第24話:【残照の温もりと、胎動する現実】
現実世界の自室。 翔太が目を開けた瞬間、肺が渇いたように空気を求めた。異世界で「白銀の塔」を崩壊させた余韻が、神経の末端にピリピリとした痺れとなって残っている。
「……翔太、起きたの?」
すぐ傍らで、安堵したような声が聞こえた。 陽葵だ。彼女はパイプ椅子をベッドの脇まで寄せ、翔太の額に乗せた濡れタオルを替えようとしていた。
「あ……ああ。……悪い、また長時間寝てたか?」
「三時間くらいかな。でも……あんた、寝てる間ずっと体が熱くて、スチームサウナみたいになってたわよ。本当に大丈夫?」
陽葵の瞳には、冗談めかした言葉とは裏腹に、深い心配と……そして、隠しきれない熱烈な感情が揺れていた。 彼女は、翔太の逞しくなった胸板にそっと手を触れる。スウェット越しでも、その下が熱した鉄板のように硬く、激しく鼓動しているのが分かる。
「ねえ、翔太。あんたがどれだけ強くなっても、あたしを頼っていいんだからね。……ほら、冷たいスポーツドリンク買ってきたから。飲みなさい」
陽葵は、ペットボトルのキャップをわざわざ開けて手渡した。その際、彼女の指先が翔太の手の甲に長く触れる。 彼女なりの精一杯のアピール。 翔太の「力」に怯えるのではなく、その「熱」に自ら飛び込んでいくような、献身的な愛情。
「……ありがとう、陽葵」
翔太が一口飲むと、奪われていた水分が瞬時に細胞へと吸収されていく。 陽葵は、翔太が飲み干す様子をじっと見つめながら、自分の火照った頬を冷ますように、彼が脱ぎ散らかしていた以前の特大サイズのTシャツを畳み始めた。
「……昔のあんたも、あたしは好きだったけど。……今のあんたは、なんだか直視できないくらい、まぶしいわよ」
小さな、独り言のような呟き。 だが、研ぎ澄まされた翔太の聴覚には、その切ないほどの恋心がはっきりと届いていた。
── 異世界の激震、王軍の介入
意識が再び「あちら側」へと引き戻される。
目を開けると、そこは瓦礫の山となった「白銀の塔」の広場だった。 崩れ落ちた壁の隙間から、リーズが不安げに外の様子を伺っている。
「高橋さん、見てください……。王都の方から、松明の火がこちらへ向かってきます」
夜の街道を埋め尽くすように、無数の光が近づいていた。 ヴァルハイト家の崩壊を察知した王家が、ついに正規軍――**王宮近衛騎士団「鉄血の牙」**を投入したのだ。
「……懲りないな。あれだけやって、まだ来るか」
翔太が立ち上がると、周囲の瓦礫がその魔力圧で浮き上がり、粉々に砕け散った。 Lv.12。もはやその存在は、一個の「天災」に等しい。
[宿主の状態:絶好調。] [周辺に約300の敵対生体反応を確認。] [戦闘モードへ移行します。]
「リーズ、俺の影から出るなよ。……少し、掃除が忙しくなりそうだ」
「はい……! 高橋さんの後ろは、私が死んでも守り抜きます!」
リーズが杖を掲げ、支援魔法の陣を展開する。 それと同時に、街道から先鋒の騎兵隊が突撃を開始した。
「国賊・高橋翔太! ヴァルハイト家を襲撃した罪、万死に値する! 全員、突撃ィッ!」
重厚な鎧に身を包んだ百人近い騎兵が、大地を揺らして迫りくる。 翔太は、ただ静かに右足を一歩、前に踏み出した。
「……どけと言っただろ」
[スキル:『重力障壁』を広域展開。]
ズドォォォォンッ!!
翔太を中心に、半径50メートル以内の重力が突如として数十倍に跳ね上がった。 「ヒヒィィンッ!」という悲鳴と共に、突撃してきた馬たちが一斉に地面に叩きつけられる。 騎士たちも、その場に跪かされるどころか、鎧の重みに耐えきれず、地面にめり込むように動けなくなった。
「な、なんだこの圧は……!? 近づくことさえできないだと!?」
後方で陣頭指揮を執っていた騎士団長が、戦慄に顔を歪める。 翔太は、動けなくなった騎士たちの間を、悠然と歩いていく。 彼は誰の命も奪わない。ただ、その圧倒的な「格の差」を、その場にいる全員の魂に刻み込んでいた。
一人の騎士が、必死に剣を抜こうと足掻く。 翔太はその剣先を、靴の先で軽く踏みつけた。
ガキィィィィンッ!
それだけで、名匠が鍛えた鋼の剣が、飴細工のように粉々に砕け散った。
「……命を捨てに来たんなら、引き返せ。俺の相手は、お前らじゃない」
翔太の冷徹な一言が、戦場全体を凍りつかせる。 一国の正規軍を前にして、たった一人の男が放つ圧倒的な「制圧」。




