授業、今日は、連携です
実習を終えて、俺たちはまた2日かけて学院に帰った。今回の移動はリンに乗ってみたのだが、これが中々難しい。鞍とかは借りることが出来たんだけど、全然乗りこなすことが出来なかった。これも練習しないと・・・やんなきゃいけないことが、どんどん増えていくな...。
学院に戻った翌日から、すぐに授業は始まる。ちょうどテイムの授業の日だった。いつものように、原っぱで授業は始まった。
「皆さん、実習で従魔による戦闘は経験できたでしょうか?出来なかった者は、すぐに手を上げなさい。補講を行いますから」
誰も手を上げない。まあ、俺んとこみたいなことでもなければ、一回は戦闘するだろうからな。
「いないようなので、話を続けます。何人かはあそこでテイムをし、従魔を増やしたみたいですが、出来なかった人も焦ることはありません。従魔が増えれば戦力は上がりますが、その分コントロールも難しくなります。自分の実力に合わせて、数を調整すればいいでしょう。出来ることならば、1年生が終わる頃には2体は使役しててほしいですね」
従魔の数は、2~3体が今のところの主流だ。中にはもっと多くの従魔を持っていたり、逆に少なかったりする人もいるけれど、それはその人の戦闘スタイルよって変わってくる。どこかのパーティーに入っているテイマーなら、従魔が多すぎるとフォーメーションを組むのが難しくなるので、少なめな場合が多いとかね。
「今日の授業では、複数の従魔を使っての戦闘の例を見せたいと思います。あくまで例なので、必ずこうすればいいってことじゃありませんからね。あなた、相手をしてください」
「え、俺ですか?」
「他の生徒の従魔だと、殺してしまう恐れがあるので」
ああ、そういう...。確かに、ルウとリンなら大丈夫だろうけど。ライムはまだ駄目、相手は多分ガルムだからな。
「皆さんはちょっと遠くまで離れててください、危険なので」
「ライム、お前も一緒に下がってて。巻き込まれたら、死にかねないからな」
「こくこく」
ライムは、取り巻いて見守っている生徒たちの傍まで走っていく。あんだけ離れてりゃ、大丈夫だな。
「相手の魔獣を抑え込んだら勝ちです、くれぐれも力加減には気をつけてくださいね」
「分かってますよ。先生は何体のガルムで戦うんですか?」
「そうですね・・・3体にしておきましょう。6体なんかでやったら、勝負になりませんからね」
その通りだ。群れでAランクの上に、使役者の技量も高い。こっちはまだテイムしてから日が浅いし、一回もリンを使役して戦ったことがない。どういうことが出来るかは聞いといたけど、まだまだ連携なんて出来るわけがない。正直、勝ち目は0だ。俺もそこまで自分の力を過信していないからな。
「マグ、ミグ、ムグ、出てきなさい」
先生の影から、三体のガルムが飛び出してくる。マグってのが群れのリーダーなんだよな・・・あとの2体はメグ、モグだな。最後の1体はなんて名前なんだろう。
「それでは、始めましょうか」
「あ、ちょっと待ってください。作戦会議するんで」
「・・・手短に済ませてくださいね」
「分かってますよ」
ルウとリンの顔を近づけてもらう。さて、たとえ負けるにしても出来るだけ食い下がりたい。少しは見返してやりたいしね。
「よし、リン。ルウは空中から降下攻撃を仕掛けるから、お前は魔法で牽制を頼む。チャンスがあれば、攻撃を仕掛けろ」
「ブル」
「ルウは今言った通り、空中からの攻撃だ。もし避けられても、そのまま肉弾戦に移る。相手は連携して攻撃してくるだろうけど、何とか捌くぞ。俺もちょっかいをかける」
「グル?」
