すーぱぁ大怪獣出現(4)
(7)
もうダメかと諦めかけた時、
ドグワァガ〜ン
と、ものすごいショックが大音響と共に襲ってきた。と同時に、辺りに土煙が立ちこめる。
「何だなんだ、何だ」
モニタにメッセージが目まぐるしく表示される。外部応力を示す数字が急速に減少する。
≪今だ、葵!≫
ヘルメットで声がすると同時に俺は叫んでいた。
「ジエイダー、フルッ、パワ〜〜〜」
エンジン出力が一気に臨界まで上昇した。俺も力を振り絞って、やつの触腕を振りほどくと、後方へジャンプした。
そこへ間髪を入れず弾幕の援護が来た。後ろから<キュラキュラ>とキャタピラ音を響かせながらやって来るのは、
「リックジエイ! 来てくれたのか」
<すまん。遅くなった>
上方からもミサイルが降って来る。『リックジエイ』の更に後方に位置する、『カイジエイ』からのものだ。
≪ここは自分に任せて、君はカイジエイまで後退するんだ≫
「波多野先輩!」
<いかん! 高エネルギープラズマ反応じゃ。パルサー・カノンがくるぞっ>
はっとして前を見ると、破壊鬼皇の口腔に青白い火球が火花を散らしながら浮かんでいた。見る間にも大きく膨らんでいく。あれをぶつけられたら……。
≪葵、『ジエイ・ランチャー』だ。受け取れ≫
ボンッと音がして隣のリックジエイから、巨大なライフル型の大砲がはじき出された。御丁寧に引き金やモードセレクタ、安全装置のつまみもでっかいのが付いている。
俺は、まだ空中にあるそれを引っ掴むと、肩付けで照準を合わせ、射撃姿勢に入った。親指でセーフティーを外すと、モードを切り替える。
「セーフティーロック解除、ジエイ・ランチャー精密射撃モード。出力82%、光源誤差0.2」
別に声にする必要なんてないんだ。ないんだけどね……。
<誤差修正右一度、上下角マイナス三度>
≪急げ、来るぞ!≫
"ブワクシャファァァァァー"
「ジエイ・ランチャー、発射ー」
くしゃみをするような鳴き声と共にプラズマ火球が放たれるのと、引き金を引いたのはほぼ同時だった。
ドグワァーン、バリバリバリ
我々と破壊鬼皇の中間で大爆発が起こった。
俺は、狙い違わずやつの放った火球を打ち抜いたのだ。強電磁シャワーが発生して、一時的に外部センサーのモニターがブラックアウトする。
「うおー」
≪わぁー≫
"グギャー"
爆風を受けて、さすがの破壊鬼皇も爆風に吹き飛ばされてしまった。こちらは予想していた分ダメージは少なかったが、それでもカイジエイの位置まで後退してしまった。
<葵君、波多野君、大丈夫か?>
「何とか……。しかし、波多野先輩が乗ってるなんて」
波多野三尉は防大での先輩である。陸自で戦車に乗ってた筈だが。
≪こっちも大丈夫。全システム異常無し≫
「今のでやったでしょうか?」
≪こっちが無事だと言うことは、向こうさんはピンピンしてるって事だな≫
<その通り。やつはまだ弱っとらん。前方2800m、来るぞ!>
"クルルルルルルルゥゥゥゥー"
彼方で立ち上がった破壊鬼皇は、全ての触腕をこちらに向けていた。モニタに拡大映像のウィンドウが開く。触腕の先端部の鋏が大きく開き、中央の穴が淡い光を放っていた。
≪何をする気だ?≫
"ピィーーー"
口笛のような泣き声と共に、触腕から無数の小片が連続して発射された。それは、まるでミサイルか砲弾の様に、着弾と同時に火花をあげて爆発を繰り返した。
「わぁぁぁぁ」
<いかん。弾幕を張れ>
≪ちきしょう。なんてやつだ≫
<高速の渦巻状磁性流体に封じ込めた熱核プラズマだ。そいつを磁気圧で打ち出しておる。原理的にはリニア・カノンと同じじゃが……、弾が生半可じゃない>
御手洗博士が分析結果を伝える声がヘルメットのスピーカーから聞こえた。
弾幕を張ることで、何割かは途中で打ち落としたものの、ジエイダー・メカの周囲のあちこちで爆発が繰り返されている。
<このままじゃ、装甲が保たんぞ>
「援護、頼みます」
≪何する気だ、葵。無茶は止せ!≫
波多野センパイの言葉にも構わず、俺はジエイダーをジャンプさせた。
