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ウィンド・マスターズ 異色の風使いたち  作者: 駿河晴星
第二章 襲来する魔物

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第二章 襲来する魔物(二)

 誰もが息を潜めていた。


 沈黙を破ったのは三太郎だった。咲羅をじっと睨めつけながら言った。


「やっぱり、バケモンの仲間や」


 積雪よりも冷たい声に咲羅は下唇を噛んだ。声が出ない。体力が残っていないという理由だけではなかった。自分は異質な存在であるのだと、はっきり証明してしまったのだ。あの怪鳥に抵抗できるだけの力を持っていた自分は、確かに化け物なのかもしれない。


 黙っている咲羅を実幸が庇った。


「咲羅は助けてくれたんじゃないですか!」


 男の子を抱えた父親も味方をした。


「そ、そうです。助けてもらったんです」

「でも、おまえらも見たやろ! 実幸さんとこの娘も、同じ目をしたこいつらも、明らかに人間じゃねえ!」


 この言葉に実幸たちは口をつぐんでしまった。実幸の反応に、咲羅の胸の奥がつきんと痛んだ。


 静寂が続く中、嘲笑が混じったような男の声が響いた。


「化け物とは、ずいぶんな言い草ですね」


 いつの間にか、ジャケット姿の長身の男が三太郎の背後に立っていた。二十代半ばの若い男だ。その翡翠色の双眸は、三日月形に歪んでいる。


 三太郎が小さな悲鳴を漏らした。


 男は白髪よりも光沢のある銀髪を風に揺らしながら、三太郎の前に滑るように移動した。右手に赤い血をべっとりと付けた日本刀を、左手に黒光りする鞘を持っている。


 怪鳥を斬ったのは、この男にちがいない。


 鞘を脇に挟んだ男は、ジャケットのポケットから出した紙で刀の血を拭きとり、納刀する。汚れた紙は掌から生み出した小さな炎で焼きつくした。


 当たり前のように炎を生み出す男に村人たちは身を竦ませる。表情が強張り、誰一人として声を発しない。男から放たれる異様な威圧感に、咲羅も息を詰めた。


 狐のように細い目をさらに細めた翡翠の男は、咲羅に近づいてきた。


 咲羅は目だけを動かし、男を見上げる。一見すると外国人のようだが、鼻も眉の骨もあまり高くない。顔に影がかかっているせいか一重瞼のせいか、笑っているのに冷たい印象を受けた。


「沙智が魔物じゃなく人間を選ぶなんて、俺は義兄あにとして赤飯でも炊くべきかな」


 翡翠の男は右の口角だけを上げていた。


 咲羅の肩を掴む沙智の手に力が入る。


「冗談はさておき」


 翡翠の男はしゃがんで、咲羅と目線を合わせる。


「初めまして。霧立きりたち風牙ふうがと申します」


 霧立という名字には聞き覚えがあった。沙智と同じだ。咲羅は沙智の顔を一瞥した。兄弟にしては似ていない。沙智は無表情のまま咲羅の体を支えてくれており、対照的に風牙は常に口角が上がっているが、その笑顔は嘘くさく見えた。


「風の才が使えるんですね」


 風牙は咲羅の手のひらを見つめた。


 言葉の意味が分からなかった。咲羅が問いかける前に、男は話題を変えてしまう。対話をする気があるようには思えなかった。


「ところで、あなたは的場まとば持之もちゆきという男を知っていますか」

「いえ……」

「そうですか」


 風牙は唇を尖らす。うーんと唸りながら、興味深そうに咲羅を見つめてくる。咲羅には、その翡翠の目に何かを企むような色が浮かんでいるように感じられた。


 その時、実幸が叫んだ。


「咲羅から離れてください!」


 怪我人を他の村人に託した実幸は、毅然とした態度でこちらへ向かってきていた。しかし、立ち上がった風牙に道を塞がれる。


「ど、どいてください」


 実幸の声は震えていた。しかし、その目は決して逸らさない。


「あなたは?」

「その子の母親です」

「え?」


 素っ頓狂な声を上げた風牙は、実幸の頭と顔をまじまじと見つめる。


「なんですか」

「色が違いますよね。旦那さんの髪と目の色は?」

「私と同じです」

「あれ、じゃあ半人はんじんでもないのか。彼女の実の親は?」

「……知りません」

「本当に?」


 風牙の疑念に実幸はカッとなった。


「知りません! 生まれて間もない子を置き去りにする親なんて……。十五年間ずっと、咲羅を育ててきたのは私たちです。私たちがその子の親です」

「そうですか」


 風牙は考え込むように黙ってしまう。


「あなたたちこそ何者ですか。なぜ化け物は村を襲うんですか。私たちが何をしたというんですか。天罰だとでも言うんですか」

「あー別に天罰とかじゃないですよ。どこにでも魔物は現れるんです。それを狩るのが私たちの役目です。もちろん私たちが魔物を呼んだわけではないし、彼女が呼んだわけでもない」


 風牙が咲羅を見下ろした。


「とりあえず、落ち着いた場所で話しませんか」

「落ち着いた場所なんて――」


 顔を顰めた実幸は言葉を途中で止める。母の視線を追うと、いつのまにか炎がすべて消えていた。


 風牙は穏やかな口調に変えた。


「魔物はすべて私たちが狩りました。これ以上被害が広がることはありません」


 風牙の言葉に、周囲の緊張した空気が少し和らいでいくのを咲羅は感じた。それでも依然として、村人たちの表情には警戒の色が残っていた。


「今日起きたことについて、きちんと説明します。村の皆さんを一箇所に集めていただけますか?」

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