第26話:【本能の引力と、王都の崩壊】
現実世界の自室。 翔太が微かに呻き、寝返りを打つ。その拍子に、ベッドのフレームが「メキッ」と不穏な音を立てて歪んだ。もはや、安物の家具では彼の高密度な肉体を支えきれなくなりつつあった。
「……あ、危ないわよ、翔太」
陽葵は、濡れたタオルで翔太の首筋を拭いながら、自分の指先が震えるのを止められなかった。 タオル越しに伝わるのは、脈打つ巨大な血管の振動。以前の彼にはなかった、獣のような力強い生命力が、部屋の空気を支配している。
(翔太……あんた、本当に行っちゃうの? どこか、あたしの手が届かないところへ……)
陽葵は、意識のない翔太の胸板にそっと耳を当てた。 ドクン、ドクンと、地響きのような鼓動。彼女は無意識に、その熱い肌に自分の指を食い込ませるように抱きしめた。 自分だけが知っていた「ダメな翔太」が、誰の手にも負えない最強の男へと羽化していく。その過程を特等席で見ている愉悦と、いつか奪われてしまうのではないかという恐怖。 陽葵の瞳には、湿った情愛と、狂おしいほどの執着が宿り始めていた。
── 異世界の王都:絶望の静寂
一方、異世界の王都「ヴァルナ」の城門前。 高さ三十メートルを誇る、難攻不落の「金剛の門」が、今、内側から激しく振動していた。
「な、なんだ……!? 結界が、中から押し潰されているぞ!」
城壁の上で弓を構えていた兵士たちが、腰を抜かして座り込む。 門の前に立っているのは、たった一人の男。 高橋翔太は、ただ無造作に歩を進めていた。
[新スキル:『絶対質量』を起動。] [周辺の事象を「密度」でねじ伏せ、あらゆる干渉を無効化します。]
「どけ。……通るぞ」
翔太が門を軽く叩いた。 その瞬間、轟音と共に、数百年一度も破られたことのない魔導合金の門が、紙細工のように奥へと吹き飛んだ。 爆圧だけで、背後にいた数百の守備兵が、戦う暇もなく意識を失い壁まで吹き飛ばされる。
「化け物……。これが、迷宮へ捨てたはずの「不純物」だというのか!」
王都の目抜き通りには、次なる防衛線として、王家お抱えの精鋭魔導師たちが立ち並んでいた。彼らが一斉に杖を振り下ろす。
「焼き尽くせ! 七獄の紅蓮!!」
空が真っ赤に染まり、翔太を焼き尽くさんと巨大な火柱が降り注ぐ。 だが、翔太は足を止めない。 彼はただ、溢れ出す魔力を拳に集中させ、前方の空間を「薙ぎ払った」。
シュンッ──。
音が消えた。 翔太の腕が空気を切り裂いた瞬間、放たれた猛火は一瞬で圧殺され、真空の衝撃波が通りを真っ直ぐに突き抜けた。 豪華な石畳はめくれ上がり、魔導師たちはその風圧だけで空高くへと跳ね上げられ、武器を紛失して地面に無様に転がった。
「……次は、誰だ?」
翔太の瞳は、もはや怒りすら超越した凪の状態にあった。 彼は横で杖を握りしめているリーズを振り返る。 彼女の目は、自分を嘲笑った王都の人々が、翔太の一歩一歩に怯え、震える姿を見て、かつてない高揚に染まっていた。
「高橋さん……。あそこの一番高い時計塔。あそこに、私に「死」を宣告した国王がいます」
「わかった。……階段は使わない。直接行くぞ」
翔太はリーズの腰を引き寄せると、地を爆ぜさせて跳躍した。 王都の街並みを眼下に見下ろしながら、一直線に王城の最上階を目指す。




