第41話:【恩着せがましい招待状と、断ち切る決意】
── 傲慢な救済:谷村部長の算段
ブラック・ロジスティクス社の部長室。谷村は、液晶画面に向かって不敵な笑みを浮かべながらキーボードを叩いていた。
彼は確信していた。高橋(翔太)のような、社会の底辺で燻っていたデブに、自分という「成功者」から連絡が来ること。それ自体が、あいつにとっては何よりの福音であるはずだと。
メール内容:
件名:【重要】貴殿の今後の身の振り方についての温情的な提案
高橋君。 君が退職してからというもの、我がチームの士気は(君という不潔な要素が消えたことで)向上している。しかし、田中君をはじめとする慈悲深い社員たちから、無職となった君を憐れむ声が上がっているのも事実だ。
そこで、私が特別に役員を説得し、君を再雇用してやる場を整えてやった。
条件は二つだ。 一つ、私へのこれまでの非礼を土下座で謝罪すること。 二つ、再雇用後は以前の倍の業務を「無償の奉仕(研修)」としてこなすこと。
明日の朝、誠意ある態度で私の元へ来なさい。君に残された最後の蜘蛛の糸だと自覚するように。
開発部部長 谷村
「……よし。これでいい。恩を売る形で、実務だけを押し付けてやる。あいつのことだ、泣いて喜んで戻ってくるだろう」
谷村は、自分の非を認めないどころか、この状況を「自分の慈悲深さ」をアピールするための道具として利用しようとしていた。
── 映画館のロビー:高鳴る鼓動の余韻
一方、上映が終わり、明るい光の下へと出てきた翔太と陽葵。 陽葵は、暗闇の中で翔太に握られた手の熱さがまだ残っているようで、ぼーっとした表情で翔太の隣を歩いていた。
(陽葵の脳内) ……信じられない。あんなに、あんなに強く握ってくれるなんて。 映画の内容なんて一つも覚えてないわよ。翔太の指の感触と、あの熱。 これってもう、付き合ってると言っても過言じゃないわよね……?
陽葵は、翔太の逞しい二の腕に、自分からそっと指先を絡める。 翔太は、映画館での「力の暴走(握力過多)」を反省し、今度は慎重に、壊れ物を扱うように陽葵をエスコートしていた。
「……陽葵、さっきはごめん。手が、その、熱かったろ? 痛くなかったか?」
「……ううん。全然痛くない。むしろ、もっと……って、何言ってるのよ、あたし!」
陽葵が赤くなって俯いた、その時だった。 翔太のポケットの中で、スマートフォンがバイブレーションを鳴らした。
── 絶縁の通知
翔太が画面を覗き込む。そこに表示された谷村からのメールを一読し、彼の表情から温度が消えた。
Lv. 20の肉体が、不浄な殺意を検知したかのようにピリリと反応する。
「……あいつ、まだこんなことを言っているのか」
「どうしたの、翔太? 怖い顔して」
陽葵が隣から画面を覗き見る。その内容を一瞥した瞬間、彼女の顔から先ほどまでの恋する乙女の輝きが消え、般若のような怒りが宿った。
「な、なによこれ! 温情? 土下座!? どの口が言ってるのよ! この、カビの生えた勘違い部長!」
陽葵は、自分の大切な翔太を「豚」扱いし、あまつさえ利用しようとする谷村の傲慢さに、震えるほど腹を立てていた。
「翔太、こんなの無視しなさい! 行く必要なんてどこにもないわよ!」
「……ああ。そうだな。もう、あの場所は俺にとって何の意味もない」
翔太は、かつて自分が這いつくばっていた暗い過去を、冷静に見つめていた。
Lv. 20の力を得て、異世界で一国の王権さえ粉砕した今の彼にとって、谷村という男は、もはや怒りの対象ですらなく、ただの「取るに足らないノイズ」に過ぎなかった。
翔太は、返信すらしないまま、谷村のメールを「迷惑メール」へと振り分けた。
「……陽葵、腹減らないか? せっかくだし、もっと美味いもん食いに行こう」
「……っ。そうね! あんたに土下座なんて、一万年早いわよ!」
翔太は陽葵の手を優しく引き、明るい夜の街へと踏み出す。




