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嵐の前の静けさ

突如として、俺らの前に姿を現した業火さんたち。今まさに、グランニールが光線を撃ってきたと思うんだけど...。ユクリシスさんを掴んだまま、油断なく相手を見ている。


「誰ですの、あの方たちは...」

「俺の知り合いです。昔、ちょっとお子さんの病気を治したことがあって」

「古竜と知り合いなんて、随分と顔が広いですわね!?」

「偶々ですけど」


ん、古竜?業火さんたちのことか?古竜・・・古の竜って意味なのかな?


「古代の老害が・・・何の用だ」

『老害なんて、酷い言い方するわね~。それはご先祖様のことだから、私たちは関係ないわよ』

「そんなことはどうでもいい。物見遊山で来たのなら、俺らの戦いには関わるな。黙って観戦していろ、すぐに終わる」

『そういうわけにゃあいかねぇなぁ・・・お前、このままこいつらを殺すだろ』


尻尾で俺らを指す迅雷さん。さっきの光線は、やっぱり彼らが防いだんだろうな。それくらいわけないだろうし。


「当たり前だ。俺は、助かる機会を与えた。そいつらはそれを蹴った。俺の邪魔をする奴は、例外なく全て滅ぼす」

『ふん、あのようなものは機会ではない。自ら攻撃させ殺す理由を作る、ただの自己満足だ』

「お前がどう捉えるかなんてのもどうでもいい。何故、お前ら古竜が人間を助ける?害を齎しこそすれ、利を与える存在ではないだろう、人間など」

『人間も、お前らと同じだ。お前のような侵略者もいれば、その娘のような共生を望むものもいる。人にとって敵である竜の子を、2匹も救う人間も存在するのだ。私たちは、その恩に答えなければならない』


・・・だから、来てくれたのか?子竜を助けた時のは、もう加護で十分返してもらっている。駆竜を助けたのは、精霊さんに頼まれたからだ。恩なんかじゃない。


「業火さん、恩なんて...」

『無論、それだけではないぞ。このままあの者が侵略を開始したら、私たちの住処にもやって来る可能性がある。我らの力は大きい、時の権力者が恐れるほどにな』

『実際、ご先祖も色々迫害とかされてたみてぇだ。爺共の人間嫌いは筋金入りだよ』

「なら、俺の庇護下に入れば良い。そのような理由で差別などしない、強い者は歓迎しよう」


業火さんたちに、手を差し伸べるグランニール。それを見た3人は顔を見合わせた後、


『そのような話、乗ると思っているのか?入ったところで、いいように使われるのが関の山だろうよ』

『今時世界征服なんて古いのよ。考え方が旧態依然としているわ。あなたが死んだ時に~、戦争の時代は終わったの~』

『後、個人的にも気にいらねぇ。俺のために皆死ねとか、虫唾が走るぜ』

「・・・そうか。俺と共にあれば、もう隠れ住む必要もないというのに」


ユクリシスさんを投げ捨て、剣を構えるグランニール。俺らを相手取った時とは打って変わって、全身を魔力で満たしギアを引き上げている。


「相手にとって不足なし。お前らを倒せば、俺の強さがはっきりと証明される。ユクリシスでは本気を出すまでもなかった、確かめさせてもらうぞ」

『自称神越えの力、見せてもらおうじゃねぇか』

『私の弟子を傷つけた罪、万倍にして贖いなさい』

『お主などに、ツチオを殺させるわけにはいかない。我が子からも頼まれているからな。だが、ここで戦うと被害が拡大する。場所を変えるぞ。断絶!』


業火さんが誰かに呼びかけるようそう叫んだ瞬間、俺の視界が数秒暗転する。戻って来て目に飛び込んできたのは、満天の星空だった。






「・・・はぁ?」

「あれ、いつの間に夜になったの!?というか、ここどこ!?」


いきなり全く別の場所に放り出され、呆けた声が漏れ出る。先ほどまでマナバリーの研究塔前の崩壊した広場にいたのに、いつの間にか別の場所へと移動していたのだ。

墨をぶちまけたような夜空に、小さな宝石のような光点が目を見張るほど美しく輝いている。そんな空がドームとなって空間を包んでおり、果てが見えないほど広い。地面はタイルのような手触りで、こちらも空に合わせたような紺色だ。天辺で輝く月の光が、俺たちをぼんやりと照らす。


