攻撃、詠唱、支援
ようやく書きあがりました。遅くなってしまいすいません。
ライムが人型になった翌日。魔法の授業は、原っぱで行われた。ここ、かなり使われてるな。訓練所だと、全員入りきらないからな。
「それでは、授業を始めるぞい。今日から、本格的に魔法を使う。全員、魔力を動かせるようになってるか?」
誰も否定しないので、ゴーシュ先生は話を続ける。
「それでは、魔法について説明しよう。魔法とは、精霊にして欲しいことを伝えて、様々な現象を発生させることじゃ」
精霊?また分からん言葉が出て来たな...。
「精霊とは、どういうもの何ですか?」
真面目そうな男の子が質問する。
「精霊とは、世界そのものじゃよ。山・川・森など、あらゆる物に宿っておる。エルフは精霊と会話出来るので、直接して欲しいことを伝えられるわけじゃ」
それが所謂、精霊魔法ってことか。
「そうなの?」
「うん、聞こえるよ。話すことだって出来るし」
さすがエルフってところだな。
「どのように使えるか、それはイメージと言葉じゃ。精霊は人の考えていることが分かるから、それで何をして欲しいか伝えるのじゃ」
イメージが大切ってことか。じゃあ、言葉は?
「じゃが、イメージだけでは伝えるのは難しい。そこで、言葉を使ってイメージを補うわけじゃ」
逆に言えば、イメージがしっかりしてれば言葉はいらないってことだ。妄想なら得意だ、俺の時代が来たか!?
「それじゃあ、見本を見せるぞい。精霊よ、風で敵を撃て、風弾」
小さな風の球が出現する。おお、あれが魔法か...。想像していた通りだな。
「これは風の魔法の基本、風弾じゃ。魔力を調整することで、こんな風に小さなものから」
今度はかなり大きな風の弾が出てくる。ゴーシュ先生が木に向かって撃つと、高速で飛んでいき、木に当たってバァン!と大きな破裂音をあげる。
「このように、大きなものまで出すことが出来る。まあ、儂は風魔法のスキルを持っとらんから、そこまで威力は上がらないのだがな」
スキルを持っていなくても、あんだけの魔法が撃てるのか...。まあ、俺は魔力が少ないから、それを増やすことから始めないと。
「それじゃ、まずは全員でこの魔法を練習するぞ。ここに一列で並ぶのじゃ」
皆が横一列に並ばされる。まあ、当たったら危ないから、当然決まった方向に撃たせるのだろう。
「スキルを持っていない者もおるだろうが、とりあえずやってみるのじゃ。詠唱は、最初の『精霊よ』と最後の『風弾』さえ入れれば、間の言葉はどのようなものでも構わない。エルフは、風弾だけでもいけるかもしれんの」
自分で考えるのか...。ちょっと、いやかなり恥ずかしいな...。とりあえず、先生のを真似してみるか。
「んじゃ、やってみせい」
先生がそう言うと、生徒全員が一斉に詠唱を始める。さて、俺のやってみますか。
まずは大きさを決める。大体、テニスボールと同じ位でいいかな。そして、それを風が球になっているよう、想像を膨らませる。
「精霊よ、風で敵を撃て、風弾」
俺の手に、ゴルフボール大の風の弾が現れる。むう、思ってたより小さいぞ。使った魔力は・・・二割くらい?ホント、魔力が少なくて困っちゃうよ...。
「風弾!・・・うん、まあこんな物だね」
「精霊よ、風で敵を撃て、風弾!・・・ううう、出来ないでありますよー...」
リュカはハンドボールくらいの大きさに風の弾を出し、トリスは発動しなかったみたいだ。俺は、発動しただけ良かったのかな。
「リュカのは大きいな...。さすがエルフってとこか」
「ツチオ君だって、スキルがないのにちゃんと発動するって、けっこうすごいことだよ!」
「そうなのか?まあ、イメージがしっかりしてたんだろうな」
「イメージでありますかー...。難しいでありますよー」
込めた魔力が尽きたようで、風の弾が霧散する。ふう、持続させるのもけっこう難しいな。
「出来たか出来なかったかは抜きにして、全員魔法を試したようじゃな。出来なかった者は、手を挙げてみい」
半分以上の生徒が手を挙げる。スキル持ちは全員出来るだろうから、こいつらは持っていない奴らだな。
「ふむ...。このくらいの魔法ならスキルが無くても撃てるじゃろうから、悪いのはイメージや言葉じゃろうな。そこの、なんて詠唱した?」
