表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/22

3話 喫茶店《夕影》

ジパング郊外・喫茶店《夕影》


 その頃。

 王城の騒ぎをよそに、ジパングの都郊外――。


 ひっそりとした喫茶店《夕影》の厨房で、雪乃は深いため息をついていた。

 城の広間とは比べようもないほど狭い空間。静かで、人の気配も薄い。


「……師匠、私、婚約を破棄されてしまいました」


 声は低く、抑えられていた。

 それでも言葉は途切れず、続く。


「恥ずかしくて……もうジパングにはいられません……」


 カウンターの向こうでは、女主人・夕影が腕を組んでいた。

 その表情は、同情とも驚きともつかない。


 やがて、鼻で一つ、短く笑う。


「恥ずかしい?」


 視線を向け、淡々と言い放つ。


「なに、嬉しそうに語ってる。

 お前みたいなのが、そんな繊細なタマか」


「師匠……ひどいです」


 雪乃は小さく抗議するが、声に力はなかった。



---


◆第一章④


雪乃の本音と温度差


「どうせ“傷心”を口実に、国を離れるつもりなんだろう?」


 夕影の言葉は、核心を突いていた。


 図星を突かれ、雪乃は一瞬、唇をきゅっと結ぶ。

 否定の言葉は出てこない。


 そして――

 ふっと、小さく笑った。


「……そうなんです」


 それから、穏やかに続ける。


「そして、夢に見ていた喫茶店をはじめるんです。

 第三王女としては叶わなかった夢も……いまなら」


 言葉を区切り、少しだけ間を置く。


「皆が“かわいそうに”って思って、

 そっとしておいてくれるはずですから」


 夕影は、呆れたように笑みを浮かべた。


「さすがだな……鉄の心臓だ」


「師匠、そんな……」


 雪乃は照れたように首をすくめる。


「褒めないでください。照れちゃいます」


「褒めたつもりはないんだがな……」


 雪乃は、にこにこしながら紅茶をかき混ぜる。

 カップの中で、液面が静かに揺れた。


 ――この瞬間にも、王城では壱姫の怒号が響いているとも知らずに。



-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