「・・・転移か」

「私のは空間跳躍、ここはお前らがいた世界とは違う次元に作られた空間だ。限定された空間内しか移動出来ない、劣化版なんかと一緒にすんなよ」


俺らの後ろから、不機嫌そうな少女の声が投げかけられた。見ると、仏頂面をした背の低い女の子が、床を足で「トントントン」と鳴らしている。頭には小さな2つの角、腰からチョロっと短い尻尾が。伸ばしっぱなしにしたボサボサなクリーム色の髪を、腰辺りで軽く結っている。着ているのはダボダボな緑のジャージ、袖から手が出ていない。つうか、この世界にもジャージってあるんだな...。


「つまるところ、異世界?」

「そこまで離れてはないけど、まあそんなもんかな。それより業火、こんなにつれてくるなんて聞いてないぞ!5人くらいって言ってたろ」

『そう腐るな断絶、倍になっただけじゃないか』

「倍だぞ倍、1人2人やいざ知らず倍!ったく、これだから武闘派は...」


ブツブツと呟いている少女。断絶って・・・角と尻尾があるし、やっぱりこの人も竜か。業火さんたちは竜の姿のままなのに、何で人化してるんだ?


「言われたとおり、広い空間を作っといてやったぞ。高度もあるから空中戦も出来る、これで満足か?」

『ありがとね~、断絶ちゃん。私たちが本気を出したら、辺り一帯が焦土と化しちゃうから~』

『周りに何もないとこなんて、そう簡単には見つからないしな。お前の世界を使わせてもらうのが、一番手っ取り早かったんだよ』

「分かった分かった。絶対に壊れないから、好きなだけ暴れろ。おい、ツチオだったか?お前らはこっちだ、そこで気絶してる2人と奥のもう1人を持ってついて来い」

「わ、分かりました。皆さん、死なないでくださいね」

『心配無用、私の背中に乗ったつもりで見ておけ』


大船よりよっぽど頼りになるな。ユクリシスさんは・・・駄目だ、こっちも気を失ってる。話している間ずっと首を絞められてたんだし、しょうがないか。ルウたちに全員持ってもらい、断絶さんについていく。

しばらく歩くと、体の前面に何やら抵抗を感じる。何もなかったかのように前を歩いていくので、気にせず足を踏み込むと膜のようなものを突き抜けた。通った後を見ると、僅かだが空間がシャボン玉のように揺れている。


「その膜は空間の隔たりだ。外と中じゃ、次元が違うんだよ」

「え、俺たち空間の壁を越えたんですか?どうやって?」

「そりゃ、ここ全部は俺が作った空間だからな。色々と弄くれるんだよ」


空間を作ったって・・・この人が?


「まあ、ここらへんでいいか。ほら、気絶してる奴らをここに寝かせろ」


断絶さんが指を鳴らすと、虚空から突然ベッドと大量のクッションが現れ、ボサボサボサガタボサ!と音を鳴らして落ちる。クッションの山からベッドをどけて、真上から飛び込んだ。あ、背中に小さな翼が生えてる。全体的に小さいんだなー...。


