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第61話:【鋼鉄の軍勢と、絶望の質量】

── 亡霊の如き来襲

静寂を破ったのは、鳴きキノコの絶叫だけではなかった。 不意に、キャンプの周囲を取り囲む森の木々が、赤々と不気味な光を放ち始めた。


「……火だッ! 囲まれているぞ!」


虎人のリーダーが叫び、武器を手に取る。だが、その顔はかつてないほどの恐怖に歪んでいた。森の影から現れたのは、これまでの腐敗した貴族軍とは明らかに異なる、不気味なほど統制された銀灰色の甲冑。


「……あの紋章。おい、嘘だろ……。あいつら、西の果てにある軍事国家『ヴォルガ』の……通称『葬儀部隊』じゃないか!」


虎人の声が震える。これまで一度も遭遇したことのない、国境の外側の残忍な連中。彼らは一切の警告もなく、キャンプに向けて火矢と魔法の火線を一斉に放った。


「リーズ、俺の後ろに!」


翔太はLv. 20の質量を拳に溜め、突っ込もうとした。この手で鋼鉄の列を粉砕し、道を切り拓くために。


── 触手の制止

「……止まりなさい、翔太さん」


ドロリとした感触が、翔太の腕を絡めとった。見ると、エイベルの袖から伸びた黒い触手が、万力のような力で翔太を固定している。


「何をする、エイベル! あいつらを叩き伏せないと──」


「相手の力量すら分からないのですか?」


エイベルの声は、燃え盛る炎の中でも異常なほど冷たかった。


「個としての強さなら、あなたは確かに彼らを凌駕しているでしょう。ですが、相手は『軍』です。死を恐れず、陣形を崩さず、あなたの質量を分散させ、絡め取り、磨り潰すために最適化された殺戮機械。……今のあなたと、疲れ切ったこの十三人が抗ったところで、全滅までにかかる時間が数分延びるだけですよ」


エイベルの言葉と共に、地平線を埋め尽くすような松明の列が見えた。数百、いや数千。個の武勇が意味をなさない圧倒的な「数」という暴力。


── 瓦解する絆

「……ぐっ、……あッ!」


熱風が肌を焼く。虎人のリーダーやニノたちが、迫りくる鋼鉄の壁に抗おうとするが、統制された槍の林を前にして、一人、また一人とちりぢりになっていく。


「……逃げろ! 散り散りになって、ウル・ズールの壁まで走るんだ!」


虎人の叫びを最後に、キャンプは完全に崩壊した。 もはや『監視』も『信頼』も、炎と煙の中に消え失せた。残ったのは、生き延びるための本能だけだ。


「翔太さん……! クータが、ニノが……!」


リーズが涙を流しながら叫ぶが、翔太は彼女の細い腰を強く抱き寄せた。


「ごめん、リーズ。今はあいつらを助けに行けない……!」


エイベルの触手が解ける。彼は混乱に紛れるように、影の中へと溶け込んでいった。


「……正しい選択です、翔太さん。……国境で会いましょう」


エイベルの残響を残し、翔太はリーズを抱えたまま、燃え盛る森を疾走した。背後からは、逃げ惑う獣人たちの悲鳴と、それを無慈悲に刈り取る鋼鉄の足音が追いかけてくる。


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