魔法少女が夜に舞う・B
ヒーローズ・東京本部にて
「そりゃ残念だったね、夕陽」
「うっせ、てかそっちで呼ぶなよ…」
怪人を倒しそこねた女性ヒーロー、活動名はレッドサン、本名は鋼 夕陽という。階級は戦士で、まだ階級は上がってからあまり経っていない。(※階級の序列は 英雄>勇士>戦士>見習い)
「えー、出撃中じゃないんだしいーじゃん」
夕陽と話す彼女は、活動名をエコー、本名を響音 旭という。夕陽のサポーターとして活動を共にする見習い階級のヒーローだ。
「そりゃまあ、そうなんだが…」
「ここでもヒーロー演じるなら、もうちょっと元気に振る舞わないとじゃなーい?」
「うぜー」
最近の夕陽はなかなか怪人を倒す事ができず、元気を失いつつある。今日は特に、倒しかけを持っていかれたのが精神にきている様子。
「はぁ…しばらく休んだら?バイクの修理には時間かかるみたいだし、最近の夕陽はちょっと無茶な動き多いよ?」
「これぐらいはやらねぇと…誰よりも先に怪人を倒すなんて無理だ」
「んー…私がもっと良いサポートできなきゃかなぁ…」
「そっちも無茶はすんなよ?」
「わかってるって」
旭の存在は、夕陽がヒーローとして活動するにあたって欠かせない。そう言える程には、精神面を特に支えてもらっている。夕陽が少し無茶な事ができるのは、旭に支えてもらっているからなのだろう。
「あんまし夜目が利くわけじゃねぇけど、今夜は見回りでもやっとくか…」
「うえー、まだやるの? もう…仕方ないから、私も付き合ってあげる」
「え?いいのか?一人ででもやる気だったんだけど」
「その代わり夕飯奢って」
「うげ、まあいいけどさ…」
自然な流れで旭は夕陽を食事に誘う。ついでに食費を浮かすことに成功した。
魔法少女連盟・東京拠点にて
「いやー、久しぶりに怪人倒せてよかったよ〜」
「最近は向かう途中で倒されちゃうもんね」
「今日も危うく先を越されちゃうとこだったなー」
ヒーローを出し抜き、怪人の討伐を成功させた魔法少女、名前は夏海 カナ、活動名はない。階級はソーサラーで、階級の中ではまだひよっこレベル。(※階級の序列は ワイズ>マジカル>ソーサラー>マジシャン)
「うん、かなり接戦だった」
そんなカナの話を聞いている魔法少女、名前は月代 エイリ、活動名はない。階級はマジシャン。
「今度はさ、エイリちゃんも一緒に行こ?」
「私は夜行性だから…」
「お昼の方が絶対戦いやすいよ〜」
エイリは変身しているところをあまり人に見せないようで、そもそも彼女を魔法少女だと知る者自体がかなり少なかったりする。
「まーでも、これだけ争いが激しいと無理に誘うのも良くないかー」
「そうだね、ヒーローと口論は避けたいし」
ヒーローズ、魔法少女連盟は市民の安心の為に、ヒーローと魔法少女が争う事は避けるように伝えている。ここで言う争い事とは、怪人の関わらないものを指しており、怪人の討伐競争は含まれていない。
「そだ、夜ご飯一緒にどう?」
「ん、いいの?」
「もっちろん」
二人のヒーローと二人の魔法少女、偶然にも両方が夕食の為、似たような時間にそれぞれの組織を後にする。流石に店まで同じとは行かなかったが…
「あれ、さっきのヒーロー?」
「お前、さっきの魔法少女か…?」
行き先の都合ですれ違うことになった。
「…さっきはどーも」
「こ、こちらこそ…?」
微妙な空気。お互い言い争うような真似はしないが、そもそも何を言えばいいのか迷ってしまう。何を言っても口論に発展する可能性が拭えないのだ。
しかし、夕陽には一言だけ、カナに言わなければならないと思っていた事があった。
「次は負けねぇからな」
