勉強って宗教?
「勉強って下手すりゃ宗教化しそうですよね」
県営図書館で本を読んでいると、たまたま居た後輩ちゃんに声を掛けられた。この女はあんまし文学興味ないから、この感じだと図書館に勉強でもしに来たのかもしれない。
「なんで? どうかしたの?」
「いや、そのですね? ここって二階に勉強スペースあるじゃないですか。友達にそこ勧められたんで、試しに行ってみたんですよ」
「ふぅん、それで?」
「それが行ってみたらおっかなビックリ、もはや病的とも言って良いほどの静けさと集中力を感じましたよ。最早恐怖すら感じましたね」
後輩ちゃんは身を抱いてぶるぶる震えて見せた。
勉強で恐怖ってなんだぁ? とか思いつつ、
「いやそれはいくらなんでも無いだろ。だって勉強なんてやりたがる奴いる訳ないじゃん。やりたくない、っていう気持ちがあれば、自然と体から滲みでてくるしな。いくらなんでもそんな悪寒を感じるほどの恐怖は感じないだろ」
しかし後輩ちゃんは首をブンブン振って否定して、
「それがそうでもないんです。何故かって問われれば確かに閉口するしかないですけど」
「ふぅん。ま、それはいいんだけどさ」
話が主題からそれていると気付いて、方向修正する。
「宗教化ってどういう事? 意味が分からないんだけど」
後輩ちゃんはどうも先程の話を広げたかったのかムッとした顔になったが、それでもこちらの話に乗って来た。
「先輩は塾行った事あります?」
「? ないけど」
「大層な御身分で。で、まあその塾がですね」
なんか嫌味が入っていたが、スルーする。
「まあ、変な事言うようですけど、洗脳してるみたいだな、と思って」
洗脳、というおぞましい言葉を聞いて少しゾッとしない。
「洗脳?」
「はい、例えばですね。『ここは君達だけに教える所だ。これで他の奴らに勝てる』とか、『今ここの勉強をしなければ受からない』とか塾の先生が言うじゃないですか。そうすると、生徒達もそのうち違和感を失くしてしまって『ここを勉強しなければ絶対受からない』とかいう冷静に考えてみれば少しおかしい強迫観念に囚われる訳ですよ。そこから『今ここの勉強してないあいつはクズ』とかいう訳の分からない思考になってしまう訳ですよ。もっと言えば『今ここで勉強すれば受かる』=『今勉強しなければ必ず受からない』って言ってるようなもので、これは『これを七日以内に七人に配れば幸福になれます』とかいう『不幸の手紙』の亜種の『幸福の手紙』と似たようなものなんですよ。だってそれは暗に『七日以内に送れなければ不幸になる』って言ってるようなものなんですから」
確かに、そう言われればなんだかんだで受験というものはカルト的なものを含んでるかもしれない。
どれだけ勉強したって、不安なものは不安だ。だから科学的根拠があるかも分からない『集中力のあがる絵』だとか、ストレートな所を言えば合格祈願のお守りだって結構カルトじみている。
そういう事を考えると、宗教だって『神の教えに従えば必ず幸福になれる』と、『幸福の手紙』みたいな事をしている。そういう事を考えれば受験と言うのは案外怖いなあと思う。もう大学生なので関係ないが。
そうやって思考に耽っていると、後輩ちゃんは話を無視されたと勘違いしたのかムッとした表情になって、
「まあ、もうすぐ試験あるのにここで呑気に本読んでる人には関係ないかもしれませんがね」
「ぶふっ!?」
完全に初耳だ。
「な、そんな!? 俺は聞いてないぞ!?」
「はぁ、あんた大学で普段なにしてんですか? 講義中に話しをしてると思うんですけど。そうでなくても紙で張り出されるし配られるし」
実は講義中は携帯ゲーム機で狩りに出かけてるなんて言えない。後、紙はいつも見ずにゴミ箱にポイしてるなんて言えない。
後輩ちゃんは呆れたように腰に手を当てて、
「って事はこれから勉強するんですよね、先輩」
「当然だろ! 死んでしまうわ!」
というか正確には留年してしまう。
しかし、それがどうしたと―――
「先輩、これから二人で勉強スペース行って勉強しましょう」
背筋に悪寒がビンビン走った。
「は!? いやいいよ俺は家で勉強するからだから今日の所はマジ勘弁だからそのえーっと」
「先輩さっき『怖くない』とか言ってたじゃないですか」
やばい、これは逃げられない。
「いや、さっきはその話聞いてなかったからアレだったけども話聞いてたら怖くなったていうか」
すると妙な事に後輩ちゃんの瞳がいっそう決意によって燃え上がるような気がした。
「だからですよ! 二人の愛と友情と熱血パワーで恐怖を弾き返し、いちゃいちゃしながら勉強しましょう!!」
「い、嫌だ。俺はお前とのフラグなんて立てるつもりはないんだってかなんで襟首掴むの止めろ苦しい服伸びるていうか引っ張るないやだ俺は行きたくないんだこの人攫いぃぃいいい‼!」
その後、勉強スペースで二人でがちゃがちゃ騒いでいたら一生懸命勉強してる皆さまに冷たい視線ビームを喰らわされ、精神的にケチョンケチョンになったのは言うまでも無い。
これ実はとある小説から少し話をパロってるので、ヘタしたら消されるかもしれません。そこらへんはご了承下さい。
うん、勉強が余計嫌いになった。
あと、ここででてくる人物は以前投稿の「長財布の弱点?」にも登場しております。宜しければこちらもぜひどうぞ。