先生が手を挙げていた元気そうな人間の男の子を指す。
「え!?えっと、先生と同じのです」
「いかんのぉ。ちゃんと自分で考えて、一番しっくりくるものでなくては、上手く魔法は使えんぞ。とりあえず、撃てなかった者は工夫して撃てるようにする。撃てた者は、詠唱を短く出来るようにする、今日はこれをやってみようか」
支援魔法を教えて欲しかったんだけど・・・まあいいか。とりあえず、使う魔力を減らせるよう、頑張ってみるかね。
「ツチオ殿、どういう風にすればいいんでありますか?」
「いや、自分で考えろって言われてただろ」
「でも、一から考えるのは大変でありますよ。リュカ殿は?」
「うーん、やったことないから分からないなー。ほら、僕エルフだから、詠唱ってあまりしないんだよね」
「そうでありますか...。うーん、どうすればいいんでありましょう...」
とりあえず、俺も一言で魔法を使えるようになりたい。イメージを鮮明に描ければ、言葉だっていらないと思うんだけど...。やってみよう。
さっき出した風弾を、頭の中にはっきりと思い浮かべる。そしてそのまま、
「風弾」
と一言呟く。すると、一回り大きくなった弾がでてきた。大きくなったってことは、言葉に魔力が込められているってことか?
「ツチオ殿が一言で魔法を出したでありますよ!?」
「ツチオ君、本当にスキルを持ってないの?」
「持ってないよ...。それに、これってすごい集中しないと出来ないよ。リュカはあっさりやってるだろ?」
「そりゃそうだけど...。それでも、スキルなしで一言はすごいよ。よっぽどイメージがハッキリしてるんだね」
まあ、オタクにとって妄想ってのは、格好の暇つぶしだからな。自然と想像力は鍛えられるんだよな。
「ううう、分かんないでありますよー」
そろそろトリスを放っておくのも可哀想だな。ちょっとは考えてみるか。
「そうだなー・・・精霊よ、敵を撃つ風の弾を現せ、風弾、とか?」
「精霊よ、敵を撃つ風の弾を現せ、風弾!」
「まんま言うなよ」
トリスの手に小さな弾が現れる。え、あれで出来たの?ちょっと捻っただけなのにな...。
「出来たでありますよ、ツチオ殿!出来たであります!」
「よかったなー、トリス。それじゃ、もっと短く出来るよう頑張ろうか」
「でありますな!」
昼の鐘が鳴ったので、その日の魔法の授業は終了した。トリスはずっと頑張ってたけど、あれ以上短縮させることは出来なかった。
「悔しいでありますよ...」
「まあ、トリスは魔力の操作を練習する為に、魔法の授業を取ってるんだろ?そっちのほうを頑張れよ」
「そうだよ!剛体とかを集中して鍛えればいいじゃん!」
「そうでありますけど...。ちょっとくらい、使えるようにはなりたいであります」
「まあ、俺も攻撃魔法を多少は使えるようになりたいから、その気持ちは分かるけどな...。昼飯が冷めるぞ、早く食べよう」
後で図書館に行って、支援魔法のことでも調べてみるかね。この前見たのは、基本的なことしか書いていなかったし。ライムにご飯をあげたら、いってみようかね。
ライムに剣と薬草、水をあげてから図書館に向かう。今日も食欲は旺盛で、よく剣を食べる。気に入ったのか?溶解液入りの水も大量に飲んでるので、身体も大きくなってきた。
「こんにちは、今日はどんな本を探しているのですか?」
図書館の受付の人が、俺を見ると話しかけてくる。いいね、こういうの。
「支援魔法に付いて書かれている本です。今日魔法の授業があって、ちょっと興味がありまして」
「そうなんですか。ちょっと待っててくださいね」
受付の男性が本を取りに行く。どこのあるか行ってくれれば、自分で取るのに...。
「これが色々載ってておすすめですよ」
そう言って持ってきたのは、辞書ほどの厚さの本。・・・厚いな。
「こんなに大量にあるんですか?」
「支援魔法は、あまり分類分けがなされていませんからね。一冊の本にまとめてしまうと、ここまでの量になります。そういうせいか、難しい魔法も一緒くたになって、まとめられちゃってます」
「・・・支援魔法って、どういうものがあるんですか?」
支援だから、味方の能力を上げたり、行動を助けるものとかじゃないの?バフ的な。
