遺品、後始末、帰還
死体の処理は1時間ほどで終わり、俺は冒険者たちが持っていた道具を地面に並べて確認している。一覧で出してみると、
・青年とおっちゃんが着ていた革鎧、眼鏡と女性が着ていたローブと法衣
・同じく青年の剣、おっちゃんの大剣、眼鏡と女性の杖
・青年と眼鏡が持っていた鞄
・藪の近くに置かれていた背負い袋
これだけだ。背負い袋には魔獣の素材が入ってたから、多分狩った魔獣の素材を剥ぎ取っておいたのだろう。回復薬とかはどこにあるんだ?
「とりあえず、この鞄の中身を確認しとくか」
鞄は黒い革で作られていて、ベルトで腰に取り付けるようになっている。そんなに大きくないから、大したものは入りそうにないな...。
鞄を開けて、中を見る。真っ黒な空間が広がっていて、何が入ってるのか分からない。手を突っ込んでみると、見た目以上に広い空間が広がっていた。
ひっくりかえして振ってみると、どさどさどさと色んな物が出てくる。緑や青色の液体が入ったビンや、小さく折りたたまれた地図。茶色いパンのような食べ物、テントとかも落ちてきた。
「こりゃ・・・マジックアイテムってやつか。中の空間が広がってるのか?」
青年のほうも同じような中身だ。こっちには青い液体が入ったビンはないけどな。多分魔力を回復する薬なんだろうな。
「こんな高そうなもの、何でこのパーティーが持ってんだ?Cランクって結構高い?」
この鞄は、青年たちがかなり奮発して買った物なのだが、それをツチオが知ることはないだろう。
「まあ、貰える物は貰っておこう。剣はライムにあげるとして・・・革鎧とローブはどうしようか」
おっちゃんのは焦げていて、他のは全て穴が開いている。使えなくもないけれど、繕わなければいけないな。
「とりあえず保留だな。鎧と法衣は、ライムに食わせちゃうか」
必要そうな物は全て鞄の中に突っ込み、いらない剣とかは全てライムに食べさせる。消化するのに、さらに時間が必要そうだな。
「あ、そうだ。この魔獣の素材もいらないし、食べちゃってくれるか?もうお腹いっぱい?」
「ふるふる」
首を横に振りつつ、背負い袋を俺から受け取るライム。ずいぶんと食いしん坊になってしまったな...。
「んじゃ、ライムが食べてる間にお前の名前を決めちゃうか」
「ブル」
「いらないって言われてもな。一々ユニコーンって呼ぶのは面倒くさいからな。名前がないと困るの」
「・・・ブル」
なら、適当に決めてくれって...。ぶっきらぼうな奴だなー。
「そうだな・・・メスの一角獣なんだし、リンがいいんじゃないかな」
日本の一角獣といえば、陰陽道に伝わっている麒麟がメジャーだろう。麒麟というのは雄雌二体で一組であり、オスが麒、メスが麟という名前らしい。だからリン、シンプルイズベスト!
「・・・ブルル」
ふふ、つれない態度だけど満更でもない感じだな。素直じゃない奴め。
「ブルルル」
「んー、別になんでもないよー?ニヤニヤなんかしてないよー」
「ブル...」
こりゃ、人になったらツンデレそうだな。名前もリンだし。
「しかし、ルウの鱗が貫かれたのはこれが始めてじゃないか?万全の状態で戦ったら、どっちが強いんだ?」
「グル!」「ブル!」
うわ、どっちも自分だ!って主張しだした!
「グル、グルルルル!グルル、グルルルルゥ!」
「ブルル、ブルルルル!ブルルル、ブヒーン!」
激しく言い争っているルウとリン。おおまかに翻訳してみると、
「こっちは空を飛べるし、近接戦闘なら負けない!一番強い技でも、倒すことは出来なかったし!」
「空を飛んでても、魔法で撃ち落せる!万全の状態だったなら、この角の汚れにしてたものを!」
大体こんな感じ。この角の汚れってのは、剣の錆にしてやる的なことか?
「グルルル、ガルルルラア!」
「ヒヒヒーン、ブルルル!」
あー・・・ちょっとお聞かせできない言葉が飛び交ってますね。というか、お前たちどっちもメスだろ!?女の子が言っていい言葉じゃありません!
