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パンプキンパイ  作者: いとい・ひだまり


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4.秋の日々

 いくらか月日が流れて、ぼくは家がもう一つ出来たような感覚になっていた。暇さえあればメルの家に行って、絵を描いたり、動物達と遊んだりした。

 メルはぼくの絵をとても気に入ってくれて、家の壁という壁に飾り付けた。

「家が前より素敵になったわ!」

 そう言って笑って。僕は少し恥ずかしいのと嬉しいのとが混ざり合ってた。街でのぼくの絵の売り上げは……相変わらずだったけど。

「喜んでもらえて嬉しいよ」

「えへへ、わたしあなたの絵大好き! いつも描いてくれてありがとう」

「ぼくも、メルに絵が描けて嬉しいよ。ありがとう」

「うんっ」

 無邪気なメルを見ていると、まるで双子の妹が出来たみたいだった。微笑ましい気持ちでいると、不意にメルが視線を落とした。

「……わたしのこと、『怖い』と思わない?」

「怖い? どうして?」

「ほら、動物と仲良しで」

 メルは一瞬迷うような仕草をしたけれど、話を続ける。

「わたし、本当は家族がいたの。でも、わたしの力が『気味悪い』って、わたしを村から追い出して。……でも、『魔女だ』って殺されなかっただけマシだと思ってる」

 寂しそうな顔をして彼女は言った。いつも楽しそうな少女は珍しく落ち込んでいて、最後の言葉もきっと強がりなんだろう。

「メル……でもぼく、メルに会えたことも、友達になれたこともすごく嬉しいよ。たとえきみが本当に魔女だろうと別にどうだっていいんだ。もうひとりぼっちじゃない。ぼくも、メルも」

「……ありがとう」

 微笑んだら、彼女も笑顔になってくれるかと思ったらぽろぽろと泣き出してしまった。

「メ、メルほら、大丈夫っ。ぼくはどこにも行かないし、たとえメルをいじめるような人がいても守ってあげるから。ねっ?」

 それを聞いて、更にメルは泣いてしまって……。あたふたするぼくと動物達。

「ごめんね、悲しい訳じゃないの。ただね、とても、とっても、嬉しいの」

 そう言ったメルは、涙をぬぐいながら笑う。

 彼女が動物達と会話をしてることは、もう何となく分かってる。屋根裏にしかない小さな畑でどうやって食い繋いでいるのか気にはなるけど、彼女が何も言わないから知らないふりをする。メルが何者でも、彼女と過ごしていけるなら、それでいいんだ。



 ある日の午後。

「おやつ持ってくるね」

 と家に入っていったメルを待っている間、紅葉している木々を見つめていたらふと北部を思い出した。あの村を旅立って、一年と少し。リィスやみんなは元気だろうか。もうずっと会っていない。

 この街でも木々が紅葉し、所によっては葉も落ちてきている。北部はもう落葉しきっただろう。もしかしたら雪もちらついているかもしれない。


 雪の日は、リィスと雪だるまを作ったことを思い出す。ぼくと違って彼女は手袋をしていた。肌が白いから、鼻や耳が赤くなっているのがよく分かった。「出来た」と小さな雪だるまを作って笑う彼女は精霊のようだった。

 お屋敷の近くで村の子ども達と雪合戦をしていると、少し羨ましそうに窓から眺めているリィスが見えた。そんな彼女にぼくは手を振って、微笑んでお淑やかに手を振り返してくれるリィスにぼくは体が熱くなって。彼女が顔を傾けたから、さらさらの金の髪が僅かに揺れた。それに見惚れていたぼくは顔面に雪玉を食らって、彼女の前で無様に後ろに倒れてしまった。起き上がってリィスの方を見ると少し申し訳なさそうに、でも面白かったのかくすくすと笑っているのが見えた。


 北部は遠い。何かあっても知る術はない。……彼女は、結婚しただろうか。もうそんな年だ。

 選択を間違えたとは思っていない。でも、偶に思い出しては恋しくなってしまう。彼女だけじゃない。村のみんなのことだって。……元気にしているだろうか。

「……はぁ」

 溜め息を吐いたら右から気配がした。

「あ、メ……っ⁉︎」

 戻ってきたのかと思ったら鹿だった。鹿はそのままサクサクと落ち葉を踏みながらどこかへと行ってしまう。

「わたしはこっち」

 固まっていると左から声が。ぼくは自分の胸を撫でて落ち着かせてから、今度はちゃんとメルの方を向いた。

「どうしたの? 溜め息なんか吐いて」

「……リィスやみんなが、恋しくて」

「お屋敷のお嬢様だっけ」

「うん」

「……干しぶどう、食べる?」

「ありがとう」

 ぼくはメルから貰った干しぶどうを一つ口に放り込んだ。この森で採ったぶどうを二人で干したやつ。思い出もあるからか、とても甘くて美味しい。……暗い顔してたって、しょうがないよな。

「メル、いつもぼくと遊んでくれてありがとう」

「うんっ、それはわたしも! でも、急にどうして?」

「ううん、ひとりぼっちじゃなくて良かったって思って」

 メルがいなかったら、絵が売れないことに今よりずっと焦りを感じていただろうし、お喋りしたり気を許せたりする人はいなかった。それに彼女がいつも『お代』として渡してくれる食べ物のおかげで、前よりひもじい思いをせずに済むようになった。メルは大切な友人であり、恩人だ。

「ねえメル」

「なあに?」

「冬になったらさ、雪だるま作ろうよ」

「いいよ。じゃあどっちが大きいの作れるか勝負しよう!」

 メルはやる気満々といった様子で、ぐっと眉頭を下げる。

「気が早いよ。でもぼく負けないから」

「わたしだって。動物さん達もいるもんね」

「えー、それはズルだよ」

「だってあなたの方が力持ちだもん」

「それは、確かに……」


 苦しかったり、寂しく思うことがあったりしても、ぼくは何だかんだ毎日に満足していた。多少街でおじさんにこき使われようと、絵の売れ行きがよくなかろうと、メルという友達がいればぼくの人生に陰が落ちることはない。

 こんな日々がずっと続いていくと思っていた。

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