1・明日からの希望
喉を通るビールが旨い。
「ゴクッゴクッ」
という刻みの良いビートが部屋から漏れるんじゃないかと云う位豪快に飲み干す。
一人の部屋でこれ程呑んだのは久しぶりだ。
しかも、これは辛さや寂しさの酒じゃない。
昼の12時まで、温かい布団に包まっても誰にも文句は言われない。
社内携帯のバイブレーションが私を悩ます事もない。
これ程の開放感を得たのは何年振りだろうか?
未来の不安なんか無かった。
いや、頭の隅にはあったのかも知れないが、無意識に考えない様にしていた。
「来月いっぱいで辞めさせて頂きます。」
2か月前ついに言った。半年以上も前から胸に秘めていたものの、
プロジェクト途中であるとか、自分の代わりはいない、という奢りや中途半端な責任感が
いつも私を思いとどまらせていた。
上司は形式的に私を制止した。
「辞めてどうするんだ?」
辞めてどうする、じゃない。とにかく辞めたい。
「他にやりたい事があるので・・・。」
正直、仕事が辛すぎた。楽しくなかった。このまま迫る年波に飲み込まれ、
転職すら不可能な年齢になるのが恐かった。一生この職場で働く、という恐怖から逃れたかった。
しかし、仕事の辛さなんてものは、社会の一部として機能しない焦りに比べたら安いものだと感じるのはまだまだ先の事だった。