「ああ、あれだ。肉弾戦になったら、リンはガルムたちに横槍を入れてくれ。そこらへんの判断は任せる」
「ブルル」
「よし、いくか。先生、もういいですよ」
ルウの背中に乗り、リンを前に出させる。初めての格上との戦闘、いい勉強になりそうだ。
「それでは、合図をお願いします」
「あ、はい。分かりました。えっと、それでは・・・始め!」
女の子が開始の合図を出すと共に、俺たちは空へ飛び上がり、リンは雷の矢を発生させる。あの魔法はかなり出が速く、魔力の消費も少ないそうだ。
先生が一声かけると、ガルムたちは統率された動きで散開し、右・正面・左からリンへと駆ける。さて、援護しましょうか。
「精霊よ、我が僕に風の疾さを与え敵の腕を置き去れ、風脚」
リンの四肢が風をまとう。これで動きが速くなるから、接近された時の保険にはなる。それにしても、効果の割にはどうしても大仰な詠唱になっちまうな...。もっとイメージをハッキリさせないと。
「ルウ、リンが魔法を撃って、ガルムがかわしたところを叩くぞ。用意しとけ」
「グル」
リンが雷の矢を、2本ずつガルムに向かって放つ。かなりの速度で放たれた矢だったが、先生はすでに対応している。ガルムたちはスピードを落とさず、最小限の動きでかわす。
だが、リンの魔法はそれで終わりではない。避けられた矢は空中で停止、クルリと方向転換して再びガルムたちに向かって放たれる。そのまま飛んでいくような矢なら、リンはもっと数を増やして避けにくいようにしているさ。
後ろから飛んでくる矢だったが、先生からは見えている。すぐに反応され、横に飛んでかわされてしまった。だが、動きは止めることが出来た!
「ルウ!」
「グル!」
翼と足に魔力を集中、一気に急降下し右に行ったガルムを狙う。こいつは・・・多分ミグだな。
「ムグ」
「ガルゥ!」
先生が魔力を送ると、着地した直後だったガルムの影がうごめき、数本の槍となる。そのままルウを刺そうとしてきたが、
「リン!」
「ブルル!」
リンが矢を操り、ガルムの足を射抜く。くぐもった悲鳴を上げるガルムだが、槍はそのまま固定されたままだ。っち、しょうがない!
足の魔力も翼へと移し、攻撃を止め大きく左へ方向転換。そのままの勢いで、左へと散ったガルムへタックルをかます。
いきなり横から突っ込んだのだが、ガルムは真正面から受け止め、その上ルウの肩へと噛み付いてくる。さらに影を棒のようにして、ルウの腹へとぶち込む。たまらず悲鳴を上げるルウ。くそ、前脚がないから対応し辛い!
「リン、こいつを引っぺがしてくれ!」
「させませんよ」
リンに吹き飛ばしてもらおうとしたのだが、2体のガルムの相手で手一杯だ。むしろ、段々押されてきている。・・・やるっきゃないか!
「リン、ちょっと魔力もらうぞ!」
魔手でリンの体から、魔力を貰い受ける。普通のテイマーだと送ることしか出来ないが、俺は違う。魔手で従魔の魔力を、もらうことも出来る。そして、これにはある1つの特徴があるのだ。
ルウから飛び降り、地面を強く蹴る。すると、俺の体は矢のように加速し、一瞬でリンを襲っていたガルムへとたどり着き、その体へと拳を叩き込んだ。
その特徴とは、魔手で魔力を貰った時、その魔力の持ち主の体にかかっている魔法の影響も、そのまま引き継がれるということだ。今の場合、ルウが使っていた身体強化魔法が俺にも作用した、ってことだ。多分、魔力を介して効果が発揮されるからだろうな。妨害系の魔法の効果も、そのまま引き継ぐと思う。
「おらぁ!」
体術なんてやってない素人パンチだけど、ルウの身体強化は強力だ。奇襲だったこともあって、まともに殴り飛ばされるガルム。よし、先生にも予想外!
