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すーぱぁ大怪獣出現(3)

         (6)

 15分後、俺は戦闘機クウジエイのコックピットにいた。基本的には単座の戦闘機と変わりないようだが、風防ガラスの代わりに三次元モニタパネルが外界を映していたり、どう考えても航空機の操縦には関係ないようなハンドルやレバーがそこらじゅうから生えていた。


<時間がないから操縦法などは無線でレクチャーする。いいな>


 ヘルメットに御手洗(みたらい)博士の声が響いた。

「了解」

<空を飛ばすぶんには、空自のNF−1と変わらん。これは発進時に教えた通りじゃ。武装システムはAI補助の半自動システムになっとる。わかるな>

「わかります」

<わしらは、ヘリで空輸されるんで多少送れるが、それまで持ちこたえてくれ>

「了解。何とかがんばります。……目標まであと一分。ブースター切り離します。……3,2,1、……ブースター切り離し完了。……目標を黙視で確認。指示を」

<よっしゃ。カイジエイの索敵・哨戒システムによると、やつは出現地点からほとんど動いておらんようだ。まずは、やつの様子を見るんだ。ただし、充分に注意しろ。挑発はしてもいいが、打ち落とされるなよ>

「了解」

 俺は、久しぶりの空を楽しんでさえいた。カタパルトで発進した時のGもむしろ心地よかった。大怪獣を目の当たりにしても、恐怖はなかった。冷静な判断と、熱い闘志の入り交じった妙な感覚が俺の中に蘇ってくる。

 モニタに映し出された『やつ』はでかい図体を平地にさらしていた。今となっては何をしても無駄ということなのか、自衛隊の戦車が何もせずに遠巻きに眺めているだけだった。俺は、やつへ急降下をすると、鼻先をかすめて再度急上昇をした。重圧でシートに押し付けられる。

 と、突然アラームとともに赤い矢印の点滅がモニタパネルに現れた。後方を指していいる。次の瞬間、パネルに小さなウインドウが開いて、後方から迫りくる触腕を映し出した。

 俺は巧みな操縦で、間一髪でこれをかわすと、上空で急旋回した。

<大丈夫か、(あおい)君>

「大丈夫です」

<やつめ、移動を始めたぞ。今までの相手とは違う事がわかったようじゃ。気をつけろ>

「わかってます」

<よし。後、十分ほどで到着する。それまで、やつをそこから外へ出すな>

「了解。攻撃を開始します」

<無理はするな>

「了解」

 俺は、武装の安全装置のロックを全て解除すると、再びやつに急降下していった。

 トリガーが押された瞬間、対地ミサイルの自律式慣性誘導装置にデータが叩き込まれ、青い炎を吐いて放たれる。しかし、やつの鼻面に当たると思った瞬間、ミサイルは自爆していた。


 強烈なマイクロ波パルスが、寸前、ミサイルの起爆装置を誤作動させたのだ。


 当然、やつにダメージはない。

 だが、俺が狙ったのはそうじゃない。1秒遅れてやつの足元で大爆発が起こった。ミサイルは2つの目標に時間差で放たれていたのだ。直撃ではなかったが、破壊鬼皇(はかいきおう)は爆発によってその歩みを止めた。

 旋回するクウジエイを睨み付けるように身体の向きを変えると──やつには首がない──大地も震えんばかりの大音響で吠えた。怒っているのか?

