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パンプキンパイ  作者: いとい・ひだまり


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6/7

6.闇

 息も出来ないくらいに縮こまって、部屋の隅でメルは震えている。膝を抱え、すすり泣くメルの声が途切れることはない。小鳥がそっと彼女の肩に止まり寄り添った。


 どこにも逃げる場所がなかった。行く先全てに男達が待ち構えていた。メルの力で木を育てて壁に出来ないのかと聞いたけど、小さな植物じゃないとすぐには育たないと言われた。それも、育てるには自分のエネルギーを使うからとても疲れるのだと。

「武器になりそうなもの、勝手に探してもいい?」

「うん……」

 ぼくはキッチンの棚を開ける。まだ諦めきってはいなかった。

 そうだな、まず普通の包丁は使えそうだ。果物ナイフは護身用にメルに渡したけど、まだパン切り包丁だってある。それから鍋と、フライパンと……。

「ごめんなさい。わたしの所に来たせいであなたが巻き込まれた」

 後ろで彼女が呟いた。向くと、小鳥も彼女の肩で同じように悲しそうな目をしている。

「ねえ、あなたは逃げて。わたし一人が捕まればいい。あなたは何も悪くない」

「そんなの、メルだってそうだよ。メルは何もしてない。ただここに暮らしてただけだ。悪いのはあいつらだ。勝手にメルを悪者にして」

「……っお願いだから、逃げて。魔女の森に迷い込んだとでも言えば、きっと逃してくれるわ」

「メルを見捨てられる訳ないだろ⁉︎」

 ぼくは思わず声を荒げてしまう。メルは俯いて、重苦しい空気にぼくも目を伏せた。


 外が騒がしくなってきた。窓の向こうには赤茶の木枠に似合わない、どんよりとした灰色の空が広がっている。

 どうしてこんなことになった。彼女はただ、動物と仲が良かっただけだ。植物を育てていただけだ。

 このまま終わりを待つなんて嫌だ。

 ふと目を向けた先にあったのは、屋根裏に続く梯子。あ、そうだ。それなら……。

「ねえメル、屋根裏には天窓があるよね?」

「あるけど……それがどうかしたの?」

「そこから屋根の上に出られないかな?」

「……出来なくはないと思う。でも、屋根の上から逃げようとしても見つかってしまうわ」

「うん、だからぼくと、その小鳥が助ける。いいよね? 小鳥さん」

 目を合わせると、分かったのか小鳥は嬉しそうに小さくチュンと鳴いた。

「作戦があるんだ」



 ぼくは待ち構えた。鉄のフライパンを握り、ドアが開くのを。誰か入ってきたらこれで思いっきり殴る。……予定だったけれど、いくら待ってもドアは開かない。

「ね、ねえ、全然来ないけど、どうなってるの?」

「小鳥さんが言うには、少し離れた所で待ってるらしいの」

 不安がると、梯子を外しておいた屋根裏部屋からメルが答えてくれた。

「何でだろう。さっさと入ってくると思ったのに」

「様子を窺ってるのかもしれないわ。……油断はしないで。無理も」

「分かった、ありがとう」

 そうしてまたドアに意識を集中させた時。

 ガチャ。

 と音がしてそれが開いた。ぼくは思い切ってフライパンを振り下ろす。と、男が一人倒れた。なんの汗かも分からない汗が体中に吹き出る。

 呻いている彼を外へ押し出しがてら周囲を確認すると、男達が一斉に木々の間からあふれ出た。ざっと見ても二十人以上いる。ぼくはすぐさまドアを閉めて、机や梯子で簡易的なバリケードを作る。

「ぶち破れ!」

 外から怒声が聞こえる。

 ぼくは部屋の中央辺りまで下がって、床に置いておいた鍋やら小物やらを掴むとドアが破られるのを待つ。握ったフライパンは手汗で滑り落ちそうだ。


 囮になるのはメルに反対された。でも、彼女を逃す方法はこれくらいしか思い付かない。ぼくは自力で何とかしてみせる。聞かれたら「元々この家に住んでいたのはぼくで、襲おうとしてきたから反撃した」とでも言えばいい。たとえ無理があろうと、メルが捕まらなければいい。

「入れ!」

 破られたドアから男達が少しずつ入ってくる。ぼくは後退りながら滅茶苦茶に物を投げ付けた。包丁も鍋も、卵も、何だって。

「このガキが!」

 ドアからあふれてきた男達にフライパンを振り回す。けれど一人倒せても向こうは何人もいる訳で。その内囲まれて殴られたぼくは、床に押さえ付けられた。

「おい、魔女はどこだ! いねえぞ!」

「魔女なんかいない! 勝手にぼくの家に入ってきて何なんだ!」

 お前達の求める魔女なんかいない。メルはただのあどけない少女だ。そもそも魔法を使うことに一体何の罪がある?

「お前、隠しやがったな⁉︎」

「ぐっ……!」

 殴られた頬が痛い。それでも、抗う。力のある限り。

「うわっ、何だこれ!」

「汚ねえ!」

「いてえ!」

 外から悲鳴が聞こえ始めた。小鳥が仲間に呼びかけて、大量の糞をお見舞いしているんだろう。四足の動物の足音もする。鹿が突進してるんだ。みんな、メルを助けたいって思ってる。

「クソッ、魔女め!」

 男が腹いせに一層強くぼくを殴った。

「っ……お前らの方が、よっぽど魔女だ! 悪魔だ!」

「何だと⁉︎」

 痛くたっていい。男達がぼくに、動物達に集中すればする程メルは逃げやすくなる。

 と、何かが鳴った。森に響く乾いた破裂音。一瞬何の音か分からなかった。

 銃か……⁉︎

 何発も聞こえる。男が下品な笑みを浮かべた。

「今夜は鹿肉のシチューってのも悪くねえな」

「お前……っ」

「きゃあ! 嫌! 嫌だっ!」

 メルの声⁉︎

 少し遠くから聞こえる。ぼくの側にいた男が顎で指図し、ドアの近くにいた男がそれを開けた。外の様子が少し見える。無惨な赤色は見えなかったけれど、銃のせいで怯えたんだろう、動物達の姿はなかった。

「捕まえたぞ! こいつ、囮を使って森へ逃げようとしてやがった」

「メル!」

 一人の男が、メルの腕を掴んで自慢げにドアの前まで連れてきた。外傷はないものの……捕まってしまった。作戦は、失敗した。

「やっぱり隠してたじゃねえか」

 男の口元が意地悪く持ち上がる。

 苛立ちと悔しさから暴れようとするも、しっかりと押さえられていて腕を上げることすら敵わない。

「メルをどうする気だ!」

「決まってるだろ。世に害を与える魔女は、火刑だ」

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