性を特化させた個体や複数の属性の魔法を操る個体、さらに近接戦闘を好むような個体も現れたらしい。それ以上の進化は出来なかったみたいで、その後は進化後の生態の変化、などが書き連ねられていた。
「やっぱり、進化には複数の選択肢があるんだな。ルウやライムがどういう方向性で進化するかで、リンの進化先も変わってくるな」
ルウはその性質上、魔法はあまり使えない。遠くから攻撃するのは、自然にリンかライムの役目になってくる。リンは魔法が得意だけど、1番強い攻撃は強化しての突進だ。あの速さを避けるのは難しいし、受け止めるにしてもダメージは食らう。近接戦闘をさせるってのも悪くはないな。両立させることも、出来なくはないだろう。どっちつかずの器用貧乏にはなってほしくないけれど。
「だとしたら、ライムに魔法中心の戦い方をしてもらいたいんだが...。あいつ、どっちかといえば殴って戦う感じなんだよなー」
俺と組み手をしたがるし、金属を食わせて硬くなっている。防御に使わせようと考えていたんだが、ライムは攻撃に使用している。剣を食べていたからか、体を鋭利にすることも覚えたみたいで、木の幹に切り傷をつけているのを見たことがあるな。・・・あれ。1番成長してるのって、もしかしてライム?マーマンを食べて、仕草も人っぽくなってるし...。俺の真似をしているだけ、かもしれないけれど。
「うーん・・・やっぱり、本人にどういうふうに進化したいか、聞いてみたほうがいいな。せっかく、考えてることが分かるんだし」
そろそろルウも帰ってくるだろう、魔獣舎に行きますか。
「グルゥ~」
俺が魔獣舎に着いたのは、ちょうどルウが帰ってきた時だった。帰ってくる時間は、毎日大体同じだからな。俺も腹時計が機能してきたのだろう。
「お帰り、ルウ。怪我はしてないか?」
「グル」
「ん、それなら良かった。今、ライムとリンを連れてくるからな」
部屋から二体を出して、舎から少し離れた場所でルウのお土産を置いてもらう。今日も海に行ったのか、マーマンを数体持って帰ってきた。
「いつも悪いな。ルウは、海でちゃんと魔力を溜められてるのか?」
「グル、グルルル」
「へー、場所で強さが変わるのか。それは知らなかったなー」
ライムはもう獲物にかぶりついている。手加減して持ってくるのも大変だろう、本当に気遣いが出来る子だよな。
「リンも食べたかった?」
「ブル」
「そうなの。なら、今度の休みはリンも一緒に魔獣を倒しにいこうか。ライムにも、経験を積ませないといけないし」
「・・・ブル」
自分で食べるものは自分で取ると言うリン。うーん、何かツンツンしてるな。実習の夜は甘えてくれてたのに。
試しに顔を撫でてみる。ピクッと反応するものの、俺の膝に頭を置いたり、顔を擦り付けたりしてこない。撫でられるのが嫌なわけじゃなさそうだけど・・・どうしたんだろう。
「なあ、リン。リンは、どういうふうに進化したい?」
「ブル?」
「うーん・・・こういうふうになりたい!とか、こういうことがやりたい!みたいなこと、ないか?」
「・・・ブル」
「まあ、急に聞かれても分からないよな。何かあったら教えてくれ。ルウとライムはあるか?」
リンはまだよく分からないみたいだ。こいつらにとっては、将来の夢を聞かれるようなものなのだろう。明確なイメージを持っているほうが珍しいよな。
「グル?・・・グル、グル」
「・・・」ぷるぷる
ルウもまだ特にこれといったものはないらしい。だけど、ライムは少し考えていることがあるようだ。
「ライムはあるのか、どんなんになりたいんだ?」
「・・・・・・・・・・・・」ぷるぷる、ぷるるるる
身振り手振りで説明するライム。何となく、ルウみたいに敵を殴ってやっつけたい、という感じが伝わってきた。
「肉弾戦が出来るようになりたいのか?」
「こくこく」
「そうかー。成長したスライムは、物理攻撃が全く効かないらしいし、確かにそういうスタイルでもいいかもしれないな。問題は、どうやって威力を上げるか、だな」
「こく」
やっぱスライムだからな、あまり力強いってイメージはない。成長すればどうなるかは分かんないから、そういう路線で進めていけばいいかな。
「どういう魔獣を倒すかによって、得られる魔力の質も変わるみたいだし...。力が強い魔獣を食べていけばいいのかね」
「・・・?」ぷるぷる?
