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第28話:【絶技の火花と、侵食する深淵】

現実世界の六畳間。 翔太の肉体から立ち昇る熱気は、今や部屋の酸素を奪い去るほどに濃密だった。 陽葵ひまりは、翔太の首筋に浮き出た太い血管が、まるで生き物のように脈打つのを見つめていた。


(……翔太の体が、震えてる。怒ってるの? それとも、誰かと命を懸けて戦ってるの……?)


彼女は、翔太の首にそっと指先を這わせた。その肌は驚くほど硬く、そして奥底から噴き出すようなエネルギーで満ちている。陽葵は、自分の指が焼かれるような錯覚を覚えながらも、その圧倒的な存在感から片時も離れられないでいた。


── 異世界の王城:極限の一撃

崩落の土煙が舞う玉座の間。 突如、翔太の背後の影が、音もなく「形」を成した。


「影の牙」頭領。 王家が最後の切り札として飼い慣らした、暗殺の極致に至った男。 彼は翔太の「高密度圧域」という物理的な障壁さえも、自身の気配を無にすることで認識の隙を突き、潜り込んでみせた。


キィィィィィィィンッ!


耳を劈くような金属音が響く。 頭領の放った黒光りする魔導短剣が、翔太の無防備な首筋へと突き立てられた。 本来ならば首を跳ね飛ばしているはずの一撃。 しかし、翔太の鋼を超えた密度の肉体は、その極大の破壊エネルギーを正面から受け止めた。


「……ほう、浅いか」


頭領の冷徹な声。 翔太の首筋には、わずか一ミリ程度の、小さな「傷」が刻まれていた。 一滴の鮮血が、鋼のような肌を伝って流れ落ちる。


「……あ? 血が……。ははは! ははははは!」


それを見た国王が、先ほどまでの卑屈さを投げ捨て、狂ったように笑い出した。 玉座の奥から次々と現れる影の牙の精鋭たち。 彼らの増援を確信した王は、椅子にふんぞり返り、翔太を指差して吠えた。


「見ろ! その化け物にも血は流れているではないか! 頭領よ、よくやった! 殺せ! その女共々、一肉片も残さず細切れにしろ!!」


王の罵声が響く中、翔太は自分の首筋を指でなぞり、そこに付いた赤い液体を見つめた。 目の前に立つ頭領から放たれる殺気は、今までの雑魚とは次元が違っていた。


頭領の脳裏に、かつての地獄が過る。 光の差さない地下深くの縦穴に放り込まれ、死肉を啜り、暗闇の中で数千、数万回と「突き」を繰り返した日々。 五感を研ぎ澄ますために自ら視覚を封じ、心音だけで標的を屠る技術を完成させるために、数えきれないほどの同胞を手にかけた。 システムによるレベルアップではない。 それは、純粋な人間の努力だけで神域にまで手を伸ばした、執念の「技」だった。


[現在レベル:Lv. 15] [警告:対象個体の「戦闘技術」が宿主の「防御能力」の隙を突く可能性があります。]


翔太の背筋を、かつてない戦慄が走る。 今までの敵なら、適当に腕を振るだけで粉砕できた。 だが、この男は違う。 手加減なんて、そんな傲慢なことができる相手ではない。 少しでも力を緩めれば、その瞬間に首を断たれる。 本気で──この肉体の全てを解き放って戦わなければ、殺されるのは自分だ。


「……いいだろう。お前は、手加減なしでやる価値がある」


翔太が腰を落とし、本気の構えをとる。 その質量はさらに増大し、城の床が自重で崩れ始めた。


だが、翔太はまだ気づいていない。 頭領の短剣に塗られていたのは、生物の神経系を直接焼き切る「高純度濃縮神経毒」。 首筋の小さな傷口から、どす黒い一筋の線となって、彼の鋼のような肉体の深層へと、静かに、確実に侵食を始めていることに。

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