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【完結】ウィンド・マスターズ 異色の風使いたち  作者: 駿河晴星
第十三章 風人たちの真実

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第十三章 風人たちの真実(一)

「いやっ! たすけて、沙智!」


 咲羅が力一杯叫んだその時!


 《異空間》に亀裂が入り、炎の龍が出現した。炎の龍はロケットの噴炎のような凄まじいエネルギーをもって塵に突っ込み、塵を咲羅の上から引き剥がした。熱風が咲羅の肌を焼く。


 《異空間》が壊れる。


 咲羅は土の地面に放り出された。目の前に、廃れた住吉造の社殿が佇んでいた。見覚えがあった。五田神社の奥社だ。


「おっと」


 一瞬風牙の姿が見えた気がしたが、すぐに咲羅の視界は高い土の壁で埋まった。


 咲羅は呆然として上体を起こした。下半身がひんやりとする。ハッとして、慌てて下着とズボンをあげた。猛烈な絶望感と、無力感と、恥ずかしさと、情けなさが咲羅を襲った。自尊心はずたずたに切り裂かれて、羞恥心も加わり、涙が止まらなかった。


 壁の外からは切り結ぶ音と男たちの声が聞こえてきた。


「まさかお前まで来るとは思わなかったよ。成季」


 直隆の声だった。


「今度こそ助けると決めたので」


「できるかな?」


 どん、と鈍い音がした。


 時を同じくして、八体の炎の龍が天を舞っていた。龍は一箇所を集中的に狙っているらしく、上昇と下降を繰り返していた。


外人げじんの血が濃く混じった紛い物どもめ!」


 塵が憤怒の叫びを上げた。彼の声を耳にするだけで、咲羅の背筋に冷たい恐怖が走った。嫌悪感で体が震えてくる。


 突如、あの男の目と同じ色の雨雲が咲羅たちの頭上を覆った。雲からはゲリラ豪雨とでもいうべき大量の雨粒が降り注いだ。咲羅を囲っていた土の壁が押し流される。炎の龍が消失する。水蒸気があたり一帯を白く染め上げた。


 視界は悪かったが、背格好や声から咲羅は、直隆と対峙しているのが成季と風牙、亮の姿をした塵と対峙しているのが沙智と一人の男だとわかった。男の顔は咲羅の位置からは判別できない。


「さっさと神の娘を返せ!」


「神の娘?」


 塵の怒声に反応したのは風牙だった。


 直隆が抑揚のない声で補足した。


「私たち風人の祖先は風の神らしい。たいていの風人は神の血が薄まっているが、冴田咲羅は三分の一、塵様は二分の一という濃い神の血が流れている」


「それが咲羅さんを狙った理由か」


「みたいだな」


 突き放したような言い方だった。


 彼らの会話はそれ以上続かなかった。


 沙智が塵を追い詰めていたからだ。粘土と化した土を使って、大木に塵を磔にし、その首を落とそうとしていた。


 白刃が雲間から差し込んだ陽光で光った。沙智は刀を薙ぎ払う。


 しかし、塵の首は胴体から離れなかった。


 成季の脇差二本が沙智の刀を受けていた。


「何の真似だ」


 沙智が唸る。


「中身は違っても、この体は亮のものだ」


「どけ」


「どかない」


「そいつも裏切り者だ」


「罪は償わせる。命を奪う以外の方法で」


「どけっ!」


 沙智の刀から青い炎が噴き出た。


 成季は苦しげに眉を寄せながらも耐えていた。


 どちらも引かない。


 その間に、塵が動いた。


「ふん。そんなにこの体が良いならくれてやる」


 亮の体から灰色の光が抜け出す。光は宙を飛び、直隆の中に入っていった。


「直隆さん!」


 男にしては高い声がして、ようやく咲羅はもう一人の男が空芽であることに気づいた。水蒸気が晴れてきて、その特徴的な空色の髪が見えたのだ。前学園長の愛弟子で、わたしを恨んでいる人……。


 直隆の色が灰色に変わっていく。髪も目もすべて変わると、直隆に乗り移った塵が笑った。


「我が魂であれば、肉体などどれでもいいのだ!」


 塵は両手を掲げた。体から青色と茶色の気が放出している。大量の《式神》を創り出そうとしているらしい。しかし、その動きは糸を引かれた操り人形のようにぴたりと止まった。


 反撃しようと構えていた風牙たちも、何事かと動きを止めた。


「どれでもいいと言いながら、十代の肉体を求めたのはお前だろう?」直隆らしい口調だった。


「そなた、なぜ!」直隆――いや、塵が言う。


「魂に《結界》を張っていたんだ」


 直隆がにやりと笑った。彼は塵の魂の侵入を許しながら、自我を保っていた。


「お前の魂の周りにも《結界》を張った。これで私の肉体から逃げられない」


「直隆、あんた……」


 風牙は構えを解いた。


「なぜだ、直隆! 的場の《結界》を壊したのはおまえではないか! 《結界》を壊すことで的場を越えるのだと言っていたではないか!」


「《結界》はそもそも緩んでいたんだ。あと一、二年もしたら自然と壊れていただろう。だが、私が持之さんを越えると言ったのは本心。彼が封印しかできなかったお前を滅することで、私は持之さんよりも優れた存在となる!」


「くそっ!」


 直隆の体から灰色の光が溢れ出した。しかし、先ほどのように飛んでいけず、体の周りに留まっている。主導権争いをしているのか、直隆の動きはぎこちない。ポケットに手を入れようとする意思と入れまいとする意思が拮抗していた。しかし、勝者は直隆だったらしい。震える腕を動かし、ついにポケットから折りたたみナイフを取り出した。


「やめろ!」


 風牙が地を蹴った。ナイフに向けて刀を突くが、《結界》に阻まれる。


「邪魔、するな」


「そんなことして何になる!」


「一番可愛がられていたお前でも、一番弟子の空芽でもなく、私が持之さんを、越える!」


 折りたたみナイフの先が、徐々に直隆の胸に近づいていく。

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