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5話 宣告――滅びは数日のうち(番外編②)

5話 宣告――滅びは数日のうち(番外編②)


 謁見の間に落ちた沈黙は、なおも解けなかった。

 床に転がる“首だったもの”は、すでに誰の目にも入らなくなっている。視線が向かう先は、ただ一人――第一王女・壱姫だけだった。


 第二王女・星姫は、震える息を整えようとしながら、唇を噛んだ。

 理性が、恐怖に引き裂かれそうになる。

 それでも、王女として、外交を預かる者として、問わねばならないことがあった。


「姉上……」


 声は、かろうじて形を保っていた。


「まさか……本当に……」


 言葉は、そこで途切れる。

 問いとして完成する前に、答えがすでにそこにあることを、星姫自身が理解していたからだ。


 壱姫は、振り向かない。

 視線を床から外すこともなく、ただ淡々と告げる。


「事実だ」


 短い一言だった。

 だが、その重みは、どんな長い説明よりも明確だった。


 星姫の喉が、ひくりと鳴る。


「姉上……シンの国との関係を、どうするおつもりですか……?」


 必死に言葉をつなぐ。

 外交、均衡、報復、連鎖――頭の中に、考え得る最悪の未来が次々と浮かぶ。


 壱姫は、ようやく顔を上げた。

 だが、その表情に焦りはない。


「何を慌てる」


 冷たい声だった。


「シンの国など、数日のうちに滅ぶ」


 星姫は、息を呑む。


「……外交は……?」


 震える声で問いかける。


 壱姫は、扇を軽く振り、鼻で笑った。


「滅びる国と結ぶ必要など、あるまい」


 その言葉が放たれた瞬間、星姫の中で、何かが崩れ落ちた。

 交渉も、調整も、説得も――そのすべてが、初めから存在しない世界。


「っ……!」


 星姫は言葉を失う。

 唇を噛みしめ、両手を握りしめるしかなかった。


 壱姫は、その様子を一瞥もしない。

 むしろ、興を削がれたように、口元を歪める。


「しかし……」


 扇で口元を隠し、不敵な笑みを浮かべる。


「これでは“ざまぁ”と言っても、興が削がれるな」


 星姫の背筋に、冷たいものが走った。


「弱すぎて、張り合いがない」


 それは嘲りだった。

 敵に対するものではなく、あまりにも容易に踏み潰せてしまった存在への、純粋な失望。


 謁見の間に、再び冷気が満ちる。

 家臣たちは、目を伏せ、呼吸を殺す。


 誰も、何も言えない。

 止める言葉も、諫める声も、この場には存在しなかった。


 星姫は、震える指先を押さえ込みながら、ただ立ち尽くす。

 そこにあるのは、善悪の判断ではない。

 是非を超えた、絶対的な力の前での無力さだった。


 壱姫は、扇を閉じる。

 その仕草ひとつで、場の空気が支配される。


 ——触れれば、命がない。


 誰もが、それを悟っていた。

 謁見の間は、壱姫の宣告によって、完全に支配されていた。



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