第27話:【蹂躙の静寂と、偽りの王権】
現実世界の六畳間。 陽葵は、眠る翔太の傍らでその「変化」を全身に浴びていた。 部屋の空気は、まるで見えない重しが乗せられたかのように重く、窓ガラスが微かにカタカタと震え続けている。
(……翔太。あんた、今どこで戦ってるの? あたしには、あんたの鼓動が地響きみたいに聞こえるよ……)
陽葵は、翔太の大きく熱い掌を両手で包み込んだ。 彼女の指先が、翔太の放つ「熱量」によって赤く上気する。 以前のような一方的な心配ではない。今の彼女は、翔太が手に入れた「誰をも寄せ付けない力」の唯一の理解者でありたいという、狂おしいまでの執着に突き動かされていた。
── 異世界の玉座の間:凍りつく時間
王城の最上階。玉座の間は、翔太の足跡一つでひび割れ、剥落した瓦礫が床を埋め尽くしていた。 逃げ場を失った国王は、黄金の椅子から無様に転げ落ち、喉を鳴らしながら後ずさる。
「ま、待て……! 乱暴はやめろ! 望みは何だ!? 金か? 爵位か!? 全てを望みのままに与えよう!」
王の叫びに応えるように、物陰から王宮専属の暗殺部隊「影の牙」が飛び出した。 彼らは魔法で自らの気配を消し、翔太の喉元と心臓へ、毒を塗った魔導短剣を突き立てる。
だが──。
[現在レベル:Lv. 15] [スキル:『高密度圧域』が常時発動中。]
キィィィィン!
短剣が翔太の皮膚に触れた瞬間、耳を刺すような金属音が響き、硬質な火花が散った。 毒刃は翔太の肉体を一ミリも裂くことができず、逆に刃の方が衝撃に耐えかねて粉々に砕け散った。 防御魔法ではない。 ただそこに存在する肉体の「密度」が、この世界の理を物理的にねじ伏せていた。
「……それが、リーズをゴミと呼んで捨てた奴らの全力か?」
翔太が一歩、踏み出す。 ただ歩くだけで、周囲の暗殺者たちは「重圧」に押し潰され、床へと叩きつけられた。 石畳に顔をめり込ませ、指一本動かせない彼らの背中を、翔太の放つ質量がミシミシと圧迫していく。
「リーズ。……こいつに、何か言いたいことはあるか?」
翔太の問いに、リーズが静かに歩み出た。 彼女の瞳には、かつて王宮の片隅で怯えていた少女の面影はない。 目の前で泥を舐めるように震えている王を見下ろし、彼女は冷徹に告げた。
「陛下。私は、あなたたちに認められる必要なんて、もうどこにもありません。……でも、奪ったものだけは、返していただきます」
「わ、わかった! 何でも返す! 没収した財産も、名誉も、全てだ!!」
王が泣き叫びながら縋り付こうとするが、翔太がその前に立ちふさがる。 翔太は、王を殺すことさえ馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、玉座の背後にそびえ立つ「王家の紋章」が刻まれた巨大な石柱に手をかけた。
「……名誉なんていらない。二度とリーズの前に現れるな」