「えっと、能力を向上させるものや行動を助けるもの。あと敵を妨害するのとか攻撃を防ぐものもありますし、呪いとか分類し辛いものも、支援に含まれていますね」
「呪い!?いや、それは全然違うでしょう...」
敵を妨害するのはまだいいとしても、呪いとかは違うんじゃないか?まあ、どっちもデバフって考えたら似たようなものだけど。
「魔法というのは、攻撃・回復・支援に分けらています。この中で攻撃と回復はすごく研究が進んでいるんですけど、支援っていうのはあまり研究されていないんですね」
「そりゃまたどうして。味方の能力を上げれば、戦うのも楽じゃないですか」
「まあ、色々理由はあるんですけど...。攻撃魔法が優遇されている理由は明白ですね」
「何ですか?」
「派手じゃないですか、攻撃魔法。支援魔法は地味ですからね」
・・・まあ、確かに地味そうだな。魔法って聞いたら、攻撃魔法を思い浮かべるし。どうせやるなら、派手でかっこいい方をやりたいか...。
「回復魔法は絶対に欠かせませんから、研究はされます。でも、支援はあくまでも支援。必ず必要ってわけじゃないですからね」
「確かに、その通りですね。けど、地味だからって軽視するのはよくないでしょう...」
「まあ、他にも理由はありますよ。支援魔法っていうのは、集団相手に使えるものが少ないんです。特に、能力を上げるようなものは。攻撃魔法には範囲攻撃用のものもあるので、もっぱらそれを強化するための研究に、力が入れられるんです」
「範囲攻撃が出来る魔法を、支援魔法に転用は出来ないんですか?」
「されてはいますけど、結果が出るにはまだまだ時間がかかりそうです。国は、出来るだけ早く結果を出して欲しいんですよ」
「何でそんなに急ぐんです?」
「決まっているでしょう、戦争の際に使えなければ意味が無いからですよ」
ああ、なるほど。理解した。確かに戦争だったら、味方の兵を強化するより、敵を殺したほうが手っ取り早い。どこの世界でも、戦争が起こると技術が進歩するんだな。
「それじゃあ、冒険者の方は支援魔法を使いますか?」
「よく使うと聞きます。少数や強力な魔獣の相手なら、能力の強化が活きてきますしね。パーティーは多くても十数人なので、かけるのもそんなに大変じゃないですし。中には、独自でオリジナルの魔法を作っている人もいるみたいですよ」
「そうなんですか、色々話を聞いてみたいですねぇ。この本、ありがとうございます。とりあえず読んでみますよ」
「いえいえ、これが仕事ですから。勉強、がんばってください」
本を机の上に置き、目次を見る。一応、効果の種類で大まかに分けられているようだ。ざっと流し読んで、気になるものだけ詳しくみてみよう。
量が多かったので、流し読んでいくつか詳しく見ていただけも、けっこうな時間を費やした。本を閉じたのは、太陽が傾き始めて日光が少しオレンジっぽくなる頃だった。そろそろルウが帰ってくるだろう、魔獣舎に移動しよう。
いくつかの魔法をメモって本を返し、図書館の外に出る。魔獣舎の前に着いたのは、ちょうどよくルウが空から降りてきたときだった。今日も海に行ってきたみたいだ、大きな魚を二匹持ってきている。
「今日もお疲れ様。また海に行ってきたんだな」
「グル」
「鱗が塩でベトベトになってるぞ。後で洗ってやるからなー」
「グルゥ!」
ライムを連れてきて、魚を食べさせる。やはり強化されているようで、溶かすスピードが早くなっている。この調子で、どんどん強くなってほしいもんだよ。ルウも強くしてやりたいんだが、元々強い上に俺は学院からあまり離れられない。しばらくは、狩りを続けてもらうしかないな。
「ルウ、今度は人っぽい魔獣を持ってきてくれないか?ライムに食べさせてみたいんだ」
「グル?グルルゥ...」
人っぽいのは肉が少ないから、あまりいい獲物じゃないのか。まあ、食事のために取ってきてもらってるわけじゃないし、そこは気にしなくてもいいな。
「だから、次は人っぽいやつを頼む。見かけたらでいいからな?無理に探す必要はないぞ」
「グル」
「ライムも、ルウにちゃんと礼を言っておくんだぞ」
「・・・」ぷるぷるこくこく
うなずくライム。これで是非とも人型に近づいてほしいもんだな。
そろそろ話を進めていきたいです。