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第34話:【悪夢の残滓と、高鳴る鼓動】

── 陽葵の夜:眠れない期待

翔太のアパートから少し離れた自宅。陽葵は、スマートフォンを胸に抱きしめたまま、ベッドの上で何度も寝返りを打っていた。


(……これって、よく考えなくても「初デート」じゃない!?)


幼馴染からの、突然の誘い。心臓の爆音が止まらない。陽葵は顔を真っ赤に染め、足をバタバタとさせて布団を蹴り飛ばした。


「もう……服、何着ていけばいいのよ。あんたがそんなにかっこよくなっちゃうから……あたし、釣り合わないじゃない……」


彼女はクローゼットを開け、夜中まで一人ファッションショーを繰り返した。鏡に映る自分。その瞳には、かつてないほどの期待と、翔太を独り占めできる喜びが溢れていた。


── 絶望の悪夢:無力な残像

一方、翔太は深い闇の中にいた。 目を開けると、そこはあの異世界の戦場だった。だが、何かがおかしい。


「……はぁ、はぁ……身体が、重い……?」


足元を見ると、そこにあるのは鋼の肉体ではなく、かつての締まりのない醜い脂肪の塊だった。息切れが止まらず、一歩を踏み出すことさえ苦しい。 そして、その視線の先で。


「いや……やめて……! 高橋さん、助けて……!!」


リーズが、数人の騎士たちに地面へ押さえつけられていた。 彼らは卑劣な笑みを浮かべ、彼女の服を引き裂き、その尊厳を執拗に踏みにじろうとしている。


「おい見ろよ、お前のヒーローだ。あんな豚に何ができる?」 「見ろよ、女。お前の希望がただの肉塊(ブタ)だと教えてやる」


翔太は叫ぼうとした。拳を振るおうとした。 だが、今の彼には[Lv. 20]の質量も、世界を砕く力もない。ただの「無力なデブ」として、涙を流しながら呆然と立ち尽くすことしかできなかった。リーズの悲鳴が、耳の奥にこびりついて離れない。


── 覚醒と、焦燥の鍛錬

「……っ!!」


翔太は跳ね起き、自分の顔を両手で覆った。 額からは滝のような冷汗が流れ、心臓が壊れた時計のように激しく脈打っている。


「夢……か。クソッ……まだ戻れないのか」


現実世界の壁紙を見て、彼は深く絶望した。と同時に、あの悪夢の感触が「警告」のように思えてならなかった。リーズが今、本当にあんな目に遭っていたら? もし、自分の力が消えてしまったら?


(……このままじゃダメだ。もっと、もっと強くならなきゃいけない)


異世界に行けないもどかしさを、彼は肉体への虐待に変えた。 いつもの二倍、三倍──。 狭いアパートの中で、翔太は自身の限界を超えるほどの負荷を筋肉に叩き込んだ。 床が抜けるほどの圧力でスクワットを繰り返し、腕立て伏せをするたびに畳がミシミシと悲鳴を上げる。 精神的なダメージを肉体の痛みに変換し、彼は自身の「質量」をさらに研ぎ澄ませていった。


── 出発:無難な装いの「怪物」

気づけば、陽葵との約束の時間が迫っていた。 翔太は急いでシャワーを浴び、家にある中で比較的まともな服を引っ張り出した。


下は黒のシンプルなスラックス。上は清潔感のある白のシャツ。 ファッション雑誌なら「無難な格好」と書かれるはずの組み合わせ。 だが、[Lv. 20]の肉体がそれを纏うと、まるでオーダーメイドの特注品のようになった。分厚い大胸筋が白シャツを内側から押し上げ、肩幅のせいでシンプルなシルエットが圧倒的な威圧感を放っている。


「……よし、これでいいはずだ」


鏡に映る自分を一瞥し、翔太は家を飛び出した。 駅前までの道を走る。一歩ごとに地面を蹴る力が強く、並の人間が全力疾走する以上の速度で、彼は目的地へと向かっていた。


悪夢の残像を振り払うように、翔太は陽葵の待つ駅前へと突き進む。

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