「どっちも落ち着いて!どっちも強いのは分かったから、な?」
「グルルルル」
「ブルルルル」
間に割って入り、ルウとリンを引き離す。どっちも歯を向いて唸りあってるよ...。恐いなぁ...。
「ったく...。何でそんなに喧嘩腰なんだよ...。学院で喧嘩なんかしないでくれよ?」
「・・・グル」
「・・・ブル」
うわ、お互いに相手のほうを見ようとしない。目にも入れたくないってか?心配だな...。ライム、早く戻ってきてくれぇ!
さらに1時間半ほどかけて、ライムはいらないものの消化をし終えた。やっぱり、まだまだ無機物の消化には時間がかかるな。実際、魔獣の素材の消化はすぐに終わってたし。
「・・・ライム、何かさらに人間っぽくなったな」
「こくこく」
初めて人間を消化したからか、体の形がより人間に近づいた。今までは2~3頭身くらいの、ちびキャラみたいな感じだったけれど、今は4~5頭身くらいだ。体も大きくなって、俺の腹に頭を当てている。何というか・・・子どもみたいだな。
「それじゃ、皆も待ってるだろうし、さっさと戻ろうか。もうすぐ完全に日が落ちる」
「・・・」ぷるぷる
「グルルル...」
「ブルルル...」
「こらー、そこ。いつまでもいがみあってないで、さっさと戻るぞー」
はあ、前途多難だな...。リュカたちにリンのこと、なんて説明しようかな...。
「あ、ツチオ君!おかえりー!・・・あれ、何か増えてない?ライムちゃんも、一回り大きくなってるし...」
「遅いでありますよー、ツチオ殿!・・・何か増えてるであります!?」
「どうしたんですか?あ、ツチオさん!・・・ユニコーン?」
ルウが歩いてきた後を戻っていき、迷うことなくリュカたちの元へ戻ることが出来た。こんなに暗くなってるのに、移動しないで待っててくれたんだな。
「ああ。こいつがルウが感じてた怪しい魔力の正体だよ」
「ユニコーンだったんだ...。連れて来たってことは、テイムしたのかな?」
「テイムしたよ。名前はリンな」
「ユニコーンをテイムしたんですか!?すごいですね...」
「俺の力じゃねぇけどな。ルウのおかげだよ」
リンのたてがみを撫でる。さらさらで気持ちいいなー。
「ライムちゃんが大きくなったのは?」
「えーっと・・・リンが狩った魔獣をライムにあげたんだよ」
「ブル?」
「へー、だから魔獣が全然いなかったんだね」
リンが疑問の声を上げるが、とりあえず無視。後でちゃんと説明しとかないとな。
「ツチオ君が無事帰ってきてくれた良かったけど、もうすっかり日が落ちちゃったねぇ。今から移動するのは、危ないね」
「んだな。今日はここで寝ようか。リンがいりゃ、魔獣は近づいてこないだろうけど、一応見張りは立てとこうか。俺は一晩中、見張りに立つよ」
「そんなの大変でありますよ!ちゃんと寝なきゃいけないであります!」
「そうですよ、明日の夕方までが実習なんですから」
「でも、俺の所為で動けなかったんだし...」
「しょうがないよ、放っといたら危なかったんだし。寝ぼけながら見張りされたら、堪らないもん」
「んー・・・分かった。その代わり、俺が一番長く時間やるよ。大体、2時間くらいで交代な」
「最初は僕とトリスちゃんでやるよ。その後、ツチオ君とファルがお願いね」
「分かりました!任せてください!」
「ああ、一応ルウを起こしとくから。俺たちのときは、リンに起きててもらえばいいし」
リンはまだ人に慣れてないからな。まだリュカとトリスに慣れてる、ルウのほうがいいだろう。
「それじゃあ、まずはご飯を食べようよ!肉はないけど、野草や茸はいっぱいあるよ!」
「焼いただけでも、けっこうおいしかったですよ」
「結局、毒茸しか取れなかったであります...」
ここまでいくと、最早毒茸ホイホイだな...。一応、食べる前に確認しておこう。
「ツチオ君、起きてー」
「んー?・・・なんだ女神か...」
「もー、寝ぼけてないで起きてよー」
「いやいや、寝ぼけてないって。事実だって」
真夜中にリュカに起こされる、もう2時間たったのか...。
「ふう...。あれ、トリスは?」
「もう寝ちゃったよ。僕も、ふわぁー...。もう限界...」
「お疲れ様。ファルは俺が起こすから、リュカはもう寝な。お肌に悪いぞ」
「また女の子扱いしてー...。僕は男だー...」
「はいはい、お休み」
横にならせると、すぐにすやすやと寝息を立て始めるリュカ。こりゃ、朝まで起きそうにないな。さて、ファルを起こすか。
「おーい、ファルー。見張りの時間だぞー」
「んんんー...。ふわぁー、おはおー」
「まだ夜だけどな」
低血圧なのか、起きたもののボーっとしているファル。女の子みたいな奴だなー...。
「ああああー....」
「涎出まくってるぞー。頑張れ、寝るな!」
「がんばうー...」
・・・駄目じゃね、これ?