「ジエイダー・ジャンプ、とう」
空高く舞い上がると、俺はランチャーを高速連射モードに切り換え、上空から破壊鬼皇を掃射した。だが、この程度では全くダメージにはなっていない。やはり、『ジエイ・ランチャー』と叫ぶべきだったろうか……。
逆に俺の方がやつの『ミサイル』の目標にされた。触腕が上空方向に向きを変える。だがその時、やつに一瞬の隙が生じた。
「今だぁ」
<葵君、でかした。『超電磁結界針』射出。マグネティック・ホールド、スイッチ・オン!>
カイジエイから放出された8個の小型メカが破壊鬼皇を取り囲むと、強烈な電磁力場を形成し、やつをその場にしばりつけた。
≪くらえっ、150ミリ重粒子加速砲、ファイヤー≫
轟音と共に、リックジエイから重原子核ビームが放たれた。動けない破壊鬼皇に直進する。だが、やつにビームが直撃する寸前、さっきとは比べ物にならない大爆発が起こった。
≪ちくしょう。やつめ、葵の真似をしやがったな≫
大怪獣は、さっき俺がプラズマ火球を撃ち抜いたのと同様に、こちらのビームを狙い撃ちしたのだ。
<じゃが、至近距離での大爆発じゃ。今度は効いてるぞ。見ろ>
爆発で出来たクレーターの向こうに立ち上がった破壊鬼皇の外骨格は、所々がひび割れて白煙を吹き上げていた。
<チャンスじゃ。行くぞ、『グレート・シルエット』じゃ>
≪おう≫
「おう、……って、何です、それ?」
俺は初めて聞く言葉に、思わず訊き返していた。
<ちゃんと聞いとれと言っといたじゃろうが、もう>
「聞いとれも何も、初めて聞きますよ、それ」
<お? そうだったかのう。すまんすまん。『グレート・シルエット』とはのう……ボソボソボソ……、んでもってな……、ボソボソ……>
「なっ、そっ、そんなことが可能なんですか!」
博士の言葉に俺は呆気に取られてしまった。一体、この爺さんは何を考えているのだろうか。本当にそんな事が可能なのだろうか?
”フシュルルルルルゥゥゥゥ”
しまった。込入った話をしている間に、破壊鬼皇が復活してしまったぞ。破損していた装甲外骨格も、元通りに復元してしまっている。
≪いかん、破壊鬼皇が……≫
<おう、すまんすまん。これからいいとこなんじゃ。もちっと待っといてくれんかのう>
”ルルルルルゥ……”
やつは低く唸りをあげただけで、おとなしくなってしまった。もしかして、こいつら友達じゃねーのか。
<よっしゃ、ぐずぐずせんと気張ってチェンジいくぞ>
≪おう≫
「お、おう……」
<よし。じゃぁ、手筈通りにシルエット・チェンジじゃ。最後が肝心じゃからのう。みんな間違えるなよ。特に葵君。君が要だからな。わかっとるな>
「は、はぁ」
実際、俺には自信がなかった。上手くいったとしても、結構恥ずかしいぞ、これ。
<よっしゃ。そんじゃ、ま、いくぞ。せぇ〜のっ>
「<≪チェンジ・グレート・シルエット」>≫
俺達は声を揃えて叫ぶと、アクションに入った。
「とう」
派手なポーズを決めた後、俺はかけ声 (実際のところ本当に必要なのだろうか?)と共にジエイダーをジャンプさせた。空中でも教わった通りにポーズを決め、腕を大きく広げた姿勢をとる。
すると、前面のモニタ上にプログラム起動のメッセージが現れ、ジエイダーは変形に入った。
続けて、カイジエイとリックジエイも、ホバーノズルを噴射させ上昇を始めていた。
いいなぁ、あいつらはスイッチとレバー操作でいいんだからな。上空でジエイダーに並ぶと、続いて変形に入る。
うーん、ここでバックにテーマソングなんかが流れていると気分が出るんだけどなぁ。
♪チャンチャララ〜〜、ゆけーゆけージエイダー♪日本の国を守るため〜
そうそう、こんな感じで……
♪チャチャチャ、そーらを飛ぶ〜、クウ・ジエイ、♫海を行く〜
な、なんじゃこりゃぁ。どっから聞こえてくるんだ。
勇ましいテーマ曲を背景に、人型をしていたジエイダーの各ブロックが折り畳まれ、両足の付け根が胸まで移動した。変形後の姿は、ほとんどやじろべぇのような形だった。その間にも、奇妙な歌は大音響で響いている。
「いったい何なんだ、この歌は?」