 俺は再度、上空からミサイルを放った。今度は直撃した。

「やったか?」

 だが、やつの装甲外骨格は焦げたような痕をみせるのみで、ダメージを受けたようには見えなかった。上昇にうつる機体に、再度触腕が襲ってくる。

「くそ、これじゃ埒があかない」

 俺は舌打ちした。やはり通常兵器では破壊鬼皇には太刀打ちできないのか……。


<葵君、『シルエット・チェンジ』だ。左手パネルのレバーをFからSへ切り替えろ>


 ヘルメットの中に、突然声が響いた。

「へ? シルエット・チェンジって……、何ですそれ?」

<いいから、やるんだ。左手パネルのレバーをSにして、『チェンジ・ジエイダー・シルエット』と叫ぶんだ>

「えっ。またですかぁ〜。別に叫ぶ必要はないんじゃないですか?」

<誤動作を避けるための音声入力だ。起動後のポーズはバトル・ジャケットと同じだ>

「な、な、なんでポーズをつける必要があるんです?」

<タイミングをとらんと上手く起動せんぞ。とにかくやれ>

 何がなんだかわからんが、ここは言う通りにした方がいいようだ。

「チェンジ・ジエイダー・シルエット!」

 叫ぶと同時に、俺はレバーを切り替えた。すると、突然機体が唸りをあげ、コックピットが90度回転し、両手両足にレバーが絡み付いてきた。

「わわ、何だなんだ」


 正面パネルの機体状況モニタの絵が変わりつつあった。


 翼が折りたたまれ、機首が回転・伸縮して収納されていく。重力方向や加速度の変化で、俺は実際にもモニタの通りに変形が行われている事を知った。

 ジェット噴射口が機体上面にせりあがり、代わりに2本の長い足が機体後方に伸びる。そのまま、機体は垂直に傾くと、元は機首のあった部分に頭部が跳ね上がった。両脇から腕がせり出して瞬時に伸びると、先端から握りこぶしが飛び出す。腰のジョイントが伸長し、軸を中心に180度回転する。後方に大腿部が伸長しきると同時に、爪先とかかとが開くように折れ曲がる。


 なんと、変形開始から十数秒で戦闘機は人型ロボットの姿になってしまったていた!


<何をしている。早くポーズを決めんか。一連の動作を運動コンピュータが読み取って、各駆動部のサーボモーターやリニアシリンダの磁気圧の最終調整が行われるんじゃ。早くしないと落ちるぞ>

「ええっ。それを早く言って下さいよ」

<さっきから、やれと言っとるぞ。ポーズを決めたら『ジエイダー』と叫ぶのを忘れずにな。起動変換プログラムの最終パスワードだ>

「わわわ、了解」

 俺は慌ててバトル・ジャケットの装着ポーズを決めると、声を限りに叫んだ。


「ジエイダーーーーーー!」


 突然、両手両足が重くなったかと思うと、次の瞬間には何も感じられなくなった。

 いや、何か力が漲るような……、自分が巨人になったような感覚が全身に行き渡っていた。


<いかん、地面に激突するぞ!>


 はっと、気がつくと地上が間近に迫っていた。モニタ画面にポップアップした状況表示ウインドウの数字が急速にカウントダウンして行く。地面まで、もう10メートルもない。

 だが、『クウジエイ』、いや『ジエイダー』は地面に激突はしなかった。まるで飛び箱からでも飛び降りたように、ジエイダーの機体は……、いや、俺は地表にふわりと着地していたのだ。


 そうだ、このロボットの機体がまるで自分の身体のように動く。


 俺は自分の両手を目の前に持ち上げて眺めた。同時に巨大な機械の腕が持ち上がるのが、モニタにも映し出される。


<葵君、危ない!>


 ヘルメットに声が響くのと、モニタに赤ランプが点灯するのとどっちが早かったろう。眼前に迫りくる触腕を、俺は横っとびに飛んで難無くかわしていた。

<大丈夫か?>

「はい。……すごいです、これ」

<当たり前じゃ。わしが作ったんだぞ。『ジエイダー』のサーボ=スレイヴ・システムは君の動きを遅滞なく機体に伝えるんじゃ。葵くん。君は今、ジエイダーそのものじゃ。行け! 破壊鬼皇を倒すんじゃ>

「了解!!」

 俺は、破壊鬼皇にダッシュして行った。二本の触腕が俺をめがけて迫り来る。俺はそれらを難無くかわすと、やつの懐に飛び込んだ。目の前に巨大な胸板が聳えている。

「で、でかい……」

 一瞬、躊躇したところへやつの右腕が振りおろされる。

「うおおおおお!」

 左手で受け流すと、俺はやつのどてっぱらにパンチを繰り出した。


 バガガガガガッ

 ”キシャー”


 破壊鬼皇が悲鳴をあげた、……様に聞こえた。

<いけるぞ、『ジエイダー・パンチ』だ!>


「おう、ジエイダ〜〜〜、パ〜〜ンチ!」


 ドゴン!!

 ものすごい音がして、ジエイダーのパンチがやつにヒットした。あの破壊鬼皇が、一歩後じさる。すごいぞ、さっきのパンチとは比べ物にならない。

「もう一丁」


 パカ……


「あれ?」

 今度もヒットしたのだが、さっきのより手応えが無い。なっ、何故だ?