「すいません、どうにも寝起きが悪くて...」
「気にすんな、こんな時間に起きるほうが珍しいし」
「それにしては、ツチオさんは全然眠そうじゃないですけど...」
「慣れてるからな」
深夜アニメの再放送、午前3時とかにやっててもリアルタイムで見てたこともある。当然、その日の授業は睡眠時間だ。今思うと、我ながら馬鹿馬鹿しいことをやっていたものだ...。中二ってすごい。
リュカとトリスが寝ている場所から、少し離れたところに座る。リンは俺の隣に座り込み、頭を膝の上にのせてきた。なんだ、撫でろってことか?
「・・・それにしても、ユニコーンをテイムするなんてすごいですね...。もうけっこう懐いてますし」
「いや、これは懐いてるから撫でてるんじゃなくて、ご機嫌を取るために撫でてるんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。俺たちテイマーは、従魔なしでは生きていけないからな」
リンの頭を撫でる。馬を撫でたことはないけれど、気持ちよさそうにしてくれてるな。良かった。
「へー...。家族みたいなものなんですね」
「・・・そうだな。俺にとって、こいつらは家族同然だ」
親にはもう会えないんだし、実際こいつらが家族みたいなもんだろう。こうなると分かってたら、もっと親孝行してたんだけど...。
「ツチオさん、ご家族はどこに住んでいるんですか?」
「あー・・・かなり遠いところだよ。すっごく遠い」
「王国出身じゃないんですか!?」
「そうだよ。顔立ちとか、全然違うだろ?」
「そういわれてみれば、黒目黒髪って珍しいですね...。はー、そうだったんですか...」
そういや、黒髪の奴は見たことあるけど黒目はあまり見ないな。
「わざわざ外国から、王国の学院に来たんですか」
「一人で旅してたんだけど、道中で色々あってな。ここを紹介されたんだ」
騎士団長にも同じような説明をしたっけ。元気でやってるかな...。
「そーだったんですか...。大変ですね」
「学院は楽しいから、来てよかったって思うよ。ファルは学院を卒業したら、何かなりたい職とかあるのか?」
「え、僕ですか?僕は・・・父の後を継ぎたいです」
ファルの親父さんは、確か黒熊族の戦士なんだったな。ってことは、戦士になりたいのか。
「でも、父や母は反対してて。お前が戦士になる必要はないって。応援してくれるのは、爺ちゃんだけでした。この学院に入れたのも、爺ちゃんのおかげです」
「何で親父さんたちは反対してるんだ?」
「兄たちが皆、戦士になっているからって、お前まで戦士になる必要はないって」
はあー、なるほど。多分親父さんは、ファルに騎士団に入ってほしいんだろう。騎士ってのは、自分にも世間的にもいい仕事だもんな。あの騎士団長さんを見てれば分かるよ。
「まあ、親父さんもファルのためを思って言ってるんだしな。そう嫌ってやるなよ」
「それは分かってますけど...。僕は、父のような戦士になるのが、昔からの夢だったんですもん」
「そう簡単に、夢は諦められないよな...。頑張れよ、応援するよ」
「ありがとうございます!」
まあ、俺の応援なんて大したことじゃないんだけどね...。組み手くらいしか出来ないし。
「ツチオさんにも、何か夢はあるんですか?」
「え、俺の?」
「はい!」
どうしよう、モンスター娘ハーレムを作るなんて言えねえよ。そうだな...。
「俺の夢は・・・こいつらを魔人にまで育て上げることかな」
「魔人って・・・確か、数多の生き物を食らった魔獣が進化した姿、ですよね?」
「まあ、そんなもんかな」
多くの魔獣を倒すことで、進化するみたいだし。魔人になった魔獣たちで、ハーレムを作る予定だし。
「それはまた・・・途方もない夢ですねぇ...」
「確かに途方もないが、不可能ってわけでもない。実際に、魔人は確認されているわけだしな」
「それはそうですけど、かなり大変でしょうね...。頑張ってください」
「おう、頑張るぞ。ファルが応援してくれるなら、出来そうな気がしてきた」
「ええ!?そ、そんなにですかぁ!?」
俺も負けてらんないな。絶対に人化させてやるぞー!