<ほっほっほっ、なかなかいいじゃろう。わしの作詞じゃぞ>
≪ちなみに作曲編曲は自分です≫
な、何なんだこいつら。もしかして俺は悪い夢を見てるんだろうか……。
♪♪ぼ〜くらの力、♪チャララチャッチャカチャ♪、
大和魂見せてみろ〜、チャチャチャー♪
歌が鳴り響く間にも、変形を終えたカイジエイが、ジエイダーをその上部の隙間にに飲み込んだ。そして、その下部には、前後に伸長して腰部と脚部を形成したリックジエイが接続する。
三機のドッキング終了とともに、左右に広がったジエイダーの元脚部が折れ曲がって肩から腕を形成する。その先端には、リックジエイの両脇に接続していた円筒がはまり込んで、大きな拳が突き出した。
そして、ワンコーラスが済むころには、三機のジエイダー・メカは驚異の変形と合体を果たしていた。最後に、最上部からジエイダーよりも一回り大きな頭部がポップアップする。
<各部接続、ロック確認。エネルギー伝導ライン接続完了。各部センサー、モードGへ移行。通信・情報ライン、ワイヤードへ……接続終了。エンジン制御モード、レベル3へ移行。……最終制御プログラム起動。いくぞ、せ〜のっ、>
<「≪防衛三体合体っ!」>≫
「グレ〜ト・ジエイダーーー、マキシマムッ!!」
最終起動プログラムへ、運動パターン・パラメーターをインプットするための一連の動作を行い (本当に必要なんだろうな)、起動パスワードを音声入力 (本当の本当に必要なんだろうな)すると、局地戦用重機動破壊機兵ハイパー・サーボ=スレイヴ『グレート・ジエイダー・マキシマム』が完成した。
<やったぞ。かっくいいー>
≪博士、とうとうやりましたね≫
<うーん、やっぱり最後はシンプルに『三体合体』とした方が良かったかのう?>
≪自分は、『防衛合体』の方が好みですが≫
<ちょっと、くどかったか……。後で確認しような>
≪はい。中井三尉がビデオに撮っててくれてるはずですので≫
<おうおう、そうじゃったそうじゃった。わしの分と、……そうそう、葵君の分もダビングしとくように頼んでくれたまえ>
≪了解しました。葵、MPEG4でいいな≫
「はぁ……」
こいつらは何か勘違いしてないかぁ。俺達は破壊鬼皇を撃退するために……、そうだ、やつはどうしたんだ?
”ケテリ、リッリリ、リリリ”
驚いたことに、破壊鬼皇は先程と変わらぬ位置に立っていた。何か不満そうに鳴き声をたてている。もしかしたら間違いかもしれないが、俺にはそう聞こえたんだ。
<おっ、すまんすまん。待たせたな。さて、続き、いこうかぁ>
”ルリリリリ”
何となく会話が成立している様にみえるなぁ。まさかとは思うが、こいつらはグルなんじゃないか?
<行け、グレート・ジエイダーのパワーを見せてやれ>
「お、おう」
疑念は消えなかったが、言われるままに俺はグレートを前進させた。何となく身体が重いな。三体合体で、でかくなった所為かな。
破壊鬼皇の方も、地響きをあげてこちらに向かって来る。
<やれ。グレートのパンチは、ジエイダーのキックと同じだけの威力があるぞ>
そりゃそうだ。こいつの両腕は、元々はジエイダーの足じゃないか。俺は、グレートの巨大なパンチをくりだした。破壊鬼皇の方もパンチで応戦して来る。
「なんの、くらえ、『ジエイダー・パンチッ』!」
<あっ、すまん。合体時のコマンドは『グレート・パンチ』なんだ>
「え〜〜〜、そりゃないですよ」
嘆いた時にはもう遅く、やつのパンチがグレート・ジエイダーの腹に決まった。
≪うおおおお、ふんばれ。脚部、出力アーップ≫
「おう。今度こそ、『グレート・チョップ』」
”キシャシャーーー”
両者の戦いは周囲に小規模の地震を発生させていた。我々を取り囲んでいた陸上自衛隊の戦車隊が、後退していく。
≪くっそう。このままじゃ埒があかないぞ≫
<その通りじゃ。グレートの連続戦闘可能時間はあと32分17秒。いったん離れろ>
「了解」
俺は破壊鬼皇に膝蹴りをかますと、その隙にグレート・ジエイダーを後退させた。
≪葵、両腕を挙げろ。『ナックル・バスター』を使うぞ≫