「…次も私が倒させてもらうからね」
そのまま話は発展することなく、お互いが目的地へと歩みを進める。付き添いの旭とエイリは軽く会釈だけして、それぞれの付き人を追いかけた。
「さてと、そろそろ行こうぜ」
「えー、もーちょっとのんびりしてから行こうよ〜」
「見回り終わりが遅くなっても困るだろ?」
「ぐぬ、そうだけども…」
軽い世間話をしつつ、食事を手早く済ませた(旭はデザートを急いで貪っていたが)二人は、組織に戻ってそれぞれの準備を行った。
ヒーローのレッドサン、エコーとしての衣装(装備)を整えて、正常動作のチェックも済ませてから出撃した。
「いや、あたしの近くにいたら危ないだろ…」
「私が単独行動したらもっと危ないよ」
「あー、それもそうだな」
「バカにされてる…」
昼間は活動するヒーローや魔法少女が多く、人目につきやすいことからも奇襲を仕掛ける怪人は殆ど現れないが、逆を言えば夜間は奇襲を仕掛けやすい時間帯となる。エコーのようなサポーターにとっては単独行動は厳しいのだ。
「ん?…あっちの広場の方に生命反応がたくさん…何かが集まってる」
「人が集まってるとしたら静かすぎだな」
「うん。怪人達が何か企んでるのかも」
「行くしかねぇな」
レッドサンはエコーを置いて行くことがないように、しかしできるだけ早く到着できるように歩幅を調整しながら走って向かう。それに気づいたエコーは、満足気に笑みを浮かべながらレッドサンを追う。
到着した目的の場所を覗き見て、複製されたような何体もの意志薄弱な怪人達が集められているのを二人は確認する。しかし、エコーには気がかりなことがあるようだ。
「おかしい…あれみたいな戦闘員タイプの怪人には、率いてるリーダーがいるはず…」
「リーダー直々に見張りでもしてんのか?」
『正解』
背後からの声。
とっさに振り返るも、そこには誰もいない。だが、レッドサンは頭上から攻撃を仕掛ける怪人に気づき、エコーを抱えて回避する。迎撃として何発か銃撃を加えるも、魔法のようなもので銃弾をかき消されてしまった。
「弾が消えた…!?」
「とりあえず隠れろ!」
エコーには隠れて遠隔のサポートに切り替えてもらいつつ、レッドサンがリーダー格の怪人と戦闘員怪人達を相手する。
「うーん、意外とやるのねぇ」
「そりゃどーも」
どうやら、回避直前に行っていた攻撃が肩に当たっていたらしい。暗がりでレッドサンには見えていないが、その傷は怪人の再生能力で塞がってしまう。
『判別装置が人間と怪人で迷ってる…?この怪人、なにかおかしいよ』
「擬態能力が中途半端なのか?まあいいや、とりあえず怪人なら倒すまでだ」
戦闘員怪人達が指示を受けて、レッドサンの元へと向かってくる。焦らず、銃撃して一部の侵攻を遅らせつつレッドサンも迎撃に向かう。
囲まれてはいるが、銃撃で離れた位置の怪人を抑えて近くの怪人の撃破を優先し、ブースターでの加速攻撃やゼロ距離からの連続射撃で戦闘員の数を減らしていく。
「こりゃあ…苦しい戦いになりそうだな!」
「うふ、まさかアナタが勝つ前提で言ってるわけじゃないわよねぇ?」
割り込むようにしてリーダー怪人がレッドサンに攻撃を仕掛ける。レッドサンとしてはリーダーを後回しにしたいようで、反撃で軽く足止めをして戦闘員の数を減らすのに注力する。
…が、足止めが予測よりも効果が薄く、リーダーの強烈な拳を叩き込まれて吹き飛ばされる。
『レッドサンっ!!』
「いてぇけど平気だ!」
すぐに態勢を立て直し、接近する戦闘員に銃撃で対処。リーダーにも銃撃を行うが、先程と同じように銃弾はかき消されてしまった。
