第35話:【劇的! 鋼のビフォーアフター】
待ち合わせ場所の駅前。白シャツに黒のスラックスという、いたってシンプルな装いの翔太がそこに向かっていた。しかし、彼の周囲だけは、まるで磁場が狂ったかのように通行人の視線が吸い寄せられていく。
ここで、彼の肉体に起きた劇的な変化を振り返る。
~(なんか匠なBGM)~
かつて、この青年が住まわされていたのは――
過酷な労働環境という名の、欠陥だらけの肉体住宅。
連日の残業によって、頭頂部は深刻な砂漠化。
鏡を見るたびに吹き抜けるのは、ため息という名の乾いた季節風でした。
運動不足と偏った食生活がもたらした、
スーツのボタンを今にも弾き飛ばしそうな脂肪の増築部分。
しかもその施工は、完全に無許可。
さらに、長時間座り続けたデスクにまで染みついてしまった、
ストレスと加齢臭が混ざり合う、
本人ですら直視したくない生活臭問題。
もはや彼は、一人の男性というより――
会社に使い倒された社内備品。備品番号、未記入。
「……まぁ、なんということでしょう」
異世界という名の匠が一歩足を踏み入れた瞬間、
この“事故物件”は、誰もが目を疑う変貌を遂げます。
あれほど寂しかった頭頂部には、
レベルアップの恩恵によって、
説明不要のフッサフサ。施工完了。
脂肪という名の違法建築は、跡形もなく撤去。
その下から現れたのは、
叩くと音が鳴りそうなほど仕上がりの良い超高密度筋繊維。
耐久性、耐衝撃性、対魔王性能――まぁ、魔王がいるかは定かではありませんが.....
すべて基準値オーバーです。
さらに匠は、長年放置されていた異臭問題にもメスを入れました。
換気、消臭、そして最終仕上げ。
今や彼の身体から漂うのは、
女性の本能を誤作動させるレベルの、野生と気品が同居した極上のマスキュリンの香り。
しかも――
匠の粋な計らいにより、
本人はこの劇的ビフォーアフターに一切、気づいていません。
鏡は、まだ見ていない。
自覚も、ない。
しかし周囲の視線だけは、
明らかに増築されています。
これぞまさに、
住む人が気づかぬまま完成してしまった、奇跡のリフォーム。
「次回は、どんな物件が生まれ変わるのでしょうか」
~(例のBGM)~
── 駅前:静寂と熱視線
「……お、待たせたな。陽葵」
翔太が声をかけると、駅前の空気が一変する。
陽葵は、目の前に立つ男が本当にあの幼馴染なのか、一瞬疑うほどの衝撃に打たれる。風に靡く豊かな黒髪。白シャツを突き破らんばかりに盛り上がった大胸筋。以前の悩みだった頭頂部は、今やどこから見ても完璧な美男子のそれである。
陽葵は顔を真っ赤に染め、周囲の女性たちが翔太に向けている「獲物を見るような目」に気づく。彼女は慌てて、彼の逞しい二の腕を強く掴んだ。
── 周囲の反応:嫉妬と賞賛の狂騒曲
通行人たちからは、溜息混じりの囁きが漏れ聞こえる。
女性たちは、その圧倒的な存在感に釘付けになる。何あの人、かっこよすぎる。あの胸板に抱かれたらどんな悩みも吹き飛びそう。髪もフサフサだし肌も綺麗。あんな彼氏がどこに落ちているのか、といった羨望の声が上がる。
一方で、男性たちは嫉妬と専門的な賞賛を隠せない。なんだあのイケメンマッチョ。隣の女子も可愛いではないか。おい見ろ、あの広背筋のバルクは尋常ではない。上腕三頭筋の長頭が凄まじいな。どんな追い込み方をすればあんなに太くなるのか、と筋肉の求道者たちは戦慄する。
しかし、翔太本人は、それらの鋭い視線をすべて「嫌悪」だと盛大に勘違いする。なんだあのデブ、不釣り合いな女を連れやがって、と威嚇されているのだと思い込み、彼は無意識に肩を窄めた。
── 初デートの幕開け
「陽葵、みんなが怒っているみたいだ。やはり俺の格好は変なのだろうか。早く行こう」
翔太が不安げに呟く。
「怒ってないわよ! むしろあんた、今この街の主役なんだから!」
陽葵は独占欲を隠しきれない笑顔で、翔太の腕を引く。
まずは服選びだ。その筋肉のせいで普通のサイズではボタンが飛んでしまいそうなため、彼女がしっかり選んであげる必要がある。
「あ、ああ。頼む。普通に見える服がいいのだが……」
悪夢の不安を心の片隅に残しながらも、翔太の現実世界での再始動が始まった。




