第十三章 風人たちの真実(三)
目を開けた咲羅は、奥社に向かって走り出した。
左では、自分の胸にナイフを突き立てようとする直隆を風牙と空芽が食い止めようとしており、右では、横たわった亮のそばで沙智と成季が戦っていた。全体をぼんやりと視界に入れながら、咲羅は奥社に飛び込んだ。
埃っぽかった。九本の朽ちかけた柱が天井を支えている。畳四・五畳ほどの空間の中央に、ぽつんと長細い木の箱が置かれていた。
咲羅は木箱の蓋を開けた。中には紫色の刀袋が入っていた。刀袋の紐を解き、中から白鞘の刀を抜き出した。鯉口を切り、鞘から刀身を抜く。錆も欠けもない、美しい白銀の刃だった。
咲羅は柄をしっかりと握った。これであいつを倒せる。
咲羅は奥社を出ようと身を翻した。すると、ミシッと木の割れる音がした。柱すべてに横の切れ込みが入る。まるで御神体を持ち出そうとする人間を閉じ込めようとしているようだった。
咲羅は入り口の光に手を伸ばした。
これだけは持って出ないと!
光を切望する。折れた柱が、落ちた天井が迫ってくる。崩落まであと一歩――というところで光から伸びてきた手に引っ張られた。
奥社から転がり出た咲羅を支えたのは、沙智だった。
「あり、がとう」
礼を告げた咲羅は、すぐに顔をあげた。
直隆の胸にナイフの刃先が食い込んでいた。
空芽が直隆の腕を掴み、風牙が《治療》をかけているが、ナイフはどんどん深く刺さっていく。獣のような咆哮が響いていた。
咲羅は柄を強く握り、立ち上がった。自分を奮い立たせるための雄叫びを放ちながら、直隆に向かって走りだす。
「離れてください!」
間合いに入ってから咲羅は叫ぶ。
風牙と空芽は驚きながらも身を引く。
咲羅は刀を振り下ろす。紫電一閃、刀身が灰色の魂に触れた瞬間、血潮の代わりに塵の断末魔の悲鳴が木霊した。
膝から崩れ落ちた直隆の体から灰色の光が飛び出た。灰色の光は、空に溶けるように浮かんでいた翡靖の手の中に捕らえられた。
気を失っている直隆と亮を除いて、全員が翡靖を見上げた。
『こやつは我が「上」に連れていく。風原の者たちよ。世話をかけた。これからもさくらを頼む』
翡靖の気配が薄まっていく。
「お父さん!」
咲羅は叫んだ。
「また、会える?」
翡靖は一瞬目を見開いた後、やさしく笑った。
「きっと、いつか」




