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1話 王城・婚約破棄の宣告



王城・婚約破棄の宣告


 ジパング王国・王城。

 高い天井を持つ広間には、重厚な空気が満ちていた。磨き上げられた床は淡く光を反射し、壁に掲げられた王国の紋章が静かに見下ろしている。ここは、私的な感情を持ち込むことが許されない場所であり、国家と国家が言葉を交わす場であった。


 その広間に、唐突な声が響いた。


「え? ええええ? ど、どうしてですの!?」


 驚きに満ちたその声は、場の空気を切り裂くように広がった。

 一瞬、誰もが何が起きたのか理解できず、視線だけが音のした方へ向けられる。


 声を上げたのは、第三王女・雪姫――雪乃であった。

 整えられた衣装に身を包み、王女としての立場にふさわしく立っていたはずの彼女の瞳が、大きく揺れている。その表情には、取り繕う余裕はなく、ただ率直な動揺だけが浮かんでいた。


「私に……なにか落ち度でも?」


 問いかけは、すぐに続いた。

 雪乃は、相手を責めるような口調ではなかった。声には混乱が混じり、言葉を選びきれていない様子がそのまま表れている。理由がわからないまま、状況だけが突きつけられたことへの戸惑いが、そのまま言葉になっていた。


 その視線の先にいたのは、シンの国の始皇帝である。

 彼は、雪乃の問いを正面から受け止めることなく、わずかに目を逸らした。その仕草は一瞬だったが、広間にいる者すべてが見逃さなかった。


 始皇帝は、ほんの短い間、言葉を探すように沈黙した。

 しかし、その沈黙の後に続いたのは、簡潔すぎるほど簡潔な一言だった。


「すまぬ……政治的理由だ」


 それ以上の説明はなかった。

 理由の詳細も、経緯も、補足もない。ただ、その言葉だけが、広間に落とされた。


 雪乃は、すぐに次の言葉を発することができなかった。

 「政治的理由」という言葉は、あまりにも漠然としており、問いへの答えとしては、何一つ形を成していなかったからだ。


 始皇帝は、そのまま踵を返した。

 堂々とした態度ではなく、どこかよろよろとした足取りで、広間を後にする。誰かに呼び止められることもなく、その背中は次第に遠ざかっていった。


 扉が閉まる音が、重く響く。


 広間には、気まずい沈黙が残された。

 誰もすぐには口を開かない。発するべき言葉が見つからないまま、空気だけが重く沈んでいく。


 そこに残ったのは、婚約破棄という事実と、それを告げる言葉のあまりの簡素さだった。

 説明はなされず、問いは宙に浮いたまま、広間は静まり返っていた。




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