「えっと、断絶さんでいいんですよね?ツチオです、初めまして」

「ご丁寧にどーも、断絶だ。業火たちから話は聞いてる」

「そうですか。何で断絶さんは人間の姿なんです?」

「こんだけ大きな空間を維持するには、結構な魔力を消費するんだよ。この姿なら、かなりの魔力を節約出来るしな。いつもは業火たちみたいな姿なんだぞ」


普段余計なエネルギーの消耗を避けるためにってか。うん、てことはルウにも竜としての姿があるのか?生還したら聞いてみようか。それより今は...。


「空間を作ったり跳んだりなんて、まるで超能力ですね」

「その代わり、竜としての力は皆無だけどな。体は極小、飛ぶのは遅い。ブレスも撃てない」

「能力的に考えると、空間操作全般といった感じですかね」

「そうだな、作ったものの環境も操作できるぞ。普段は、もっと小さい空間でゴロゴロしてるんだけど...」


なるほど、引きこもりか。どこの世界にも、こういう人種はいるもんだ。


「お、そろそろ戦いが始まるぞ。ここにいりゃ大丈夫だろうが、衝撃が来るかも知れないから用心しとけ」

「業火さんたち、勝てるでしょうか?あの男、不死なんです」

「そりゃ、中々面白い戦いが見れそうだな」

「そんなこと言ってる場合じゃないんですけど...」

「うーん、まあ大丈夫だろ。あの3体、俺たちの中じゃ生粋の武闘派だから。あ、俺たちってのは若い古竜のことな。新しい世代のこと。それより、この戦いしっかり見とけよ。古竜の本気なんて、滅多に見れないからな」


人を駄目にするソファーみたいなやつにぐでりと身を預け、子どものようにワクワクしている断絶さん。そんなにすごいのか・・・不謹慎だけど、ちょっと楽しみかも。






夜空の下、相対する竜たち。グランニールは人型のまま戦うようで、先ほどと同じように剣を構えている。

3人並んでいる業火さんたち。このまま3対1で戦う・・・わけないか。彼らは、そういうことはしなさそうだ。


『正々堂々、1対1で戦おうではないか』

「俺はそれで構わない。お前らは、誰が戦うんだ?」

『もちろん、私だ』


業火さんが前に出る。名が体を現すとしたら、きっと火を操る竜だろう。ルウに加護も与えてるしな、ほぼ間違いないと思う。


『骨くらいは拾ってやるよ』

『不死らしいから、きっちり止めをささないとね~』

『分かっている、そこで見ておけ。お前らの出番はないぞ』

「余裕綽々といったところか?」

『いや、そのようなつもりは毛頭ない。ここまで舞台を整えたからには、全力でお相手しよう』


業火さんの魔力が戦闘状態時にまで高まる。さすが古竜、俺らとはレベルが違う。グランニールの総魔力がどれほどかよく分からないが、魔力的には業火さんに軍配が上がるか。


『いざ、尋常に』

「セイヤアアアアァァァ!!!」


先手必勝、足元を爆発させて急速接近、両手で構えた剣を下段から振り上げる。翼を広げ旋風を巻き上げて飛び立つ業火さん、空に上がったその姿は空の王者の名に相応しい雄姿である。

空振った勢いで、同じく空に上がるグランニール。業火さんを抜き去り頭上で剣を上段に構え、そのまま一気に突っ込んだ。剣が纏いしは輝く白光、俺らを消し飛ばそうとした光線と同じもの。

剣閃が煌々と輝く軌跡を描く。最初の下段斬りはフェイント、始めから空に上げるのが狙いだったのか。頭上からの急降下斬撃なら、回避運動を取る前に切り裂ける。


『フンッ!』


だが、迎撃は間に合う。山を裂き海を割る切れ味を持った爪を構え、地を砕く膂力をもって薙ぐ。剣と爪が交差し、魔力がぶつかったことで衝撃波が荒れ狂う。空にいるにも関わらず、真下の床が盆上に凹んだ。

膂力でも業火さんが勝っているようで、腕を振り切りグランニールを吹き飛ばす。相手もただではやられない、吹き飛びつつも光線を放ち、前に出ていた右肩を撃った。傷はついていないが、若干焦げ皹が入っている。業火さんは驚いてるな。


『溜めなしで私の鱗を傷つけるか・・・やはり、中々骨のありそうな若造だ』

「古竜の名は伊達ではないな...。今までで最強の相手、俺の全てを出し尽くさねば」


お互い、空中で再び構えを取る。戦いは、まだ始まったばかりだ。


ホント、引きこもりってどこにでもいそうです。

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