2話 姉妹の反応と緊張の高まり
姉妹の反応と緊張の高まり
始皇帝が広間を去ったあとも、その場の空気は動かなかった。
誰かが息を吸い、吐く音すら、やけに大きく聞こえる。沈黙は短いはずなのに、長く引き伸ばされたように感じられた。
その沈黙を破ったのは、第二王女・星姫だった。
「陛下」
一歩、前に出る。
声は落ち着いていたが、その声音には張りがあった。
「わが国との友好関係より、重要な国家があるということですか?」
問いは、感情を抑えたものだった。
だが、そこには明確な意思があった。婚約とは個人同士の話ではない。国家と国家が結んだ約束であり、その破棄は関係全体に影響を及ぼす。星姫は、その点を真正面から示したに過ぎなかった。
広間に、わずかな緊張が走る。
しかし、その緊張を、あっさりと打ち砕くような声が響いた。
「まあ、いいではないか!」
豪快な笑い声とともに、第一王女・壱姫が前に出た。
その表情には、悲嘆も困惑もない。むしろ、どこか晴れやかですらあった。
「妾はもとより、政略結婚など快く思っておらぬ!」
壱姫は、はっきりと言い切った。
婚約そのものを、最初から評価していなかったという宣言だった。
「これで雪も解放され、自由となったというものだ!」
その言葉は、広間に大きく響いた。
星姫は、すぐに眉を寄せる。
「姉上……」
一歩引かず、星姫は続けた。
「これは個人の問題ではありません。
わが国が軽んじられたのです」
星姫の視点は、一貫していた。
問題は感情ではなく、国家の対面である。婚約破棄が公の場で告げられた以上、その影響は避けられない。
壱姫の笑みが、ゆっくりと消えた。
その瞳が細く光る。
「わかっておる」
声は低く、重みを帯びていた。
「わが国の対面を汚し、わが妹を傷つけ……
妾が、そのまま済ますわけなかろう」
その言葉に、場の空気が一変する。
「姉上!
まさか、戦を仕掛けるつもりですか!?」
星姫の声に、明確な焦りが混じった。
しかし、壱姫は即座に言い返す。
「なにを言う、星よ。
戦を仕掛けたのは、シンの国のほうであろうが!」
その断言は、強烈だった。
責任の所在を、完全に相手に押し付ける言葉である。
慌てて、側近が前に出た。
「壱姫殿!
わ、我らにそのような意図は……!」
必死な弁明だった。
だが、その言葉は、壱姫には届かない。
壱姫は、冷ややかに言い放つ。
「貴国の思惑など、知ったことではない」
声には、情け容赦がなかった。
「だいたい、雪乃との婚約を望んだのは、陛下とそなたらであろう?
それで、この仕打ち……許されると思うてか?」
その言葉が落ちた瞬間、広間の空気は張り詰めた。
壱姫が立ち上がっただけで、家臣たちの背筋に冷たい汗が流れる。
誰もが、これ以上の発言をためらった。
怒りは明確で、制御されているようでいて、いつ爆発してもおかしくない。
王城は、修羅場の気配で満ちつつあった。




