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破壊の暴嵐

クライマックスです。日本語で言うと、最大の泣き場です。泣く要素はありませんが。

空を引き裂く雷のように飛び、業火さんに迫るグランニール。あの巨体では、懐に入られたらどうしようもないと考えたのだろう。開幕から一切離れていない。少し遠間になることはあるが、攻撃が来たら瞬時に回避出来る位置を取るようにしている。

そんな攻撃を受けつつ、業火さんは基本ブレスで迎撃している。目の前に灼熱の膜を張り、自分へ近づかせないように。少し離れると、容赦なく熱線をぶっ放すから、竜の魔力の底知れなさが伺える。通常攻撃が、断絶さんが絶対壊れないと言う空間の床を融解させ天を貫く火柱を上げるブレスなんだからな・・・俺だったら、あれにどうやって対応するか...。当たらなければどうということはないって、かなり滅茶苦茶なことを言ってるんだよね。戦闘における一種の真理ではあるんだけど、実行するのは至難の技だ。

直撃すれば、いくら不死であろうとただではすまない砲撃。それを、グランニールは紙一重でかわし、時には光線で穴を開け、段々と業火さんに近づいている。大分慣れてきたから何とか目で追えてるけど、少し前までは影しか見えなかった。業火さんが大きい分、グランニールがより小さく感じる。俺より少し大きいだけの体に、どれほどの力が篭っているのか...。想像もつかない。


 ついにブレスの弾幕を掻い潜り、業火さんの直前に飛び出したグランニール。一直線に加速し、そのままの速度で突きを放つ。神速如き一撃は、業火さんの顔面を狙っていたが、直撃する前に少しズラされ頬を抉るのみに留まった。鱗が弾けとび、下の肉が線状に露出する。その突きは、そのまま飛翔し床のタイルに深い穴と亀裂を残す。あの剣、不死殺しという特殊能力だけでなく、業物並みの切れ味も持っているとか・・・さすが、帝王が持つ剣は一味違うと言ったところか。あういうのは、特殊能力以外平凡ってのが定番なんだけど。


 しかし、その攻撃でグランニールは業火さんの目の前に体を晒すことになる。口を大きく開き、胸は隆起するほど息を吸い込む。口内に真っ赤な輝きが集束し、指向性を持って発散された。空に向かって放たれた、熱線とは言えないほど巨大で膨大なエネルギーを秘めたブレス。むしろ、漫画などで登場するようなサテライトビーム、といった方が正しいだろう。宇宙からではなく、地面から放っているが。イメージ的にはそんな感じだ。


 そんな一撃必殺のブレスの直撃を受けたグランニール。驚いたことに、四肢の欠損と全身に渡る火傷だけで済んでいる。いや、だけというのはおかしいのだろうけど...。ほとんどのものは、あんなブレスを喰らったら消し飛んでいるだろうし。


『ほう、私のブレスを耐え抜くとは、想像以上だな。どうやら、不死なだけでなく体も頑丈らしい』

『四肢に魔力を集中させて、盾として使ったか。再生出来る奴じゃねぇと、出来ない芸当だな』

『なら、迅雷にも出来るかもしれないわね~。ほら、蜥蜴の尻尾みたいに』

『蜥蜴じゃねぇーよ!』


 あれだけバンバンぶっ放しているというのに、業火さんにはまだまだ余裕がある。グランニールの四肢も即座に再生しているとはいえ、その額にはうっすらと汗が浮かんでるぞ。戦うことは出来そうだが、若干形勢は不利か。


「長期戦では、俺が圧倒的に不利か...」

『どうした、もうお終いか?それでは、到底神になんぞなれんぞ』

「・・・フッ」


 脱力し、腕をダラリと下げるグランニール。何をする気かと様子を見ていたら、突然体から発せられる魔力がドン!と衝撃を伴って急増する。


『ヌッ!?』

「では、短期決戦だ!」


 再び空間に衝撃が走り、業火さんが血を流しながら吹き飛ばされていた。肩から胸にかけてバッサリと袈裟懸けに切り裂かれており、その場には剣を振り切ったグランニールが。魔力が増えた?いや、総量は変わっていないように見える。さらに、いきなりの超加速に業火さんを吹き飛ばすほどの力...。そこから導き出される結論は。