「了解」
俺は両腕をやつに向けて水平に持ちあげた。
「ナックルバスター、射出準備完了」
…………
「先輩、早くスイッチ入れて下さいよぉ」
≪へ? ……ああ、すまんすまん≫
<葵く〜ん、だからちゃんと叫んでくんなきゃぁ。タイミング取れんでしょ>
「え〜〜〜、またですかぁ。しょうがないなあ。……先輩、いきますよぉ、『ナックル・バスター』!」
≪おし、ポチッとな≫
多少手間取ったが、やっとのことで『ナックル・バスター』──平たく言うと所謂ロケットパンチであるが、違いと言えばこっちはほとんど手首だけで飛んでいくことだ──が、発射された。
両の手首のうち、一個は弾かれたが、残る一個は破壊鬼皇の右肩を砕いた。
「やったぜ!」
よしこのまま一気に勝負を……。そうか、まだ手首が戻って来てないぞ。
<ああ、すまんすまん。『ナックル・バスター』の射出速度は、最大マッハ3.1なんだ。今なら掛川あたりかな……。ハッハッハ、さすがにそれは遠いか。まっ、内部プログラムで旋回して戻ってくるには、あと5分くらい待たにゃあならんな>
な、なんじゃそりゃぁ。まるっきり使いモンにならないじゃぁないか。
≪腰部シンクロン砲、砲門開きます。目標、1200。出力82。高速連射モード≫
「砲撃姿勢、取ります。発射いつでもよろし」
<ようし、シンクロン砲、連続射撃90秒。撃ち方始め!>
≪撃ちー方、始め≫
”フュルギャラララーーー”
そして15分後……。互いに飛び道具で傷だらけになった二つの巨体の周りを、無数のクレーターと巻き添えになった戦車の破片が取り巻いていた。
≪ジェネレータ冷却水温度、12.6℃アップ。グレート・ジエイダーの戦闘稼動限界まで、後8分41秒≫
<ふむん、まずいなぁ。よし、とっておきの必殺技で一気に決着をつけるぞ!>
≪了解≫
んなモンがあるんだったら、最初から使えよなぁ。てめぇらは、椅子に座ってボタン押したり文句言ってるだけだけど。俺は……俺はなぁ。俺は、あいつと延々殴り合いやら撃ち合いをやってんだ。なめんなよぉ、……などとは口に出さず、
「了解、指示願います」
と、従順に応える。
ううう、軍隊って命令系統には逆らっちゃいけないんだよね。
<波多野君、『ハイパー・ジエイ・ソード』を使うぞ。スタンバイじゃ>
≪了解。葵、右膝から剣を出すぞ≫
「了解」
俺は、膝から飛び出した柄を握ると、足から巨大な剣を引きずり出した。両手で握りしめて正面に構えると、刀身が更に伸長した。
≪葵、チャージアップだ!≫
「了解。チャァァァジッ、アーーップ!」
俺はソードを大上段に振りかぶった。
<パスワード確認、チャージアップ・プログラム、スタート>
≪全リミッター解除、安全弁閉鎖。ジェネレーター出力無制限、パワー急速上昇中≫
<ブレードに熱核プラズマコーティングを開始。臨界まで約18秒>
≪目標も『超振動EMシェイバー』を発生。エネルギーレベル急速上昇!≫
グレート・ジエイダーが剣を取るのを見てか、破壊鬼皇の両手からも輝く光の長剣が伸びた。やつも、次でカタをつけるつもりらしい。
<いけぇ!『ハイパー・ジエイ・ソード・絶対防衛切り』じゃ>
ダッシュしようとしてた俺は、この言葉に倒けそうになった。またかよぉ。
「あのぉ、それって大声で叫ぶんですよねぇ……」
<当然じゃ。この音声入力によって、瞬間的に膨大なエネルギーをソードと駆動系に与えるんじゃ。手動ではタイミングが取れん>
……本当かなぁ。無理矢理そういうプログラムを組んでんじゃないのかぁ。しかし、この場合は信じるしかない。
「いやあぁぁぁ!」
気合いと共に──これによって更にパワーアップされる筈だ──俺は破壊鬼皇目指して突進した。
やつも、光剣を振りかぶって迫ってくる。俺は渾身の力を振り絞り剣を振り降ろすと共に、声を限りに叫んだ。
「ハイパァー・ジエイッ、スゥォーーードッ、絶対ッ、防衛ッ、切りぃぃぃ〜〜〜!」
”ヒュテュリュリュリュリュュュュュュ〜〜〜!!”
破壊鬼皇も何かの技を使ったようだった。
そして、戦いの最後は……