「リン、行け!」
その隙にリンは一気にルウへと駆ける。俺の横を通り過ぎたときに、背中に飛び乗らせてもらう。
「魔手にそういう使い方もあるんですか、知りませんでした。中々の奇策ですね。ですが・・・まだまだ詰めが甘いですね」
リンを襲っていたもう1体のガルムが、リンの前へと先回りする。押し通ろうとしたのだが、後ろから俺が殴ったガルムに飛び掛られ、リンが転倒してしまった。そのまま脚で押さえつけられ、影で拘束された。
ルウはガルムに噛み付き返し応戦していたのだが、他のガルムに加勢に来られてはなす術もなく押さえつけられてしまった。
「皆さん、ちゃんと見てましたか?このように、複数の従魔を使役していても、連携が出来ているか否かでここまでの差が出ます。まずは1体の従魔でちゃんと戦闘が出来るようになってから、従魔を増やしたほうがいいですね。ツチオさん、お相手ありがとうございました」
「はあー・・・やっぱりまだまだですね」
「当たり前です。でもまあ、魔手を使った奇策はお見事でした。あれは予想外でしたね」
お、この先生が褒めるなんて珍しいな。いやー、嬉いね。
「でしょでしょ?先生も見事に引っかかりましたもんねー」
「・・・ですが、奇策はあくまでも奇策です。それ一つで戦況をひっくりかえすような力はありません」
「奇策は重ねてこそ奇策、ですか...」
「その通りです。第一、強化されてるとはいえあなたの拳で、ガルムがダメージは負いません。それに、主がやられたら従魔はどうしようもないのですよ」
「はい、その通りです...」
「相手の意表をつくのも大事ですが、それは基本がちゃんと出来てる上でやることです。あなたみたいなひよっこは、基本に忠実なくらいがいいんです」
「いや、俺はまだ連携の練習はしてないんですけど...」
「何か文句でも?」
「いえ、何でもございません...」
「そんなことは分かっています。ですが、あなたの戦い方は格下相手には通用するでしょうけど、格上相手には全く通用しません」
まあね...。ルウのスペックで押し勝ってるみたいなもんだし。
「グラップルドラゴンは身体強化しか魔法が使えませんし、ドラゴン特有のブレスも出来ません。ちゃんとユニコーンと連携させないと、長生きできませんよ」
「肝に銘じておきます」
「そうしてください。・・・まあ、筋は悪くありませんから、これから精進してください」
「・・・うっす」
「それじゃ、組を作って模擬戦を行ってください!私は見回ってます。あなたは従魔を休ませておきなさい、結構消耗してますから」
「分かりました、見学してます」
そう言って、先生はガルムを影に戻してから、生徒たちの間を歩き出した。ルウとリンはかなりへばっている、やっぱり格上相手はかなり疲れるみたいだ。遠くで見ていたライムは俺へと近づくと、ももをぺしぺしと叩いてくる。
「どうした、ライム。模擬戦、したいのか?」
「・・・」ぷるぷる
「・・・もっと強くなってルウたちと一緒に戦いたい、か...。よし、んじゃ誰かに相手してもらおうか」
ライムも頑張ってるけど、やっぱりルウたちとの差は大きい。金属や毒を食べても、魔力が増えるってわけじゃないからな。やっぱり、ちゃんと魔獣を倒さないと。生物としてのランクを上げなきゃ、いつまでたってもスライムのままだ。
「ライムの進化は第一だよなー...。やっぱり、楽して出来ることじゃないよな」
地道に魔獣を倒していくしか、道はないよな。というか、ルウが持ってきてくれてる魔獣で、そこそこ魔力は獲得しているはずなのに...。もしかして、もう進化してたりして。人型に変化したし。
「なあ、ライム。お前って、進化してるのか?」
「・・・?」ぷるぷる?
分かんないか...。
「んじゃ、何か強くなったなーって感じはしたことある?」
「こくこく」
やっぱり。もう進化してたんだな。その割には、大きく魔力が増えてないんだけど...。まだまだ弱いから、増える魔力も少ないのかな。
「もっとハッキリとした変化がほしいよなー。体の色が変わったり、性質が変わったりとかさ。ルウは、進化したらどんな感じになんの?」
「グル?・・・グルル」
まあ、強くはなるだろうな。具体的には分からないんだろうか?また図書館で調べてみよう。