<いかん、来るぞ!>


 ベシッ!


「ぐああぁぁぁ」

 やつの左腕の一振りで、ジエイダーは数十メートル以上も吹っ飛ばされてしまった。

<大丈夫か? 損傷は?>

 俺は頭を振りつつ立ち上がると、モニタを見た。

 ジエイダーの機体が描かれた図が表示され、ダメージ箇所に矢印と説明が次々に表示される。総合評価は『損傷軽微』であった。

「だ、大丈夫みたいです。ですが……、どうしてパンチが効かなかったんです?」

<ちゃんと『ジエイダー・パンチ』と叫ばないからだ>

「へ?」

<何回も言うとろうが。こいつらは音声入力が必要なんじゃ。ジエイダー・パンチの出力は、普通のパンチの35%増しじゃ>

「そんなややこしい事せずに、最初からパンチのパワーを最強にしといて下さいよぉ」

<馬鹿者! そんな事をしたら、ジエイダーの腕がすぐにぶっ壊れちまうぞ>

「あ、そうか。確かに……」

<ジエイダーの操縦系では、レバーやスイッチ類が使えんからのう。パワーコントロールや武器管制を音声入力で補っとるんだ。わかっとるのか>

「りょ、了解」

 言われてみれば、その通りだ。巨大なジエイダーに目の前のボタンを押す真似までトレースさせるわけにはいかんだろう。第一、組み合ったら最後、両手が動かせない。

<ちなみに、気合を入れるとパワーは15%増じゃ>

「了解!」

 俺は再びやつに突進した。触腕も迎撃に来る。

「とう! たぁ!」

 今度は手刀 (115%パワーだ)で払い落とす。

「ジエイダー・パ〜ンチッ!」


 バキッ!


 今度こそクリーンヒットだ。やつが一瞬前のめりになる。

「ジエイダー・キィ〜ック! とぉ!!」

 すかさず、側刀蹴りを叩き込む。計算通りなら35%増しの更に15%アップだ。


 ズゴーン


 破壊鬼皇が腹を押さえて後じさった。行けるぞ。

「よし次は……」

 次の技を出そうとするところへ、やつの右腕が振りおろされた。すかさず俺は、両手を交差させてそれを受け止めた。音声入力も忘れない。

「ジエイダー・十字受けっ!」


 ガシャーン


「うわっ」

 俺はその場に片膝をついた。なんてパワーだ。

<すまん。『十字受け』はコマンドに無いんだ>

「そ、そんなぁ〜」

<その代わり、『ジエイダー・クロスガード』ならあるぞ>

「おんなじじゃないですかぁ」

<馬鹿言え。『十字受け』より『クロスガード』の方が、かっこいいじゃないか>

 ちきしょう。この爺さんは何考えてるんだ。


 ミシミシ……


 ジエイダーの強化フレームが、荷重に耐え切れずに悲鳴をあげ始める。くそっ、こうなったら自棄糞(やけくそ)だ。

「ジエイダー・ミサイィィィ〜ルッ」


 ズババババババッ


 やった、出たぞ。ミサイルはコマンドに存在しているようだ。


 ドゴゴーン!


 至近距離でのミサイル攻撃に、さすがの破壊鬼皇も一瞬たじろいだようだ。荷重が弱まる。コマンドが有ろうが無かろうが、この際何でもいいから、とにかく一旦後退だ。

「アフターバーナー点火、急速離脱」

 ジエイダーの背中には、クウジエイの時のジェットノズルが剥き出しになっている。

 俺の想像通りジェットエンジンが火を噴き、ジエイダーを空へ導いた。

「やった、成功だ」

 と、思ったのも束の間、ジエイダーのボディーに破壊鬼皇の触腕が幾重にも巻き付いた。


「し、しまったぁ〜」


 と、俺は叫んだ。実はこんなことを叫ぶ必要はないのだが……。癖になってしまったらしい。ううう、我ながら情けない。


 ギ、ギギ、ギッギ……


 さっきよりも嫌な音がコックピット内に響き渡る。返って事態は悪化したようだ。モニタ画面に赤ランプが点滅する。

「くそっ。もう一度、ジエイダー・ミサイル!!」


 …………


 出ないっ。何故だ。……えっ? 弾切れだとー。そんなのありかぁ。

 テレビで見たロボットは無限にミサイルを打ってたぞ。


 もうダメなのか……




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