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第32話:【大胸筋が歩いてた】

── 脱衣所の静寂

スーパー銭湯「極楽の湯」の脱衣所。 翔太が特大のパーカーを脱ぎ捨てた瞬間、その場にいた男たちの動きが完全に止まった。


そこにあったのは、もはや人間の肉体の限界を超えた「彫像」だった。 [Lv. 20]に到達し、絶対的な密度を獲得した筋繊維が、照明の下で大理石のような光沢を放っている。以前の脂肪は欠片もなく、背中には文字通り「鬼」が棲んでいるかのような複雑な筋肉の起伏が刻まれていた。


(うわ……みんな、こっち見てる。やっぱり身体が泥だらけで不潔なんだ。早く隠さないと……)


翔太は居たたまれなくなり、股間をタオルで隠すと、逃げるように洗い場へと向かった。 背後で「おい、見ろよあの背中……」「格闘技の世界王者か何かか?」という感嘆の声が上がっていたが、翔太の耳には「うわ、汚ねぇな」「あんなの人間じゃねぇよ」という罵倒に変換されて届いていた。


── 洗い場の攻防

洗い場に座った翔太は、周囲に迷惑をかけないよう、必死に全身を磨き上げた。 異世界の泥、返り血、そして染み付いた汗。それらを三回、四回と執拗に泡立てて洗い流す。


だが、彼が腕を動かすたびに、丸太のような二の腕と分厚い大胸筋がダイナミックに躍動する。隣で体を洗っていた青年が、自分の細い腕と見比べ、絶望したように溜息をついてその場を立ち去った。


(あ……隣の人、俺の汚れが飛んだから嫌がって行っちゃった。本当に申し訳ない……)


翔太はさらに縮こまり、隅々まで磨き上げた。 汚れが落ちた後の彼の肌は、磨き抜かれた鋼のように白く、そして強固な輝きを放っていた。


── 露天風呂の王

ようやく身綺麗になった翔太は、一番大きな露天風呂の湯船へと向かった。 彼が一歩、湯の中に足を踏み入れる。


ザバァァァッ!!


圧倒的な質量を持つ翔太が浸かったことで、大量の湯が縁から溢れ出した。 その威圧感に、先に入っていた客たちが一斉に端の方へと寄り、翔太のために中央のスペースを空ける。


(やっぱり……。俺が汚いから、みんな避けてるんだ。隅っこで大人しくしてよう……)


翔太は湯船の真ん中で小さく丸まり、天を仰いだ。 リーズのことを思い出す。あの王都の混乱の中、彼女はどうしているだろうか。 現実世界の温かい湯に包まれながらも、彼の心は未だ異世界の戦場に囚われていた。


だが、周囲の男たちの視線は、翔太の逞しい胸板と、湯面に浮かぶ丸太のような太ももに釘付けだった。 「あんな肉体になれるなら、魂を売ってもいい」 そんな崇拝の視線を、翔太は「早く出ていけという無言の圧力」と受け取り、わずか五分で湯船を飛び出した。


── 帰り道の波紋

髪を乾かす暇もなく、再びパーカーを深く被って銭湯を後にした翔太。 帰り道、街灯の下を歩いていると、前から一組の若いカップルが歩いてきた。


すれ違いざま、翔太の肩幅が街灯の光を遮る。 パーカー越しでも隠しきれない、野生動物のような圧倒的なシルエット。


「…………っ」


カップルの女性が、息を呑んで足を止めた。 彼女の目は、隣にいる細身の彼氏を完全に忘れ、翔太の背中を熱烈に追いかけている。 「男」としての圧倒的な格の差。生物的な本能が、強烈な引力を放つ翔太を選べと叫んでいた。


「おい、どうしたんだよ?」


彼氏が不機嫌そうに声をかけるが、彼女はうわの空だ。 「ねえ……今の人の体、見た? ……なんだか、隣にいるのが急に恥ずかしくなっちゃった」


その言葉は、研ぎ澄まされた翔太の聴覚にはっきりと届いていた。


(恥ずかしい……? ほら、やっぱりあんなパーカーの着こなしじゃ変なんだ。もっと普通の服を着ればよかった。俺みたいなのが外を歩くのは、やっぱりまだ早かったんだ……)

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