リーダーはその場で、銃弾をかき消しているであろう力をレッドサンへ向けて放った。攻撃そのものは見えていないが、何かが飛んできたことに気づいて咄嗟に跳躍。しかし、攻撃範囲が広いようで回避が完全ではなく、足が巻き込まれてしまった。
「あ…?」
攻撃を食らった箇所に痛みはなく、外傷らしきものも見当たらない。だが、着地した瞬間に異常が起こっている事に気付いた。
足になかなか力が入らない。よろけた所に戦闘員が攻撃を加える。何度か攻撃を食らったものの、ブースターを高出力で駆動させて戦闘員を無理やり弾き飛ばして飛行を開始。
「どうなってんだ…!?」
『確証はないけど…力を奪う魔法を使ってるのかも』
「なるほどな!後で詳しく頼む!」
リーダーに魔法を飛ばさせないよう、銃撃で牽制しつつ戦闘を続行する。
時を同じくして、少し離れた場所で一人の少女が戦いの場へと走っていた。
『エイリさん、今日もありがとうございます』
「こちらこそ、遅くまでありがとうございます」
その場へ向かっている少女とはエイリのことだ。エイリに連絡しているのは、魔法少女連盟の幹部で街の監視に務めているアイズという魔法少女。
『怪人戦闘員の数は少しずつ減らせているようですが、リーダー格の怪人がかなり強敵で苦戦してますね』
「それなら、もっと急がないとまずそうですね」
エイリは大きな水色の宝石で作られたハート型のブローチを取り出し、胸の前辺りで構えながら勢いをつけて跳躍する。(※余談だが、連絡はアイズの魔法によって行われている)
「変身」
呟くようにそう言うと、ブローチが光を放ってエイリの姿を包み込む。
身に着けていた衣服が光に変化し、ボディスーツのように首から下を覆っていく。そこへ黒い風のようなものが吹き込み、腕、脚、胴体の順に光を包みこんで魔法少女としての衣装に変えていく。黒い布切れや包帯で作り上げたような野性味のある軽装を身に纏い、フード付きの二股に分かれたマントを羽織ったダークな雰囲気の魔法少女へとエイリは変身した。
更に、暗闇を模したような靄を全身に纏わせていく。手足に獣を想起させるような武装が形作られていき、狼のような耳のついたフードを被って二段階の姿の変化を完遂させる。着地と共に強く地を踏みしめると、手足の武装と目に浮かぶ水色の光が強く輝きだす。そのままエイリが地を蹴ると、先程の跳躍とは比べ物にならない勢いでエイリが飛び出していく。この勢いなら、すぐに目的地に到着してしまうだろう。
「そろそろ疲れてきたでしょ。休ませてあげるわ」
「まだ元気に飛び回れるんでな、結構だ」
リーダーが魔法を球状に乱射する。見づらい攻撃であるために、レッドサンは回避に専念させられてしまう。そのお陰で攻撃は避けられているのだが…
「やば…こっち狙ってきてる…!」
「クソっ!もっと優先すべき脅威があんだろ!?」
狙われたエコーに気を取られた一瞬。銃を握る手に攻撃を当てられてしまい、脱力から銃を落としてしまう。狼狽えたその隙を狙ったリーダーが、触手のようなものを伸ばしてレッドサンを叩き落とす。
「そんなっ…!!」
「うふふ、次はアナタの番よ?」
戦闘員達がエコーに迫る。残念ながら、エコーの手持ちは探知用の機器ばかりで護身ができない。少しでも生き延びようと、その場を離れはするが…
「しまっ…」
「ぐ…っ、エコー……っ!!」
受けた衝撃からまだ立ち上がれないレッドサン、角の方へ追い詰められたエコー。絶体絶命の状況に、エコーはついに立っていられなくなってしまうが、己を追い詰める恐怖の対象から目を逸らせないでいた。
それ故に、エコーはハッキリと見ていた。蒼い光の線が、戦闘員達を切り裂くその光景を。




