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第57話:【阿鼻叫喚の狂想曲と、深夜の監視網】

── 絶叫の正体

「リーズッ!!」


翔太は沢を蹴り、木々をなぎ倒さんばかりの勢いでキャンプへと駆け戻った。耳をつんざく、幾千の喉が同時に裂けるような、この世の終わりを告げる絶叫。 Lv. 20 の身体能力をフル稼働させ、土煙を上げて広場に躍り出た彼が見たのは──。


「ふ、ふえぇ……ごめんなさい、みんな……」


顔を真っ赤にして泣きべそをかくクータと、その足元で七色に光りながら「ギャァァァァァァァッ!」と爆音を奏でる、奇妙な形の「鳴きキノコ」だった。


「……なんだ、キノコかよ」


翔太は膝をつき、激しく打つ鼓動を鎮めた。どうやらクータが沢の近くで見つけた珍しいキノコを、みんなを驚かせようと踏んでしまったらしい。その音色が偶然にも「数千人の絶叫」に聞こえる性質を持っていただけだった。


「……驚かせやがって。寿命が縮んだぞ、全く」


殺気立っていた獣人たちも、拍子抜けして武器を収める。張り詰めていた空気が一瞬だけ緩み、一行にようやく「理性」を取り戻すための隙間が生まれた。


── 混迷の犯人考察

「……さて。キノコの騒ぎは終わったが、問題は何も解決していない」


虎人のリーダーが、焚き火を囲んで重々しく口を開いた。生き残った十三人と、翔太、リーズ。彼らは円陣を組み、犯人の考察を始めた。


「昨夜のガウルの死、そして今朝の女性。……アリバイを確認したが、全員が『寝ていた』か『一人でいた』だ。誰もが怪しく、誰もが不可能だ。……特に聖女様、あんたは一晩中、英雄様の隣にいた。彼が証言している以上、あんたが外に出ることは不可能に近い」


「私も……翔太さんがずっと起きていたのを知っています。でも、犠牲者は出たわ」


リーズの言葉に、一同は沈黙する。 誰かが嘘をついているのか。あるいは、物理的な壁や距離を無視して命を吸い取る「概念」のような何かが潜んでいるのか。議論は平行線を辿り、再び互いを疑う険悪なムードが漂い始めた。


── エイベルの論理的な提案

「……少し、よろしいでしょうか」


それまで影に徹していたエイベルが、静かに挙手した。翔太は彼の背中に隠された「触手」を知っている唯一の人間として身構えたが、エイベルの口から出たのは、極めて現実的で建設的なアドバイスだった。


「今のまま一人ずつで見張りをしていても、また『影』に付け入る隙を与えるだけです。これからは、二名一組による一時間毎の交代制を導入すべきではないでしょうか」


エイベルは、指を立ててそのメリットを語り始める。


「今までは人間の襲撃を警戒し、最小限の人数で長時間見張る形でした。ですが、今の敵は『内側』、あるいは『目に見えない何か』です。二名一組にするメリットは三つあります」


相互監視: 二人が常に視界に入っていれば、どちらかが「影」に置き換わる、あるいは犯行に及ぶことを物理的に阻止できます。


精神的負担の軽減: 一人では幻覚や恐怖に呑まれやすいですが、会話相手がいれば現実感を保てます。


異常の早期発見: 一人が異変に対処する間、もう一人が叫んで全員を叩き起こすことができます。


「一時間という短いスパンにすれば、集中力も切れません。……何より、もし『犯人』がペアの中にいれば、その一時間は何もできないはずです」


── 疑心の合意

エイベルの提案は、論理の穴がなかった。 獣人たちも、疑心暗鬼に陥っている現状では、この「互いを監視し合う」というシステムが最も信頼に値すると感じたようだ。


「……いいだろう。今夜から実行する。ペアはこちらでランダムに決めるぞ」


虎人の決定に、一同は頷いた。 翔太は、平然と「善良な助言者」を演じているエイベルを注視した。


(……二名一組。確かに合理的だが、もし『混ざり物』同士がペアになったら? あるいは、ペアの一人が気づかないうちに中身を吸い取られたら?)


エイベルがさっき沢で言った「私以外にも混ざり物が多い」という言葉が、呪いのように翔太の脳裏を回る。 監視網は作られた。だがそれは、誰かを守るための網なのか、それとも効率よく獲物を仕分けるための檻なのか。


その夜、最初の「二人一組」の監視が始まった。 翔太は、隣で眠るリーズの温もりを確かめながら、闇の中で誰かが時計の針を刻むような、微かな音を聞いた気がした。

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