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第43話:【静かなる引導と、確かな拒絶】

── 扉の向こうの影

「……翔太、どうするの?」


シーツにくるまり、震える声で尋ねる陽葵。部屋には冷え冷えとした緊張感が張り詰め、ドアの外では谷村がまだ喚き散らしている。


「おい! 聞こえているんだろう! この私がわざわざ足を運んでやったんだぞ! 感謝してドアを開けんか!」


翔太は深く息を吐き、乱れた呼吸を整えた。体内で暴れ回っていた情欲の炎は、静かな、しかし絶対的な拒絶の意志へと変換されていた。


「陽葵、そこで待っててくれ。すぐに終わらせる」


翔太は陽葵の頭を優しく撫でると、シャツを羽織ることなく、上半身裸のまま玄関へと歩み寄った。

Lv. 20に達した彼の肉体は、怒りによって彫刻のような筋影をさらに深く刻んでいる。


カチャリ。鍵を開ける音が、深夜のアパートに重く響いた。


── 圧倒的な「格」の差

ドアがゆっくりと開く。谷村は、醜悪な笑みを浮かべて待ち構えていた。


「やっと開けたか、このグズが。まずはその薄汚い床に頭を……」


言葉が、凍りついた。 薄暗い照明に照らし出されたのは、ドア枠を埋め尽くさんばかりの、圧倒的な肉の壁。鋼のような大胸筋、丸太のような腕、そして冷酷な光を宿した瞳。


「お、お前……高橋なのか? なんだその体は……。いや、そんなことはどうでもいい! 私はチャンスを……」


谷村が捲し立てようとした、その時。


翔太が、ゆっくりと右手を上げた。


「……っ、ひいっ!?」


殴られると直感した谷村は、無様に首をすくめ、両手で顔を覆ってガタガタと震え出した。だが、衝撃は来ない。


── 掌に込めた絶縁

翔太は、怯える谷村の肩へ、優しく、宥めるようにその大きな掌を置いた。


「……え?」


谷村が恐る恐る目を開ける。翔太は殴ることも、怒鳴ることもしない。ただ、肩に置いた手に、ほんの僅かだけ力を込めた。


「ぐ、……っ、あ……」


谷村の顔が、微かな痛みで歪む。 それは骨を砕くような暴力ではない。だが、逃げようとしても決してびくともしない、万力のような確かで重い圧力。その指先から伝わる圧倒的な「個」としての力の差が、谷村の傲慢さを内側からじわじわと削り取っていく。


「谷村さん」


翔太は、至近距離で静かに告げた。その声は低く、腹の底に直接響くような威圧感を含んでいる。


「あなたの会社がどうなろうと、あなたのキャリアがどうなろうと、今の俺には何の関係もありません。二度と、俺と……俺の大切な人の前に姿を現さないでください」


殺意はない。だが、そこにあるのは抗いようのない絶対的な拒絶だった。 翔太がパッと手を離すと、緊張の糸が切れた谷村はその場にへたり込み、ガタガタと震えながら鈍い痛みの残る自分の肩をさすった。


「あ……あ、あ……」


谷村の瞳から光が消え、恐怖だけが支配する。彼は這いつくばるようにして後ずさり、脱兎のごとく階段を駆け下りて逃げ出した。


── 敗走のあと

翔太は静かにドアを閉め、鍵をかけた。 暗い玄関で一人、自分の大きな掌を見つめる。かつてはこの男に怯えていた自分が、今はこれほどまでに遠い場所にいる。


寝室に戻ると、陽葵がシーツを握りしめたまま、心配そうにこちらを見ていた。


「翔太……大丈夫だった?」


「ああ。もう来ないよ。二度とな」


翔太はベッドの端に腰を下ろした。緊迫感は去ったが、先ほどまでの一線を越えそうな熱い雰囲気は、完全に霧散してしまっていた。


「ごめん、陽葵。せっかくの夜だったのに」


「……ううん。いいの」


陽葵はシーツから這い出すと、翔太の逞しい背中に後ろから抱きついた。岩のように硬い筋肉の感触。だが、そこから伝わる体温は、驚くほど優しかった。


「あんたが守ってくれたから、それでいい。……今日はもう、こうやって寝よ?」

陽葵の言葉に、翔太は小さく頷いた。

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