第23話:【拒絶の玉座と、神域の鉄槌】
白銀の塔の内壁は、外観の美しさとは裏腹に、侵入者を圧殺するための殺意に満ちていた。 廊下の至る所に配置された魔導兵装が、翔太の生体反応を感知し、自動的に極大魔法の照準を合わせる。
「……五月蝿いな」
翔太が低く呟き、床を軽く一踏みした。
[アクティブスキル:『重圧波』を起動。] [対象:周囲20メートルの魔導回路を強制停止させます。]
ドォォォォンッ!
目に見えない重力の間撃が円状に広がり、壁に埋め込まれた魔導具を次々とひしゃげさせていく。放たれる直前だった魔法の光が、回路の物理的な破壊によって虚空へと霧散した。
「高橋さん、あそこです……。あの大扉の奥が、ヴァルハイト家の諮問室です」
リーズの指差す先、黄金の装飾が施された巨大な二枚扉が立ちはだかる。 その扉が開くと同時に、中から溢れ出したのは、これまでの騎士たちとは一線を画す濃密な魔力だった。
「そこまでだ、不浄の娘。そして、得体の知れない野蛮人め」
諮問室の中央。豪華な椅子に座り、数人の老魔導師を引き連れていたのは、リーズの叔父であり、一族の現当主であるゾルダス・ヴァルハイトだった。
「……叔父様」
リーズの身体が、一瞬だけ強張る。 ゾルダスは、リーズを「一族の恥」として迷宮へ送り出す決定を下した張本人だ。その冷酷な眼差しが、翔太へと向けられる。
「結界を力任せに壊したそうだが……所詮は野蛮な筋肉の産物。真理を究めた我が一族の極大魔法の前では、その肉体もただの肉塊に過ぎん」
ゾルダスが杖を振ると、部屋全体の魔法陣が起動した。 上級魔導師五人による同時詠唱――放たれたのは、空間そのものを切り裂く真空の刃、『断界の旋風』。
「死ね、出来損ない共」
リーズが反射的に目を閉じたその時。 翔太は、ただ一歩、前へ出た。
[防御スキル:『金剛の呼吸』最大定着。] [魔力耐性:限界突破を確認。]
ギチ、ギチィッ!
空間を断つはずの真空の刃が、翔太の胸板に触れた瞬間、硬質な火花を散らして「弾け飛んだ」。 回避も、防御魔法も必要ない。 異世界の魔法が、現実世界で培われ、システムの加護を受けた翔太の「質量」に屈したのだ。
「な……!? 我が家の極大魔法が、皮膚一枚貫けないだと……!?」
ゾルダスが椅子から立ち上がり、顔を驚愕に歪める。 翔太は無言のまま、地を這うような重圧を撒き散らしながら歩を進める。
「リーズが……出来損ないだって?」
翔太の足音が、心臓の鼓動を止めるかのように重く響く。
「こいつはお前らを守ろうとして、ボロボロになっても戦ったんだ。……お前らみたいな、椅子の座り心地しか考えてない連中より、ずっと『魔導師』してたよ」
翔太が、右拳を静かに握りしめた。 現実世界で陽葵に「一人で消えないで」と言われたあの瞬間。 自分を信じてくれる者がいるという事実が、今の翔太にとって最大の「魔力」だった。
「くるな! くるなああッ! 全員で撃て! 殺せ、その化け物を殺せ!!」
ゾルダスが絶叫し、魔導師たちが狂ったように杖を振りかざす。 だが、翔太の拳が放たれる方が、僅かに早かった。
[奥義:『壊星の重撃』] [※手加減モード:構造物破壊に特化。]
拳はゾルダスたちには当たっていない。 翔太は、彼らの足元の「床」を、ただ叩きつけただけだ。
バキィィィィィィィィィィンッ!!!
塔全体が、地震に見舞われたかのように激しくのたうった。 豪華な大理石の床は一瞬で粉砕され、衝撃波が諮問室の壁、天井、そして塔を支える主要な柱を次々と粉砕していく。
「ヒッ、あああああッ!!」
ゾルダスたちは、その衝撃だけで意識を刈り取られ、崩落する瓦礫と共に下の階へと投げ出された。殺しはしない。だが、二度と「魔導の名門」を名乗れないほどに、彼らの誇りである白銀の塔を、根底から破壊し尽くした。
土煙が舞う中、翔太は崩れかけた玉座の間に一人、毅然と立っていた。 背後には、涙を流しながらも、晴れやかな表情をしたリーズがいる。
[緊急ミッション:『ヴァルハイト家の制裁』を完了。] [報酬:レベルが上昇しました。Lv.10 \rightarrow Lv.12] [クラススキル:『不動の支配者』を獲得。]
「リーズ……。終わったぞ」
翔太が振り返り、無骨な手を差し伸べる。 リーズはその手を握りしめ、自分を縛っていた過去が、目の前の男の一撃で完全に消え去ったことを確信した。