「まあ、ライムはまだまだ弱いから、これからどんどん伸びていくよ。焦らなくても大丈夫だ」
「こく」
マーマンを体全体での飲み込みながら、ライムはぷるぷると震える。俺の膝に頭を置いているルウの頭を撫でながら、リンの様子を伺う。ルウを撫で始めた頃から、チラチラとルウを見ている。やっぱり、撫でてほしいのか?でも、手を伸ばしても避けられちゃうし・・・どうすればいいんだろうな。何でリンは、今撫でてほしくないんだろう。・・・あ、少し心当たりがあるぞ。そんなら、一旦リンと1対1にならなきゃ。
「そんじゃ、俺もそろそろ飯を食いにいくかな。ルウ、ライム、部屋に戻ろう。リンは、ここでちょっと待ってて」
「グル?」
「・・・?」ぷる?
「・・・」
何でリンだけ置いていくのか、不思議そうなルウたちの背中を押して、魔獣舎の中に連れて行く。部屋に押し込んだら、すぐにリンの元へと戻る。
座ったまま待っていたリン。心なしか、俺を見る目がキラキラしているように見える。
「よし、リン。これで誰も見てないぞ」
「・・・」
彼女は黙ったまま立ち上がり、俺に近づいてくる。そして、ぐりぐりと頭を腹に押し付けてきた。
「よしよし、ルウたちには恥ずかしくて見られたくなかったんだよなー。もう気にする必要はないぞ」
「ブルゥ」
顔を撫でつつ、地面に座り込む。リンも一緒に座って、ルウのように膝の上に顔をのせた。そのまま、顔全体を包むように撫でまわしていく。
リンはツンデレみたいだ、ルウたちの前だと俺になんか興味ないってツンツンしてるけど、二人っきりなったらデレデレと甘えてくる。デレないツンデレは面倒くさいだけだが、デレてくれると本当にかわいいな。あまり好みじゃなかったんだけど・・・これはこれでアリだな!人化したときが楽しみだ。
「リン、本当にどんなふうに進化したいか、分からないのか?もし考えがあるなら、今の内に教えてくれ。あ、ないならないでいいんだぞ。無理に捻り出す必要はないし」
「ブル、ブルルルゥ!」
・・・こう面と向かって言われると、相手が魔獣と分かってても恥しいな。あなたの最善が私の最善って・・・ちょっと重いです。いや、慕われるのは嬉しいんだけど...。何で、ここまで慕ってくれるのか分からん。ルウは俺を夫だと思ってるし、ライムはテイムしてから少し時間が経っているからだけど、リンはどちらにも当てはまらない。
「何でそんなに俺に懐いてるんだ?従魔だから?」
「ブルル!ブルルゥ!」
「ふーん、忠を尽くすってことか」
「ブル!」
何でも、俺を主として認めたからには生涯をかけてお仕えする、ユニコーンの矜持にかけて、とのことらしい。忠を尽くすのではなく、この身を捧げるのだ、と訂正された。ユニコーンは誇り高いとは聞いていたが、ここまでとはな...。
「ブルル、ブルルル」
「それを聞いて安心したよ。俺じゃなくてもよかったなんて言われたら、滅茶苦茶へこんでたぞ」
もちろん、ただテイムされたからってわけじゃない、だと。自分でも、仕えるとしたらどんな人がいいか、考えていたんだろう。
「まあ、これからの参考にしたいし、一応考えておいてくれ。曖昧でもいいから、こんなふうになりたいってだけでもいいから」
「ブルルル!」
主のご期待に答えられるよう精一杯努力いたしますって...。やっぱり、何か言う事が少し重い...。もっと気軽に考えてほしいなぁ。