「自分の魔力を、瞬間的に一部分に集中させてる?」

「身体強化の一種だな。それ自体は、武術入門者が初めの方に習うやつと同じだ。だが、あいつのは奥義並にまで研鑽したもの」

「確かに、限界以上の魔力を集中させても、少しの間なら持ちますしね。筋肉や骨は酷い状態になりそうですけど・・・不死だから、勝手に治ります」

「そもそも、竜ってのは治癒能力が高い。あんな無茶をしても、数日休めば回復するんだろう。生前は時間制限でもあったんだろうが、蘇ったことでそれがなくなった。実質、魔力が尽きるまで使い続けられるな」


 俺も、似たようなことをやっているから分かる。あの境地に至るまでに、どれほどの鍛錬を積まなければならないのか。しかも、俺みたく魔手なんて便利なものはない。完全に、自分の感覚のみに頼った魔力操作だ。人間では到達し得ない、いや、リスクを考えたらやろうともしない技。魔人だからこそ、出来ること。魔力を扱う者として、尊敬を禁じ得ない。


 業火さんがブレスを放つには、息を吸わなければならない。そこには、僅かながら溜めが生じる。神速を得たグランニールの前には、あまりにも大きな隙だ。今度こそ、影を置いていく速さで縦横無尽に駆け回り、体に剣戟を刻む。通りがかりざまに斬っているだけなのに、その傷は鋭く、深い。徐々に鱗が血で染まり、赤黒くなっていく。勝てると確信したのか、速度はどんどん上がっていき、業火さんを月光で瞬く剣閃が包み込む。


『・・・これはどうだ?』


 だが、その連撃は業火さんが放った火球によって止められる。正面から突っ込み、爆風で吹き飛ばされる。見ると、周囲にはいくつもの球が浮かび、まるで機雷のように業火さんを囲んでいた。


「っぐ・・・面倒な」

『私としても、このような手は好まないのだが、四の五の言ってはいられまい。さあ、この中をどう掻い潜る?』


 再び、グランニールが神速で駆ける。細かく制動し向きを変え、火球と火球の隙間を縫って業火さんに迫る。その速さは、先ほどと遜色ないようにみえる。だが、業火さんにとってはそれで十分のようだった。

グランニールが動いた先に、ちょうご業火さんが拳を振るっている。すぐさま止まり後退しようとするが、それは衝撃を和らげることしか出来なかった。振り抜かれた拳は狙う違わず全身を強打、床を割りながら吹き飛ばされる。火球を配置することでスペースを減らし、グランニールの動きを読んだのか。不本意ということは、もっと好ましい戦い方があったのだろう。まあ確かに、業火さんがあまり好きそうな戦法ではないな。


「ありゃ、破るのは難しいぞ」

「火球に突っ込んじゃえばいいだけじゃないですか?不死なんですし、怪我しても大丈夫でしょう」

「いや、あの火球には多分威力がほとんどない。その代わり、爆風がかなり強烈なんだろう。突っ込んだ瞬間、弾き飛ばされるぞ」

「それならば、避けるしかない。だけど、避けたら動きを読まれる...。それなら、取れる手は限られますね」

「火球をぶっ壊す、だな」


 グランニールも、そう考えたようだ。一気に接近しつつ、光線を放ち火球を薙ぎ払う。1つが爆発すると、爆風で煽られた他の球も破裂。瞬く間に、視界を爆炎が埋め尽くす。

すぐにグランニールは突撃、腹に一撃突きをぶち込みすぐさま後退する。だが、業火さんの対応も素早い。火球が払われた直後、グランニールごと自分を囲うように再び配置。下がると爆発、自分の前へと吹き飛んでくるので、その勢いのままラリアット。首を引っ掛ける技だが、業火さんの場合は全身を殴り落とす形になる。地面に叩きつけられたグランニールに向けて、今度は大火球のブレスを放ち上空へと避難。赤とオレンジの混ざった爆炎が、床を削り空間を焼き焦がす。ドゴオォォォン!!!という音と共に、ビリビリと肌が震えた。


 爆心地の真ん中には、所々肌が炭化し翼の焼け落ちた男がいた。それでも、不死は死なない。瞬きをする間に肉が再生し肌は元通り、翼もジュグジュグと音を立て泡立ちながら巻き戻しのように戻っている。何とも気味の悪い、耐性がない人が見たら一発で失神するレベルだろう。


