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第45話:【崩壊の余波と、泥濘(でいねい)の聖域】

── 語られ始める「あの日」の真実

リーズが少し落ち着きを取り戻した後、翔太はゆっくりと身を起こした。全身の筋繊維が軋むが、 Lv. 20 の回復力はすでに毒素を完全に中和し、細胞を活性化させ始めている。


「……教えてくれ、リーズ。あの後、一体何が起きたんだ?」


リーズは、天幕の外から聞こえる喧騒──武器を研ぐ音や、獣たちの不気味な咆哮に目をやりながら、静かに語り出した。


「翔太さんが、あの頭領を討ち取った最後の一撃……。あの衝撃波が、王都全体を縛っていた古い魔法的な結界を粉砕したんです。そして、城の地下深く、王家が秘匿していた『古の装置』が、翔太さんの放った莫大な 質量エネルギー を吸い込んで暴走しました」


装置の起動による大爆発。城の半分が崩落する中で、絶体絶命のリーズたちを救ったのは、意外な援軍だったという。


「王都の地下には、長年人間に虐げられ、奴隷として、あるいは捨て駒として潜伏していた獣人の一族たちがいました。結界が解けたことで彼らの力が解放され、地下通路を通って一斉に地上へと駆け上がってきたんです」


それは、救出という名の「反乱」だった。長年積み重なった怨嗟が爆発し、支配層がいなくなった王都は一晩で戦場へと変貌した。混乱の最中、リーズたちは獣人解放軍と共に王都を脱出し、北方の獣人国家『ウル・ズール』への亡命を目指す進軍を開始したのだという。


── かせを砕く拳と、沈黙の誓い

亡命の旅路が始まって二週間。翔太は、行く手に立ちはだかる人間貴族の直轄地「サンダー鉱山」の巨大な石門の前に立っていた。


「……また、これか」


翔太が軽く右拳を突き出すだけで、鉄補強された門が、内側へと爆ぜるようにひしゃげた。 背後から獣人たちの野太い咆哮が上がる。だが、翔太の心は冷めていた。現実世界でブラック企業に使い潰され、ゴミのように捨てられた経験が、彼に「甘い理想」を許さない。


(……生かしておけば、必ず後で牙を剥く。根絶やしにするのが一番効率的なんだ)


それが、 Lv. 20 の質量という圧倒的な暴力を得た彼の「現実的」な判断だった。だが、彼が拳を振り下ろそうとするたび、背後から悲痛な声が響く。


「翔太さん、お願いします……! 武器を捨てた人は、追わないで。これ以上の流血は、誰も救わないわ!」


リーズが、返り血で汚れた翔太の腕に縋り付く。 彼女はこの軍で唯一の、そして最高位の回復魔法使い。彼女の祈りがなければ、劣悪な環境で戦う獣人たちの生存率は激減する。翔太はリーズの琥珀色の瞳に見つめられ、舌打ちを飲み込んで拳を下ろした。


「……わかってる。無闇には殺さない。それが君の望みならな」


── 救済という名の残酷な現実

制圧された鉱山の広場。翔太の方針により、生き残った人間の守備兵たちは、武器を奪われ、一箇所に集められていた。そこへ、リーズがボロボロの法衣を揺らしながら、敵味方隔てなく治療を施しに現れる。


「……あ、悪魔め……」


命を救われたはずの人間の兵士が、治療を終えたリーズの背中に唾を吐きかけた。その瞳にあるのは感謝ではない。異形のもの(獣人)に屈した底知れぬ屈辱と、いつかその喉元を掻き切ってやろうという暗い復讐心だけだ。


一方、解放されたはずの獣人奴隷たちの姿も、あまりに凄惨だった。 長年の強制労働と虐待により、彼らの多くは心身ともに破壊されており、自由を宣告されても、ただ暗闇の中で震えることしかできない。


「英雄様、なぜ殺さない! 奴らを生かしておくのは、我らへの侮辱だ!」


一人の狼人が、血走った目で翔太に詰め寄る。翔太は無言でその男の肩を掴み、 Lv. 20 の重圧で黙らせた。


「……リーズ、これが君の望んだ『平和的な解放』の結果だ。生かされた敵は憎悪を募らせ、救われた味方は絶望の中で生きる術を失っている。俺たちは、ただ地獄の形を変えているだけじゃないのか?」


「それでも、翔太さん。……殺してしまえば、そこで全てが終わってしまう……」


リーズの声は震えていた。彼女の慈愛は、この血生臭い因果応報の世界において、あまりにも美しく、そして致命的に浮いていた。


その夜、キャンプの外れで、翔太が「生かした」人間の一人が、隠し持っていたナイフでリーズを襲おうとした。翔太は無言でその男の腕を掴み、悲鳴を上げる暇も与えず骨を叩き潰した。


「因果応報……か。……リーズ、君の祈りを汚す連中を掃除するのは、やはり俺の役目のようだ」

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