『・・・これでも消し飛ばないか。どの攻撃なら、致命傷になるのだ?』

『やっぱり、一発で消し飛ばすくらいの気合でいかないと駄目よ~』

『それが出来れば、苦労はしていないのだがな...。まったく、不死というのは難しい相手だ』


 再生している間は、手を出さないようだ。業火さんのブレスでも消し飛ばないんだからな・・・やっぱ、不死殺しで殺すしかないのか?でも、自分の剣をそう簡単に手放すとは思えないし。このままじゃ、魔力と体力を消耗するだけだぞ。さっき長期戦は不利だとか言ってたけど、こっちに殺す手立てがなければいつかは向こうが勝つ。何か手はないか...。


「思いつきませんか?」

「私に聞くなよ、そう簡単に思いつくわけねぇだろ」

「いや、断絶さんは空間を操れるんですから、別空間に封印とか出来るんじゃないかなーと」

「ずっと、あいつを見張ってろって言うのか?嫌だね、そんなの、面倒くさい」

「んじゃ、空間をギュッと圧縮して圧殺、とか出来ないんですか?塵よち小さくなっちゃえば、さすがに再生出来ないですよ」

「どうかな。例え塵並みに小さくなったとしても、こうボコボコボコって湧いて出てくるんじゃねぇか?」


 脳内で、一見何もない所から血や肉が飛び散り、段々人の形を作っていく映像が再生される。・・・ないとも言えないのが恐ろしい。


「最悪、3体同時ブレスでもすれば消し飛ばすことくらい出来るだろ。1体で無理なら2体、2体で無理なら3体だ」

「・・・まあ、そうですけど」

「今、ツチオに出来ることは見ていることだけ。余計な口出しせず、黙って推移を見守ってろ」

「はい...」


 口を出すなら、まずそれだけの力量を備えてから言えって話だよな...。俺の言うことが、助言になるとは思えないし。


『とりあえず、私が撃てる限り最高の一発を撃ってみよう。それで駄目なら、お前ら2人で頼む』

『まあ、それでいいんじゃねぇか?この中で一番火力が大きいのはお前だし』

『後のことは任せて、思いっきり放っちゃって~』

『うむ、心得た』


 向こうでも、とりあえず業火さんが一発ぶっ放してみることになったようだ。最高の一発か、サテライトビーム以上のブレスってどんなのだろう...。想像もつかないな。


「ここで、消されるわけにはいかない...。俺には、やらなければならぬことがあるのだ!」


 もうすぐ再生の終わるグランニールも、これで決めるつもりらしい。業火さんの魔力が切れても、まだ2人残ってるしな。いくら不死でも、魔力がなければ戦えない。そう考えると、確かに長期戦は不利だったんだな。

業火さんとグランニール、双方の魔力が競うように上り詰めている。前後ろ両足でしっかりと床をホールドし、大砲のような姿勢の業火さん。両掌を合わせて腰だめに構える、ルウに似たグランニール。2人の魔力が臨界に達した時、俺の視界は上下真っ二つに割れた。


 業火さんのブレスは、想像とは違いサテライトビームより細かった。だが、その色はマグマをさらに煮詰めたような、ドロドロの濃紅。可視化した赤い熱波が波紋状に広がり、空間すら溶かしながら飛翔する。

 グランニールは、予想通り光線を放った。だが、先ほどまでとは光度からして違う。目も当てられないほどの輝きを内包する光線が、触れた所を白く塗り替えながら放たれる。

 真正面からぶつかったブレスと光線は、瞬間衝突面が混ざり合い、押し合いが始まった。足元の床は陥没し、それでも収まらず少しずつ下がっている。


「ん?おい、全員目と耳を塞いどけ。来るぞ」

「え?」


 言われた通り耳を塞いだ直後、衝突面が丸く膨張し始めた。紅白に混ざっていたその球が、突如真っ赤に染まる。次の瞬間、球を突き破って熱線が押し勝ちグランニール目掛けて飛んで行く。そして、その体に直撃した。

体を貫通することなく、ブレスはグランニールを押し飛ばす。そして、広大な空間の最果ての壁に着弾し、一面が溶岩の如く橙がかった赤に染まる。


「・・・俺は、ただ、帝国を・・・永遠に繁栄、させたかっただけ」


 距離で言えば、10kmは離れていようかという壁。何故か、俺の耳には、グランニールの声が届き、最後も見届けることが出来た。空間を揺する振動と、鼓膜を破らんばかりの爆音と共に。

 壁や床ごと、火山の噴火のようにマグマが爆発する。違うのは、火柱のように吹き上がり続けているというところ。その柱の中でグランニールは焼かれ、苦しむことなく、悶えることなく、塵一つ残さず消えていった。

 


 


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